AsJYOC2019の演出を1ヶ月で準備した話

オリエンテーリングクラブトータスの結城克哉です。
今年8月末に行われたAsian Junior and Youth Orienteering Championship(通用AsJYOC、エイジョック)の演出パートチーフを務めたので、その時の運営の記録を載せます。
とりあえず頑張ったから知ってほしいというだけの記事です。ちゃんとまとめてないので読みづらいと思いますがご容赦ください。

<0.引き受けたきっかけ>
個人的な目標として、WOC2019 Norwayを目指していたのですが、今年3月に右膝の前十字靭帯を断裂しました。5月まで気づかず山を走っており、3月のインカレミドル併設日本代表選考会と4月の全日本大会(ロング)でそれなりの成績は残せていたので日本代表には選ばれていましたが、膝の状態が全く改善しないので6月には手術での治療を決意し、代表を辞退しました。(代わりに選ばれた小牧君が楽しそうだったので良かったです)。7月初旬に手術して、2週間後に退院したのですが松葉杖つかないと歩けないしそもそも松葉杖突いて歩くのもしんどいしでオリエンテーリングの競技からはかけ離れた状態になりました。(通常の歩行の1/2~1/3の速度しか出ないし、割と常に痛い)

オリエンテーリングの競技をやろうと思っていた中でのケガだったので、とんでもなく暇になりました。

そんな中、準備期間が残すところ1か月ほどのAsJYOC運営がなかなかしんどい状況にあるという噂を耳にしました。足が動かない状況でも、資料作りなど多少の貢献はできるだろうと思い、運営の中心人物に連絡を取ってみたところ、退院翌日にミーティングをすることになりました。そのミーティングで最初に切り出されたのは、「演出パートチーフをやってくれないか」という提案。演出関連の運営者は歳離れててそんなに知らないしそんなん無理やろと思いながら、最も貢献出来そうなパートではあったので、とりあえずやれるところまでやりますと返答。ここから怒涛の1か月がスタートしました。

<1.コンセプトメイク>
 この当時は現地準備までするつもりはなく(そもそも1か月で膝の状態がどこまで回復するかもわからなかった)、各種演出物の手配と人の動き割り振りをして現地は他の人にお任せするつもりでした。現地情報も運営状況も全く知らなかったので、まずはSlackに入れてもらい既に決まっている情報を集めて自分なりに理解するところから始まりました。
 何らかの題材を「演出」するためには、対象物をどのように見せたいかというコンセプトが必要です。トップ争いにフィーチャーしたいのか、選手一人一人にスポットを当てるのか、戦略が決まっているほうが有効です。これまでインカレ運営で演出パートを務めた経験があったので、ある程度の流れは分かっていたものの、国際大会を演出するのは初めての経験だったので、このコンセプトの部分で悩みました。
 幸い、前パートチーフが考えてくれていた骨組みがあったので、そのコンセプトは残す方向でいこうと考えました。

AsJYOCコンセプト

↑AsJYOC演出コンセプト

 僕が運営に入る前から準備は行われており、演出に関する議論はたくさん行われていたようで、コンセプトというか「やりたいこと」ははっきり決まっていました。
キーワードは
・「SNSで映える」
・「選手の憧れとなる」
・「ライブ感」
です。これらを実現するツールの準備が残り1か月の課題と認識しました。

