バス
僕以外には誰も乗客がいないバスの中。運転手のボソボソとした声が次の停車駅の到着を知らせる。次のバス停で一人の青年が乗車してきて、何故か広いバスの中で僕の隣に彼は座る。そしてこちらを向いてニコリと「僕は正常ですよ」と語りかけてくる。その言葉に違和感や矛盾を感じながら、僕は苦笑いを浮かべることしかできなかった。
僕は正常ですよ。
ぼくはせいじょうですよ。
ボクハセイジョウデスヨ。
「あなたは正常ですか?」
青年は僕の瞳をじっと見つめながら語りかけてくる。
冷や汗がでる。
背筋がぞくりとする。
言葉がでてこない。
僕は……
正常なのでしょうか?
運転手は僕が降りるバス停の名前を口にする。
しかし青年は僕から視線を離すことはない。
答えられない僕を見つめながら彼は高笑いをはじめる。
僕はこのまま彼と共にどこまで行くのだろうか?
そして僕は……。
答えが出ないまま、バスはノロノロと知らない町へと突き進み始めた。