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GREGORIAN MODAL EAR TRAINING 0 (序)

音感トレーニング(旋法的)

長い年月、ソルフェージュ教育に携わってきた者です。

旋法に基づく(旋法的な)音感トレーニングを、様々なジャンルの音楽に携わっている人、一般の音楽愛好家、専門的に音楽を勉強している人への基礎的な音感トレーニングとして提供していきたいと思います。

旋法的なものは基礎的なトレーニングとしてはあまり使われていないようです。旋法といったとき、後に設定されたAeolian、Ionian(現在の短音階、長音階につながる)以外のものという意味で使っています。

旋法は長、短調での旋律推移、和声感とは異なります。しかし、新鮮な印象を与えることによって、記憶に残りやすく、音感トレーニングとしては有効ではないかと感じます。

11世紀頃のイタリアの修道士、音楽教育者、理論家であったグイド・ダレッツォ Guido d'Arezzo は少年達への聖歌の指導で、現在の階名になっているド、レ、ミなどの音節が含まれる言葉で始まるフレーズを覚えさせることにより、初めての聖歌も早い段階で正しく歌えるようになったとされています。
これはド、レ、ミを絶対音として固定的に記憶するということではなく(固定した基準音はほとんどなかった)、繰り返し歌うことにより後に続く音の流れとの相対的な感覚が向上し、フレーズの中での音を把握する力が上達していったということだと思います。

次回から紹介する訓練はここからヒントを得ています。

ソルフェージュの力をつけていくためには記憶ということが鍵になると思います。

音感トレーニングというとランダムに単音が出てそれを当てていくというようなものがありますが、それも有効だと思います。しかし、ある程度の長さのあるフレーズの方が、印象に残りやすく、そして前後の音の並びによりそれらとの相対感覚が自然に訓練されていいくことで、音感訓練としてはメリットが大きいと思います。

教会旋法 Gregorian mode


教会旋法には次のようなものがあります。

第1旋法 Lydian ( protus authenticus)、第2旋法 Hypodorian ( protus plagalis )第3旋法 Phrygian (deuterus )、等となっています。
カッコの中の protus(プロトゥス )deuterus(デウテルス) tritus(トリトゥス) tetrardus(テトラルドゥス)はギリシャ語の序数詞で、順番に1、2、3、4を表します。中世ヨーロッパではこの呼び方がされていたようです。

プロトゥス(1)が ドリア、デウテルス(2)がフリギアという順番の序数なので、第1旋法(ドリア)、第2旋法(ヒポドリア)とは数字が異なっています。現在、使われているもの(第1旋法、第2旋法・・・)は、グイド・ダレッツォによれば誤って呼称されたということです。

終止音 finalis は主音のようなものですが、旋律の終止で現れる音ということです。この終止音によりその前に推移していた旋律の性格が決まります。つまり、終止において、どの旋法かということが決定されます。

朗唱音 reciting tone は聖歌の中で朗唱の箇所で使われる音、(ほとんど同じ音が続く。時々、上下に揺らぎはある)これは歌うというよりは語るように、となえていく、いわゆるレチタティーヴォで使われる音高です。
朗唱音が正格と変格で違います。
変格旋法で正格と同じ朗唱音になると、変格の音域の中ではほとんど最高音となり、自由旋律(アンティフォナ)から朗唱に移行する時、大きなギャップが生じます。それで変格では低く設定されているのだと思われます。

課題例

これから提示する課題をいくつか例として紹介します。

音感のトレーニングなので、音高にポイントを絞っています。
音価、リズム面の訓練はあまり含まれていません。(再生音にゆらぎがある場合があります)
和声感を明確にするために2声になっています。(聴きとる難易度は上がるかもしれませんが)
音楽の要素として和声感は大切なもので、音感を身につけるためにもこれを同時に意識し、その流れが持っている表情を感じながら、実施した方が良いと思います。
そうすれば印象が強く、記憶に残りやすくなります。

実施手順

  •  最初にヒントつきの楽譜。 (ソルフェージュ力がある人は見ない方がよい)

  •  2声で再生されるので表示されている対声部をよく確認する。

  •  次に再生画面。 これは再生ボタン(三角)または"Listen in browser"をクリックする。なるべく少ない回数での再生の後、歌う。(音が大きく出せない場合は心の中で歌う。またはキーボード等で弾く、等)
    再生音はコンピューター音源です。

  •  下に解答画面があるので見えないように気を付ける。
    わかりにくい場合は、ちらっと見る。どうしてもわからない場合は全てを見て覚えるようにする。

  •  解答の画面で確認し歌唱する。全体を覚えるようにする。

対声部ですが、ルナサンス〜バロックあたりで確立された厳格対位法のルールから外れた箇所があります。
これは中世オルガヌム(4、5度の平行等)の表情を含めたいと感じられる場合があったからです。


課題例をいくつか紹介します。

D Dorian 問題


D Dorian 解答


次はE Dorianの例。
調号は使用していません。

E Dorian 問題

E Dorian 解答

以上、この二つは基礎的な課題です。
終止音 finalis を意識的に捉えてください。
終止音 finalis が開始音になっているので、記憶に強く残ると思います。

次に示す課題はレベルが上がります。
音数が多くなり、記憶するのが少し難しくなります。(下声を聞き取る課題で、E Mixolydianから外れた音が含まれています)

E Mixolydian 問題


E Mixolydian 解答

次の課題は旋法または終止音 finalis が途中で変わる課題です。
課題の途中で何らかの変換がある場合をMixed Type(混合型)と命名しておきます。

Mixed Type 問題


Mixed Type 解答

この例ではC♯ PhrygianからC Phrygianに変化しています。

このような課題を何回かに分けて提供していきたいと思います。


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