じぶんがたり。

自分の感情を言語化するのは難しいのか。
僕は、わりかしできる方だと思う。
ただ、そこに並べた言葉の数々は、僕の口から出た瞬間に嘘になってしまう。

嘘になるというか、カッコつけた言葉になる。自分の感情のままに喋っていると、最初は素直だけれど、途中から「この相手に印象良く思われたい。」「整列したきちんとした文章を話したい。」「ホントの感情じゃないほうが前段の主張と合うのではないか。」と、もう一人の自分が揶揄しながら横槍をいれてくる。その結果、本来の心の中とは全く別ものの言葉が、僕の意志としてこの世界に放たれる。

他人に対しては勿論のこと、自分自身にも天邪鬼なのだ。

他人と何か話すときは、めちゃくちゃ頭の中で話を繰るし、一言一句間違えたくない。それが当たり前だという人もいるだろうが、いかんせん友達も仲間も恋人も僕にはいないので確認のしようがない。だから夜な夜な一人で悶々としている。

僕は理性が働く方だと思う。怒りで破壊衝動に駆られむちゃくちゃに暴れたくても、10分後後悔するようなことはしたくないと思ってしまうと何もできず、怒りを抱えたまま過ごしてしまう。そして、たまに暴挙に出てしまう。それは、人間関係の精算だ。すべての人間関係をシャットアウトし、誰も何もかも周りから無くしてしまう。

あれだけ同期の仲間達と楽しくやっていた落研を、一年弱で前触れを感じさせずいきなり辞めた。いきなり辞めたといっても、計画的に退部届を書き、計画的に部室に置き、そこから一切連絡を取らないという義理人情の欠片もない極悪非道の辞め方でだが。

落研から逃げてからは散々だった。それまで落研のために大学に行っていたようなもので単位も一年の後期は二桁あるかないかだった。そんなやつがいきなり勉学一本に集中するには無理があったし、何の因果か元同期とたまたま同じクラスになった。気まずいにもほどがある。一年で落とした言語の再履修も忘れ、次のステップに進んだ中国語はさっぱりわからず、人前で発言することも出来なくなっていった。実家からも成績が悪かったことで怒られ、携帯の電源を切るという思春期の荒業を大学生になってもなおやっていた。

どこにも居場所はなくなった。

徐々に学校へ行かなくなり、引きこもるようになった。朝の授業に寝坊し罪悪感を感じながら昼食を食べ、しんどい授業には理由をつけて休み、その日の授業が全て終わる時間になると、他の学生が1日を終えたという事実を自分にも当てはめ、それまで苛まれていた罪悪感から開放され夕食の準備をする。そして、自分が何回欠席したかのメモをつける。週に2コマだった自主休校が、3になり4になり6になり12になっていった。そしてすべての授業の欠席が5回を超え、どの授業も単位を落とすことが決まった7月初旬。僕は完全なる親不孝者になった。

夏休みに入った頃、母親に無理矢理連れて帰らされ、実家に一時戻ることになった。そこで辛かったのは、まざまざと「生活」を見せつけられたことだった。父は仕事、母は仕事しながら家事、妹は学校で部活や勉強。僕はただ家に居て、寝てご飯を食べるだけの木偶の坊。これで無下に扱われるのなら多少気は楽なのだが、ただただ優しく接してくれる。それが歯痒く、惨めで虚しくて仕方なかった。

そんな過去から約2年が経つ。その間にも、逃げの休学とバイトからの逃げ、逃げの復学を果たし、もう一度2年生としてキャンパスライフをやり直すこととなった。コロナによるオンライン授業に心底救われ、大学へ行くことの恐怖心は少しずつ薄まっていった。

そして今年度、キャンパス移動になり元同級生と顔を合わせる機会が増えてきた。向こうは覚えていないかもしれないが、見かけるだけでいまだに恐怖心と情けなさが襲ってくる。元同級生の落研部員を見かけたときには、それはもう動悸も激しくなるし、より一層隠れるし、話しかけられたときに至っては、無視して通り過ぎるので精一杯だった。

未練はない。ただ、執着はものすごくしている。連絡先を消して、SNSもブロックして、身の回りから存在を消したのに、気になって気になって仕方なくて、その人たちの投稿を見ては腹を立てて、なんとか「こんな奴らと今も一緒にいなくてよかった。」と無理矢理にでも言い聞かせる。そうしなければ精神を保てないからだ。

あと実質半年過ぎれば、もう怯えることも逃げ隠れすることもないのかと思うと待ち遠しく感じる。その一方で、きちんと話したいという気持ちも芽生えている。だけど、今更会って何を話せばいいのか。身勝手ながら、ここまでの約2年を全て話したい気持ちはある。けれど、向こうとしては話されたところでだろうし、向こうの約2年はあの楽しかった頃を思い出しそうで聞きたくない。

もしも、この面会が実現したとき、僕はこの文章の冒頭のようになるだろう。並べた言葉の数々が嘘にならない方法はあるのだろうか。


(※この文章は、何度も何度も加筆修正を繰り返したため、本音とは少しズレてしまっている可能性があります。ご了承ください。)