令和いらねえ釣りはホットケーキ ver.2/2024年9月3日
2024年9月3日。川崎ゆきおが亡くなったとジョーから連絡。報せを知ったひとたちの間ではすでにざわついていたらしいが、昨日は収録の疲労もあって、ほとんどSNS見てなかった。川崎ゆきおさんとは一度だけじかに会った。会いに行った。中野タコシェに。なぜ会いに行ったのかは、川崎さんが生み出した永遠のキャラクターである猟奇王のファンだから、だけじゃなくて。当時制作中だった「リズム&ペンシル」の創刊号に漫画を描いてもらいたかった。ジョナサン・リッチマンの特集で、表紙は杉浦茂、漫画は川崎ゆきお、それって最高じゃん!と気がふれたようなことを真剣に考えていた(杉浦さんとの話はいつか書くことがあるかも)。タコシェで川崎さんのサイン会が行われると知ったきっかけは忘れたが、記憶をたぐると、京都の書店恵文社一乗寺店のスタッフが使ったzine「SUPER!」が川崎ゆきお特集で、その記念じゃなかったか? その「SUPER!」を作っていた井口さん、大西さんとはまだ知り合っていない? ちょっと時系列があやふやだけど、とにかく会えば交渉できるはずと信じて出かけた。サイン会の列はそれほど長くなかった。列の先に川崎さんがいた。心のなかで「スロン」と擬音がした。
川崎さんはたぶん、というか絶対にジョナサン・リッチマンのことは知らないだろう。なので、ジョナサンが何者かを伝える手紙とベスト盤的なカセットテープを作った。今思えば、川崎ゆきおに聴かせるためにジョナサン・リッチマンのベストアルバムをカセット用に選曲したのか。そのトラックリスト、知りたい。おれなのに、覚えてない。手紙には「猟奇王とはジョナサンが歌うRoadrunnerなのです」みたいなことと、ギャラはこれくらいお支払いします、と書いたはず。頭がおかしい。しかし、それしか方法を知らなかった。川崎さんの反応は「はあ、ええ」みたいな手応えがほとんどない様子。気まずい間ができそうになったので、カバンから「悪いやつほどよく走る」を取り出して「サインください!」とお願いした。そのときも川崎さんは「はあ、ええ」という感じで、シュッシュッと猟奇王を描いてくれた。思いのほかページいっぱいに猟奇王が描かれこともあり、「忍者も描いてください」とまでは言えなかった。深く一礼して、タコシェを出た。
果たしてあの「はあ、ええ」は引き受けてくれたんだろうかと、それからしばらくはなんとなく腑に落ちない感じではあったが、川崎さんからの返答は意外と早くに届いた。「描きます」という返事を受け取る前に漫画がもう描かれていた。「アドリブで走れ」というタイトルがつけられていた。もちろんぼくが指定したものではなく、川崎さんがつけたものだった。川崎さんは90年代からインターネットに関心を持っていて、自分のサイトも早くに開設していた。旧式のHTMLだが、今もそのサイトは見ることができるし、「アドリブで走れ」はPC上で着色されたヴァージョンが掲載されている。リンクを貼るのが親切だろうけど、ご興味あるかたは迷宮のようになってしまっているサイト内で探してみてください。だれかの考えや生き方がそんなに簡単に説明できたりわかったりしてええはずないやろ、と川崎さんが言っている気がするから。そのサイトの日記をときどき読んでいたが、タグをたどったら今年の6月が最後の日付だった。それを読んでぼくはすこし泣いた。
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