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天に救いを求めた末裔#1

 雲海に浮上する朝日の、辺りを段々と強く食んでいく輝きが好きだ。
「始まりの終わりに敬礼。」
この時間の当番を他の連中に取られまいと、深夜の集いを対価に担当している朝番。
気付けば班長を務めるくらいには信頼されて、部下も出来たのが冬のこと。
哨戒任務の辛さは冬の冷え込みだということを身をもって体験した頃を思い出す。
「班長!」
呼ばれ慣れない呼称で意識を声の主に向ける。
「どうした、何か異常か?」
悪い知らせではない方ばかりを引いてきたとはいえ、一応は緊張感をもって報告を待つ。内容次第では哨戒班の手に余る事態を早急に持ち帰って、本隊に対応を任せる。
『くれぐれも立ち向かおうなどという蛮勇は捨てること。』
前任の言葉を噛みしめながら振り向く。
「いえ、今日も雲と空以外の景色に変わりありません!」
「そうか、では帰還しよう。」
朝日を背にして始まりの終わりに安堵する。
まさかこれが平穏との別れとなる任務になるとは、この時は想像だにしなかった…。


『人類が築き上げた文明は砂塵となり、地上の全てを失った大災厄から8百年。この星に大地と呼べる陸地は全てが海に書き換わり、空とを隔てる分厚い雲”MegaCloud”は厚さ10㎞にもなる。』


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