<2.高額資材の選定>
 じゃあこれらのコンセプトをどのように実現するか。
 その議論がどこまで進んでいるかが分からなかったため、演出・競技パートを集めたミーティングに参加しました。そこで議論になっていたのが、演出資材の準備。大型のスクリーンやGPSのレンタルなど高額資材が多数存在し、それらのレンタル先が見つかってはいるが発注に至っていないという段階でした。
 僕が運営に入る前からちょこちょこ話は進んではいたのですが、決定者がおらず最終的に発注する資材と金額が決まっていませんでした。
面倒だったのは、このAsJYOCが資金源として「toto、スポーツ振興基金と助成事業」の助成金を使っていたことで、この助成金の仕組みに則る形で資材の手配を行う必要があったことです。
参考→https://www.jpnsport.go.jp/sinko/kuji/dantai/tabid/110/Default.aspx
 過去、全日本大会等で実績があったようですが、AsJYOC運営者の中にこの仕組みを十分に理解している人間が少なく(会計担当の小泉君しか全容を把握していませんでした)、そもそも僕も初めて知ったのでなんじゃこりゃと思いながら資材発注について検討しました。
 簡単に触れますが、会計が複雑化していた理由が主に2点ありました。
1点目は、助成対象の大会が「本戦」のみであったことです。
AsJYOCには、ジュニア・ユース世代の選手権者を決めるための「本戦」と、年代を選ばず参加できる併設大会がありましたが、この併設大会にかかる費用は助成対象外となっていました(大会自体の資金源にはなるので、併設大会はやらなければ会計的に厳しい)。その「本戦」と「併設大会」の必要経費の切り分けが難しかったです。
2点目は、助成金受け取りの対象者が「日本オリエンテーリング協会(JOA)」であることです。
JOA主催であるため、実質的に動いている運営者がAsJYOC運営チームであっても、お金の動きとしては日本オリエンテーリング協会のお財布から費用が支出される必要があります。(併設大会は関係ないので、オリエンテーリングクラブトータスの口座から支出・入金手続きがなされていました)
JOAの口座管理担当者は運営者の中にいないため、資金の振り込みを別で外注する必要がありました。そのため、運営者がアクションを起こしたい場合もJOA担当者への入金依頼を挟むことによるタイムラグが発生し、運営面での負担となっていました。
 これらの会計の体制的な問題を抱えながら、更に高額資材の優先順位の付け方が難しいというハードルも合わさって、最終的に後回しになっていたというのが1か月前の状況でした。
 以上の状況を踏まえて、まずやったのが「高額資材の選定」でした。
 巨大スクリーンに代表される「高額資材」も、結局は選手たちの活躍を脚色する「手段」です。目的が「SNSで映える」・「選手の憧れとなる」・「ライブ感」という3つに絞られていたため、これらの目的を達成するために必要な手段、かつ期日までに手配可能性が高い手段のみに限定することにして、最終的には予算と合う形に収めるという流れで絞りました。
最終的に必要と判断された資材は以下の通りです。
①巨大スクリーン
②柵
③ステージ
④スポンサーボード
⑤フィニッシュレーン用バナー
⑥フィニッシュレーン
⑦大会ロゴ入り横断幕
⑧音響資材
このうち、⑥のフィニッシュレーン以外は手配担当となった(フィニッシュレーンは完全にキャパオーバーして会場パートチーフの瀬川君にお願いしました)ため、その手配の状況だけ記録しておきます。

①巨大スクリーン
2017年関ケ原で行われたインカレロングからよくお目見えするようになったGPS速報用の巨大スクリーンです。巨大スクリーンを貸し出してくれる企業でAsJYOC運営が見積を依頼していた企業は2つありました。
・ITメディア:http://www.itmedia.tv/data.html
・株式会社アズオン:http://azon.jp/

ITメディアは東京都の会社で、いろいろな形態での巨大スクリーン貸し出しができる企業です。
株式会社アズオンは愛知県の企業で、関ケ原・駒ヶ根など各種オリエンテーリングイベントでの実績のあるものでした。
スプリントリレー・ミドルが行われる8/30・31の2日間借りようという話になっていたのでこの2日間での見積もりが取られていましたが、それぞれの金額は
・ITメディア:756,000円
・アズオン:772,200円
でした。
大きな金額の差異がないこと、そしてなによりオリエンテーリングイベントでの使用実績がある、という部分で株式会社アズオンを選択しました。

