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ごるふ一徹、カノジョ一途、一時社会人【30】

15番ホール:榊原さん!

翌日、天地会長からやっと連絡があった。

図書館だけでなく公園やアスレチックジムなど構想が膨らんだ分、自治体や関係官庁への根回しをする時間が必要だということで、今日まで掛かってしまったようだ。

最初は瑞希さんからの電話だった。

「ご無沙汰しております。天地です」例のこともあって、必要以上に意識してしまう。
「こちらこそ、ご連絡お待ちしてました」
「少々お待ちください。会長に代わります」
よそよそしさを感じるのは気のせいだろうか。

「おう、沢田ちゃん、元気かあ?」相変わらず、元気一杯のおじいちゃんだ。
「はい、お陰様で。会長もお元気そうで何よりです」

「当たり前だ。ところで時間は掛かっちまったが、大体関係する人間と話ができてな、金は別にして検討を進めることになったぜ」
「そうですか。お疲れ様でした。そして有難うございます」
「何言ってる。これは俺と沢田ちゃんの夢を実現するためだよ。大変なのはこれからだ。頼んだぜ、沢田ちゃん」

会長は“俺と沢田ちゃんの夢”と言った。いつの間にか俺の“夢”になっているのは考えすぎだろうか。
それでも気持ちを共有するのは大事だ。

来週伺う予定を確認し、天地コーポレーション、地元自治体、観光協会、商工会議所など挨拶回りをすることになった。それとは別に前回行けなかった仙台支店に挨拶に行くことになっている。
今回は1泊2日の予定で、榊原さんと設計の太田主任との出張になる。

太田さんは榊原さんと何度も一緒に仕事をしていて、信頼できると榊原さんから聞いていたので安心だ。

この時期、青葉通りのけやき並木はとても緑が鮮やかで綺麗だろう。
それに東京と違って人の流れがゆったりしている。そんな所を千夏と歩いてみたいものだ。

早速、榊原さんに今の話を伝えた。新幹線と宿泊場所の予約をするよう指示された。
夜はおそらく食事を取るだろうということで、接待費の申請をしておくよう言われた。
天地さんとの会話はテンポが良くて飽きない。榊原さんがいれば話は盛り上がるだろう。

榊原さんと俺は、天地さんとの打ち合わせに備えて資料の準備やプロジェクトメンバーとの調整や対応に追われた。少しでも効率よく進めるために、天地さんの要望をできるだけ形にして打ち合わせに臨みたいとの考えだ。
当たり前だが先輩社員が積極的且つ協力的に動いてくれた。
なぜか一色食品の時とは少し違う感じがした。

ひとつ分かった事は、この案件が単なる一建築ではなく公園やアスレチックジム、
連絡道路など多岐にわたる当社では大規模総合案件であるという点に先輩方が興味を持っている事だ。
当然受注額も大きくなるし、やり甲斐が大きいのも当然の話だ。そんな期待を感じながら、先輩社員の皆さんにも喜んでもらえるようしなければならない。

金曜日には、なんとか資料も形を整え打ち合わせに臨めそうだ。
榊原さんと持参する資料の最終確認が終わったのは、既に21時を回っていた。
珍しく榊原さんが食事に行こうと誘ってくれた。俺は断る理由も無いので、喜んであとをついて行った。
連れて行かれたのは、道玄坂から路地に入った小さな居酒屋だった。

「いらっしゃい!お二人様ですか?」元気な店員が出迎え、カウンターに案内してくれた。
「バラちゃん、久しぶりだね。今日は彼氏と一緒かい?」大将らしきおっちゃんが声をかけてきた。
それにしても“バラちゃん”とは・・。

「もう、マスターったら。からかわないでよ。会社の後輩よ」笑って答えた。
「榊原さんてここでは、“バラちゃん”って呼ばれてるんですか?」
「ええ、そうよ。サカキバラのバラを取ってバラちゃん」
「よくここに来るんですか?」どうもイメージできない俺は訊ねた。
「時々ね。こういう雰囲気好きなのよね」全くイメージできない。

