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ごるふ一徹、カノジョ一途、一時社会人【21】

翌日、会社に出勤するとエレベーター前で千夏と由佳ちゃんに会った。

「おはよう!」千夏が朝から元気に挨拶してきた。
「おはよう。朝からテンション高いね。」
「千夏ちゃんはいつも元気よね。」由佳ちゃんが笑いながら言った。

「ゴルフの試合、地区決勝進出したんですってね。沢田くん、あいからず凄いね!」
「由佳ちゃん、ありがとう。、まあ部長のお陰だけどね」
「会社の代表も沢田くんが選ばれると良いね」

「無理無理、大樹はまだまだ未熟者だからね」千夏の一言は相変わらずだ。
「ほっとけ。そんなの自分が一番よく知っているよ」

やっとエレベーターがきて、待っていた人たちが乗り込んだ。12人乗りにほとんど満員状態になり、喋りたそうな千夏も私語を慎んだ。そのまま各自自分のオフィスに向かった。

既に榊原さんも既に来ていて、早速昨日の試合のことを聞いてきた。
オレは部長のお陰で地区決勝進出を果たしたこと、そして一色食品のことを報告した。

「部長から一色さんに連絡をとって、挨拶に伺うよう指示されました」
「その取締役の一色さんは、社長の親族である可能性が高いのよね」

榊原さんは少し考えた後、
「沢田くん、早速今日連絡を取ってみて。昨日のお礼と改めてご挨拶に伺いたいということでね。
その時には、うちの会社のパンフレットで説明してきなさい。
ただし、あくまで挨拶ということでね。仕事をもらおうとか考えちゃダメよ」
「分かりました。すぐにアポとります」

「もしゴルフの話になったら、一色さんたちとゴルフの約束してきて良いから」
「もしそうなったらの話ですが、こちらは部長をお連れすると言うことで良いですかね?」
「ええ、それで良いわ。先方のメンバーによって考えるけど、ほぼ対等な地位の人間をこちらも出さないとね。
部長か課長か、あるいは取締役クラスをね。一色さんから
リクエストが出たら、それを優先させないとね。じゃ、頼むわね」

“課長”と聞いて、オレは引いてしまったが、そうならないように持っていこうと決めた。
月曜日の午前中は、どこの会社も幹部会をやっているところが多いので、午後一番で連絡を入れてみることにした。

うちの会社でも午前中は幹部会があって、部長以上は全員会議室に集まっている。
昼食を食べ終わって、早速一色さんから頂いた名刺を取り出し、記載されている番号に電話をした。

「いつもお世話になります。一色食品でございます」透き通った女性の声が返ってきた。
「お世話になります。私、児玉建設営業部の沢田と申します。一色取締役はいらっしゃいますでしょうか?」
「一色ですね。少々お待ちください」30秒ほど経ってから、

「申し訳ありません。一色は只今取り込んでおりまして、30分後にこちらから
お電話させていただくとの事です。よろしいでしょうか?」

オレはちょっと考えてから、
「そうですか。そうしましたらお電話いただくのは恐縮ですので、私から30分後にお電話させて頂きます。そうお伝えください」
「承知いたしました。私、一色の秘書を務めております佐伯と申します。恐れ入りますが、よろしくお願い致します」

オレは電話を切り、フーと息をついた。確証はないが、やはり一色さんは創業家の
一員のような気がした。ゴルフでこんな出会いがあるなんて面白いな。これから何が起きるのか楽しみだ。

30分後、改めて電話をした。先ほど電話に出てくれた秘書の佐伯さんが、
今度は一色さんに繋いでくれた。

「沢田さん、先ほどは本当に申し訳なかった。色々バタバタしていてね」
「いえ、とんでもないです。こちらこそ、お忙しいところ、お電話してしまって申し訳ありません。昨日は、色々とご迷惑をおかけしました」

「いやいや、そんな事ないですよ。それより電話を頂けて良かった。沢田さんとまた話ができたらと思っていたからね」
「有難うございます。図々しいとは思いましたが、昨日のお礼と一度ご挨拶に伺えればと思いまして、お電話させて頂きました」
「私の都合を言わせてもらうと、今週だと明日の午後か木曜日は終日大丈夫ですよ」
「あの巽もお連れした方がよろしいですか?」
「沢田さんだけでも構いませんし、お任せしますよ」

