令和いらねえ吊り輪ホットケーキ/2020年4月29日

 前の日に京都の誠光社から届いた郵便小包を開けたら、中身は本ではなく7インチ・シングルだった。

 ジョンとポールの「ONGAKU / GOD SAVE THE MEN」。

 A面はYMOの、B面は鈴木慶一のカヴァー。誠光社のご店主、堀部さんから絵葉書が添えられていて、そこにはアレンジが古川麦くんであり、「ジョビンスタイル」だと書かれていた。

 これはもしかして麦ちゃんが気を利かせて、ぼくに送るように言ってくれたのかな?(あとでわかったが、そうではなかった)

 ジョンとポール、というのはデュオではなく、ひとりの男性シンガー・ソングライター。そう教わったのは、雨の京都の晩だった。教えてくれたのは、知り合いの女性。たしか広島あたりが拠点と言ってたような。ぼくもなんとなく関西や中国地方で知り合いがライヴするときの告知で名前を見かけていたくらいで、それまでそんなに興味を持っていたわけじゃない。

 彼女が「ジョンとポールはいいですよ」というので、その日、はじめて意識するようになった。そしたら、その夜に何人かで入ったバーの窓脇で、ジョンとポールを見つけてしまった。

 その店に、小さな出張レコード屋さんのコーナーがあって、そこに2枚のCDが入っていた。1枚はオリジナルで、1枚はカヴァー集。

 「ハライソ・レコード」とその売場には書かれていた。たしかツイッターで相互フォローになっているお店(人)だったよね。直接のやりとりとか面識はなかったように思うけど、友人とハライソさんのふたりが推薦してくれているのだから、という気持ちになり、その2枚を買った。

 うそみたいな話だが、バーの名前は「キャロル・キング」といった。

 キャロル・キングでジョンとポールを買った。言葉だけ聞くと、本当にうそみたいでしょう?

 そして、ジョンとポールにまつわる「うそみたいな話」が数年越しにもう一度起きたのだった。書店から7インチが届いて、古川麦くんが深くかかわっていて、針を落としたら最高のカヴァーで。

 マッテル、イッショニ、ウタウトキ。

 その言葉がまるでポルトガル語に聴こえた。昔見た『MPB1967』という映画のことを思い出す。トロピカリズモ期のカエターノやムタンチスのラヴ映像が見られるということでシネマヴェーラまで見にいったけど、それよりもなによりも(映画のなかの)観客がみんな歌を一緒に歌うのが圧巻だった。ブラジル人は歌うのが好きだし、好きに歌う。

 そんな記憶と、いまかけている7インチが、不意に目配せした気がした。ジョンとポール自身の音楽は大きな声で「一緒に歌う」感じではないけど、鼻歌中枢を侵す魅力はある。それはすでに知ってた。

 じつは、ジョンとポールがどんなひとで、どんないでたちと雰囲気で演奏しているのか、まだぼくは知らない。誠光社からの添付されていたペーパーに、ヒゲの青年のイラストが描かれていて、たぶんそれが似顔絵だろう。

 でも、まだそれ以上は深く知らずにいたい気持ちもある(といいながら相互フォローになっちまった)。

 マッテル、イッショニ、ウタウトキ。

 この言葉の響きを、なにか意味づけして大きくしてもいいんだろうけど、いまはただ心のなかで口ずさむことにする。ソーシャル・ディスタンシングした合唱があってもいいでしょ?

 マッテル、イッショニ、ウタウトキ。

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