ハッピーバースデー家族の時間 fete de famille

主演:カトリーヌ・ドヌーブ、監督/出演:セドリック・カーン

久々に難しい映画だった。。

両親からは借金を返してもらえず、末っ子の弟の映画制作を手伝って、じつは1番愛情深く家族に対して一番献身的な長女。
精神異常者かと思いきや、その裏には家族にがんじがらめになっている事情がある。
だからこそ、兄弟それぞれのパートナーたちは彼女に同情的な視線を持っていたのだ。

だが、家族で唯一の成功者(=自立している)である長男である弟からは疎まれ爪弾き者にされる。

この家族は互いに超絶に依存し合っている。

一家の長のように振る舞う母(ドヌーブ)はすべてを掌握しているようにみえて、家を取り戻すために娘クレールに多額の借金をして未だまったく返済をしない。
劇中劇でも示唆されていたように、愛情深く家族を守り抜く気概を見せるが、娘に借金をするのは仕方ないにしてもそれをまったく返済せず、かつ行方をくらました娘を探そうともしない。とても冷酷だ。
次男ロマンにも自立を促しているようで、未だに修理代を肩代わりするなど甘やかす無責任な対応。子供たちの苦しみが表層化すれば、「私の誕生日なのよ」と言ってフタをしようとする。結局、家は売るのだろうか。ていうか、ロマンの修理代出す前にクレールに借金を返してやれ。


一見当たり障りのない潤滑油のような継父ジャンは妻であるドヌーブの言いなりで自分で考えることを放棄する無責任男。
しかも、妻に黙って長男ヴァンサンに借金をする。子供に金を借りることに躊躇わないのは、妻の影響なのか?
この夫妻のたかり気質のくせに「常識人」みたいな顔してる様にはクラクラしてしまう。


長女は父を亡くした苦しみから解放される間もなく、その遺産を母に差し出したために今度は自分が貧窮し、自分の首を締め続ける。不安から荒ぶる感情をコントロールできず、思春期の娘を3年も母のもとに置いて男に走ってしまい、娘には拒絶される。

弟の映画制作を協力するために4カ月も費やすくせに、その間娘にも連絡を入れないのに「娘との時間を取り返したい」と訴える後先考えない目先の感情を優先してしまう行動は、先天的な性格なのか親の業によってもたらされたものかは判然としないが、少なくとも少しずつでも親から借金を返済されていたならば、もう少し自分のことも信じられたのではないだろうか。

次男は、典型的なクズ野郎。
支配的な母親に甘やかされ、大人になってからは恋人に甘えながらいつまでも夢を追い続け、他者の感情や都合などはまったく考慮しないピーターパン野郎で、もちろん自分のしでかしたことの責任も取らない。全部悪いのは相手で、自分は守られる立場だと信じている。

次男の恋人のロジータも、
ロマンはクズ野郎だし、この家族自体も経済的な不安に覆われていることを分かっていながら強く求められると断ち切れず、薬物と酒の享楽を共にすることで自分の気持ちをごまかし続けている。

長男(セドリック・カーン)は、医師の妻に対等かそれ以上の態度が取れるくらいだから自身も医師かそれに準じた立場なのだろう。この家族の中では最も経済的に自立している。
なのに、家の所有権をイカれた姉に握られていることがわかり面白くない。
本来なら実家の問題には関与せず自分たちの生活だけを守ってほしいところだが、家族だからと関わらずにいられない。主に母の意向で「fete de famille(家族の祝祭)=表層的な体面」を重んじてきたこの一家の呪縛なんだろうな。

クレールの娘、エマは母の奇行の背景がわかっていくにつれて理解し関係を修復していくかもしれない。でも、足を引っ張られることなく自分の人生を歩んでいってほしい。

家族だから、で囚われているすべての人が解放されますように。

しかし、カトリーヌ・ドヌーブのおみ足の綺麗さには思わずため息が出る!
足首の締まり具合にフランスの国民的女優たる風格が表れている。

@恵比寿ガーデンシネマ


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