ボイスドラマ台本『俺のゲーセン計画』



   登場人物

・マサアキ

  ゲームオタク中年の一人。普段は自信なさげだが、おだてられると調子づき、煽られるとたがをはずして失敗するダメ男。

・テツヤ

  同じくゲーオタ中年。自分の技術力の高さが誇りで、嬉々としてうざったく話す。

・カズオ

  二人の後輩。よく二人を持ち上げるが、内心では馬鹿にしている。

・N(ナレーション)

  ぶりっ子な少女のイメージでボイスドラマの注意等をするなれなれしいナレーション。



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  デパートで流れていそうな「ぴんぽんぱんぽーん」という音。

N 「はいはーいっ! アテンションぷりぃ~ずっ☆

 ボイスドラマを聞く前にちょ~っとだけ耳を傾けてねーっ。

 この物語に出てくる中年オヤジたちが言ってるゲームのタイトル

 とかー、企業とか筐体の名前はぜーんぶ! 実在しないもの、

 だーけーど! ぜーんぶにモデルとなったものがあるから、

 わかるかもーっ! って人は聞きながら考えてみると面白い

 かもっ☆ 以上! この私、ナレーションがお送りしました~

 ☆」

  エンターキーをぽん、ぽん、と一泊あけたようなリズムで

  叩いた後、目が覚めたかのようなメーカーロゴのジングルが

  二つ鳴り響く。

テツオ「おぉーっ!」

カズオ「おおぉーっ!!」

  マサアキ、照れくさそうに。

マサアキ「あー。えっと、ラップトップによぉ、エミュ入れて、

 アケコンくっつけてそれでよぉ、あの、スペースブリッジ

 とかの汎用筐体<はんようきょうたい>っぽい見た目にしてみた。

 な? ちょっとしたゲーセンみてぇだろ?」

テツオ「へぇ~……いや、雰囲気でてんじゃねえか? これ」

カズオ「すげーっすよマサアキさん、筐体ラバーズ

 の鑑っすよ

  マサアキ、照れ笑いで顔を緩ませながら。

マサアキ「え? マジで? いやぁそう言われたらオメェら呼んだ

 甲斐あったってもんだわ」

カズオ「よっ! プチ筐体職人!」

テツオ「今出てるのは、ドリホリダーに

 マーパチストーリーズか?」

マサアキ「おうそうだテツオ。エミュなもんでよ、

 同基盤タイトルが結構入ってるぜ」

カズオ「すげー動作安定してんじゃないっすか!

 いいっすねこれ!」

マサアキ「そうだろカズオー? これのためにラップトップ2台

 とも新品で買ってきたんだ」

  テツオとカズオ、声を合わせて。

テツオ「新品!? しかも2台も!?」

カズオ「新品!? しかも2台も!?」

テツオ「お前そんな軍資金どっから出したよ?」

マサアキ「意外と貯金があったわけだよこれが。

 んで、思い立ったが吉日っつうんで奮発してやったんだわ」

カズオ「お、漢っす……!」

テツオ「ひょっとしてさぁ、あそこで布かかってるあれもか!?」

マサアキ「お目が高ぇなテツオー。そうだよこれだよー!

 俺がよぉ、オメェらわざわざ呼びつけてやったのは

 こいつ手に入れたからだよ!」

  バサッと勢いよく布を引っ張るマサアキ。

  先ほどよりも驚く声を揃えて上げる二人。

テツオ「うおおぉぉっ!?」

カズオ「うおおぉぉっ!?」

テツオ「こ、これは……っ!?」

カズオ「俺たちの、青春の象徴!!」

マサアキ「ああそうだよ!! やっと見つけたんだ!!」

  3人、感極まった声で揃って。

マサアキ「プチカーブンブン……ッ!!」

テツオ「プチカーブンブン……ッ!!」

カズオ「プチカーブンブン……ッ!!」

  テツオとカズオ、熱を入れて解説を始める。

テツオ「創業当初から廃業までエレメカ一筋で数多くの名作を

 残してきたメーカー『KAKUGO』の繁栄を決定付けた

 伝説のゲーム!!」

カズオ「子供のころ何をどうすればクリアになるのか全く

 分からなくて、微妙に悪いハンドルのレスポンスと

 棒にくっついた赤いオープンカーがカントリーな調べに乗って

 ゆらゆら動くさまがあまりにもシュールだったあの!!」

  マサアキ、誇らしげに。

マサアキ「ふっ、こいつを取り扱ってた知人に土下座して

 売ってもらったよ。このラップトップたちの比じゃあねえけど!