この巨大スクリーン手配に際して問題になるのが、「電源」と「地面」です。
まず電源に関する話ですが、巨大スクリーンは、結局うちにあるディスプレイと変わらずあくまでPC画面を拡大する「ディスプレイ」です。HDMIやDTI端子でPCと接続して使用します。2~3台のPC、確認用モニターを接続して使用する形になるので、100V二相の電源がその台数分必要になります。ドラムコードと延長コードタップを組み合わせればなんとかなりますが、安定的な電力を供給できる電源は必要となります。また、本体自体の消費電力も大きく、200V三相の電源が必要となります。200V三相は企業の研究所にあるような特殊仕様のため、一般の家庭や施設にはありません。そのため、200V三相電源を供給できる発電機を別途手配する必要があります。
ITメディア・アズオンなどの業者に手配を依頼することもでき、それが一番手間もかからないので最良のソリューションだと思いますが、スクリーン代金に別で料金が載ってくるので予算規模としての考慮が必要です。また、別途手配しようとすると発電機レンタルの業者を探して利用する必要があるのでこちらも注意が必要です。(ふつうの乗用車には乗らず、軽トラなどの荷物運搬者が必要になります)
 第二に地面も大事です。
 巨大スクリーンの使用方法は2通りあります。車の荷台に乗せた状態で利用する「ビジョンカー」としての利用方法と、地面に専用の台を設置して使用する「グラウンドスタック型」です。アスファルトのような車で乗り付けられる場合は、車のまま入れる「ビジョンカー」タイプが選択されます。地面がぬかるんでいるような場所では、車が重みで抜け出せなくなる可能性があるので、「グラウンドスタック型」が選択されます。今回のAsJYOCでは、スプリントリレー会場の地面が土でぬかるむ可能性があったので、「グラウンドスタック型」を選択しました。最終的にスプリントリレーの日は大雨に見舞われたため、午前8時にアズオンの担当者・田中さんと対面して30分後に使用中止を決めました。悲しい。
雨で使用が出来なくなった分、値引きしてもらえて最終的な金額は600,480円になりました。

※田中さんはインカレで何度も巨大スクリーンを持ってきてくれた人です。この人に連絡すれば話が早い。
※どうでもいいですが、8月の初旬に株式会社アズオンを使うことに決めたものの、担当者(not田中さん)がなかなか忙しい方で見積書もまともにもらえない状態でした。(この言い方はオブラートに包んでます。察してください)最終的に田中さんに引き継がれて以降は非常にスムーズに手配が進みましたが、それまでは精神衛生に悪い状況が続きました。FAX。
※モニターを手配する際に先方に送った資料は以下の通りです。

ディスプレイ仕様詳細

AsJYOCモニタ使用詳細

一番苦労したところなので話が長くなりました。すみません。

②③ステージ、柵
こちらはまとめて同じ業者に手配をお願いしたのでまとめて記載します。
ステージの用途は言わずもがな、選手のインタビューや表彰式を行うお立ち台です。
柵の用途は、フィニッシュレーンを作って選手の導線を作る機能に加え、スポンサーのロゴ等が印刷された旗を設置台となる広報媒体としての機能です。よく赤コーンと黄色・黒のしましまのバーで構成されたレーンは見ますが、柵のほうがレーンとしてしっかり区切ることができ見栄えも立派です。
手配先は、地元のトレイルランニングの大会でステージを組んだ実績のある「株式会社M’s-A(エムズアーと読む)」という企業で、トレイルラン大会の運営者から国沢さんが情報を取ってきてくれたために実現したと聞いています。僕の役割は、このM’s-Aの担当者と連絡を取り、いつどこにどれくらいの柵・ステージ資材を持ってきてもらうかを調整することでした。
8月の初旬に現地準備があったため、先方から現地打合せをしようという提案を頂いたのですが、あいにく僕の足がまだまだ不整地に耐えられるような状況でなく、会場パートチーフの瀬川君に柵やステージの設置場所の調整をお願いしました。彼に動いてもらえたおかげで非常に助かりました。ありがとう。
実際にレンタルした期間と費用面は以下の通りです。
・柵:8/27~9/1の6日間で60,000円
・ステージ:8/30・31の2日間で160,000円
・解体、搬出経費&諸経費:60,000円
上記に値引き・消費税込々で300,000円でやっていただきました。
 最終的に、僕はこの担当者とお会いすることなく資材手配が進み、ちゃんと指定した期日通りにものがやってきて、引き上げられていきました。柵・ステージが出来上がっているのを見た時は感動しました。金の力は凄い。

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④⑤⑦スポンサーボード、フィニッシュレーン用バナー、大会ロゴ入り横断幕
これらに関しては、手配して利用したサイトを共有します。もうすでに僕が入ったころには発注先が決まっていました。デザインも、案イメージを作ったら楊さん(通称かおりちゃん)が全部デザイン作ってくれたのでもう僕が語ることはございません。神様仏様楊様ありがとう。

