某市のランナー 3

 やはり公園のランニングコースは良い。夜の遅い時間に行けば人と出会わない。
 今日も走るか、と新しいランニング用のBGMを手に入れた僕は、日中に職場の内部試験のための勉強を済ませたこともあり、上機嫌でS公園へと向かった。

 S公園まで行く道のりの中、僕は吐き気を覚えた。どうやら、日中に大量のコーヒーを飲んだことで胃腸が荒れているようだ。
 しかし、それを理由にランニングを休んでしまうのはどうにもくやしい。それに新しいランニング用のBGMを聴きながら走りたいという気持ちが強かった。
 どうにか吐き気を抑え込みランニングを開始する。

 2キロ程度走ったところで、吐き気がピークを迎える。
 幾度か、吐きそうになり嗚咽を漏らす。しかし、ランニング前には食事をしていないので何も吐くことはできない。
 酒に酔ったときには、吐いてしまえばある程度楽にはなるが、今回はそうはいかない。
 諦めて帰ろうか、などと考えていると、僕の横を若い学生くらいの少年が追い抜いていった。それを見て僕は、無性にそれを追い抜いてやりたいと感じた。
 やはり、健康目的でランニングをしているとはいえ、追い抜かれるのは気分が良くない。差し返してやりたい。
 僕は彼の後を追った。しかし、何度も吐き気を催してしまい、結局彼は見えなくなった。それでも、今日はなんとしても走り切ってやりたいという気概を持つことができた。
 ありがとう少年、などと思っていると、ランニングコースの脇に彼の姿を見た。彼は休んでいた。
 
 これが、市民ランナーでよくあるといわれている「前のランナーを追い抜きたくて仕方がないが、いざ追い抜くとスタミナ切れでペースを落とし、ギブアップしてしまう」というもののようだ。他のランナーとなるべく会わないようにしてきたため、見るのは初めてだった。
 一時の追い抜きたいという願望を達成するために、健康のためにコンスタントに走るという目的を見失ってはならない。僕は絶対に他のランナーに影響されないと心に誓った。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?