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【七転び八起きの六起き目⑦】

【七転び八起き】マガジン

 3度目の慣れってやつだ。

 どのタイミングで予選がスタートするからどのタイミングで生地を仕込んで、直前の準備はこのくらいの時間にスタートすれば必ず間に合う……そういうスケジューリングが上手になっていた。
 ホテルからアパートメントに変更したのも部屋のキッチンで仕込みができるからだったし、いつも以上にやることが多くてバタバタながら良い準備のできた大会だったと思う。
 ハインツベックトロフィーだけは初めての出場だったから勝手が分からずに苦戦したけど。
 どの程度の調理器具があるかすら知らずに現場入りしてからの確認だったし、細かいルールも把握しきれてなかったりしたしね。
 それでもやはりイタリアに慣れてきていたから、ソワソワすることも少なくなったし、会場全体によそ者ではなく仲間として見られている感じもしていて変な緊張はしなかった。

 フリースタイルは1度でもドロップしたら負けって気持ちで挑み、見事にノードロップでフィニッシュした。が、わりと順番が早く、良いスコアは残せたもののファイナルに行けるかどうかは最後まで微妙だった。
 結果的に6位でギリギリ2年連続のファイナリストになれたのは幸運としか言いようがない。もちろんタクちゃんもファイナルに進み、日本人2人が2年連続ファイナリストになるという快挙も達成した。

 2回目のファイナルは前回よりも楽しめたけど、結果はまたも5位、タクちゃんも優勝を逃した。
 結果だけみると良くも悪くもない微妙な大会だったけど、イタリアの有名企業の広告動画に出演したり、各国のピザ職人たちとの交流が増えたりで、この大会に参加していると言うより、自分たちもこの大会の一部なんだなと強く感じることができたから、満足度はすごく高かった。

 最終日の授賞式で、同じ円卓を囲んでいたおじいさんたちがいたんだけど、そのうちの1人がハインツベックで優勝してね、仲間たちが大騒ぎして壇上に送り出し、トロフィーを持ち帰ってまたはしゃいでいるのを見て思ったんだ。
 いつか自分たちがじいさんになったときに、こういうふうに生きてみたいって。それは新たなモチベーションになったし、道標みたいなものにもなった。

 ただ、その一年後に自分たちを待っていたのは誰も予想出来ないような地獄だったんだけどね。
 さぁ、七転び目はみんなで転ぼうか。

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