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〇スポンサーボード
バナースタンド研究所
https://www.bannerstand-labo-sw.com/
こちらの「アルファエコ」という商品を利用しました。

〇大会ロゴ入り横断幕
https://www.makumaku.jp/
こちらのサイトからターポリン(横180cm×縦150cm)を発注しました。

〇大会ロゴ入り横断幕
フィニッシュレーン用バナーと同じです。
ターポリン(横540cm×縦150cm)を発注しました。

利用金額としては
・スポンサーボード(バナー印刷と足場レンタル費5日分含む):115,646円
・フィニッシュバナー:77,414円(枚数忘れた…16枚くらい?)
・大会ロゴ入り横断幕:18,705円
でした。

意外とロゴが入ったアイテム(スポンサーボード・横断幕)はSNS映えのためには必要だと感じました。
各国の参加者は喜んで写真撮ってくれます。

⑧音響機材
アナウンス用のマイクやアンプ、音声のミキサーを含む「音響機材」です。これは山川さんからのレンタルで賄えました。全日本大会用に増強した音響機材だったので、性能は抜群でした。ただ、当日の朝に配線する必要があるので、雨のたびに雨対策として配線むき出し部分をビニールで覆うという対策が必要&超長い配線を綺麗にまとめる必要があるという当日朝の会場準備で工数を持っていかれる非常に厄介な代物でした。スプリントの日に初めて配線をしたのですが、使い方が山川さんしかわからないという仕様でまずは使用方法の解読から始まりました。最終的に学んだことは以下の通りです。
・ミキサー:マイク、スピーカー接続の設定を担う音響の中心機材。ケーブルを繋ぎ間違えるとマイクから音声が出ない。接続方法はいまだに山川さんしかわからない。
・巨大スピーカー(ラッパみたいなやつ):巨大なラッパスピーカー。2台あり、接続部分が電線むき出しのため、雨の日に触れると感電する。接続部分をビニールで覆う対策が必要。マイクをもって近寄るとハウリングが半端なく、設置個所に注意する必要がある。
・小アンプ:増強前はよく使われていたワイヤレスマイク付きのアンプ。イヤホンジャックが付いており音楽が流せるため、会場BGMを流すときに重宝する。

これらの音響機材の準備を演出班がやっていました。重いし接続方法が特殊だしで扱える人員が限られ、茨城大の七五三くんと東工大の上野君がひたすらこの準備に当たっていました。(毎日会場設営係&備品の設置ばかり任されていたので、「業者」と呼ばれていました)僕もその片棒を担いでいたのですが、足が不完全なためにモノの運搬は全てお任せしてしまっており、非常に申し訳ない気分になりました。

<3.演出物準備>
高額資材が片付いてもまだ準備をするものはあります。
演出物として準備したいものが主に2つありました。
①速報ボード
②観戦ガイド
インカレで見慣れているし、わざわざ用意しなくても…という空気もありましたが、やっぱり視覚的に結果が分かるボードや観戦に必要な情報が記載された印刷物は必要だと判断し、作ることにしました。

①速報ボード
 時間もなかったので、インカレでよく見る青のプラスチックダンボールで作る仕様にしました。張り付ける基盤となるボードは「親ボード」と呼ばれますが、山川さんがもっていたので、山川さんと連絡を取って事前に現地に届くように手配。また、個人の記録を張り付けるボードは「子ボード」と呼ばれますが、こちらは消耗品で大会のたびに用意する必要があるので、事前準備の時に切ってもらいました。小柴君、小泉君ありがとう。
 速報ボードで何を速報するかも悩みました。ラップセンターの速報機能がない時代は、中間タイムを掲示する意味合いが大きかったのですが、ライブリザルト機能が進化してしまった今、速報ボードによる中間タイム掲示はほとんど意味を成しません。そのため、速報ボードの機能を思い切って「結果掲示ボード」と位置付けて、付加価値として国旗を付けることにしました。
 以下、会場デザインと速報ボードデザインの素案をまとめた資料です。

