「もう一度」がない旅/2024年10月 極私的Shintaro Sakamoto US Tour 2024 vol.1


10/13(日) 前編
パイオニアタウンはロサンゼルス市内から内陸に車で2時間ほど走った場所にある。地図で見る限りは完全に砂漠のなか。砂漠といっても鳥取砂丘みたいなサラサラ地帯ではなく、単に乾いた土地。丘陵地帯を高速で走ってゆくと、やがて近未来な風車群が見えてきた。風力発電のためなのだが、その数がどんどん増えてくると、かなり怖い。まるで地球侵略を目論むエイリアンのよう。あるいは未来人が「巨大な十字架」として発見する現代文明のお墓なのかも。


高速を降りて、さらに奥地へ。丘陵地帯を抜けてゆくと風車群もいなくなり、目の前は空の青さと地面の茶色だけに分かれる。この先に本当にライブできるような場所があるのかと思うが、ヨセミテ国立公園やヨシュア・トゥリーといった観光地があるので、実際のところアメリカ人の感覚では僻地に向かってる感覚はないのかもしれない。一本道の脇には、時折、建物も見える。そのうち、左手に「VINTAGE AND VINYL」と書かれたボードが目に入った。


どうやらアンティック・ショップでレコードも売っている? 急いでUターンして戻る。観光地に向かう途中にヒッピー流れのおじさんがのんびりとやっていて、店内には100枚くらい中古レコードがあった。こんな土地で需要あるの?と思ったけど、この先には国立公園目当てのホテル街もあるし、都市からリタイアした年配者たちが住んでいるのかもね。値段はまあまあか。デヴィッド・バーンの「True Stories」サントラとマシュー・スウィート「Girlfriend」のカセットを売っていたので買うことにした。ギターも売っていて、少年が試奏していたのはルパート・ホルムズの「エスケイプ」だった。


そこから30分ほどさらに砂漠を奥へ行くとパイオニアタウンなんだけど、会場に着く前に腹ごしらえしたいと思い、アンティークショップのおじちゃんにおすすめの店を聞いた。「この先に飛行場があって、滑走路の脇にいいバーガープレイスがある」。google mapで指図された通りに脇道に入って進むと、飛行場? 滑走路? セスナが何機か停まっている広場があった。どうやら観光か個人利用の小さな飛行場。そこに確かに、小さな平家のバーがあった。バグダッドカフェ的な雰囲気。窓は小さく、見た目は味もそっけもない。


しかし、店内はシンプルなミッドセンチュリー・アメリカンスタイル。暗い照明に目が慣れてくると、そこは完璧なパラダイスだった。バーカウンターでは昼間からハードリカーを飲む者たち。奥まった場所にDJブースもあって、夜にはここでパーティーもできるっぽい。もしまたこの土地で坂本さんがライブすることがあったら打ち上げはぜひこの店で、と妄想する。もちろんそんな機会はないだろう。「もう一度」がない旅をしているんだから。


パイオニアタウンは、その名の通り、「さいはて」な感じがする。スマホの電波も危うい。一本道の先に忽然と現れた一画に、今夜の会場である「PAPPY + HARRIET'S」はあった、というか、ここにはそれしかない感じ。駐車場にはすでに車が結構停まっていて、街から見に来たお客さんも多いんだなと思った。だが、よく見たら駐車場の向こうに西部劇のセットみたいな建物が続いており、そこを訪れている人たちも多い。どうやらここはアメリカ版の日光江戸村? 「PAPPY + HARRIET'S」の前でスマホでいろいろ撮っていたら、西内さんが一服するためか、表に出てきた。「こんなとこまでよく来たな」という顔をお互いにして、苦笑とも安堵ともつかない笑いが漏れた。

「PAPPY + HARRIET'S」という店名は、この店を作ったご夫婦のお名前(パピーとハリエット)で、ライブ・レストランだ。店内とお店の中庭スペースにそれぞれステージがあり、今日は店内でライブをするのだという。かつてポール・マッカートニーがお忍びでライブをおこなったときの記事がエントランスに貼られていた。店内のライブスペースのキャパは100人? 150人? それに店内で飲食している一般のお客さんにも演奏はまる見えのまる聴こえ。もともと出演する予定だったフェス「DESERT DAZE」が開催中止になっていなければ数千人以上の観客を前に演奏していたはずで、急遽決まった代替地。場面転換としては劇的すぎる。しかも、シカゴのオープニングアクトを務めるホジェー(Roge)と、LA、サンフランシスコのOA、ボビー・オローサが今夜は出演する。これはうれしい。店内では、一番手のホジェーがリハ中。どうやらドラマーとふたりでの演奏になるらしい。

つづく

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