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ごるふ一徹、カノジョ一途、一時社会人⑪

6番ホール:ゴルフ部創設、こうなったらとことんやり抜け!②

翌日の定時後、田之倉、千夏そして由佳ちゃんと目黒ゴルフ練習場へ行った。
天野社長にお願いして3人はレンタルクラブを借りた。

オレ以外は、お試しレッスンだ。予め西垣プロには連絡しておいたので、簡単に自己紹介してからそれぞれレッスンを受けた。

皆真剣に西垣プロの言うことを一言一句逃すまいと言われたことを聞いていた。休憩しながら3人を見ていると、田之倉と千夏のスイングはスムーズに見えた。

千夏は運動神経が良さそうだから想像できるが、田之倉は想定外だ。由佳ちゃんはクラブに振られている感じで少し時間がかかりそうだ。

そしてオレは相変わらずハーフスイングの反復練習だ。
オレの順番になった時に、西垣プロにコンペのことを報告した。

「初めてのラウンドにしては上出来ですね。技術面に関して言えば、今のまま練習を続けてください。徐々にショットのバリエーションを増やしていきましょう。メンタル面は実際のラウンドで取り組むことが一番です。これも徐々にいきましょう。」

オレは一つ質問した。
「今度会社にゴルフ部ができました。企業対抗戦の選手4人に選ばれるには80で回れるようにならないといけないんですが、どのくらいかかるものですか?」

「沢田さん。目標を持つ事はとても大事な事です。目標が明確でないと、流されやすくなります。理解されていると思いますが、いきなりそこに到達するものではない。積み重ねの努力と失敗や成功を経験する事が必要です。」

オレが頷いて聞いていると西垣プロは続けた。
「沢田さんは目標に向かって努力するという事を苦にしない。どのスポーツにも共通しますが、私にはそれが大きな才能だと考えています。ゴルフだけでなく、野球でもバスケットでも。ちょっと話がそれましたが、答えは“分かりません”です。3ヶ月後かもしれないし、3年後かもしれない。焦りは何も生みませんよ。」

「すいません。つまらない事を聞いてしまいました。昨日ゴルフ部の集会があって、企業対抗戦にどうしても出場したくて。これまで通りできる事を精一杯やっていきます。」
全く何聞いてんだオレは。野球だって同じだろ、いきなり3割バッターになる訳じゃない!

レッスンが終わってから、4人で居酒屋に行った。
3人とも初めてのレッスンにまだ興奮していて、感じたことを次から次へと話す。
「ゴルフってやっぱり難しいわ!」
「止まっているボールなのに当たらないなんて癪に障るよね。」
「当たった時は気持ちいいよね。特にまっすぐ行った時は!」
「西垣プロって格好いいわよね!」などなど。

結論は、ゴルフは想像以上に面白いと言う事。そしてみんなでレッスンを受けようという事だった。みんな楽しそうで、オレまで嬉しくなってくる。

千夏が、「これからは行ける時は一緒に行きましょう。L I N Eで共有すればいいわね。
行ける人が掲載してその時一緒に行く人が書き込めばいいわ。それでグループ名は何にしようか?」
「児玉組4人の用心棒ってのはどう?」オレはなかなか渋い名前だと自己満足した。
「昭和クサ!大樹って古臭いとこあるのね。他には?」オレの提案は千夏に何事もなかったようにスルーされた。

「ビギナーズラックは?」田之倉の洒落た(?)提案にみんな賛成した。
「田之倉くん、センスあるわね!」由佳ちゃんの一言に、少なからずオレの心は傷ついた。
「ところでクラブはどうしうか?」千夏が聞いた。
「磯村さんの予定を聞いて、一緒に行ってもらおう!」田之倉もその気だ。
そう言えば、オレは部長にクラブをもらったけど、自分にあったものにしたほうがいいと部長は言ってたな。今度西垣プロに相談してみよう。