速報ボード仕様

 国旗を付ける、という作業が意外と手間で、紙に印刷した国旗を一定サイズにカットし、ラミネート&裏に両面テープを張ることで、当日印刷されるレシートに添付できるようにしました。また、レシートの印刷位置も国旗添付箇所を開けてもらいました。桑原君ありがとう。
 最終的に出来上がって、添付した速報ボードは以下の写真の通りです。

画像7


 演出としては地味ですが、国際色を伝えるにはよかったと思っています。余力があれば、参加者に持って帰ってもらえるようにしたかったですが、準備時間がなかった関係でそこまでは準備できませんでした。記念品になり、参加者の満足度を高めてくれるアイテムだと思うので、要改善点だと思います。

②観戦ガイド
 競技の準備が固まっていない中だったので、どこまで作れるか不明瞭でしたが、紙媒体の観戦ガイドがあったほうがスタートリストをスマホで見る手間が省ける等ライブ速報性が上がると感じていたので作ることにしました。デザイン案まで凝っている暇もなく、東工大の若松君にデザイン案を依頼。最初はExcelベースのデザイン案が出てきて驚きました。個人的に、最終的な印刷物にするためにpdfファイルにするかPowerpointファイルにしておきたかったので、全てPowerpointに置き換えたバージョンに作り直しました。この制作に取り掛かったのが1週間前準備の時。(スプリント本番を8/27に控えて、8/18に作り始めました。この時点でスプリントリレー、ミドルは未着手)

観戦ガイドデザイン

スタートリストも、Excelベースの表を張り付けて印刷してもよかったのですが、それでは国際大会感がないと思って各選手に国旗を付ける仕様を思いついて本戦全クラス・全選手に国旗を添付しました。

 最終的に出来上がったスプリント観戦ガイドのデザインが以下の通りです。

観戦ガイドスプリント

スプリントスタートリスト


 1週間前準備から現地入りするまでの1週間は、この観戦ガイドを毎夜2~3時くらいまで作って寝て、朝仕事に行って…を繰り返していたので睡眠の感覚がおかしくなりました。ちなみに、この観戦ガイドを作るためにGPS装着者を決めるお仕事とオンラインコントロールの箇所を決める仕事もやったので次章で少し記載します。

〇GPS装着者決定
 大会側として準備ができるGPSの個数が、男女合わせて30個しかありませんでした。そのため、GPSで速報する人数を絞る必要があり、GPSをどのクラスに、誰に装着するかを選定する必要がありました。ジュニア・ユース世代で中心となる”最上位”クラスはM/W20クラスだと位置づけて、20クラスを演出できるように構成しようと考え、GPSの装着者も20クラスに絞ることに決めました。ここから更に悩ましかったのが、20クラス全員に装着すると33名になり、3名だけ装着できない人が出てくること。男子20名に対して、女子が13名だったので、とりあえず女子選手には全員付けて、男子の中で3名だけつけない人を選ぶことに決めました。
注目選手を決める事前に各国から選手の成績を集めていたので、その情報と各国の参加人数を加味することで、不公平感の出ないように以下の基準を作ってGPS装着者選定を行いました。

<GPS装着者選出方法>
①M/W20の選手のみ
②M20 20名、W20 13名なので、W20の選手には全員付ける
③M20の参加国7カ国、装着可能個数は17個なので、2人以下の国には必ず全員付ける
④日本は参加者が5名と最多のため、1名除く。
 顕著な成績を収めている森清、大石を除いた3名からランダムに選出。
⑤台湾、韓国は戦績が明らかになっていたため、順位の高い選手から順番に選出。

この選定の結果、ミドルで優勝争いを演じた金子選手にGPSが付いていないという痛恨のミスを犯したわけですが、会場では「GPSのない男・金子」として注目されていたので逆に盛り上がってよかったんじゃないかなと思っています。ごめんね金子選手。

〇オンラインコントロール箇所決定
 なぜ競技パートじゃないのにこれをやることになったのかいまだに不明ですが、8月9日の時点で全ての競技においてオンラインコントロール箇所が決まっていませんでした。オンラインコントロールは全てで10個、ダブルユニットなので置ける場所は5箇所ありましたが、なんと全コースの共通コントロール0(全競技で)だったので、20クラスから優先的に速報できるようにパズルを開始しました。
 特に難しかったのがスプリントリレーで、各クラスで共通コントロールはあるがその共通コントロールがクラスによって違うという難題がありました。結局コース図とにらめっこして、各クラスいい感じに2回の中間速報が飛ぶようなオンラインコントロール位置5箇所を選定しました。
↓今自分が見てもよくわからないオンラインコントロール選定表

