狂っていた話

ある休日の朝、私は突然気が狂った。理由はわからない。というか、理由はない。特に何のストレスも不満もない生活だったはずなのに、突然(本当に突然)何もかもが嫌になり、泣きわめきながら部屋をめちゃくちゃにしキッチンにあったごま油の瓶でトイレのドアを殴った時、瓶は割れずにドアに穴が空いた。ついでに部屋中をごま油まみれにした。当時の恋人が「おいやめろ!落ち着け!近所に警察呼ばれるぞ!?」というかなり真っ当な声をあげ泣きわめきながら暴れる私を取り押さえた。その後数日かけてごま油まみれになった服を洗ったりベッドを処分したり、そしてトイレのドアの穴だけが残った。また数日後、彼はホームセンターで木目の太いテープ(?)を買ってきて、それをドアの穴に貼った。するとあまりにもドアとテープの木目が似ていて、よく見てもわからないぐらいだった。でもドアは薄いべニア板の張り合わせだったから、テープのところを触ると、中が空洞であることはわかる。彼は「ここ触ってみ!触ると絶対わかるよな!」と言って本当に楽しそうに笑っていた。私が「こんなに似てる木目テープがこの世にはあるんだね」と言ったら「まじでウケるよな!」と言って本当に楽しそうに笑っていた。
最後まで「なぜこんなことを」とも言わず、怒るわけでもなく、何事もなかったかのように穏やかな日々は過ぎ、数年後にもっと普通の理由で私たちは、別れた。

狂っていたのは、あなたのほうです

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