醜悪センサー

最近、トレンチコートとかの後ろのスリットのバッテンの仮縫いの糸を切らずに着てしまっている人、という話が目立ちますね。いやでもあれ正式には付けたままでもいいらしいですよ。でもまあ、ふつう切るよね。

前、営業先の会社のエレベーターに若い女性が乗ってきて、先に乗っていた私以外の女性数人はその女性の同僚のみなさんだったようで、「おつかさまです〜!」なんて言ってて、その女性はエレベーターのボタンに向かって立っていて、トレンチコートのスリットの糸がついたままだった。

その時、ヒソヒソヒソヒソクスクスクスクスと同僚の皆さまが笑い出した。「(あれって普通はずさない?笑)」「(後ろからいきなりハサミで切ってあげようか 笑)」「(やめなよー 笑)」「え、普通はずすよね?私がおかしい?笑」「おかしくない 笑」「おかしくない 笑 普通はずす 笑」と散々ヒソヒソヒソヒソヒソヒソクスクスクスクスクスクス笑ったあと、彼女に

「あのさ、その糸って、わざと?」と言った。

彼女は「あっ」と言い、「教えてくれてありがとう!」と恥ずかしそうに言ってエレベーターを降りた。

「教えるんだ 笑 優しいじゃん。」「私優しいよ!?笑」

と笑っていた。


なんて性格が悪い人たちだろうと思った。

これは、だいぶ昔の出来事なんだけどこれ以外に「性格が悪い」が何を指すのかわからない。性格が悪い、というのはこれ以外にないような気すらしている。

例えば友達や恋人、なんだこいつ、ムカつくな、とか、今のけっこう失礼じゃない!?とか、まあそりゃああるじゃないですか。

だけどこの人は絶対に、エレベーターでコートのスリットの糸を取り忘れているだけの同僚を見つけてコソコソクスクス笑ったりはしない。

と考えると、むしろ(やっぱこいつめっちゃいい奴)とすら思う。


性格が悪いっていうのは、大きく人を傷つけるとか、酷いことを言う、とかそういうのじゃないと思う。もっと、そこに理由がないもの。

面白くもなんともないことで人を笑う、とかのことだと思う。


だけど本当に、あのエレベーターの中でのあの時しか、あそこまで醜悪な場面は見かけないし出会わない。

というか、私の個人的な【醜悪センサー】にたまたま見事に引っかかった出来事だったんだろ。たぶん殺人とかのほうが醜悪だし。そうかな?醜悪だ、って事と、大きな罪だ、ってことはまるで別の話。


一体何を思い、彼女たちは笑ったのだろう。

私はすごく面白い時しか笑わない。少し面白いぐらいじゃ笑わないんだよ。女ってそういう教育をされるじゃん。されない?フーンあっそ。埼玉では、されるの。


今、私の周りの人たちを一人一人思い浮かべて想像したら、全員が「それ、後ろの糸ついたままになってるよ」ってかなり普通に言うから、

全員がそうだったから、

(全員じゃん…)

って、思った。





おわり







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