パソコンで巽部長のスケジュール管理表を見たところ、両日とも既に予定が入っていた。
「承知しました。それでは明日の午後4時に伺わせて頂きます」
「お待ちしていますよ。1階の受付には連絡しておきますから。それじゃ」

打ち合わせから戻った榊原さんに、一色さんとのやりとりを報告した。
「分ったわ。それじゃ、まずは沢田くん一人で行ってちょうだい。巽部長にはあなたから報告して、もしリスケできるようなら部長にも行ってもらって。でも話の様子からすると、沢田くん一人でも問題ないと思うけど」

オレはそのまま部長席に向かった。
一色さんとのやり取りを説明し、明日同行いただくことが可能か確認した。

「午後の予定はずらすことはできないな。それに、君の話だとおそらく一色さんも私までとは考えてないだろう。既に面識もあることだし、君一人でいいだろう。仕事というより、ゴルフ仲間の打ち合わせくらいで考えて良いんじゃないか。ただし、くれぐれも失礼のないように。一色さんによろしく伝えといてくれ」
「ハイ、承知しました」

「それから末木課長と榊原くんを呼んでくれないか」
席に戻り、榊原さんに部長との話の内容を報告し、それから末木課長と榊原さんに
部長が呼んでいることを伝えた。

「部長、何か御用でしょうか?」
「末木くん、榊原くん、お疲れ様。実は一色食品の件なんだけどね。
昨日の試合で一緒に回ったことは既に知ってると思うが、私にはどうも単にゴルフの話をするために沢田くんを呼びつけたとは思えない。沢田くんのことを気に入ったのは間違いないと思うが、付け加えていうと一色さんは若い人にチャンスをあげるという信念のようなものを持っている。会社自体もそういう方針のようだ」

二人は黙って頷いた。
「そこでだ。二人とも分っているとは思うが、この件に関してはこれまで以上に
沢田くんをサポートしてやってくれ。彼のことだから、対外的なことに関しては
大丈夫だとは思うが、如何せん入社してまだ半年だ。ビジネス面ではまだまだだからな。よろしく頼むよ」

「明日は沢田一人で行かせましょう。話の内容によって、次からは榊原くんにも同行してもらいます」末木課長から提案された。
「ああ、それで良い。頼んだよ」
その後、末木課長と榊原さんは少し話してから、自席に戻って来た。

「沢田くん、明日一色食品に伺う前に会社のことをよく調べて私に見せてくれる。
ホームページとか日本データバンクである程度わかると思うから。それと、お土産で社名入りのゴルフボールを2つ持っていって良いから」
「分かりました。有難うございます」

調べていくと色々なことがわかった。
会社規模や業績はもちろん、一色食品の歴史は面白かった。創業者は一色鉄人という人物で、戦後子供たちに美味しいものを食べさせてあげたいという一心で、料理人でもあった鉄人はチョコレートのお菓子を作りはじめたらしい。

なぜお菓子だったのかは分からなかったが、チョコレートをベースに何種類もの
商品を開発しヒット作を世の中に送り出している。

一番のヒット作は、チョコクッキーの“キャロン”だ。サクッとした感触と適度な
甘みと食べ応えが若年層から高齢者まで支持を集めている。
新人採用も毎年ほぼ100名行っている。また、ホームページをみる限り、入社3年までの社員を集め、常時10数個のプロジェクトを走らせているようだ。

そして部活動にも積極的に取り組んでいて、野球やゴルフ、バスケット、バドミントン、山岳など多岐に渡ってサポートしているとの事だった。
今の社長の一色広道は、テレビで取り上げられるなどやり手のようだ。

オレは、会社業績、業務内容、福利厚生、歴史など整理して纏めた。
明日の午前中に榊原さんに説明する約束をして会社を出た。ゴルフの練習だけは、
よほどのことがない限り継続するつもりだ。

