最近またNRBQのことを考えていた。

1月の終わりの土曜日、渋谷WWWXの楽屋にライブを終えたスカート澤部くんを訪ねた。その会話のなかで、彼が「今度“ナイポレ”でNRBQ特集なんです」と、ポロリと言ったので、ちょっと驚いた。「ナイポレ」とは、彼が京都α-STATIONで毎週金曜日の夜8時から放送している番組のことで、正しくは『NICE POP RADIO』という。

へえ、NRBQ特集か。去年の暮れに7年ぶりのフル・アルバム『Dragnet』が出たからなの?と聞いたら、そういうわけでもないという。

まあ、澤部くんは昔からNRBQが好きだし、開始から5年目を迎えているこの番組でも毎週自由に好きな曲を選んでかけている。タイミング的には不思議だけど、彼がそういう特集を思いついたことには不思議はない。

「だったら出たいな」

あまり考えずに、ぼくも反射神経的に思いを口にしてしまった。「ナイポレ」には2回出演したことがある。コロナ禍になって、スタジオではなく澤部くんの自宅からのリモート放送になっているのは知っていたけど、zoomとかを使えばゲストでちょっとしゃべるくらいはできそうだよね。

「ぜひ!」と言い、早速番組ディレクターに連絡をとってくれた澤部くん。収録の日取りなどを調整するうちに「松永さんが出てくれるならこの特集、2週はいけるかも」と言い出した。大好きなバンドの大好きな曲をかけてしゃべるだけなんで、もちろんこちらもOK。楽屋にいた十数分でおおよそのことは決まってしまった。

とりたててタイミング的な心当たりはないと澤部くんは言っていたが、じつはぼくにはタイミングはあった。

2012年の1月にNRBQの2代目ドラマーであり、かけがえのない友人だったトム・アルドリーノが亡くなった。1月は、ちょうど10年になる月だった。

亡くなってからしばらくトムのドラムが入った音源が聴けない期間があった。正確に言えば、仕事としてなら聴けるけど、自分から進んで聴く気分にはなかなかなれなかった。「やっぱりいいなあ、トムのドラムは」と思いながら聴けるようになったのは、ようやくここ2、3年のこと。

もうひとつ、最近、ちょっとした巡り合わせもあった。ウェブメディアMikikiの依頼で、ユニバーサルミュージックから再発されるロックCDについてタワーレコード新宿店のスタッフさんに鼎談してもらう企画の進行と構成を何度かやったのだが、副店長の村越さんがNRBQの大ファンだった。

何度目かの鼎談のとき、ちょうど1978年のアルバム『At Yankee Stadium』がラインナップに入っていて、当然、村越さんはそれを大推薦した。その話のなかで「友達から勧められて(NRBQを)知りました」というくだりがあった。まあ、音楽好きの人生にはそういうことは結構あるよね。

ところが、その「友達」と、ぼくはほどなくして仕事をすることになった。フリーボのファースト・アルバム『すきまから』(1996年)をアナログLPでリイシューするにあたって、ライナーノーツに収録するためにインタビューをしたギタリストの石垣窓さんが、まさにその人だったのだ。

年が明けて、円盤の田口史人さんから『すきまから』の完成品が送られてきた。ライナーノーツは、ぼくの担当したインタビュー、田口さんの解説を合わせて2万字をはるかに超えるボリュームになっていた。アルバムが出た当時の写真も何枚か掲載されていた。そこに1枚、小さくだけどすぐにわかる顔が写っていた。トムだった。一緒に写っているのは当時のドラマーだった廣瀬方人さんかな。1996年はNRBQが初来日を果たした年でもあった。終演後にフロアに出てきたトムとドラマー同士で撮った写真なんだろうな。

つい数日前、その廣瀬さんからDMが届いた。「NRBQのライブなどでお会いしてるかもしれません」と書いてあった。初対面だったけど、あの1996年の渋谷O-WESTに廣瀬さんがいたし、ぼくがいたことは間違いない。石垣さんだっていただろうし、村越さんだっていただろう。

そんなこともあって、最近またNRBQのことを考えていた。

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