卓球大会の話

客先の卓球大会に参加することになった。
欠員が出たとかで、急遽誘われた。
(どうせ暇でしょ?)というニュアンスがふんだんに盛り込まれた依頼に少々納得のいかなさがあったがまあ実際暇なので、参加した。

どうやらそれは最近その会社で良い営業成績をおさめた人の激励会であり、一位には賞金が出るという。(良い営業成績をおさめた人に普通にお金をあげればいいのに)と思ったけど、それはそれで給与に反映されるんだろう。それはそれ、これはこれか。なるほどね…

約30人。一試合を短く設定されたトーナメント戦である。2チームに分かれ、そして、ものすごいスピード感で私は勝ち続けた。私だけが別会社なのに勝ち続けた。卓球を人生で3回しかやったことがないのに勝ち続けた。全員めちゃくちゃウケていた。しかし、その日の主役である良い成績をおさめた営業部の青年は、中学で卓球部だったという。各チームの代表による決勝が始まった。私と、その青年である。
全員めちゃくちゃウケていた。

私のほうが少し強かったと思う。私は本当に運動神経がいいのだ。卓球の経験はほぼないけれど、卓球の試合はテレビで観たことがあるし松本大洋のピンポンの原作も何度も読んでいる。

見れば、同じようにできる。という才能が私にはあるのだ。

勝てる。と思った。

その時
「おまえ、社会人だろ。社会によって生かされている人間だろ。この場は社会の縮図だぞ。」という声が聞こえた。自分の脳から。

少しずつ、疲れたような気配を見せつつ、実に上手く、僅差で負けた。

わざと負けた。

「わざと負ける」という、フィクションではよくみかけるが実際はあまりみかけないアレを、やった。

パターンとして、その場合わざと負けた事にめざとく気付く人間が1人はいる。そして誰もいないところで「お前、さっきわざと負けただろ」と、小さな声で言ってくる。

今回それがなかったのが実に残念だ。

今まで誰かに「私は運動神経が異常にいい」と言うと「は? 笑」って感じの反応ばかりだったけど、今後は

「わざと負けたことがある」

と、言おう。

「わざと負けたことがある」

これ以上の説得力があるだろうか。

勝負において、わざと負けたこと、
ありますか?

私は、

…フフフ

……あります。


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