杖の王

夢に、猛禽類の目をした男が出てきた。前職のシチュエーションだったのだが、研究授業か研修会に参加している助言者のていだ。しかし彼は完全に現場から浮いていた。
彼は少女をじっと見つめていた。少女はその場にいながら違う場にも重なってい、彼は両方につながっていた。
この人の存在はなぜか気になった。
私はこの人をよく知っている。と思った。

彼から連想する人はいた。前職の、職場の責任者だった人だ。何年も前に一度だけ夢に出てきたときは、トレンチコートを着て、地中海風の穴ぐらのような白い壁の店の、迷路のような通路の中に消えていった。彼も十数年を経て私の夢に復帰していた。やはり職場の所属長として出てくるのだった。
印象に残った夢を見たのは今年の夏だったか。私の手がその人に触れてぎくりとしたのである。おしりに肉がなかった。「あれえ、こんなにやせちゃったの」と思って。

話が飛ぶが、私は、かなり重い水晶のポイントを持っている。15年ほど前に購入したものだ。その石との距離はほんとうにわからず。自分によく似ていると思うし、なくなったら困ると思うのだが、大事だと思うが親しめないというのか。ある一定の距離がある。しかしこの石は自分だなあと思う。そんな石だ。名を「魔法の杖の石」という。
最初の夢を見、夢の男について考え始めたころ、この杖の石を買ったとき一緒についてきたメッセージが出てきた。つまり意識にのぼってきたのである。

私の中に絶対者がいる。この人は深い深いところで姿を見せないようにして私を動かしてきた。
この人はどんなものでも量る。そして不動だ。剛直だし果断だし、酷薄でもある。感情もはかるから。なにものにも支配されない。王の中の王だ。そう、彼を杖の王と呼ぼう。

絶対に姿を現さなかったがいつもそばにいた。長い長いこと、私はその人だった。しかしその人はうっかり、夢に出てきてしまった。人間に身をやつして。

たとえば、みんなに敬愛されている指導者のような人にものを教わるとする。しかし私はどうしても心を許せない。そのことでは苦しんでもきた。
この絶対者の存在に気づいてから、そうした人びとのことを考えていたところ、とつぜんことばが降ってきた。
「不完全だ」。
私ははっとして、口をぽかんとあけてしまった。
「不完全」。なるほど。
参ったと思った。こんな杖の王が心の中にいて、いることを気づかせなかったら、まあこの世のどんな存在も私には不完全だよ。それはしかたがないな、と思った。

そう、しかたがない。そのことばがぴったりだ。杖の王は自分ではない。しかし心の杖として彼は私の大事な存在である。いまだとても信頼しているし義理立てもしている気がする。その名残だ。「完全」が存在するからこその「不完全」だった。

あきらめもついた。さきの指導者たちも好きになれたり尊敬できたりすればいいのだが、そこはそううまくはいかないようだ。これからもまずはそう感じている自分を認めていこうと思った。気づけたことをまず喜ぼうと思った。
杖の王は私のこうした心情には一切かかわらない。ただ見て、すべてを知っている。

気がついてみると、杖の王は他人の中にもちょくちょく現れていた。以前はその他人=杖の王だと思ってしまってよく間違いを犯した。杖の王は人間ではないので、あまり近づくとやけどをする。その人間にも迷惑がかかる。
しかし自分の中の杖の王と対話していくなら、そういう事態は避けられるのである。所属長のおしりに肉がなかった夢は、そうした移行も表していたのかなと思うのである。


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