令和いらねえ釣りはホットケーキ ver.2/2024年3月2日



2024年3月2日。「JOYLAND2024」初日の続き。フェスが行われるペニンシュラビーチは、ヌサドゥアと総称されるビーチリゾートの一画。ホテルに入るには車の検問が2回あったり、テロ対策にも気を配った地域ではある。狭い道路を無数の車とバイクが行き交い、白人の富裕層でにぎわうクタビーチあたりの混沌とした喧騒とは違った、整然としたリゾートだ。そもそもこの一帯はインドネシア政府主導で開発された人工リゾートなのだと聞いた。いかにも古めかしい石像や建造物も観光目的の作り物と考えると、まあなんとなくいい加減というか、ちょっと気が楽になる。もちろん自然のスケールはすごいんだけど。

実際、フェスのロケーションを考えると、ハイプな富裕層を中心としたバケーション客層なのではないかと予想もしていた。コロナ前に行ったアカプルコのフェスは、そういう快楽的な側面は否定できなかった。それに比べたら、「JOYLAND」のお客さんは、もっと普通に見える。もちろん、オルタナティブなアーティスト中心なのだから、そこにあらかじめある程度のフィルタリングはあるとしても、だ。駐車場からのシャトルや乗り合いバイクでやって来るひとたちの多くは、インドネシアに暮らすインディー音楽好きとわかる顔つきをしていた。インドネシアは多宗教国家であり、人口の大半はイスラム教徒。残りはキリスト教、ヒンドゥー教、仏教が交わる。ヒジャブを身につけてライブを楽しんでいる女性たちもたくさんいた。

フェス自体、地元インドネシアや周辺国からのバンドやアーティストを多くキュレートし、ヘッドライナーや二番手に、これぞというアクトを海外から招聘する。単に人気投票の結果を反映させるのではなく、お互いにとって刺激と関心があるようにタイムテーブルを組み立てているのがいい。日本の音楽フェスにそのまま置き換えるのは難しいかもしれないが、人気者の寄せ集めではなく、お互いに誇りと敬意を持てるフェス構成はもっとあってもいい。会場では寺尾ブッタさんに会った。昨日、Millers Recordsで聞いたおすすめの地元アクトはStars And Rabbit。コクトー・ツインズふうで自分たちの雰囲気をしっかり持っている。長いキャリアのバンド、The Adamsも大変な人気。LAメタルのようなキャッチーさとベテランのパンクバンドのような勢い。後半にはわりとメロウな曲もあって面白い。サブステージのトリは、Pearl & The Oysters。日本公演とはリズムセクションが違い、ベースとドラムを帯同。初めてのバリ公演なのに、里帰りのようなムードすらあったとインスタに書いた。彼らにとっても、それなりの規模のフェスでこの真夜中な時間帯に出演するのは、なかなかない機会だったはず。


メインステージの坂本慎太郎は、夕方の大雨の影響で20分遅れの22時50分スタート。ステージにメンバーが現れると「サカモトー!」の声があがる。海外でのお客さんの反応はいつも興味深い。インドネシアのお客さんは、これまでのいくつかのステージを見る限りでは、われを忘れてどんちゃん騒ぎ、という感じよりも、音楽をしっかり体のなかに入れて喜びに変えることを重視するようなムード。そのじわじわ感が破けてはじけたのが「幽霊の気分で」。この曲にあるラテン味が日本以上によく響くというのもあるんだろうけど、日本語で歌ったり、「バラッパッパ」や「フー」があちこちから聴こえてきた。人気が高い「まともがわからない」でサビを歌うのは理解できるけど、歌い出しの「この小さな街にも」からみんな歌う。すごい。ゾクっとふるえた。「君はそう決めた」で「1人で何かをしようとしてる」や「朝が来て 夜が来て」と歌うのは、われわれが英語の曲を中学生で真似ていたようにまずは意味を超えた快感があるからだけど、彼らがこの曲と言葉を飲み込んで、その意味を知ろうとしてるからでもあるよね。そして、ここに来ずにはいられなかった。この場にいる無数の「君」はそう決めた。そう思うと、自然と涙が出る。

日付を越えたところでフェス初日は終わった。特別なものを見たと誰しも思っているんだろうけど、ゲップが出るほど物量と情報を詰め込むのではないし、コンパクトではあるけどこじんまりというのとも違う不思議なスケール感、というか、心身ともに猶予がある。「どうだ!」と見せつけすぎてないし、「もっともっと」と過剰に欲望を焚き付けてないのもよかった。楽天的な快楽主義フェスのように見えて、この時代に音楽が果たすべき責任とは何かを考えているイベントだと思う。

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