令和いらねえ吊り輪ホットケーキ/2020年3月6日

 Mikikiの編集者としてお世話になっている天野龍太郎くんの誘いで、試写会に出かけた。

 ふるえるゆびさきというバンドのメンバーだった城真也くんが映画の世界に足を進めていて、監督した映画が4月に公開になるという。

 ふるえるゆびさきの取材を、ぼくは一度したことがある。2013年くらいかな。『一回映画終わったあと』というファースト・アルバムのざらついた暗さが結構好きだった。アルバム・タイトルとしてもすごくいいセンスだったと思う。メンバーとしての城真也の担当は、サックスとトランペットとヴォーカルだった。

 その後、セカンドは出たもののバンドとしての活動は聞かなくなっていたが、城くんの名前は本日休演のファースト・アルバムのプロデューサーとして見かけたりしていた。

 そしてその後、ぼくが知らなかっただけで、城くんはすでに若手の映画作家として有望な存在になっていたのだ。

 今日、見る映画のタイトルは『アボカドの固さ』。

 「是枝裕和や三宅唱のもとで学んだ新進気鋭の映画作家、城真也。PFFアワード2017に入選した中編『さよなら、ごくろうさん』に続く本作は、彼にとって初の長編作品である。」

 「PFFアワード2019で〈ひかりTV賞〉を受賞、第20回TAMA NEW WAVEで〈ある視点部門〉に入選した映画『アボカドの固さ』。自主映画でありながらも高い評価を得たことで、映画ファンから注目を集めている。」(Mikiki記事より/天野龍太郎)

 補足情報として、D.A.N.の櫻木大悟が劇中音楽を担当、主題歌はTaiko Super Kicks「感性の網目」。

 試写会の会場となる映画美学校に着いたところで、ぐうぜんに天野くんと一緒になり、ふたりで受付を済ませた。「こんなご時世で告知もままならず」と聞いていたが、上映前には思っていたよりも席も埋まっていた。

 実際に俳優として活動している前原瑞樹さんが自分役で主演。彼自身の体験をもとに、城監督と話し合いながらストーリーは形作られていったという。

 ひとことで言えば、5年付き合った彼女に突然別れを切り出された男の話。それを七転八倒の苦悶でも起死回生の逆転劇でもなく、「ああ、実際ってそうだよな」と思える「淡々としてジタバタ」「苦い普通」をきちんとはらんだ視線で映画は進む。

 気のない相槌、意図せぬ優しさ(ゆえの残酷さ)。その描き方が絶妙だと感じた。いや、「描いて」すらないのかもしれない。

 画面の切り取り方、映像を切り替えるテンポの良さがいい。たわいもない会話や、学生でも大人でもない若者たちの、ユーモアにもなりきれない馴れ合いの笑いのとらえ方(ものすごく見に覚えがある)がうまい。もともとあるセンスのようにも感じるし、きちんと映画を学んできた技術のようにも感じる。若い映画ですよ、みたいな不完全さに甘えてないことに驚きもした。

 好きなシーンがいくつもあった。

 上映後、城監督が短くあいさつをした。上気するでもなく、形容詞で飾りつけることもなく、てらいで卑下することもなく、ちゃんと鍛えられて、この道を行こうと決めているひとだからできるあいさつだった。

 会場を出る前に「ふるえるゆびさきを取材したことがあるんです」とあいさつしたら、ちゃんと覚えていてくれた。

 建物を出たら、なぜかチャーハンが無性に食べたくなって、よく行くラーメン屋でいつもは頼まないチャーハンを注文した。映画を見たら理由をわかってくれるひともいるかも。

 『アボカドの固さ』。渋谷ユーロスペースで、公開は4/11から。

 夕方、ceroの仙台公演(3/13)と、ぼくがDJで出演するはずだったその夜のアフター・パーティーの延期が発表された。それに伴い、翌日に仙台のレコード店「Volume1(ver.)」で予定していたぼくの本のトーク&DJイベントも延期とした。

 トークだけやってもよかったけど、気楽な気分で話したり踊ったりできるまで延期はやむなしなのだろう。必ずやるつもりなので、いい策を練りたい。山形や秋田にいる知り合いを訪ねてツアーするのもいいかもしれない。

 夜、胸が苦しくなるようなニュースばかりで、散歩している途中で動画を見た。

 去年の12月、ソウルの音楽バー「マンピョン」でのDJパーティー「From Midnight Tokyo」のヒトコマ。去年、このパーティーにはオーガナイザーの長谷川陽平さんの招きで2回出演した。最初はVIDEOくんと。次は長谷川さんとぼくのツーマンで。

 そのとき DJ Nostalgiaくんが撮ってくれた動画で、ぼくは鈴木茂「砂の女」をかけていた。誰もがゆらゆらと踊る映像から「冗談はやめてくれ」と鈴木茂の歌が聴こえてきた。本当だよ。総理大臣、冗談はやめてくれ。

 どうしようもなく込み上げてしまって、長谷川さんにメールを打った。

 またソウルに行けるようになったら、すぐにでも「From Midnight Tokyo」でDJしたい。

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