翌日、榊原さんに纏めた資料をもとに説明した。
榊原さんから、相手の会社のことを理解することの重要性を改めてアドバイスして
もらった。今日の一色さんとの面談で役に立つかもしれない。

約束の時間まで少し間があったが、遅れると失礼なので早めに会社をでた。
お土産のゴルフボールは、数種類あるうちのタイトリストV1Xを選んだ。
プロ使用率も一番で、一色さんも綾部さんも試合の時に使用していたものだ。

一色さんとの話がどんな展開になるのか想像しながら、千代田区にある本社に向かった。約束の時間の10分前に到着した。

食品会社らしく、ロビーや受付、受付嬢の制服など清潔感溢れるものだった。
1階の受付で社名と名前を伝えると、ソファーで待つように案内された。

1分ほどすると、エレベーターから降りた一人の女性が受付で話をしてから近づいてきた。
「お待たせしました。児玉建設の沢田さんでいらっしゃいますね。一色の秘書の佐伯です。昨日はお電話で失礼致しました。どうぞこちらへ」
「こちらこそ有難うございます。よろしくお願いします」

オレは、佐伯さんに案内されたエレベーターに乗り込んだ。さすがに秘書をしているだけあって、礼儀正しく清楚な女性だ。

「沢田さん、ゴルフがお上手のようですね。」いきなり言われてびっくりした。
「一色が初めて間もないのに、とても上手だと褒めていましたよ」
「そう言われると恥ずかしい限りです。勉強することばかりで、仕事より難しいかもしれません」

「そんな、謙遜なさらなくても良いですよ。あの一色が言っているんですから自信持って良いと思います」
「そうですかあ、有難うございます」

オレは応接室に通された。10人は座れるような立派なソファーがあり、壁には夕刻の海に面したゴルフ場が描かれた絵画が飾ってあった。

荒々しい波、今にも雨が降りそうな空、草原のような広大なコース、
場所はアメリカだろうか、それともヨーロッパなのか見当もつかなかったが、幻想的且つ迫力があった。まるで自分がそこに立っている感覚になる。

思わずティーショットの狙い目はどこか探してしまった。

「お待たせして申し訳ない」

一色さんが笑顔で入ってこられた。後ろには、綾部さんもいた。

「いえ、こちらこそお忙しいところお時間を割いて頂き、有難うございます。昨日の今日で恐れ入ります」
「まあまあ、そう畏まらずに。その絵気に入りましたか?」
「はい、一目見て吸い込まれそうになりました」

「スコットランドにあるセント・アンドリュース・ゴルフコースですよ。
全英オープンがもう何回も開催されている名門コースですね。最近では女子の試合もやっているかな」一色さんが教えてくれた。

「どうぞ、お座りください」
オレは上座に案内され、向かいに一色さんと綾部さんが座った。
「先日の試合では有難うございました。初心者の私がご迷惑おかけしなかったかと、恥ずかしい限りです」
「初心者には見えなかったし、迷惑なんてとんでもない。巽さんとは良いチームワークでしたよ。私も勉強になりました」控えめな綾部さんが言った。

「そこなんだよね。沢田さんが初心者というのが信じられないというのが私の本音です。我が社もクラブ活動には積極的に取り組んでいてね、毎年ゴルフを始める社員がいるんだけど、沢田さんのような社員はこれまで見たことない」

これが社交辞令というものかどうかオレには分からなかったが、ただ恐縮するばかりだ。

「正直、お褒めいただいても私にはよく分かりません。ただうちの巽やティーチングプロに言われていることをやろうとしているだけなので」オレは正直に答えた。

「自らやろうとして、それを実践できることがすごい。私も学生の時からゴルフをやっているので、その凄さが余計によく分かるんですよ。巽さんのことだから、仕事にも手を抜かないでしょうし。学生時代取り組まれた野球がベースにあるんですかね?」

「それは少なからず影響していると思います。バットとクラブを“振る“ということについては共通点はあると思います。アプローチとパットは”投げる“事と同じですし、練習のポイントとか、プレイする前の準備で考えることは一緒のような気がします。そういう意味では、本質的には私にとって慣れているんだと思います」

