電気屋のおじさん
工場のシャッターが開かなくなったと言われ見に行ったらシャッター会社が手配した電気屋のおじさんが来ていた。「これね、上のほうに見えるでしょ?あの鍵かかってる小さい扉のとこ開けてね、その中に手動で開けるボタンあるから!」と言う。直す気がないのか?「今ね、鍵持って来させるから!」今後永久に手動なのか?
若い人が鍵を持ってきた。
その鍵でなんか小さい扉を開けたら、確かにスイッチがある。「ここをね!ずっと押せばね!閉まるし、開くから!」
でもその扉は屋外の壁のかなり上の方にあるから開けるためにはその都度、脚立が必要だ。
「あのう、中にある自動のボタンをなおして欲しいんですけど」
「あっ、そう?」
「そう」
おじさんは若い人に「じゃあここ(小さい扉)閉めて」と言い、若い人が扉を閉めたが、「鍵が閉まりません」と言う。
「閉まらない?」
「はい」
「かして」
「はい」
「あっ、この鍵違うわ」
「違う鍵持ってきただろ、ほら、全然違う」
「あっすみません」
(……?)
「閉まらないわ!ごめんね」
(……?)
「後で会社戻って鍵持ってくるから!とりあえずこのままで!」
「なんで開いたんですか?」
「え?」
「なんで開ける時はその鍵で開いたんですか。」
「え?」
「その鍵で開くのにその鍵で閉まらないわけがないでしょう」
「え?」
「その鍵で開くのにその鍵で閉まらないわけがないでしょう」
「たしかに〜〜〜」
ガチャリ
閉まった
「その鍵で開くのにその鍵で閉まらないわけがないでしょう」という発言を一語一句違わず二度繰り返したのは人生で初めてだ。
とにかく、『人生で初めてだ。』と思う事はめったにない。
ありがとう。電気屋のおじさん。
そして、さよなら。どうか元気で、私、あんたのこと忘れない。
と、思う。
少なくとも、今は。
ほんとに。
ほんとだよ
おわり
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