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【日本初?】GARMINウォッチだけで計時できるオリエンテーリングアプリ・O-rangeレビュー

オリエンテーリング界に革命をもたらす、と筆者が勝手に感じているアプリが登場した。GARMINウォッチで使用できるオリエンテーリング用アプリ、O-rangeである。

O-range、とネットで検索しても、類似の名のイタリア料理店やおしゃれカフェがヒットしてしまう。
柑橘を文字って探しづらい名前にしてんじゃねぇ!
「O-」を付ければなんでもオリエンテーリング関連のものになると思うなよ!
という声がのどから出かかったが、「O-range orienteering」とgoogle検索することにより解決できるので踏みとどまっている。呼びやすいのでよし。

そんなどうでもいい話はどうでもいいので、さっそく本アプリの紹介をさせていただこう。

1.O-rangeとは

O-rangeは、ノルウェーのオリエンティアが開発し、日本では落合公也氏が窓口を務める「GARMINウォッチ専用のアプリ」である。
公式ページはこちら。
https://www.storler.no/orange/


このアプリを入れると何ができるのかというと、「通過証明をGPSで取ってくれる」しかもそれが「腕時計でできる」のである。
NaviTabiというアプリはかなり有名になったので皆さんご存じだと思うが、そのNaviTabiの機能の一つである「自動パンチ」がある。自動パンチの原理は、「GPSで、スマホの位置がコントロールの半径〇m以内に入ったらコントロール通過したとみなし音で知らせてくれる」というものであるが、O-rangeではそれを「腕時計でできる」というところが凄いのだ。

あんまピンとこない人のために詳述すると、オリエンテーリングにおいて通過証明のためには
「フラッグやユニットの設置・撤収」
「フラッグ・ユニット・Eカード/SIカードといった専用器具」
「計算センターでの記録読み取り」
必要がある。

「フラッグとユニットの設置・撤収」には、特にフォレストでは膨大な労力がかかり、複数人での準備を余儀なくされる。しかもそれは参加者のスタート前にやる必要があり、早起き必須である。イベント後に撤収する必要があるため、なおさらである。

「専用の器具」として利用されることの多いEMITユニット、Eカード、SIといった器具は(ほぼ)オリエンテーリングに専用で、北欧のメーカーから高額で購入するか、日本で取り扱いのある団体からレンタルする必要がある。EカードないしはSIカードを持っていない人のためのレンタル分を調達する、あるいは参加者自身が購入する必要がある。

「計算センターでの読み取り」のためには、参加者リストを作成し、計時器具の番号と氏名を一致させ、またレース後に確実に読み取る必要がある。

このように、かなりの労力がかかるため、通過証明のためにコントロール位置に設置をする、という行為は敬遠され、個人単位ではとてもではないが実施できない。ましてや、練習ではなおさらだ。

GARMINウォッチを用いて、オリエンテーリング中の自分のルートをGPSの軌跡として描き、後で反省に生かす、という使い方をしている人は多いだろうが、O-range経由で事前にコース情報を腕時計に登録しておけば、GARMINウォッチがユニット 兼 Eカード/SIカード 兼 計セン となるのだ。
「設置/撤収がいらない」「ユニット・フラッグ・Eカードなどの器具が不要」「計算センターでの読み取り不要」であれば、作業効率が爆上がりすることが間違いない。

要するに、「オリエンテーリングで負荷のかかる作業の効率化ができる」のだ。DXによる働き方改革だ。
しかも、既存のNaviTabiでは不安要素であった「スマホの持ち歩き」がなくなり、「スマホを落とすリスク」「スマホが競技中に邪魔になる」「フォレストでは使えない」といったデメリットを一気に解決してくれる。

凄さは伝わっただろうか…?

では、このO-rangeを使えばどのようなことが出来るのか?について筆者の案を記載していこう。

2.O-rangeの使い方

基本的な使用方法は、日本語版マニュアルがあるのでそちらを参照されたい。
https://view.genial.ly/5edd4dac66f0540d7b88bc23/presentation-o-range

O-rangeの使い方は様々なバリエーションが考えられるが、基本的にはNaviTabiの「自動パンチ」の延長線上にあるととらえてもらえば差し支えない。
※NaviTabiをご存じない方は、ぜひ以下のページからアプリをダウンロードしていただきたい。競技者向けには、大会がないときにでも、オリエンテーリング/ロゲイニングを楽しむことのできる画期的なアプリだ。また、イベント主催者向けには、より安全な形でのナビゲーションイベント開催の提案(参加者の現在地を一覧表示できる)、また運営の省力化(コントロール設置/撤収不要)が提案されている。
https://navitabi.co.jp/