オンラインコントロール

ミドル全ポ

一例としてミドルの全ポ図

たぶんこの通りにオンラインコントロールがつきました。
当日20については速報していて機能していたので問題なかったのだと思いますが、18/16/14クラスについても機能していたかは不明です。さすがに本戦でオンラインコントロール0個はかわいそうかなと思って努力して選びましたが、どれくらいの効果があったかはわからないので、ここまでやる意味があったかはわかりません。ただ、参加者の満足に少しでも繋がっているといいなと願うばかりです。

<4.当日>
 これでようやく当日を迎えられるだけの演出資材がそろったので、当日の演出に関する準備について記載したいと思います。主に準備した内容は「注目選手のピックアップ」と「大まかな台本作り」です。

〇注目選手のピックアップ・大まかな台本作り
演出は、選手の動向を逐一会場に伝える「ライブ感」が重視されるため、実況者とGPS速報頼みでした。しかも、国際大会なのでアナウンスを英語でやらなければいけないというおまけのハードル付き。ここは、海外留学経験&実況経験のある尾崎選手と英語・中国語・日本語・(ちょっとドイツ語)できる楊さんにほぼすべて丸投げでした。
実況は、注目選手の動向とこれからの展望を観客より早く察知し、伝える必要があるので、最新情報の採取が最も重要です。ただ、ライブリザルトを見ていても展望は記載されておらず、また速報が出た段階で受動的に情報を伝えることになるため、観客にとって付加価値がありません。そのため、事前に試合の展開を予測し、注目する選手を決めておくことが重要だと考えました。注目する選手を決めると情報が抜き出しやすくなる(逆に言うと注目選手以外の情報は伝えない、と決められる)上に、ライブリザルトでは追いきれない未来の展開を予測して話ができるようになります。

 以下、時系列順にやったことを記載します。
スプリントの日は、正直初めて会う人もいて演出班としての動きを確認することしかできないと考えていたので、最低限の指示だけ出して初めから諦めて各個人の動きに任せることにしていました。国際大会なのでアナウンスは全て英語でやらなければいけないかな、と思っていたのですが、村越氏より「日本語も入れたほうがいい」というアドバイスをもらい、尾崎選手に依頼しました。実際、観客の中には日本人が多く、またしゃべり続けていたほうが臨場感が出ます。このアドバイスのおかげで、尾崎選手もアナウンスがだいぶやりやすくなって、肩の力が抜けた面白い実況になっていきました。

 話題を戻すと、本格的に準備をしたのはスプリントリレーの日からで、スプリントの成績のおさらいや過去の戦歴などを資料にまとめて、紹介してもらいました。ミドルの日には、更に情報が集まったので、注目選手をピックアップして(色付けされているのが注目選手)、その選手の通過時間も記載しました。

ミドル台本

実際、マーキングした選手の中から入賞者が多く出たため、トップ争いに注目するという意味ではこの方針は間違ってなかったのかなと思っています。

〇Skype実況
あまり記憶には残っていないかもしれませんが、農工大の長井君と協力して、山の中の映像をSkypeで中継していました。ミドルの日は巨大スクリーンが使えた&山の中の電波状況が悪くないので、Skypeのビデオ通話機能を使えば山の中の選手の様子を映し、ライブ感を伝えることができるのではないかと考えて長井君を山の中に派遣しました。
ただ定点観察していたのではつまらないので、スプリント、スプリントリレーで好走していた森清選手をスタートからゴールまでところどころで追う、というコンセプトを作りました。
具体的には、森清選手のスタートまではスタートする選手たちの姿を映し、森清選手がスタートしたら、山の中のコントロールに先回りして、そのコントロールを通過したらフィニッシュに移動してフィニッシュする姿を映すというものです。実際、この3点での撮影はうまくいったのですが、GPSに挟み込むタイミングが難しく、また映像もだいぶ荒かったので選手の姿がぱっとは分からない、という問題点がありあまり注目されていなかったように思います。
ただ、最終的には、GPSのついていない男・金子選手のフィニッシュシーンを映すために活躍したので、まぁ結果オーライかなと思っています。中継用スマホの台数を増やすなど、まだ工夫の余地はある(Skype中継しようと決めたのが前日)ので、使えるときが来れば使えばいいかなと思います。