「そうなんですか。僕のイメージではちょっと違うものだったので」
「何それ、どんなイメージなのよ?」
「おしゃれなイタリアンって感じでしょうか」
「面白いこと言うわね、沢田ちゃん!」
「やめてくださいよ、その呼び方。天地会長を思い出します」
「いいじゃない。気に入ったわ。これから沢田ちゃんって呼ぶからね!」
どうも子供扱いされているような気がしてならない。

「ところでどうなのよ、彼女は?その後の報告がないじゃない。まあ大体分かるけど」
そういうば、いろいろありすぎてすっかり忘れてた。
「すいません。きちんと報告していませんでした。お陰様で自分の気持ちをはっきり伝えたら許してくれました。やっぱり、天地会長と瑞希さんが原因でした」

「そう、良かったじゃない。でもやっぱり天地さんとお孫さんなのね?」
「あの時別件でイライラしてたようでしたが、会長と瑞希さんです。今度の出張が正直怖いです。
瑞希さんは綺麗な方ですが、顔合わせたくないです」
「何言ってんのよ。私としては、沢田ちゃんとお孫さんが結婚して、会長がご祝儀でうちに注文くれたら万々歳なんだけどなあ」
「なんてこと言うんですか!想像しただけで、千夏に殺されます」
「へえ〜、千夏って呼び捨てで呼ぶんだ」完全に榊原女史のペースだ。

「沢田ちゃん、ホントに女心に鈍感だからな〜。ねえマスター?」
「バラちゃん、あんまり純情な青年をからかっちゃダメだよ!」
「野球はプロ並み、ゴルフはセミプロ、仕事は将来有望、女はど素人、それがこの男なのよ。いい男なんだけどね〜」
マスターはからかわれている俺をみて笑っている。

「そう言えば、榊原さん。彼氏はいないんですか?」
俺もど真ん中のストレートで勝負だ。

「あれ〜、そこ聞く?乙女に聞いちゃうのね」酒のせいか、乙女心か頬が赤くなった。
「はい、前から聞いてみたいと思っていたので」
「だから沢田ちゃんはダメなのよ。乙女心を全然分かっていない」

どうも会社にいるときの榊原さんから、どんどんかけ離れていくようだ。
まだそんなに飲んでいないと思うが。

「そうでしょうか?」
「“そうでしょうか“じゃないわよ。そうなのよ。三十になろうかという女性がよ、男の一人もいないって寂しいものよ。もう少し会社も考えて欲しいものだわ」

どうもよく分からなくなった。彼氏がいないのは会社の責任なんだろうか。

「大丈夫ですよ。自分も22年間彼女いなかったんですから。最近ですよ、女性から振り向かれるようになったのは」
「沢田ちゃんの話はどうでもいいのよ」
今気が付いたが生ビールの後、既に2杯目の濃い目のサワーも空でかなりのハイペースだ。
そう言えば榊原さんてお酒好きだけど弱いんじゃなかったっけ?そう考えている側から3杯目を注文している。

「でも榊原さん綺麗だし、仕事もできるし、男がほっとかないんじゃないですか?」
キッと俺を睨めつけた。
「じゃあ沢田ちゃん、私のこともらってくれるの?」
「えっ!!いや、そう意味じゃなくて・・・。」
いかん!地雷を踏んでしまったかも。

「じゃあ、どういう意味よ?どうせ千夏のほうがいいんでしょ。若い方が!?」
いきなりトマホークが飛んできた。

「いえ、若いとかそういう事じゃなくて、何ていうか相性というか・・」
こういうときは人生経験豊富なマスターを見て心の中で助けを求めた。
マスターは急に忙しそうにして、店の奥に行ってしまった。なんと非情なマスターだ。

「会社でも榊原さんのファンクラブがあるって、田之倉が言ってましたけど」
ファンがいる事は聞いていたので、少し盛って元気付けた。

「そんなの聞いた事ないわね。ホントなの?」
「本当ですよ。ですから自信持っていいですよ。榊原さんなら大丈夫です、僕が太鼓判を押します!」
「沢田ちゃんにハンコ押してもらってもねえ」
ああ言えばこういうで、どついてやりたくなってきた。