  それでも掴み取りたかったんだよ。

 あの日の思い出をよぉ!!」

  尊敬をこめて彼の名を呼ぶテツオ。

テツオ「マサアキーっ!!」

カズオ「あんた最高っすよーっ!!」

  しかし、風や電車が近くを通る外でテツオ、カズオに愚痴をこ

  ぼすように言う。

テツオ「あーあ。つまんねー奴だなあいつ。エミュ2台って……」

カズオ「ちゃちい上に人を招待するラインナップじゃ

 ないっすよね」

テツオ「それにあのブンブン、結構出回ってる黄色の

 筐体<きょうたい>だったぜ」

カズオ「俺はあれ動いてるってだけでも奇跡って思うんすけど」

テツオ「甘いなお前は」

カズオ「えぇ?」

テツオ「俺ならもっと魅力的なモンを持ってこれる」

  フェードアウトと間のあと、パチンという音とともに、

  ブゥゥンとうなり声を上げて目覚める筐体たち。

  テツオ、まるで軍の司令官にでもなったかのように。

テツオ「見たまえ諸君……初代『トライストーム』だ」

  揃って圧倒される二人。

マサアキ「うおおおぉぉっ!?」

カズオ「うおおおぉぉっ!?」

マサアキ「マジか……え、これきっちり横に3画面並んでんの

 かよオメェ!?」

テツオ「あぁそうだ。ボスが登場する前にそれを知らせる演出を

 初めて行ったということでギネスにも登録されている

 初代トライストームだ!!