<5.最後に>
 とりとめもなく書いてきましたが、ここに書いてある内容を全て1か月の間にやり切りました。
 ここに記載していないことも現地でたくさん起こりました。1か月間の睡眠時間が犠牲になりましたし、現地入りするまでどうなるかわからない&足が不完全でどこまで役に立てるかわからない不安と戦いつつ1か月間全力で準備しました。
 結果的には、非常に貴重な経験をさせてもらって、若く実力のある運営者たちとバカ騒ぎしながら運営した運営期間は非常に楽しかったです。大変な運営状況のなかで膝の悪い僕に配慮してくれ、共に苦楽を共にした演出パートの皆さんには特に感謝しています。そして、1年以上の間、大会開催に向けて準備をされてきた実行委員会の方々お疲れ様でした。ありがとうございました。
 過去類を見ないレベルでバタバタした運営でしたが、終わってみればIOFのドミニクさん(だっけ)からも絶賛されていたようです。僕は運営者目線でしか見れませんでしたが、ちらほら聞こえる声を聴くと日本の参加者の評判も良かったようで何よりでした。
 
 この運営で一番僕が大事にしたかったのが、「僕より前からこの大会を運営してくれていた人の負担を少しでも減らすこと」でした。正直、大会の運営は辛いことが多いです。なぜ辛いかというと、ボランティアに「納期のある業務」が発生することです。運営者の中には社会人も多くいますが、会社で働いた後にさらにやらねばならない業務が待っている状況は、心も体も休まらず疲れがたまります。支えるのは自分がやらねばならないという使命感と、やりきった後の達成感です。この使命感・達成感と疲れのバランスで、疲れが上回ってしまうと心身ともに不健全な状況に陥ります。
 オリエンテーリングは好きなのに、運営が非常につらくて離れてしまう人もいるように思います。そのような人が今回のAsJYOC運営で生まれてしまったら嫌だなと思って、多少自分の身を犠牲にしてでも負担を減らしてあげたいと思いました。(膝のケガが重なったこともありましたが)
 
 運営の「辛さ」を軽減する一つの方策としては、運営者に報酬を与える(達成”感”でなく、物理的なメリットがある)ことも重要だとは思いますが、運営のノウハウを伝える「仕組み」があることが重要だと思います。地域クラブ大会やインカレ運営などは組織だってノウハウの共有がされていますが、今回のような有志を募る新しい体系の場合、ノウハウの蓄積がほとんどありません。
 商業目的であると、「オリエンテーリング大会」という共通の商品を提供する事業者が複数いた場合、「競合相手」となるため、その大会の価値に影響する「運営ノウハウを保護し、競合優位性を保つ」という資本主義の競争理論が成り立つかもしれませんが、オリエンテーリング界はあくまで「愛好家の集まり」であり、「組織知を共有することで全体の幸福度を上げる」ことができる業界であると思います。(一部業者の方もいらっしゃいますので議論は必要ですが)
 なので、もっと大会運営のマニュアルや運営記録がシェアされて、その知識を全体共有することで”運営者”として活動するときの情報を得やすい状況というのが出来ればいいなと願っています。その一助に、こうした運営記が役立てばいいなと思っています。(そう思ってAdvent Calendar 2016の記事を書きました)

http://orien-advent.hatenablog.com/entry/2016/12/17/000000

 もっともっと、オリエンテーリング愛好家がオリエンテーリングを好きになれるような、面白い競技だと思って続けられるような、そんな空気と場が広がればいいなと願っています。そのためには、競技会が健全に開催され、競技を頑張る人がリスペクトされる環境、そして競技者と運営者が相互に競技を理解しより歩み寄る姿勢が大事だと思います。そのような環境を作れるように、これからも活動できればと思います。個人的な活動でできることは限られますが、身近にできるところから。

以上、読んでいただいてありがとうございました。




間に合えば、12/9中にもう少し追記します。


結城 克哉

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