一色さんも綾部さんもなるほどと感心した様子だった。その後も、もっぱらゴルフや野球の話で盛り上がった。
分かったことは、一色さんも綾部さんもゴルフが大好きということだ。
といっても、ゴルフだけでなく仕事も一生懸命取り組まれていることが感じ取れる。

「ところで・・」一色さんが一息ついてから話しはじめた。
「我が社では、若い人に仕事をどんどんチャレンジしてもらうということを大事にしています。
これは、自社に限らず、他社の方々にも同じです。我々と一緒に仕事をしてくださる全ての方々すべてに、その方針を貫いています」

一色さんの眼は真剣だった。

「一昨日の沢田さんや巽さんと初めてお会いし、そして一日ご一緒させていただいて是非沢田さん、御社と何かご一緒に仕事をするチャンスを作ることができないかと考えたわけです。実は昨日別れた後に、綾部とも話し同じ意見でした」

綾部さんと眼が合った。

「一色の言う通りです。失礼ながら御社のことを調べさせて頂きました。
堅実な経営をされているのがよく分かりました。ゴルフ部も今年作ったんですよね」
ゴルフというキーワードが出て少しオレの気持ちも和んだ。

「実は弊社の社長の一色にも既に話は通してあります」
「綾部の言う通り、社長には私と綾部で昨日説明しました。ご存知かもしれませんが、社長は私の親父なんですよ。総務・経理関係は私に全て任せているので、お前に任せると言うことになりました」

今のところ、話の内容がさっぱり分からない。

「うちには、福岡に支社があるんですがテナントビルに入っていて、3フロアーを借りています。
今回福岡市内に支社の社員やグループ会社が入る新社屋を建てる計画があります。
確定はしていませんが、500名位が入る予定です。
もちろん御社だけでなく数社に声をかけさせて頂いて、コンペをして決定するつもりです。そのうちの1社として参加してほしいと考えています」

今日は単なるゴルフの誘いではなかった。それはちょっと残念だったが、会社にとっては大変ありがたい話だ。

「お誘いいただいて本当に有難うございます。これまで取引のない当社に取って、とても有難いお話だと思います。私としては是非ご提案させて頂きたいと考えていますが、一度社に持ち帰らせて頂いてよろしいでようか。巽とすぐに相談します」
「もちろんです。御社にとっても、弊社との取引はこれまでないですから」

今すぐにでも帰って、巽部長や榊原さんに報告したい衝動に駆られたが、
ここはぐっと我慢して情報を取ることが優先だ。

「一つ伺ってもよろしいですか?」
「何でしょう」
「まだお会いしてばかりで、それもゴルフで一度ご一緒させて頂いただけの我が社に、どうしてもそこまでご親切に提案の機会をいただけるのでしょうか?」
オレは感じていたままの疑問をぶつけた。

二人は顔を見合わせ笑った後、一色さんが答えた。
「我々が考えているビジネスは、単に損得では動くことはしません。ビジネスは人がいて初めて成り立つと考えています。

一昨日、巽さんと沢田さんと一緒に回らせてもらって、純粋にこの人たちがいる会社と私も綾部も仕事をしたいと思ったんですよ。綺麗事に聞こえるかもしれませんが、今の世の中こんなことがあっても良いでしょう」

オレには真偽の程は分からなかったが、この人たちを心から信じてみたい、いや信じようと思った。

「不躾な質問をしてしまい、失礼しました。私も一色さんや綾部さんと仕事をさせて頂きたいと心底思いました。私はまだ入社して半年も経っていない半人前ですが、今後ともご指導よろしくお願いします」
「とんでもない。お互いW I N―W I Nとなるよう、頑張りましょう!」

その後も綾部さんが現時点で公開できる情報を教えてくれた。
いつの間にか、6時になろうとしていた。
「取り敢えず概要は以上ですが、まずは御社内で検討してください。良い返事をお待ちしていますよ」

「それじゃ場所を変えようか」一色さんが綾部さんに言った。
「近くに行きつけの鮨屋があるので、ちょっと行きましょう。沢田さんはこっちもいけるんでしょう?」
綾部さんが徳利で飲む仕草をした。