NaviTabiはスマホでしかプレイできないが、逆にスマホでプレイできることによって
・イベントが探しやすい
・注意事項の記載ができる
・スマホ1台で地図も計時もできる
という、スマホ1台ですべてが完結するメリットがある。

しかしながら、スマホを用いるという点で
・競技中にスマホを持ち歩く必要がある
というデメリットが発生する。
このデメリットは思いの外大きく、
・フォレストで用いると、スマホを山の中に落とすリスク
・雨でぬれた場合にスマホを故障させるリスク
・そもそもスマホを持ち歩くのが邪魔になる
・GPS精度がスマホのスペックに依存する
・バックグラウンドでの自動パンチができないため、画面OFFにできず、画面がOFFになってしまった場合は再度アプリを立ち上げなければならない
といった面が存在する。

筆者も、NaviTabiの自動パンチ機能に感動し、ランニングバックの中でなんとか画面OFFにしないように位置を工夫して使用していたが、「工夫をしても、通常のオリエンテーリングよりは快適さが落ちる」と感じていた。
そして、それがアウトドア仕様のスマートウォッチでできれば耐久性・画面落ちなどのすべての問題が解決する…と思っていた矢先、O-rangeの情報を入手した。渡りに船であった。

上記を踏まえたうえでO-rangeの使い方の話に戻そう。
O-rangeの想定される使い方としては以下の3点が挙げられる。
①NaviTabiのような公開イベント計時の快適化(紙地図×腕時計計時)
②設置/撤収時の位置確認
③フォレスト練習会での設置/撤収省力化

それぞれ、詳述しよう。

①NaviTabiのような公開イベント計時の快適化
NaviTabiでは、誰でも・いつでも走れるオリエンテーリングコースが用意されている。ベースは国土地理院発行の地図であるが、一部はO-map化されて紙地図が用意されている。
紙版の地図がある場合、スマホは自動パンチ用の計時器具として用いることになるが、前述のとおりスマホを持ち歩くことで不具合が発生するので、そのデメリットを打ち消すことができるのがO-rangeだ。
ふらっと紙地図をもって街・公園に行き、腕時計の音で自分が正しい位置を通過したことを判定しつつ、記録も取れ、後でGPSの軌跡を見れば反省もできる…NaviTabiのように、ほかの参加者のログを見ることは出来ないが、整備をすればできるのでは?とも思うので、進化を待つばかりである。

②設置/撤収時の位置確認
フォレストオリエンテーリングの運営者向けだが、オリエンテーリングの相当な手練れでなければ、コントロール設置は非常に難しい。普段は目印のおかれた場所に行けばいいところを、何もないところに自分の力量のみで「正しいコントロール位置」を決めなければならないからだ。
O-rangeは、そのような問題の一部を解決してくれる。
設置をしたいコントロールを登録しておけば、「Course Setting」モードでコントロール位置に近くなったところでウォッチが鳴り、教えてくれる。
こうすることで、ある程度近くにいる確証を得ながら、コントロール設置ができるのである。

③フォレスト練習会での設置/撤収省力化
フラッグやユニットの設置はいらない、ある程度練習になれば…という方向けには、フォレスト練習会をフラッグ設置なしで実施することが出来る。(もちろん、スプリントも)
フォレストのテレインまで行って、事前に登録されたコースを読み込んでおけば、設置/撤収の時間なしで山で計時ありの練習ができる…というのは、かなり魅力的ではなかろうか?運営者ありきで準備されていたフォレスト練習会の運営が、グッとやりやすくなるはずだ。

上記のような使い方は想定されるものの、実際じゃあ使ってみてどうなのよ?というところについては、筆者のレビューを記載していこうと思う。↑まではメリットばかり話していたが、若干使うためのハードルがあることも分かった。

3.O-range使用感レビュー

筆者が使用してみたのは、上記①の使用方法だ。
幸い、筆者は昨年4月の緊急事態宣言下で2枚のスプリント地図を自作し、NaviTabiイベント化していたので、そのコースを用いてO-rangeアカウントでのコース登録、紙地図での実走までをやってみた。

結論から言おう。
「O-range×紙地図でのスプリントは、快適」
だが、
「設定が非常に煩雑」
である。
競技中の使用感は最高だが、準備の手間が大きい…といったところだ。
競技中は、実際にスプリントしているのとあまり変わらない。
判定は若干甘いが…割と十分な精度である。
そういう意味合いでは、
・設定のしやすさ/イベントの探しやすさ=NaviTabi
・競技中のストレスフリーさ=O-range
という感覚だ。

