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山田詠美『4 Unique Girls』

山田詠美『4 Unique Girls』(幻冬舎)

何度も言うが、わたしは高校生の時から山田詠美が大好きだ。彼女の本でわたしの価値観は大きく揺らぎ、いまでも影響されまくっている。

書店に行けば山田詠美の新刊を必ずチェックするし高確率で即購入している。本書も即購入した一冊ではあるが、読了した今、非常に複雑な気分なのである。

本書は「女子」向けに作られている一冊である。
ホワイトベースに、ゴールドの字体、薄いブルーのラインのデザイン、サーモンピンクの帯(サーモンじゃないかも、何色なんでしょう?)には香里奈と山田優のコメント付き。
極め付きにはサブタイトルに「人生の主役になるための63のルール」と書かれている。

本書は雑誌「GINGER」の連載から単行本化したものであり、連載にはもちろんサブタイトルは無い。キラキラした装丁やサブタイトル、帯のコメント欄の顔ぶれから「GINGER」読者層の20代女性の手に取りやすそうな装丁の工夫が凝らしてある、と言わせたいのが見え見えである。
本書は売り手の意図が見えすぎている、いわば「あざとい読書」である。

わたしも「かわいい読書」を提唱する身(笑)であるので、装丁がかわいい、おしゃれなものであることは非常に大事なことだと思う。しかし、山田詠美は装丁のかわいさに関わらず文章に定評のある人物である(とわたしは強く思う)し、サブタイトルを付けたことで、本書の意図が変わってしまっていないだろうか?と思うのだ。わたしが響いた文章をいくつか引用し、サブタイトルの検証をしてみる。

「今の世の中、どこを向いても、前向き思考礼讃。ポジティヴでなければ恥ずかしいというこの風潮って、何かおかしい、と私は感じるのである。」(15頁)

「うぇーっ、と私は思った。何を根拠に、そこまで自信が持てるのか。過去にいくつか連載してきて、こんなこと言える筋合いではないのだが、これって、多分に女性誌の影響じゃない?自画自讃のテクニックばかり教えて、自己反省のスキルを伝授しない。」(43頁)

「芸のある悪口の応酬は、スパイスのように人生を引き立てる、と私は常々思っている。少なくとも、私が素敵だな、と憧れた年上の女たちは、皆、そのための技術を持っていた。彼女たちの、ユーモアと隣り合わせの皮肉や優しさに裏打ちされた辛辣は、いつも私に、よこしまな楽しみを与えた。いい人なだけじゃ人生は退屈。毒のない会話は薬にもならない、と教えられたのである。そして、悪口の中には許せるものとそうでないものがあり、その間に引かれる一線を価値観と呼ぶことも。」(99頁)

「普通、人は、大人になるにつれて「もの慣れた」雰囲気を獲得したいと願うもの。何故なら、それは洗練のひとつの段階であるから。(中略)しかし、私は、こうも感じてしまうのだ。あらかじめ、その場にもの慣れた態度で足を踏み入れられる人は、もうそこでの驚きや感動とは無縁なんだろうなって。たぶん、洗練と引き替えに、ときめきは失ってしまったんだろうなって。」(151頁)

本書の要点は、これさえ心得ていれば良い、という制限的な「ルール」ではなく、作法や意識という意味合いが大きいのではないだろうか?わたしは「人生の主役になるための63のルール」という自己啓発本のようなサブタイトルに、非常にむずがゆく感じてしまう。

さらにこの連載は、雑誌「GINGER」の巻頭ページに掲載されており、巻末ページの瀧波ユカリの連載「女もたけなわ」(たけしまの読書感想文既出)との掛け合いが魅力の一つであるが、単行本にはその注釈が一切無いのである。たまたま両方持っていたから併読して楽しさを2倍味わうことができたものの、知らない人にとっては「なんのこっちゃ」な状態。そもそも雑誌「GINGER」を読んでいることが前提なのである。

中身はどの章を読んでもくすぐられ、あっという間にふせんだらけになってしまった。あぁ、もっと本を読まなければと思わせてくれる、姿勢を正すきっかけになる。装丁やサブタイトルに複雑な気持ちを覚えるが、やっぱり山田詠美の文章が大好きだ。たぶんわたしはどれだけ装丁がダサくても、今後も山田詠美の本を買ってしまうだろう。

今回はただの批判ではなく、「かわいい」ことは「あざとい」ことではない。それが言いたかっただけです。

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