 どうだ継ぎ目ひとつねぇ美しいワイドスクリーンだろ?」

カズオ「初代のなんて売ってたんすか!?」

テツオ「いんやぁ、いろんな問題があって売るような奴は

 出てこなかったさ。純正の状態なんてレア中のレアだからなぁ」

マサアキ「んじゃどうやって!?」

テツオ「引き取ったんだよ。故障しちまったガラクタとしてな」

マサアキ「待てよ、初代のトライストームは基盤の寿命が

 なんたらでよぉ故障しちまったら」

テツオ「それがよぉ、ほんっとに一部だけ

 機能代替<きのうだいたい>が可能だったんだよ。

 いやぁワクワクと一緒にこれまでにない冷や汗かかされたよー。

 画面なんかも、基盤に印刷されてる番号と配線の番号が

 逆だったんだものー」

カズオ「あ、よく見るときっちりオリジナルと同じディスプレイ

 配置で3画面再現してる。スクリーン投影してんのこれ

 アクリル板っすか?」

テツオ「そうそう! ハーフミラーだとお高くってさぁ、

 ためしにアクリル板でやってみたら、ほら、周囲を暗くすれば

 きれいに映るだろ?」

マサアキ「なぁよぉテツオー、さっきから気になってんだけど、

 布かかってる奴なんだ?」

テツオ「気づいたか同士よ。そこまで言うなら見せてやろう。

 わが新たなる家宝を!」

  バサッと勢いよく布を引っ張るテツオ。

  先ほどよりも驚く声を揃えて上げる二人。

マサアキ「うおおおぉぉーっ!!」

カズオ「うおおおぉぉーっ!!」

マサアキ「こ、これは俺たちの!」

カズオ「青春の象徴!!」

  三人、うっとりしたような声をそろえて。

テツオ「プチカー、ブンブン……ッ!!」

マサアキ「プチカー、ブンブン……ッ!!」

カズオ「プチカー、ブンブン……ッ!!」

  マサアキとカズオ、熱を入れて解説を始める。

カズオ「創業当初から廃業までエレメカ一筋で数多くの名作を

 残してきたメーカー『KAKUGO』の繁栄を決定付けた

 伝説のゲーム!!」

マサアキ「高度経済成長の時代においても10時と15時に

 必ず休憩を入れて、そん時ゃままならなかった週休二日制を

 取り入れて、そんで納税も優秀っつー企業の鑑だったあの

 『KAKUGO』の!!」

  マサアキ、ハッと何かに気づく。

マサアキ「は……っ!? 色が赤ぇ!? 初期バージョンかよ!?」

テツオ「そーうだ!! しかも割りと元気に稼動するぞ!」

カズオ「き、奇跡過ぎる……そんな馬鹿な!」

  テツオ、演説をするかのように。

テツオ「探したよ。ああ探した!! こんなお宝を譲ろうだ

 なんていう大ばか者を探し続けた!!

 そして見つかったんだ! 人生至上二度と払わないであろう

 大金をはたき! 今ここによみがえったんだ!!

 幻の赤が!!」

  ひれ伏すような声を揃えてあげる二人。

マサアキ「うおおおおおおおっ!!」

カズオ「うおおおおおおおっ!!」

  しかし、カツーン、カツーン、と靴音が広く響き渡る室内で

  カズオ、ほくそ笑む。

カズオM「ふん。ぬるいわ。幻の赤だと? はっ!

 上には上があるんだよマヌケめ。テツオが見せた部屋。

 ミュージアムとしての評価が一応できる分たしかに

 マサアキのよりマシだが、トライストーム以外遊べる

 タイトルではない。だいたい汎用筐体であった

 『ノース~セブンス・フィスト・アーケード~』と

 『炎上プロ野球』は、嫌がらせな即死技やら

 バントでホームランやらで有名なクソゲーじゃないか!

 見ていろ。俺ならそんなヘマはしない。

 この俺特製の地下ガレージで!

 お前らをひれ伏させてやる!!」

  クロスフェードでにぎやかにゲームたちが騒いでいる。

  マサアキとテツオ、圧倒されるあまりうまく言葉を出せない。

マサアキ「……うそだろ?」

テツオ「こんな……ところに……」

  カズオ、勝利を確信したような表情で。

カズオ「ようこそ。俺の『ギンガリオン3』へ。

 一緒にプレイしてきます? 3人余っちゃうっすけど」

テツオ「おい……これを手に入れるために何やった?」

カズオ「やだなぁテツオさん。まるでいけないことをしでかした

 みたいに……ま、それは企業秘密ですけど。

 あ、ちなみにエピソードはゾングレイン編っすよ」

マサアキ「お、おう……」

  マサアキ、テツオ、モノローグでも驚きが抜けない様子で。

マサM「た、確かに、いつの間に6人版ギンガリオン3を

 手に入れていたのは驚いたわ。間近で見るとでけーなぁ……」

テツオ「しかしそれよりも驚いた……いや、失望したというか、

 怒りがふつふつと沸いて来たというか、

 まぁそんなとこだがともかく、今最も目に余るのは……」

  二人して、ありったけの怒りをこめて。

マサM「基盤の管理が雑すぎる!!」

テツオM「基盤の管理が雑すぎる!!」

  そんなことは露知らず、カズオは優越感に浸っている。

カズオM「ふふっ、俺のコレクションたちに目を奪われたか。

 無理もない……」

マサM「狂ったかカズオ!! こいつらみんなテメェみたいな

 未熟モンが手ぇ出していい代物じゃねぇ!!」

テツオM「見てみろあそこの汎用筐体『スペースブリッジ2』の

 背中にぱっくり開きっぱなしの穴!

 そしてそこから覗くむき出しの基盤!!