では、実際にどんなことをやってみたか、記載していこう。

Step.1:とりあえずインストール
まずは、お手持ちのGARMINウォッチにO-rangeをインストールするところからだ。GARMINウォッチ用のアプリは、「Connect IQストア」から探す&インストールすることができる。スマホ上でGarmin ConnectとGARMINウォッチをリンクさせた状態で、Connect IQストアにアクセスしよう。
(スマホがない方は、PCのGARMIN Expressで同様の作業ができる)
アクセスすると、下の方に「検索」のタブが出てくるので、そこで「O-range」と検索する。google検索と違い1発でヒットするので、タップしてインストールしよう。インストールまでは少し時間がかかるので、気長に待ってみよう。成功すると、GARMINウォッチのアプリリストの中に「O-range」というアイコンが出現する。

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Step.2:O-rangeとスマホを連携
O-rangeは、スマホとBluetooth接続することでコースをダウンロードできる。日本語版マニュアルに詳述されているが、意外と煩雑なので載せておく。
①O-rangeを起動する
②UPボタンを押し、「Settings」を表示させる
③「Link device」を押し、「Startボタン」を押す
④6桁の数字が表示される
⑤Bluetoothで接続しているスマホでO-rangeのページにアクセスする
⑥「Get started」の項目から「Link your device」のページに
⑦表示された6桁の数字を入力し、「Link」
⑧GARMINウォッチのUPボタンを押す(※Startボタン=ランニングの時に計時を開始するボタン、と間違えるので注意)
これでLinkが完了する。

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Step.3:コースをGARMINウォッチに転送
O-rangeのページから、「Public courses」というタブを選ぶと公開されているイベントの一覧を見ることができる。(左側にイベント名、右側に地図が表示される)
日本ではまだ普及していないので、筆者の登録した「Mitsuike Park Sprint」しか公開されていない。(Publicにせず、プライベートで使用している場合は公開されないので、すでに使用している団体もいるかもしれない)
他はほぼ北欧のイベントである。
運が良ければ、こちらのイベントページに地図データが掲載されているので、そちらをダウンロードしよう。(ためしに、三ツ池公園の「Expert-2」についてはpdfファイルをアップロードしてある)

→追記: 三ツ池公園の地図ファイルは、筆者管理として別途ご連絡いただく形に変更しました。ご使用を希望の方はmoyashibot■gmail.comまでご連絡ください。

スマホ上で、走りたいコースを選択し、O-rangeアプリのメニューから「Load courses」を選択しStartボタンを押すと、選択したコースのデータがウォッチ側に転送される仕組みだ。

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Step.4:スタート!
ここまで出来たら、あとはスタートするだけだ。
紙版の地図を持ち、スタートに向かおう。スタートまでの距離は、GARMINウォッチ上に表示される。デフォルトでは、コントロール位置から5m範囲に入った際に反応するように設定されているので、反応が悪い場合は「Settings→Control radius」からより大きい数字に変更するとよいだろう。

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ここまで準備して、筆者はスタートしたわけだが…
コントロールを通過した時点で、GARMINウォッチから音によるアラートが聞こえ、画面にコントロール番号が表示された。
筆者はGARMINウォッチの中でもマリーン系に特化したハイエンドのモデル「quatix5」(ソフトウェアはfenix5と同等)を用いた。様々な機能があるものの筆者の用途が限られ宝の持ち腐れ感が半端ない。GPS精度も、数m単位のずれで収まっており、スプリントするうえで気にならない程度であった。近年のGPSウォッチの精度の高まりには驚くばかりだ。

ここまで書いておいてなんだが、対応デバイスは限られる。オリエンティアで使用している人の多いForeathleteシリーズなら、230,235,245は対応している。スマートウォッチ仕様のFenixシリーズは5以上なら対応だ。
https://www.storler.no/orange/index.php/articles/58-compatible-devices-version-2-3-3
GARMINウォッチも近年、多機能・多様化が進んでおり、スマートウォッチにもなるVenuやVivoactive、ランナー向けのForerunner(音楽を転送し再生できるForerunner Musicもある)などなど、必要とする機能に応じて価格帯・スペックを選べる仕様だ。
GARMINの公式サイトでぜひチェックいただきたい。
https://www.garmin.co.jp/products/intosports/?cat=new

GARMINウォッチをまだ持っていないという方はぜひご自分のニーズに合わせたウォッチを購入いただき、O-rangeによるスマートオリエンテーリングを体感してほしい。