週末の定時後、磯村さんはオレら4人を渋谷駅近くのヨツギゴルフに連れて行ってくれた。
磯村さんは、柴田さんという店長と顔見知りで早速俺たちを紹介してくれた。

「それではまず女性向けのクラブをご案内しましょう。どうぞこちらへ。」
女性向けの売り場に行くまでに、クラブが所狭しとたくさん置いてあった。こんなにたくさんあったら、オレ達では何がいいのか選びようがない。

「お二人はこれからゴルフを始められると言うことなので、まずはハーフセットでいかがでしょう?種類はこの5種類になります。各メーカーで製品を出していますが、人気の
あるのはこの2種類ですね。どうぞ手にとって握ってみてください。
構えたときの第一印象がかなり重要です。構えて打ちやすそうに感じたら教えてください。できたら2本選んでください。その後、試打していただきますので。」

千夏と由佳ちゃんは遠慮しがちに、何本かクラブを握って感触を確かめた。
何度か握りを繰り返して、2人はクラブを2本選んだ。千夏と由佳ちゃんは違うクラブを選んでいた。
「それでは、次に男性のクラブを見て頂きましょう。」同じように田之倉も2本選んだ。
試打室では3人が順番に試打した。
由佳ちゃんと田之倉はすんなり決まったが、千夏は時間がかかった。

店長さん曰く、如月さんはヘッドスピードが速いので、男性用のシャフトで柔らかく軽いシャフトがいいと言うことらしい。千夏はヘッドスピードが速いと言われたことに喜んで、オレに自慢してた。まあ、速いに越した事はないが、それはつまりよく曲がるという事だ。それを言うと機嫌を損ねそうだったのでオレは黙っていた。

その後は、ゴルフバック、シューズを選んだ。こういう時女性は面倒だ。
デザインが“カワイイ”とか“ダサイ”とか“オシャレ”とか・・・。
帰りの道は、千夏と由佳ちゃんははしゃいでいた。田之倉は嬉しさを押し殺しているようだった。これで全員戦闘体制が整って、とことんやるだけだ!

週末の土曜日、オレは練習場にいた西垣プロに自分のクラブの事を、相談してみた。

西垣プロは、「そうですね。今使っているクラブは上司の方からいただいたものですよね。」
「ええ、そうです。上司からも自分にあったクラブにしたほうがいいと言われました。果たしてあっているのかどうか分からなくて。」
「沢田さんのヘッドスピードやスイングリズムを見る限り、今のクラブでは少し物足りないでしょうね。ヘッドスピードは50m/s前後あると思いますよ。成人男性の平均は40m/s前後ですから、かなり速いです。」

「物足りないってどういう意味ですか?」
「それは、沢田さんにとってシャフトが柔らかく、捻れの強度が足りない。つまりインパクトでヘッドが真っ直ぐ当たりにくくなるということですね。
まずシャフトですが、一般に硬い順にX、S、S Rとあります。今のシャフトはSですので、Xにしてもいいと思います。それから“捩れ”ですが、トルクという単位で表現されます。数値が小さいほど捻れにくくなります。」

「クラブといっても色々な組み合わせがあるんですね。要は変えたほうがいいと言う事ですね。」
「ええ、そうですね。今のクラブをこのまま使うこともありますが、沢田さんの目指す
ところを考えると、変えた方が良いと思います。沢田さんにあったクラブを使うことに
よって、飛距離、方向性、安定性などより良くなると思います。」
「そうですか。わかりました。どうすればいいですかね?この間、ヨツギゴルフに彼らのクラブを買いに行きましたけど、僕もみてもらったほうがいいですよね?」