「それで、お孫さんから言い寄られたらどうすんのよ?」
今度はインハイのブラッシュボールだ。ここはのけぞらずにボールを見極めよう。

「僕は千夏一筋でいきますので、お断りします」
「へえ〜格好いいじゃない。でもできないでしょ」あっさりデッドボールで退場だ。
「そんな事ありません。きっぱりいいます」
といいながら、そんなことになったらどうしようかと心配になった。

「ゴトン!」いきなり音がして横を見たら、榊原さんが机に頭をつけて動かない。
そこにマスターがやっと来た。
「バラちゃん、寝ちゃった?」やけに落ち着いている。

「そのようです。いつものことですか?」
「そんなことないよ、久しぶりかな。ここまで酔っちゃうの。だいぶ疲れてたんじゃないの」
30分ほどマスターや店員と話しながら飲んだ。榊原さんの肩を揺らしてみたが反応がない。そろそろ11時になる。終電も気になるし、どうしようかと思案した。

突然重大な事実に気づいた。俺は榊原さんがどこに住んでるのか知らない。
もう一度肩を揺すって呼びかけたが、ダメだった。もし起きなければ、俺の家に連れ帰えるしかないか。いや、先輩の醜態を親に見せるわけにはいかない。
ふと千夏の顔が浮かび、電話をした。

頼むから出てくれと祈った。
「もしもし、どうしたの?」良かった、出てくれた。
ことの次第を説明し、自宅を知らないか聞いた。

「知ってるわよ。一度遊びに行ったことがあるから」おお、神様、仏様、女神様!
「自宅どこ?」
「横浜よ。タクシーだと1万円以上かかるわよ。」それは大きな出費になる。
「いいわ、車で迎えに行ってあげる。30分くらいで着くと思うから待ってて。近くに行ったら電話するから」

電話を切った後、こんな時間に来てもらって良かったんだろうかと自問した。
が、それしかないと思い、締めのラーメンを注文した。
30分たたないうちに電話があり、道玄坂の信号で待っているよう伝えた。

俺は相変わらず寝込んでいる榊原さんをなんとか立たせ、店を出た。
足が道路に触れているのか分からないくらい重かった。すれ違う人の視線を感じて恥ずかしくなった。
千夏が愛車ホンダのN―O N Eの横で手を振っているのが見えた。
駆け寄ってきて、両脇から抱えた。後部座席に乗せ終えると、汗でびっしょりになっているのに気付いた。

「来てくれてほんと助かったよ。サンキュー!」
「どうしたの、こんなになるまで飲んで。まさか大樹が飲ませたんじゃないでしょうね!」
「俺はそんなことしないし、気付いたらテーブルにおでこをつけて寝てた」
「最近、二人とも仕事で結構遅くまでやってたから、相当疲れが溜まってたんじゃない」
「まあそれなりに疲れてるかも」
「大樹は平気よ。体しか取り得ないんだから」
どうもさっきから怒られているような気がする。

途中コンビニに寄って、缶コーヒーを買った。もちろん、千夏の分もだ。
「寝ててもいいわよ」

冷たい感じの言い方で言われた俺は、
「俺は大丈夫。だいぶ酔いも冷めてきたから」
ここでおやすみと言ったら、おそらく途中下車となるだろう。

眠気と戦っているところで、榊原さんの自宅についた。思ったより立派なマンションだ。
榊原さんも少し意識を取り戻しつつあったが、二人で両脇を抱え千夏が鍵をバックから取り出しエレベーターで5階にあがった。

榊原さんは今になって千夏がいることに気づき、
俺に向かって「沢田ちゃん、羨ましいわ!」と言われた時は、小便をちびりそうになった。

まだ、バルカン砲を打ち続けている。千夏の方は見ないようにしたので、表情は分からなかったし想像もしたくなかった。

部屋の前に着くと榊原さんはもう大丈夫というものの、心配した千夏は部屋の中に一緒に入っていた。

もちろん、俺は外で待たされた。待たされる時間とは長く感じるものだ。
15分ほどではあったが、同じフロアーに住んでると思われる女性が脇を通り過ぎた時には不審者と思われたくなかったので軽く会釈したが無視され、痴話喧嘩で外に追い出された男のような気持ちになった。

