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『スローシャッター』

田所さんのnoteは、以前からいくつか読んでいた。
あの心地よさが、本になって書店に並ぶのだ、と聞いたのは、今年の夏だったか。
それから数ヶ月、発売日を心待ちにしていた。

言いたいことは先に言ってしまおう。
これは確実に続編が出る。
1冊で終わるはずがない。
本書は、ほんの序の口。自己紹介みたいなものだ。

田所敦嗣さんが遭遇した出張先での出来事について綴った20編。それが『スローシャッター』。

本書を「旅の本」として読む方が多いかもしれない。正しい。とても正しい。
でも、私は「仕事の本」「生き方の本」として読んでいる。

私は、田所さんの行かれたような場所には、正直別に行きたいとは思わない。
行くまでが大変そうだし、行ってからの不自由も多そうだ。
全くの勝手な想像だけれど、田所さん、割とこういう旅は嫌いじゃなさそうな気がする。
でも、実は、仕事だから行ってる、という側面もあるんだろうと思う。

田所さんは偉い。
言葉も通じないような見知らぬ場所にズンズン乗り込んでいって、現地の人と全力でうまくやっていく。これは大変優れた能力だ。
私にはできそうにない。
田所さんは、間違いなく「できる人」だ。
そういう生き方を選べることを私は尊敬する。

落ち着いた文体。全体を包む暖かい雰囲気。
田所さんの正直さ、優しさ、実直さを感じる。
ドライすぎない。ウェットでもない。
山際淳司のスポーツコラムを不意に思い出した。
田所さんの文章で特筆すべきは、お洒落な書き出しだ。
大体が「前振り」なんだけど、読み終わってからもう一度書き出しを読み直すと「なるほど、そういうことだったか」と合点がいく。
文体と書き出し。「心地よさ」の源泉である。

そんな、田所敦嗣さんの手によって紡がれた20の作品が、ありがたいことに、今ここに、書籍となって世に出る。

今、ちょっとずつ読んでいる。
最初の何話かを一気に読んだところで、段々勿体無くなってきた。
ウイスキーのオン・ザ・ロックを嗜むように、ゆっくりと。
私には、このくらいが丁度良い。


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