一瞬、お二人と一緒に行って良いものかどうか迷ったが、せっかく誘ってくださるのを断るのも失礼に感じた。
「はい、大丈夫です。喜んで!」

一色さんたちは準備をするから、ここで待つように言った。オレはトイレに行くと言って部屋を出た。廊下に出ると、周りに人がいないか確認して急いで榊原さんに電話した。

榊原さんはすぐに出てくれた。一色さんからの話を要点だけ話して、更に食事に誘われご一緒すると答えてしまったことを伝えた。詳細は明日でいいからしっかりお相手してきなさいとの事だった。ダメだと言われずにほんとよかった。

玄関を出ると社用車が既に止まっており、運転手さんがドアを開けて待っていた。
レクサスL S500だ。こんな車に乗れるなんて恵まれている。

「おじさん二人だと沢田さんも硬くなるだろうから、若い佐伯を誘っといたよ。
実は佐伯はゴルフがとても上手なんだよ」一色さんが嬉しそうに話した。

鮨屋は銀座一丁目の一等地にあった。

これまで女っ気のなかったオレの周りに、ここ最近やたら女性が増えたような気がする。嬉しい限りだ。情けない話だが自然とオレの頬も緩んでるような気がしたが、男である以上致し方ない。このことは絶対千夏には言うまい。

店はカウンターが10席ほどあり、個室も数部屋ある小綺麗なお店で高級店だろう。大将とも顔馴染みなようで、そのまま個室に向かった。
寿司もつまみも最高に旨かった。寿司ってこんなに旨かったのか、初めて気づいた。さすがに我々一般庶民が行く回転寿司とは違う。

4人での会話は楽しかった。綾部さんもオレに気遣って和やかな雰囲気を作ってくれている気がする。特にゴルフの話は盛り上がった。

「佐伯はね、大学時代ゴルフ部に所属して、関東アマでも勝った強者なんだよ。本気になったら、僕も綾部もコテンパンにやっつけられるから、沢田さんも気を付けたほうがいいよ」
一色さんが佐伯さんの戦歴を紹介してくれた。

「気をつけたほうがいいですか!?」俺は尊敬の眼差しで佐伯さんを見た。
「まあ、何てことおっしゃるんですか、常務は!沢田さんが本気にするじゃないですか!」
「関東アマで勝ったのはホントだろ」

綾部さんが入社3年目で独身の25歳だと一色さんが教えてくれた。更に彼氏募集中だと意味深な事も言った。
不覚にも姉さん女房もいいかもしれないと頭をよぎってしまった。

「じゃあ、小さい頃からゴルフはやっていたんですか?」
「父親の影響で中学の時から始めたんですけど。高校、大学とゴルフ部があったもので、続けていたら勝っちゃいました」

最近、ゴルフ人口が減り続けていると統計も出ているが、オレの周りではそんなことない。

「凄いですね。ゴルフ上手な人を尊敬しちゃいます」
「ゴルフで尊敬されても嬉しくないですけど・・・」
「沢田さん、今度ゴルフを教えてもらったら?佐伯と一緒にラウンドしたら勉強になることがいっぱいあると思うよ」一色さんが急に振ってきた。

何と答えたら良いものかと思案していると、
「常務、沢田さんも困ってらっしゃるじゃないですか。」
「いや、困っている訳ではないですよ。何というか、自分みたいな初心者がご一緒すると迷惑をかけてしまいそうで」
「大丈夫、大丈夫。なあ綾部くん」
「この間のプレイを見る限り、全く問題ないですね。自信持っていいですよ」

こう何度も言われると、俺って結構いけてるのかもしれない。

3人とも酒はいける口で、ビールから始まりさほど時間もかからず一升瓶を空けてしまった。みんな程よく酔いも回り始め、次はクラブに行こうということになった。

幸い、佐伯さんとのラウンドの話は、そのまま放置された。
オレは一足先に立ち上がり大将に精算を頼むと、後ろから佐伯さんが来てここは会社で持つから大丈夫だと言われた。オレはどうしたものかと考えたが、お二人にお礼を言って次回はこちらで持つということにした。

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