やっと千夏が出てくると、
「まったく何やってんだか?」開口一番、今度は千夏から睨まれた。
「榊原さん、大丈夫そう?」
「お水飲ませて、着替えだけしてベッドに寝かしてきた。明日はお休みだし大丈夫でしょ」

俺と千夏は、愛車N―O N Eに乗り込んだ。俺は、タクシーで帰るからと言ったが、黙って乗れと言われ仕方なく従った。

「ホント助かったよ。起きないからどうーしようかと思ってさ。千夏が来てくれて助かった」
「二人で何話してたの?」
「何って、来週の天地さんの図書館の件とか、一色食品のこととかもろもろ・・」
「ふーん。榊原さん、随分ご機嫌だったわよ」
「ご機嫌でよかったけど、なんか言ってたかあ?」俺は恐る恐る聞いた。

「大樹のこと、いい男よねえとか大事にしなさいよとか言われた」
榊原さんには困ったもんだ。仕事ではとても頼りになるのに・・・。
おそらく千夏は、榊原さんが俺たち二人の関係を知っていることに気がついているに違いない。

「実はこの間、千夏のこと相談した」俺は嫌われたくない一心で、榊原さんにどうすればいいのかアドバイスを求めたことを千夏に話した。

「まったく、そういう事は事前にちゃんと言っといてくれないと困るのよ。
相手によったら接し方を考えなくちゃいけないでしょ」
「そう言えば田之倉にも話した」
「それは知ってるわよ。由佳ちゃんから聞いたから」

どうも田之倉と由佳ちゃんはいいらしい。まあ、俺も構わないが・・。
その辺の線引きは千夏の頭にあるようだが、俺の頭の中は線を引いてなかった。
俺は自宅まで送ると言い張る千夏に道順を教えた。

「明日、10時に迎えに行くから」俺は沈黙に耐えられず、未来の話をした。
「分かってる、明日ご馳走してくれるのよね?」
「なんでもいいよ。千夏の食べたいものご馳走するよ」
「それを聞いて安心したわ。高級なものなら何でもいいけどね!」

やっぱり千夏は遠慮のない贅沢な大食い女子だ。自宅近くの大通りに来たところで車を止めた。
家の近くまで行くと一方通行もあって帰りが面倒だ。

「今日はありがとうな。家着いたらL I N E入れろよ、心配だから」
「あら優しいのね。ありがと。じゃあおやすみ」やっと千夏の笑顔を見れた。

翌日は約束通り10時に千夏を迎えに行った。
表に千夏はいなかったので、仕方なく玄関まで行き呼び鈴を押した。
玄関のドアが開き出てきたのは、千夏のお母さんだった。

「沢田さん、ごめんなさいね。まだ準備できてないみたいなのよ。上がってお茶でも飲んでって」
遠慮はしたものの、強制的に連れて行かれた。

リビングに通され、ソファーに座った俺にお母さんがコーヒーを入れてくれた。
インスタントしか飲んだ事はないが高級ブランドである事はわかった。キリマンだかブルマンか知らないが、香りを楽しんでいる時にドアが開いた。

「おはよう!沢田さん」玲奈ちゃんと彩佳ちゃんだった。どうもここに来ると二人を顔を合わせるというか、
この二人に監視されているような気がしたならない。

「やあ、おはよう。今日も朝から元気だね?」
「お陰様で。沢田さんは今日も千夏姉とデートなの?」
自分でデートと言っておきながら、デートだってえなどとキャッキャ喜んでいる。

「そうだよ。デ・イ・ト」
「いいなあ〜。ねえ、どこ行くの?」ちょっとからかいたくなった俺は、
「今日はね、ゴルフ練習行って、ランチして、夕方海を見ながら愛の告白・・・」
「きゃーマジでー。格好良すぎ。チョー素敵!!」二人が喜んでる、喜んでる。

