令和いらねえ釣りはホットケーキ ver.2/2024年6月23日



2024年6月23日。ソウルとインチョンは高速鉄道に乗れば1時間足らずの距離だが、それはソウル駅とインチョン国際空港との移動の話。ソウルの街なかから、インチョン空港に近いパラダイスシティホテルで開催される「Asian Pop Festival」に参加するには、前後の移動でその倍は時間がかかる。なのでおっとりしていたら、到着は夕方5時ごろに。迂闊だった。長谷川さんがトップバッターを務めるDJステージ(CHROMA STAGE)にはなんとか間に合った。しかし、ここ。いわゆる「フェスのDJブース」的な、足りない装飾を興奮と脳内イメージで補う感じとは真逆だ。日本のバブル全盛期のラグジュアリーならハコを現代的にアップデートしたというか、想像以上のセレブ感。LEDスクリーンと照明が乱舞するなか、長谷川さんはK-POPセットでフロアを焚き付ける。昨日話したときは「(当日のDJで)レコードかけるのはぼくだけ。低音が足りない」と自嘲してたが、若いフロアのハートつかみまくり。ビートに無言で従わせて踊らせるのではなく、お客さんの合唱も味方にして熱気をブーストしていくのが韓国スタイルだと、ぼくも長谷川さんと一緒に「From Midnight Tokyo」でDJしたときに学んだ。今目の前にあるのは、その数百倍の拡大版。カネコアヤノと半分時間被りだったので途中で退席することに。表に出ようとしたところでダハムくんに声かけられた。当然来ているよね。

このフェスは今年が第1回目。顔ぶれといい、シチュエーションといい、期待感がある。このカジノホテルのオーナーがインディーロック好きといううわさも聞いた。日韓中心、大きな欧米アクト無し、インディーズ重視で動員や盛り上がりがどうなのか、伸びしろが感じられるのか、ソウルで意義あるイベントをしたいと思っているひとたちはみんな気になっているだろう。ただ、日本からはチケット購入がとても難しかった。宿泊の問題もある。インチョンは巨大な国際空港だけど、周りに簡単に泊まれるホテルが極端に少ない。会場はカジノ付の高級ホテルなので、1泊数万。キャンプスタイルのフェスではないし、軽い気持ちで来たら大出費になる。というわけで、もし海外から来たら、必然的にソウル界隈に泊まることになるから、インチョンからの終電の問題も発生する。コンセプトや会場内の移動などのコンパクトさ、快適さはとてもいいと思うので、今後開放、改善されていってほしい。


カネコアヤノは45分。坂本慎太郎は、バリ島のフェスに近いセットで60分。どちらもすごく待ち望まれていた空気があって、しっかり酔わせて、すごく盛り上がった。熱のこもった演奏に反応する歓声が大きくて、西内さんにすごく歓声が集まった。で、も、この夜の主役はメインの「CITY STAGE」大トリに登場したキム・チャンワン・バンドたった。元サヌリムというか、韓ドラ好きには、味のある名優としてすっかり有名なキムさん。サヌリムが韓国では揺るぎないロックレジェンドだからなのか、ドラマを通じて人柄が愛されているからなのか、始まる前から「キム! チャンワン!」の大コールが起きる。登場した瞬間はまさに騒然という感じ。見た目はドラマの通りで、ひとのいい初老のおじさんなんだよ。ほろりと泣かせる歌なんか歌い出しそうな感じ。だが、このバンドがやるのは、まるで後期ルー・リードみたいな張り詰めて重厚なロックサウンド。キムさんもすごいギターを弾くし、なにしろ歌声が強い。鉄筋コンクリートみたいに骨太なバンドサウンドに負けない、大きくて力強くてとがった声。それをニコニコしながら人のよさそうなおじさんが歌って、全員熱狂。そりゃなんだ? 



観客のほとんどが歌詞を知ってるんじゃないかと思えるほどの大合唱。さっき書いた終電問題のせいか、パラパラと帰るお客さんたちも少なくないんどけど、できたスペースはどんどん前に詰めてくる別のお客さんが埋めてゆくし、スペースが空くと集団でサークルモッシュやカヌー漕ぎ(?)が起きる。ちょっと待って。お客さんの大半は20代くらいだよね? キムさんは今年70歳なんだけど? こんなにすさまじく一体感のある光景は、日本でもアメリカでもちょっと見たことがない。矢沢? サザン? 達郎? ぜんぜん違う。あるいは、もしかしたらサヌリムを古く知る世代のための座りのコンサートもあるのでは? ほぼすべて若いオーディエンスだけでオールスタンディングというシチュエーションで往年の真髄が発火したのかもしれない。だとしたら、ぼくはものすごく貴重なものを見ているんだろうし、これがキムさんの通常運転だとしたら降参だ。日本にいつか来てほしいとかじゃなく、今夜この時間帯このシチュエーションで見なければダメなやつ。カネコアヤノ→坂本慎太郎→キム・チャンワン・バンドは、バンドとオーディエンスが作り出す世界的に見ても稀有で最強の3連チャンだった。今後これ以上の光景を見ることがあるのかしら。


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