最後のいっぱい

「最後の一滴」

フー!フー!真夜中の街を走るのはゼリーのような肌の異形な生物だった。その生物は街はずれの廃屋を拠点に毎夜人を襲って生きていた。今回もいつものように路地裏に潜み、通りかかる人間を襲おうとした……が、とつじょ上から攻撃を受けたのだ!怪物は驚き飛び出した。ふたたび背中に衝撃!怪物は大きく跳躍しながら振り返り間合いを取った。そこにいたのはスーツ姿の人間のようだった。小太りの男性のような体型だが、奇妙なのは白くしわくちゃの肌で鼻と毛がなく歪んだスマイルマークのような顔であることだ。耳のような器官がまさかりのように鋭く頭から垂れている。だが怪物にとってそんなものは些末な違いだ。人間……餌には違いがない。そう思ったのか怪物は大きな口を開けてその男?に飛びかかった!!次の瞬間怪物は逆方向に吹き飛ばされコンクリート壁に叩きつけられた。目にもとまらぬ速さで殴り飛ばされたのだ。理解が追い付かない怪物をさらなる攻撃が襲う!殴る、蹴る、掴む、殴る、バウンドする、蹴る、バウンドする、殴る……容赦のない攻撃!怪物は命の危険を感じ、渾身の力を使い大きく跳躍し暴力の嵐から逃げ出した。フー!フー!フー!命からがら大通りを抜け、棲み処の廃屋に滑り込むように突入する怪物。しかしそこに男が待ち受けていた!殴る、バウンドする、蹴る、バウンドする、殴る、バウンドする、蹴る……暴力のループに怪物の体は無残に歪んでいく!怪物の体から力が抜けていき四肢はぴくぴく震える。男は怪物を地面に叩きつけた。男は廃屋を見渡した。少し前まで人が暮らしていたようだ。皿や家具が残っていた。住人は怪物に食べられたのだろうか。男は棚にあった酒瓶を物色し未開封のものを手に取って開け頭の上から浴びせるように飲んだ。それから男は地面でぴくぴくしている怪物に歩み寄り踏みつける。男は残りの酒を怪物の口に振りかけた。怪物の目は虚ろだ。最後の一滴が落ちる。その瞬間、男は酒瓶を放り投げ怪物の首を掴み引っ張った!怪物の細胞間結合は耐え切れず連鎖的に剥がれていく!大きな音を立てて怪物の首が飛び天井にぶつかった。怪物はもはやただの肉塊。男はしばらく肉塊を見ていたがやがて去っていった。夜は明け街は人々の活気に満ちてくる。

__後日、不良少年たちが廃屋に面白半分で侵入したそうだが何もなかったそうだ。


今日も夜は来る。


〈おわり〉