「千夏姉は“愛の告白”は知ってるの?」
「知ってるわけないでしょ。サプライズだよ。ハハ・・。」
二人が最高潮に達した時、千夏とお母さんががやっときた。

「ごめんねえ。待たせちゃって!」
「千夏姉、ダメだよ。こんないい男を待たせちゃ。告ってもらえないよ!?」
「告る?? 何言ってんのよ、あんたたち!また変なこと言ったんでしょ。」
二人は楽しそうに部屋を飛び出して行った。若いというのは羨ましい。

「大樹、変な事言われなかった?」俺は楽しいひと時を過ごせて満足と回答したが、“告る”話はしなかった。
俺は千夏を駒沢公園近くの、駒沢ゴルフガーデンに連れて行った。
いつもの練習場ではデートには寂しいので、芸能人も出入りしているという
200打席、奥行き250ヤードを誇る大型高級練習場だ。

ゴルフ場のような品格あるロビーやフロント。受け付けを済ませ2回の打席に向かった。2階から見えるグリーンや人工芝は、鮮やかな緑が映え距離表示の白い看板がくっきり浮かびあっがている。
更に各打席には、ヘッドスピードや距離、弾道まで測定できる装置が設置されている。四ツ木ゴルフに設置されているものと同じだ。

「ねえ、見た?あそこにいるのイケメン俳優の大河内俊也じゃない。」
「本当だ。やっぱりオーラあるなあ」
確かにスタイルはいいしイケメンには違いないが、俺と大して変わらないだろう。

「あ、こっち見た。もしかして私に気があるかも」
「それはないと思うよ。大体俺がいるんだから、無視しとけばいいだろ!」
「あれえ〜、もしかして妬いてる!?そもそも大樹にそんな事言う資格はないよね」
まだ瑞希さんのことを引きずってるんじゃないだろうな。

「ハイハイ、練習始めよ〜ねえ〜」
これだけの広さのある所で練習するのはあまり経験がない。
知らず知らずのうちに力も入ってしまうようで、千夏はダフるはトップするわでまともな打球はほとんど無い。

「千夏さん、もっと力を抜いてリラックスしないとダメですよ!」
「だって、飛距離が分かるから気になるじゃない。飛ばしたくなるでしょ!」
「気持ちは分かるけどね、ボールに当たらないんじゃ意味ないよ。リラックス、リラックス」
二人で約500球打って、俺も千夏もヘトヘトだ。最近、少し運動不足のせいか。

「ああ〜、お腹減った。肉、にくう〜!!」

昼間っから“肉”とは、よく食べるお嬢様だ。
こいつなら1kgはいくかもと思い、焼肉食べ放題の名店“暴れ牛”に連れて行った。
カルビー、タン、カルビー、ロース、カルビー、タン、ハラミ・・・・。

止まることを知らないタブレット操作、千夏の胃袋は俺のサイズとほぼ同等かそれ以上だ。
まあ、寝る子と食べる子はよく育つと言うから、千夏はまだまだ成長するかもしれない。

お腹も満たされ、八王子にあるアウトレットに行くことにした。
広さは御殿場に比べたら狭いが、2階建ての施設も多くコンパクトな作りになっていてお店も多数入っている。
何よりアデダスやターラーメードなど海外のゴルフメーカーが数多くあり、ゴルファーも十分楽しめる。

今まで俺の中で服といえば、スポーツウェアとかトレーニングウェアがメインだった。ゴルフを始めてからはポロシャツを買ったくらいだ。

千夏に連れられ、アデダスのお店に入った。お揃いのウェアをどうしても買いたいと言うので付き合ったが、なかなか決まらない。
俺はチェックの黄色主体の明るいウェアでいいのではとは思うものの、千夏は納得してくれない。


候補の一つとして次のお店に行くと言い出した。
仕方なくターラーメードに行き、更にキョロウェアに行った。
結局、アデダスに戻り最初のチェックのウェアを買った。

どうして女性はこう買い物に時間がかかるのか。その疑問を千夏にぶつけようと考えたが、千夏の笑顔をみたらその気も無くなってしまった。

しかし、買い物に3時間も4時間もかける女性の心理は理解できない。
来週榊原さんにまたアドバイスをもらうことにして自分で納得した。

晩飯を食べて行こうと誘ったが、夜用事があるとかで帰ることにした。
帰りは高速道路も渋滞が予想されたので、下道で帰ることにした。
それなりに混んでいたが2時間ほどで7時過ぎに千夏の自宅についた。