「もし良ければ、私の知っているクラブ工房がありますので、紹介しましょうか。個人でやっている店ですが、腕は間違いないです。」
「クラブ工房ですか?」
「はい。個人の工房では、自分でヘッドを設計したりシャフトを作ったりしています。
メーカーで作っているものを組み合わせてお客さんにあったクラブを提案しているんです。私の知っている工房の西本さんは、自分でヘッドのデザインをしています。とても勉強家で私も信頼して、このクラブも作ってもらいました。」そう言って手にしていたクラブを
見せてくれた。“Z O N E”と刻印されている。即座に西垣プロにお願いすることにした。

西垣プロはその場で西本さんに電話をして予定を確認してくれた。

「それでは、今度の土曜日レッスンが終わった後で行きましょう。私も一緒に行きますよ。」
「有り難うございます。よろしくお願いします。」

早速翌日、部長にクラブの事を話した。どうやら部長も西垣プロと同じように考えていたようだ。部長とオレとではヘッドスピードが全然違うらしい。

土曜日の午後、西本ゴルフ工房のある神奈川県の平塚に西垣プロとは別々に向かった。
道路はさほど混雑しておらず、スムーズに行くことができた。少しすると西垣プロも到着して、お店に入ると西本さんが待っていてくれた。
お店の入り口は狭く、室内もそんなに広くはなかったがクラブはたくさん置いてある。
西垣プロが西本さんに事情を説明し、7番アイアンを5本選んで奥にある試打室に案内してくれた。
試打室に入るとディスプレイや装置、スイングを撮影するカメラも3台置いてあった。
ヘッドスピードなどを計測したり、ボールの弾道をディスプレイに表示できるものらしい。

10球くらい練習してからクラブを順次試した。フルスイングで5球づつ試打した。
この中で良い感触のクラブを2本選んだところで、装置の数値や弾道を見て、西本さんが更に2本持ってきた。

「今度はこの2本も加えて打ってみてください。」
先ほどの2本と追加の2本をまた5球づつ打った。更にその中から2本選んだ。
「感触はどうですか?」
「この2本は気持ちよく触れます。ただちょっと軽く感じます。」
「数値を見る限りは、距離や弾道も安定しています。2本ともさほど差はありません。
軽く感じるということなので、ちょっと変えてみましょう。」

ヘッドは同じだがシャフトを変えて再度打った。
「重さの違和感は無くなりました。数値はどうですか?」
「先ほどよりも若干ですがいいですね。安定してます。ただ、先ほどもそうですが、
インパクト時点のマットとの接着具合が少しトゥー側によっているので、ライ角を1度
くらい立たせましょう。それと沢田さんは身長もあるので、シャフトも0.25インチは
長くしてもいいですね。いかがですか?西垣さん」

「いいんじゃないですか。今のクラブよりもかなり打ちやすくなると思いますよ。」
西本さんはノートに何やらメモをしてから、次はドライバーを試打することになった。
ドライバーはヘッド形状の違うものを3種持ってきた。

アイアンと同じ要領で、ドライバーを選んでいった。選ぶと言うよりも作り上げるような感覚だ。
「ヘッドスピードは平均して51m/sですね。距離も290ヤード出てます。やっぱり
野球をしていた人は、クラブの振り方を知ってますね。まあ沢田さんだからというのも
ありますが。振りこんでいけばさらに伸びるでしょう。」

やっぱりオレのヘッドスピードはかなり速いらしい。という事はよく曲がるという事だ。

クラブは大手メーカーの名前くらいしか知らなかったので任せていたが、結果的に西本さんが作っているクラブを選んでいた。
“Z O N E”というクラブで、マッスルバックのヘッドの顔つきはシャープで、打感も吸い付くような柔らかい感触はとても打ちやすかった。マッスルバックにもかかわらず、独特な形状はキャビティーと同じ効果を得られるらしい。
シャフトは“X”。これで自分専用のクラブを手に入れた。
西本さんの話だと、クラブを作るのに2週間かかるらしい。出来上がってくるのが待ち
遠しい。

オレは西本さんと西垣プロにお礼を言って店を出た。16時を既に回っていた。
結局100球以上ボールを打った。クラブを作るのも大変な作業だ。

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