阿仁谷ユイジ『夢喰い王子の憂鬱』

阿仁谷ユイジ『夢喰い王子の憂鬱』(太田出版)

「お金持ちになりたい」
「社長になりたい」
「作家として成功したい」
「ものづくりの仕事がしたい」
「お嫁さんになりたい」
「綺麗になりたい」
「異性からモテたい」
「周りから認められたい、尊敬されたい」

皆様いろんな夢を持っていると思います。わたしも大小さまざまな夢があります。

「夢は逃げない、逃げるのは自分だ」と大学時代の恩師はおっしゃいましたがまさにその通りで、人生で自分の夢・野望に対して叶わない現実に心が折れてしまい何らかの軌道修正を行った経験が誰しもあると思います。

自分の努力不足?運が無かったから?そもそも理想が高すぎた?嘆いていても仕方ないからとりあえず働いて、生活して、夢を再設定しよう!
そう前向きに進んでいても、理想と現実のギャップに気付いた時に辛くなる。
こんなはずじゃなかった、なんて言いたくないけど言いそうになったり、あの時ああしていればと後悔したり。

自分の理想に押し潰されそうになった時、「王子様」が突然あらわれてその「夢」を食べてくれる。
そんなお話の漫画です。

第一話は漫画家を目指す主人公アサミの話。漫画家デビューという夢を追い、孵化出来ずに10年経過。ようやく孵化の兆しが見えた矢先に交通事故に遭い、右手を骨折。さらに不運が続き、アサミはスランプに陥ってしまう。

(28頁)

(29頁)

「夢で腹がふくれるわけない」
「わたしの夢は言い訳なの」
漫画を描く以外のことをしてこなかったアサミは、自分で自分を追い詰める。
「こんな夢などいらない」
アサミがそう思った瞬間、突如「王子様」がやってくる。


王子様は「だったらその夢、僕が食べてしまっても良いですか」
と言って、ギラギラとした「夢」を吸い取るように食べる。

(34頁)

(37頁)

(38頁)

「どうして全部食べてくれないの こんな夢 残ってたって仕方ないのに」
「王子様」は胃腸が弱く、少しだけ夢を残してしまう。


何時の間にか寝ていたようで、アサミは翌朝目を覚ますと、憑き物がとれたように体が軽くなっているのを感じる。アサミはもう一度、自分の夢に真剣に向き合う決意をする。

単行本の帯には「夢は、あきらめてもいいのです。」と書いてあり、もちろんその通りで夢は「追う」だけのものでなく、軽くしたり変えたり出来るはずなのに、がんじがらめになってしまうことがある。
王子様は胃弱のため、人々の夢を空っぽにしない。少しだけ残った夢が、人にどのように作用するのか。アサミのように夢に向き合う勇気をくれるのか、諦める決意をするのか。

物語だけを見ると暗い思考の描写が多く、自分の身に勝手に置き換えて勝手に辛い気持ちになってしまうときもありますが、夢を食べてくれるのがイケメンの王子様で、夢を食べるシーンがエロなところがこの漫画を暗い印象にさせない要素なのだと思います。



わたしにとっての「王子様」なるものはいるんだろうか。

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