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えっちでもいい。映画「春画先生」

公  開:2023年
監  督:塩田明彦
上映時間:114分
ジャンル:R15+/ドラマ/エロチック/コメディ

春画といえば、江戸時代に流行した浮世絵の一種です。

浮世絵でいえば、全国各地で展覧会が何度となく開かれ、実際に美術館に足を運んだ人も多いだろう葛飾北斎や、喜多川歌麿といった超有名絵師が、春画を描いていたことは、書くまでもないことと思います。

特に、男女の営みから、果ては、タコとまでまぐわってしまう春画は、いわゆる好事家に愛されるものである一方で、なかなか、現代人にとってすると、一歩引いたところで考えてしまうものではないでしょうか。

映画「春画先生」は、喫茶店のウエイトレスをしていた北香那演じる主人公の弓子が、地震と共に、春画先生と出会うシーンから始まります。

わかりやすく、衝撃が走ったこと、彼女の人生が大きく揺れ動いたことを、大地震で表現するところからはじまる、大変わかりやすい作品となっています。

本作品は、春画そのものが、笑い絵と呼ばれ、決して卑猥で淫靡なものをひっそり楽しむものではなく、笑いながらみんなで楽しむようなものであったという意味も込めて、コメディ作品となっています。

春画の歴史であるとか、人間の業を描いたものなのか、とか考えると、イメージと異なりますのでご注意ください。

文豪のような先生

ライトノベルで「エロマンガ先生」という作品がありますが、春画先生は、身分を隠すわけでもなく、本当に春画に対して一家言を持ち、自らの欲求の為にまい進する人物が登場しています。

突然声をかけられた主人公である弓子は、好奇心に打ち勝つことができず、春画先生こと芳賀一郎のもとへ行ってしまいます。

弓子が先生の家に訪ねていくところの滑稽さも面白いところであり、頼まれてもいないのにどんどん春画を説明し続けるシーンは、見ものとなっています。

物語の前半は、春画というものの魅力であるとか、美術品としての春画を、どのように鑑賞するのか、というところも見ることができ、知らない世界を垣間見ることができます。

お金持ちそうな人たちが集まる会で、貴重品である春画を損傷させないようにしながら、参加者全員で見ることができる装置がでてくるのですが、回転寿司のようにレーンをまわっていく春画を見る人々は、奇妙で大変面白いところです。

春画の魅力

特に、春画が画面いっぱいに映し出されるシーンは、圧巻といえます。

局部がはっきりと移されており、地上波放送では確実にモザイクがかかるようなところが、普通に隠されずに映っていたり、そこばかりに気をとられないように、先生が、文鎮を置いて隠すなど、春画の読み取り方を、弓子に教えるところは面白いです。

前半は、とにかく、たんたんと春画の魅力であるとか、楽しいものをみつけてはしゃぐ主人公を見ることができ、自分が楽しいものに囲まれる主人公の喜びが描かれていきます。

やがて、柄本佑演じる編集者がでてくると、物語は様相をかえていきます。

後半は、ヘンタイ。

春画もまた、日本人がもつ変態性を見事に描いたものとなっているのはゆうまでもありません。

葛飾北斎こと、鉄棒ぬらぬらの作品の一場面である「蛸と海女」の、朗読会が行われます。

もはや人間同士ですらなく、タコとも交わっていく姿をえがいてくると、もはや意味が分からないところですし、朗読会では、登場人物たちの表情と、春画に描かれているセリフの朗読が重なって、笑っていいのかよくわからない不思議空間となっています。

いよいよ、物語が後半にさしかかってきますと、もう、たんなる変態的行為がフューチャーされるようになってきますので、前半のたんたんとした物語に面白さを感じていた人は、置いてけぼりをくらうこととなります。

安達祐実が重要人物としてでてくる後半にいたっては、回転するラブホテルのベッドで、回りながらのやり取りや、遠隔地から声を届けるなど、もはや春画と関係があるのかないのかもわからない作品へとかわっていくことになります。

谷崎的

本作品は、代わり映えのしない日常にうんざりしていた主人公である弓子が、春画と出会うことで、徐々に目覚めていく話となっています。

谷崎潤一郎の処女作である「刺青」のような流れとなっているところです。

「刺青」は、元浮世絵師の職人が、女性に女郎蜘蛛の刺青を彫ることで、その女性が魔性の女になる、というような話ですが、「春画先生」の弓子もまた、春画を先生に教えられることで、徐々に、先生好みの、ヘンタイ的な女性へと変わっていく姿を描いているところではあります。

ただ、前半のキャラクターのほうが魅力的であり、先生好みのいかにもドSなキャラに変貌していくにつれて、人間的な魅力が薄れてしまうのは少々残念なところです。

俳優の演技力

本作品は、とにもかくにも俳優陣の演技が素晴らしいです。

内野聖陽演じる芳賀一郎こと、春画先生の、キャラクターっぽいキャラクターも、演じる人間が悪ければ、とても見れたものではないはずです。

ですが、こんな変な人がいても不思議はないな、というちょうどいい加減の演技となっています。

北香那もまた、大胆な演技と脱ぎっぷりであり、昭和の女優かという思い切りのいい演技となっています。

年齢がまったくわからない安達祐実といい、柄本佑といい、もうちょっと仕事を選んだほうがいいのでは、と思ってしまうぐらい、演技力のある俳優が集まった作品でもあります。

真面目に見ようとすると、主人公の弓子の過去があっさりとセリフで終わってしまっていたり、彼女が春画にはまった背景が全然見えてこなかったり、結局、最後は、春画ではなく、先生の取り合いになってしまっているだけじゃないかとツッコミどころはありますが、そこは、あえて気にしないのがいいところでしょう。

しかしながら、人間だれしも、雷にうたれたように、地震でゆらぐような、作品との激しい出会いをしてみたいものではあります。


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