千夏の家に着くと玄関先で玲奈ちゃんと彩佳ちゃんが待っていた。
「おかえり!待ってたよ」次は何を言われるのかとドキドキだ。
「お母さんが沢田さんも連れてきなさいって。早く降りてこっちこっち」

俺は何事か分からず千夏を見たが、ニコニコしてるだけだった。
仕方なく、3人の後に続いて、家に上がった。キッチンでは千夏のお母さんが食事の用意していた。

「沢田さん、お疲れさま。今日ねえ、千夏の父親が夜遅くなるって連絡があって帰ってこないから、一緒にご飯食べって」
いくら何でもと思ったが、女4人から強制的にテーブルに座らせた。

「千夏さん、今日用事があるって言ってなかったけ?」
「そうよ、大樹と晩ご飯食べなきゃいけないから」
千夏にハメられた・・。

千夏が食事の用意を手伝っていると、お茶を飲んでいる俺に玲奈ちゃんと
彩佳ちゃんが嬉しそうに寄ってきた。

「大樹くん、告った??」二人からの呼び方が“大樹くん”に変わっている。
「今日はやめたよ。やっぱり暗くなってからじゃないと、ワクワクしないだろう!」
「わあーお、ロマンチック、残念!!」やっぱりこの二人のリアクションは飽きない。

「玲奈ちゃんと彩佳ちゃんは、どんな時に告白して欲しい?」
「ええ〜!私は満月の夜の海がいい。」

玲奈ちゃんが言うとすかさず、彩佳ちゃんが
「私は夜の遊園地で観覧車に乗ってる時がいい!」なるほど参考になる。いいことを聞いた。

「だろ!二人ともやっぱり夜がいいだろう!!」
女の人に囲まれての食事はこれまで経験したことがないほど、賑やかな食事となった。

うちでは男4人と女1人だから、お袋一人がいつも喋っていた。さすがの千夏も
玲奈ちゃんや彩佳ちゃんがいると大人しく見える。

「沢田さん、ゴルフは面白いですか?」千夏のお母さんが俺に聞いた。
「ええ、まだ始めたばかりですが、楽しくなってきた所です」
「大樹はね、会社は始めたばかりだけどすっごく上手なのよ。部長も褒めてたくらい」
「野球もやってらしたから、ゴルフも上手なのね」
「僕なんてまだまだです。会社には上手な人たくさんいます」

「へえ〜、大樹くんゴルフ上手なんだ。私もやりたいな!ね、彩佳!!」
「私も!今度教えて!」玲奈と彩佳はホント仲がいいが、ほとんど初対面の俺に遠慮がない。この辺は千夏とも性格は似ているようだ。

「大樹はね、大きい仕事抱えて忙しいのよ。あんたたちと遊んでる暇はないの!」
俺の代わりに答えた千夏に感謝だが、目がちょっとマジだ。

「玲奈ちゃん、彩佳ちゃん、早く彼氏作って連れてってもらいなよ」
俺からそう言われて二人とも残念そうだったが、早くも次の話題に食いつき立ち直りが早い。

楽しい食事も終わり、ケーキまでご馳走になった。既に10時を回って、俺は失礼することにした。
千夏以外は玄関でお別れし、千夏は車のところまで見送ってくれた。

「今日はありがとうね。お母さんもすっごく喜んでくれた」
「びっくりしたよ。いきなり夕食なんて言い出すから」
「お父さんの分が余っちゃうから、大樹に食べてもらおうってお母さんが言ってくれてね。私もそのほうが楽しいし、ごめんね」
「おやすみのキスでもしたいけど、玲奈ちゃんと彩佳ちゃんがみてるから帰るわ」

千夏は後ろを振り向き、玄関ドアの脇から覗いていた二人を睨みつけた。
おそらく、二人ともチョービビっていることだろう。二人の顔が思い浮かぶ。
「今日はありがと。気をつけて帰ってね」

もっと千夏と話をしていたかったが、如月邸を後にした。

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