なまえのおはなし①

名前とは、この世で一番短い呪いだ。
と誰かが言っていた。
美輪明宏さんとかそのへんな気がしたが、ちゃんと調べてみたら安倍晴明らしい。まじか。呪いのプロやんか。

でもま、そりゃそうだ。
名前ほど願いの込められた文はない。ラブレターとか足元にも及ばない。
念が込もっていて当然だ。
力を持ってしまって当然だ。

ところで、「呪い」は「のろい」とも「まじない」とも読めるらしいですね。
ここまで意識的にどっちともとれるような書き方をしてきたんだけど、さて、どっちで読みましたか。

あなたの名前は、どこから。
私は聖書から。
一生一回素早く呪う。長ーく効く。
ベ~ン~ザ~ブロック!ピンポーン!!!

いやほんとにね、ふざけてる私が言うのもアレなんだけど、
ほんとふざけた名前なの。私もそうだけど、特に弟が。
用法用量どころか致死量超えた重たい呪縛なの。
あなた~のために願いをキメてんじゃねーよと。
冴えてる今日。
とにかく今回は名前のお話です。

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忘れもしない小学二年生、生活の時間。
道徳とか野菜育てるのとか工作とかごちゃまぜの不思議な教科。お昼寝のない幼稚園みたいだ。

その生活で一つのしゅくだいプリントが渡された。
【あなたの赤ちゃんのときの写真と、あなたの名まえのゆらいをかきましょう。】
【みんなのプリントを教室のかべにかざります】

名前の由来。

なんでみんなに知ってもらわなくちゃいけないんだろう。

『それはね、みんながどれぐらい、おとうさん、おかあさんにあいされているか、たしかめるためだよ。』

そっか。
先生がそういうなら。

でも、やだな。
私の名前、ヘンだもん。
名前の由来はもっとヘンなんだもん。
みんなは、春に生まれたからさくらとか、健康に育ってほしいからげんきとか、そういうのなのに
私は、

聖書のこの箇所のエピソードが素敵だから名前にしました

うん。絶対ヘンだ。
ヘンな子は仲間はずれになっちゃう。
やだな。

「おかあさん、このしゅくだい。せいしょなんてみんな知らないから、べつの理由かこうよ。」

「あははは!だいじょうぶよ、聖書みんな知ってるよ。先生もおとなだから絶対知ってる。どれだけ素敵な名前か、先生もお友だちもきっとわかってくれる。愛してるわ。」

そうなのかあ。
みんな知ってるんだ。
よかった。
よかった……

だけどやっぱり知ってる子はひとりもいなかった。
全然、よくなかった。

授業参観に来た親が満足そうに壁の私のしゅくだいプリントを見ている。
先生が言ってた目的通り、親がどれぐらい私を愛してるか私が知るもので、それをみんなに見せびらかすものではなかったから、思ったより注目の的になることはなかったけど、
私は、壁にそのプリントが貼ってある間じゅう、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっとびくびくしていた。

何より、大人で、聖書を知っているらしい担任の先生が私のことをどう見ているのか、どう感じたのか、知るのが恐ろしくて、
大好きだったのにあんまり話しかけられなくなってしまった。

こんなことで、こんなびくびくしてる子ほかにいないんだろうな。
いじめられたらどうしよう。
この子と遊んじゃいけません、って、だれかのおかあさんに言われたらどうしよう。
だいすきな先生がよそよそしくなっちゃったらどうしよう。
なんで、わたしだけ。
いつもふつうじゃないの。
ねえ。
そんなうれしそうな顔でプリント見ないでよ。
わたしの顔を見てよ。
こっちを見てよ。

なまえ、だいきらい。

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