SAサビはんイマジネーション 2022春分
【吉田結妃さん作「サビはんカード」を使って自分の心と対話して『おはなし』をつくりました。選んだカードは占星術の進行図(ソーラーアーク)のサビアン。出生図を今の私の生きてきた年の分(61度)ダイヤルを回すように動かしてできたホロスコープによります。】
秋の公園の森。紅葉がクライマックスを迎え、赤や黄色の木の葉が光に輝き、とめどなく舞い落ちる。なんという美しさだろう。
私は小さなときからこの街で暮らしている。移民だった両親は早くに亡くなり、今は弟と二人きりだ。
弟は葉を光に透かして見つめる。「この葉っぱもあの国から来たんだね」と弟はいう。
「あの国」とは、小さなころきょうだいで読みあった本に書かれていた妖精の国のことだ。
この世の美しいものはみんな、はるか遠く高みにあるその妖精の国のエッセンスを受け取って生まれたもの。私たちはそんなふうに信じている。
妖精の国のエッセンスは、気をつけているといたるところに見出すことができる。この紅葉のような美しい自然や、人が描いた絵やつくった陶器や彫刻、道具。動物や、小さな子どもや大人の中にも、この国のしずくを受け取って生まれたものやしずくを受け取ることのできる人がいる。
エジプトのピラミッドやスフィンクスは、この妖精の国に行って帰ってきた人の話を聞いて憧れに突き動かされた人が、あの国のように世界中とつながろうとして造りあげたものだ。でもそのやり方は少し、違う。どこかで間違ってしまったみたいだ。
「威容を歴史や人々の心に刻み付けることはできたけれど、われわれを愛して話しかけてくれる人は遠くに去ってしまったね」とピラミッドとスフィンクスはいつも語り合っている。大きな声なのに、耳を傾けてくれる人は少ないみたい。その声を聞くとき、私は知る。この二人も、二人だけのつながり方であの国とつながっている。
彼らに話しかけてみたいけれど、私の言葉は耳に入らないかも。そんな気がする。
妖精の国のエッセンスは、ささやかなものだ。でも気をつけていればすぐにわかる。
昨日は美術館に行ってみた。じっと空間を見つめている、美しい男の人の頭部の石膏像。私はガラス越しに話しかけた。
―あなたもあの国にいたことがあるのね。
―君も?と像はちらりと目を動かした。―行ったことがあるの?
―私?私は、ないと思う。でも、わかるの。夜、お気に入りの水辺にいるとき、向こうから呼ぶ声が聞こえるの。
夢の中でもね、起きたとき、今日は行ってたなって、わかるの。
―そう。と像は答えた。ーそしたらいつか、あの国で会おう。
ーうん。きっと。
隣の部屋では男の人が剣にじっと見入っていた。あの剣もあの国にいたことがある。そしてあの人は昔々、あの剣の持ち主だったことがあるよね。
仲間が、この世にはたくさんいる。
昨日の夢では、夜会に出ていた。知らない素敵なタキシードの男の人と、ドレスを着てダンスをしていた。夢の中ではなんにでもなれる。でも、そういうことではない。私がつながっていたいのは。言葉ではうまく言えない。
その人は私をじっと見つめて「待っています」と言った。「いつか会いましょう。忘れなければ、必ず」。
私はうなずく。はい、必ず。
そして、私は一つ、決心をした。
***
それからどのくらい月日が流れたろう。
私は今も弟とこの街で暮らしている。
日々は忙しく、生きることに夢中で、あの国のことはたまに思い出す程度になっていた。
きっかけはやはり弟だった。
「姉さん、姉さん、今日天使が来てたよね。天使はあの国から何か運んできてくれたんだよ」って。
そうしたら、次の日。鉢植えのスミレがきれいに、きれいに咲いていた。両親の残した植木鉢の中に、植えた覚えのないスミレが。
これはまぎれもなくあの国からの贈り物…!
私は自分の営む店の前にそれを置いた。ついに私を見つけてくれた、来てくれた、と思って。
店、そう、私の店。なんのお店だかわかるだろうか。
それは小さなクリーニング店だ。両親がやっていた家業を復活させた。ここは人種のるつぼみたいな街だから、毎日いろいろな服が持ち込まれる。例えばエジプトから来た人の服も、エジプトに旅行した人の服も。返り血を浴びた服だって、ときどきは。
手洗いしかできないようなものも頼まれる。天使が来ているようなうすものや、ダンスパーティに来ていく服だって。
たまげたのは弟だった。優しいけれど敏感で、学校の勉強は苦手で、何がしたいのかわからなかった弟は、店を持ってとても変わった。
クリーニング師として適性があったのだ。どんな素材も最適な方法で洗い、乾かす。白いものは白く、色物は一番いい色に。あるものはシャキッと、あるものはふわりと。市販の洗剤を使いたくない人には最小限の薬剤で時間をかけて洗う。古い外国のもののクリーニングの依頼が来ると、その国のその時代の洗いかたを調べてみる凝りようだ。へたしたら土地の水だって取り寄せかねない勢いだ。
私の願いは、もっとささやか。この服にそでを通すとき、かすかに「あっ」て感じてもらって、これからその服を着ていくところがところがたとえ毎日変わらない職場であってもなんだか楽しみになるように、って思いながら洗う。ときどきは「あの国から来たな」っていう服や布に会う。おお、いらっしゃい。そしてまた送り出す。
遅咲きのきょうだいだったけど、おかげさまでいい仕事をする店として知られるようになった。布ものだけでなくなんでもクリーニングするので、お客さんだけでなく、宝石店や、靴屋、家具屋とも知り合いになった。そこそこ資金も貯められた。
今は弟と私は、この店のよさをそのままにチェーン店を作ろうとしている。そんなにたくさんは必要ないと思うけれど、暮らしやすそうなところに二つ三つつくってみたい。新しい街やお客さんに会ってみたいのだ。
私があの日心に決めたのは、「目の前のことに心をこめよう」ということだった。それがあの国へのいちばんの近道だって。
昔は、今あの国にいないことがとても寂しかったけれど、今は違う。いつかきっと行けるし、いつだってつながってる。誰だってつながれる。そのことを自然に受け入れている自分がいる。
そして私は今日も自分の仕事に精を出すのだ。あの国を隣に感じながら。
〈おわり〉
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この記事はチューリッヒユング研究所分析家の今井晥弌(いまいかんいち)先生の指導のもとサビはんアクティブイマジネーションの研究会の実践をもとに書いたものです。ご興味のある方はこちらをご覧ください。
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