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現実を生きるバービー人形。映画「バービー」感想

公  開:2023年
監  督:グレタ・ガーウィグ
上映時間:74分
ジャンル:コメディ

ピンクはみんなを元気にするメェ~

みなさんは、リカちゃん派だったでしょうか、バービー派だったでしょうか。

本作を見た人で、幼い頃にお人形遊びをしていた人たちは、その懐かしさと面白さに驚くことでしょう。

日本においては、圧倒的にリカちゃん人形が猛威をふるわっていたわけですが、アメリカにおいて、かつての少女たちに愛された人形といえば、バービー人形です。

映画「バービー」は、そんな、かつてバービーで遊んでいた人たちと、何ものかにならなくてはならない、という重圧の中でおかしくなりそうな人たちが見て欲しい作品となっています。

人形遊びの夜明け

映画「バービー」は、「2001年宇宙の旅」を思いっきりリスペクトした場面から始まります。

「2001年宇宙の旅」の冒頭といえば、まだ人類ではなかった頃の、人猿が、謎の存在であるモノリスの影響により、武器をもつところからはじまります。

映画「バービー」においては、女の子の持っている人形といえば、赤ん坊を模したものしかなかった時代に、水着を着たバービー人形という革新的な存在を前に、子供たちが、次々と人形を破壊するという場面からはじまります。

「2001年宇宙の旅」のように、空中にとんだ人形が、バービーという映画のタイトルにかわるところも印象的です。

そんな革命的な存在だったバービーの、ファンタジー空間のような場所で作られたイメージ世界のバービーたちが住む世界、バービーランドが舞台となっています。

マーゴット・ロビー演じる定番バービーは、みんなの中心的な存在です。
いや、バービーランドにおいては、すべての女性がバービーであり、全ての女性が主役というところが重要といっていいでしょう。

いくつもの視点

映画「バービー」が面白いのは、リアルな世界である我々の生きる世界とは異なり、女性が中心の社会ということです。

我々が生きる世界は、今でこそ男女平等があたりまえであり、性差であったり思想信条含めて、一見平等に近しい世界となっています。

ただ、積み重ねられている歴史において、男性中心の世の中であり、今だに女性が不利に扱われる現実もあることでしょう。

映画「バービー」では、これが完全に逆転しています。

バービーの世界観では、あくまで、女性が主役なのです。

弁護士だって、医師だって、大統領だって、女性が成ることができる、夢の国となっています。

物語の前半においては、様々なバービーたちが、ピンク色の美しい世界を、永久に変わらず終わらない楽しい世界を繰り返しています。

ですが、そんな完璧な世界で、突然、マーゴット演じる定番バービーは、死を考え始めるのです。

キャラクターとしての存在に、人間的な生臭さが発生する姿も描いています。

添え物のケン

また、バービーのボーイフレンドであるケンの存在もポイントです。

女性優位のバービーランドにおいて、ケンは、バービーのことが好きな男の子という存在以上のものではありません。ビーチにいたとしても、それは、ビーチで働いている人ではなく、ビーチにいて、バービーの近くにいるだけで幸せ、という非常に都合のいい存在となっています。

ライアン・ゴズリング演じるケンは、進展しないバービーとの関係や、まわりのケンと違って、うまくバービーランドで自分自身のアイデンティティを確立できないでいる存在であり、空回りしてしまっています。

このあたりの、サザエさん方式や、ドラえもん方式で年をとらず、永遠に遊び続けることができる世界に、ビューティフルドリーマー的な感性を持ち込んだあたりに、映画「バービー」の革新性があるといえるでしょう。

ヒールを履くためだけにつま先立ちになっていた足が、ベタ足になり、太ももにはセルライトができはじめたバービーは、自身の異常を解決するために、リアルな世界へと旅立ちます。

物語の構造的には、行って戻ってくる物語となっており、非常に伝統的な構造となっています。

バービー&ケン

現実世界にいったバービー&ケンは、周りから奇異の目で見られます。

スタイルが良く、原色の派手な色使いの服装に身を包んだ彼らは、格好の的といえます。

バービーランドという女性が主人公の世界から、現実に入り込んだバービー。

何も知らなかった彼女は、現実の女性たちを知ることで、少しずつキャラクターから、人間に近づいていくという物語にもなっています。

また、ケンからすると、ひたすら男性が抑圧されてきたり、男性の活躍できない世界にいたこともあり、現実世界における男性社会の有様に驚きます。

男であるだけで敬語をつかってもらえる、と驚くところなどは、一周廻って、我々の世界の、過去からのゆがみが浮き彫りになるような気がします。

ケンは、バービーランドに戻って、現実の世界は、男というのはこういう存在なのだ、といって、みんなを洗脳しはじめます。

男と女

物語の後半は、バービーランドが乗っ取られて、ケンダムになりそうな状態をどうやって取り戻していくか、という話になっていきます。

ただ、そこで行われる男女のやり取りは、それぞれに身につまされるような思いがすることでしょう。

フランシス・フォード・コッポラの「地獄の黙示録」を説明して欲しいと言われて、嬉々として教えてしまうケンたち。

女性を口説くために、ギターで永遠と弾き語りをする。
ただ、そこで、ニコニコと歌を聴いてくれるバービーは、本当に、男に都合のいいような存在であり、同時に、こうやって手玉に取ってもらっているのだな、と感じられるところもであります。

あるいみ戯画化されたようなバービーとケンのやり取りは、悶絶しながら楽しむことができることでしょう。

現実を生きる。

話しはずれますが、Youtubeで「現実を生きるリカちゃん」というのをご存知でしょうか。

リカちゃん人形が、OLとして現実を生きる姿を表現した作品となっています。
スウェットを来て、だらだらしてしまうリカちゃんや、ウーバーイーツを頼もうとしたりと、クオリティが高く面白い内容となっています。

さて、映画「バービー」においては、ある意味において完璧な存在だったはずのバービーが、現実世界を生きる人間から影響を受け、現実世界の辛い現実を知ることで、完璧な存在ではなくなっていきます。

多くのキャラクター達が、バービーランドに残る中、マーゴット演じる定番バービーは、苦しみや悲しみの溢れた現実世界で生きる選択をします。

キャラクター、もとに人形が人間になろうとする物語にもなっているところが、多くの人に刺さった要因なのかもしれません。

もちろん、バカっぽさ全開であり、現実よりも美しいバービーランド等々、見どころは沢山あります。

「変化なんか望んでなかった。変化はイヤ。変化なんかいらない」

バービーは言います。
でも、最後の彼女が選ぶ選択肢こそが、我々にとって必要な物事に繋がっていることでしょう。

マテル社

ちなみに、本作品は、バービー人形を販売しているマテル社の全面的な協力をもって作られています。

にもかかわらず、現実世界が男性社会であるということを強調するために、マテル社の重役に女性は、たったの二人しかいない、と言ってみたり、トップの人間が、ウィル・フェレル演じるかなり変な人だったりと、マテル社の誤解を招きかねない会社陣営となっています。

実際は、ちゃんと女性の役員も多数いるそうですが、女児向けの玩具をつくっている会社の役員が、ほぼ男性という現実への非難含めた描き方に使われて、悪い意味で使われているのに、本作品への公開を許容してしまう、マテル社の懐の深さにも脱帽してしまうところです。

とにかく、派手で明るくて、でも、様々な問題を浮き彫りにしてくれる作品こそが、映画「バービー」となっています。

世の中の矛盾をセリフで、バンバン言い始めてしまったりして、説教臭さがでる部分もありますが、基本的には、暗くなりがちな問題を、明るく楽しく面白くつくっている作品となっています。


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