 稼動してないから実際には分からないけど多分、

 初代『カソーバトラー』のポリー1基盤のためのスペースだろう。

 もっと大事に扱え! たわけが!!」

マサアキM「世界中のオタクに、業者様に謝りやがれ!!」

カズオ「さて、そろそろ前座もこれぐらいにして、

 俺のとっておきを見せてあげますよ」

マサアキ「とっておきだぁ?」

テツオ「まさかそこの布で覆ってる奴か?」

カズオ「ご名答」

  バサッと勢いよく布を引っ張るカズオ。

  食いつくように驚きの声を揃えて上げる二人。

マサアキ「うおおおおぉぉぉっ!!」

カズオ「うおおおおぉぉぉっ!!」

テツオ「こ、これは俺たちの!!」

マサアキ「青春の象徴!!」

  三人、咆えるようにその名を叫ぶ。

マサアキ「プチカーブンブンんんんッ!!!」

テツオ「プチカーブンブンんんんッ!!!」

カズオ「プチカーブンブンんんんッ!!!」

  マサアキとテツオ、熱を入れて解説を始める。

マサアキ「創業当初から廃業までエレメカ一筋で数多くの名作を

 残してきたメーカー『KAKUGO』の繁栄を決定付けた

 伝説のゲーム!!」

テツオ「これもさることながら、城壁を登る忍者の動きの

 リアルさと朱に染まる空の演出が美しい『シノビシュート』。

 酒場のドアから出てくる敵に、当時としては世界初の

 ホログラム映像を使ったやたら没入間抜群なガンシューティング

 の『スモークバレット』とその高い技術で俺たちを

 魅了し続けてきたあの!!」

  テツオ、さらにハッと驚く。

テツオ「はっ!? それは確か、アクセルペダルつきの

 青の筐体!?」

カズオ「そう!! 幻の上を行く伝説の

 青きプチカーブンブン!!」

マサM「な、なんてこった……こんな奴に、基盤を雑に

 ほっぽらかすこんな奴に渡っちまうだなんて……」

テツオM「許せん、許せんぞカズオ!」

カズオM「おやおやぁ? 思ったより反応が薄いなぁ……

 どうしてだろうなぁ……」

  マサアキとテツオ、精一杯の憎しみをカズオにこめて。

テツオM「こうなったらこいつら二人よりももっともっとすごい

 筐体を揃えて、より完成された俺だけのゲーセンに

 してやる!!」

マサM「どんな犠牲でもなんでもきやがれってんだ!!

 負けねねえぞ、絶ってぇ負けねえからなぁっ!!」

  ナレーション、やけに色気づいた艶やかな声で。

N 「こうしてぇ~、3人の友情が敵意になって、もっともぉっと

 ゲームを揃えたりぃ、もっともぉぉっと大きなガレージを

 作ったりしていたんだけどぉ~、

 それから2ヶ月くらいたったらぁ~……」

  カラスが鳴きながら飛び立っていく中でマサアキが大きなため

  息。

マサアキ「はあぁぁ~っ、面倒くせえなぁ裁判所……はぁ~」

  扉を開けて、しばらく歩いていく。

  ふと、足が止まる。

マサアキ「あ?」

テツオ「あ」

カズオ「あ……」

  その場を静寂が包む。

  ところ変わって気持ちよく風や車の通り抜ける場所。

カズオ「いんやぁ~、俺たち何やってたんすかねー一体」

テツオ「まさか3人揃って仲良く自己破産すっとはなー」

マサアキ「あー、なんかすっきりしたなぁ!」

カズオ「……あ、マサアキさんテツオさん、こないだのトライストーム、ハイスコアいくら出ました?」

テツオ「え? 覚えてねえよんなもん」

カズオ「ですよね」

マサアキ「俺ぁ覚えてんぞ」

カズオ「いくらっすか?」

マサアキ「700万」

カズオ「うっそだぁ~。普通ありえないっすよそんなスコア~」

マサアキ「いやホントだって」

  彼ら3人の会話が小鳥のさえずりに紛れ、遠くへとフェードア

  ウトしていく。











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