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天に救いを求めた末裔#2

東の空に別れを告げ、心もとないエンジン音を響かせながら鈍く光る複葉機で拠点へと向かう。
人類が衰退したとはいえ、空を飛ぶ手段はいくつか残されていた。
すべての文明を復元できるだけの情報を残してくれた先人が居なかったとはいえ、壊れた世界に抗い生きる術を我々はこうして手にしている。

「班長は今日も直帰ですよね?」
「あぁ、俺は朝食を食べないからな。」
「それでよく仕事ができますね。僕は今すぐにでもオムレツを食べたいです。」
このオムレツ好きの部下の嗜好はとてもよくわかる。
陸を失った我々の先祖が食糧事情を第一に尽力してくれたお陰で、人は鶏と共存共栄の関係にある。可食部を増やすためにダチョウサイズまで遺伝子操作で大きくなり、卵も巨大な鶏が唯一のタンパク源を提供している。
より良い肉、卵の味を第一に育てられた鶏のすべてを感謝して余すことなくいただく。
どんな料理に使用されても美味であることが食事で笑顔になる人が絶えない、至福のひと時を過ごすことができる。
(恋人が作る料理なら尚更か。)
命に感謝して発する食前・食後の挨拶を欠くことは大罪に等しい。
「いただきます」「ごちそうさま」は必ず使う言葉だ。

「一日に二食でも人は十分働けるぞ?君もどうだ?」
「嫌ですよ。僕の一日はオムレツから始まるんですからっ!」
卵アレルギーにでもなったら、彼は人生の楽しみの大半がなくなるのだろうなと恋人がいる若者への少々の皮肉を口にしようとして止め、操縦桿を握る。無事に帰るまでが任務だ。

他愛のない会話を楽しめるほどに人々は幸福に生きていた。
人類が再び滅亡の憂き目に遭うのは神の気まぐれか、星の意志か。
最悪のシナリオに舵を切り始めた世界の異変を哨戒任務で気づけなかった我々の落ち度を誰が責められよう。

『先人が技術を後世に伝えた方法はNFTである。どんなに時を経てもブロックチェーン上に刻まれたそれは、石碑より永く残った。もちろん偽の技術情報や、再現が不可能なロストテクノロジーも存在した。現在はNFTのFはFreeのFとなっているが、人類の再興に寄与した最も偉大な技術である。』

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