ちなみに、フィニッシュ後に「Save and exit」を選択すると、普通のランニング記録としてGARMINウォッチの中に記録され、ラップとして各レッグタイムが記録されている形だ。
NaviTabiと違い、他人と記録比較するところまではパッケージ化されていないので、その部分はNaviTabiに軍配が上がるが、ルートガジェットやExcelと組み合わせれば、同じコースを走った知り合い同士であれば記録を比較できるだろう。(ネット上に、手入力で記録を残せる形にすれば、同じコースを走った者同士で比較はできるので、そのようなサービスもやってみたい)

以上が、O-rangeの使用感レビューである。

まとめると、「時計での自動計時最高!」というところだ。

4.最後に

ここまで、オリエンテーリング界に新たな風を吹かせそうなアプリ「O-range」について語ってきたが、いかがだっただろうか。興味ある!という方は、日本にあるPublic coursesを探して、紙地図とGARMINウォッチを用意し一度試してみてはいかがだろうか。
個人で地図作成&イベントを開催することも可能なので、新型コロナウイルスによる大会不足にあえぐオリエンテーリング界を救うべく、お互いにイベントをつくりあい、少人数でのイベントを楽しむ…というやり方もいいだろう。
このアプリによって、よりオリエンテーリングがより身近になっていくことを願ってやまない。

<補足>

以下は、O-range上にイベントを作成したい人向けのStepである。
こちらは、煩雑すぎるので詳細は割愛している。興味がある方はこのnote主までコメントか個人的に連絡をください。

Step.1:地図の作成
ここがまずハードルが高いが…地図を自作した。Open Orienteering Mapperというフリーソフトを用いたので、かかった費用はゼロである。詳細な情報は以下を参照されたい。(安全性の問題からお蔵入りにはなったが、スプリントを広めるために「個人マッパーによるイベント自作」を促進するために作ったマニュアルである。)
■どこスプへの掲載マニュアルver.1
https://drive.google.com/file/d/1xPpjl_pcCCeSrVnv1iMN9Zx0Y4LwHctV/view?usp=sharing
筆者の持っているNaviTabiイベント(川崎駅スプリント、三ツ池公園)に関しては、近々O-rangeのコースを登録予定である。
重要なのは、この地図作成の際、「正しい座標系情報を入力しておく」ことだ。
以下の図を見てもらいたい。

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O-rangeを使うためには、
「地図⇔コントロール位置⇔GARMINウォッチ」
の位置関係が一致する必要がある。
O-rangeは、事前に設定されたコントロール位置の座標とGARMINウォッチの座標が設定距離以内に接近した場合に、「コントロール位置に到達した」と判定するためだ。
そのため、地図は正しい座標系で作成する必要がある。(地図上の点を現実の座標系と位置合わせすることを「ジオリファレンス」という)

Step.2:コースの設定
正しい座標系で作成された地図を用いて、コースを設定する。
コース設定して、最終的に必要なのは「コントロール位置の座標が順番に繋がったコース情報」である。(下のイメージ図参照)
これらの情報がまとまっているのが「IOF XML形式」のファイルであり、最新版のOCADやCondesといったコースセット用ソフトでエクスポートすることが出来る。
筆者はCondesを用いて設定した。
ここで、Step.1のジオリファレンスとStep.2におけるコースセット用ソフト中での座標合わせが非常に重要になるが…細かすぎるので割愛する。あくまでイメージは以下の図の通りだ。

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Step.3:IOF XMLファイルのエクスポート
Step.2までで、位置座標が正しいコースセッティングが出来ていることを確認したら、「IOF XMLファイル」にエクスポートする。

Step.4:O-rangeのWebサイトでIOF XMLファイルを登録する
Webサイトにアカウント登録し、ログインすると、「My course」というアイコンが出てくる。この部分をクリックすると、自分で登録したコースの一覧を見ることが出来る。ここに、「Upload file」というボタンがあるのでクリックすると、ファイル選択画面が出現するので、そこでStep.3でエクスポートしたIOF XMLファイルを選択する。すると、イベント名が出現し、その下にコースが複数、登録される。

O-rangeの座標系イメージ

後の作業は、Public coursesの場合と同様だ。

※注意点:GPSを使うことによる場所の制約
そもそも、GPSの仕組みは「複数の衛星から電波を受信し、それぞれの衛星からの距離を計算することで地球上の座標を割り出す」というものだ。つまり、衛星と電波による通信ができない限り、位置を補足できない。そのため、建物の密集地や、建物内部ではGPS補足が出来ず、O-rangeやNaviTabiによる自動パンチは出来ない。

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