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『Cosmetic DNA』 大久保健也監督インタビュー!


3/26(土)にシネ・ヌーヴォにて公開される『Cosmetic DNA』の監督を務められた大久保健也監督にインタビューをしました!
映画の内容について、監督ご自身についてもたくさんお聞きしたので是非最後まで読んでくださると嬉しいです。(映画本編の内容についても触れているので、ネタバレ注意です⚠️)


(聞き手:かんな、なつめ)



チア部:この作品を撮ろうと思ったきっかけや経緯などあれば教えてください。

大久保監督:きっかけはですね、僕が小学生の頃って電車の中で化粧をしている女性ってすごく多くて…。あれって最近見かけなくなりましたよね。

チア部:確かに…。見かけなくなった気がします。

大久保監督:それで電車の中で前に座ったときにそういった女性たちを見ていると、全然違う人になるなと思いまして…。母親もあまり化粧をするタイプではなく、女兄弟もいなかったので、それがすごく新鮮で…。自分がしてみたいかと言われたら、特にそういうわけでもないんですけど(笑) いつか映画を撮りたいってなったら、自分の中で女性の化粧についての映画を作りたいっていうのがずっとあって。
今回、『Cosmetic DNA』が初長編の監督作品なんですけど、なにか勝負作を制作するというときに映画祭対策のようなものを考えていて、B級的な血が出るぶっ飛んだものを狙って作りにいこうというのがコンセプトの1つとしてありました。それで、女の子が男をぶっ殺して、その男の血で化粧品を作るところが上手く合致して生まれたアイデアというか。それが一番最初にこの映画を作ろうと思ったアイデアのはじまりですね。
 

チア部:ありがとうございます。登場する女の子の服装が令和というよりは平成っぽさを感じたのですが、そういったところにもこだわりがあるのでしょうか

大久保監督:そうですね…。なんか単純に僕のかっこいい女の子のファッションというか。僕のセンスが平成で止まっているからかもしれません(笑)
でも、今の時代の女の子のファッションというところを意識したというよりかは、単純に僕の美意識で衣装や美術を決めていたので、その結果あのような感じになったという。ご覧になられたお客さんとかもすごい良い映画だけどファッションが10年前だよね、という人もいて、なんか後から言われて気がつきました。僕はどちらかというとファッションに鈍感なほうなので…。でも、ああいうファッションはかっこいいなって今でも思いますね。

チア部:映画の中でも特に注目してほしいポイントやこだわった部分などはありますか。

大久保監督:僕らの世代って、味わったり感じたり、なにかもやもやとした感情を抱いたときに分かったか分かっていないか二元論で考えがちというか…。分かったら終わり、コンテンツとして消費したら終わり とかじゃなくて、109分劇場で観て、なにか圧を感じてほしいというか…。なにか分かる、分からない以前にとにかく体感をしてほしいっていう。
例えば、ユニバでアトラクションに乗るとき、観光客ってあまりストーリーを知らない人が多いじゃないですか。『アメージング・アドベンチャー・オブ・スパイダーマン・ザ・ライド』のアトラクションがありますよね。アトラクションに観光客が乗って、これはどういうストーリーか、今はどういう場面かって考えている方って少ないと思うんですよ。その感覚で『Cosmetic DNA』を観てほしいというのがあります。だから、すごく映像を体感できるような109分にしようという仕掛けがありまして…。途中でフレームの中を映像を飛び出したりとか、すごく細かい0.1秒単位で映像と音楽がリンクしていたりするので。勿論内容も観てほしいんですけど、そういうジェットコースターに乗るかのように肌で体験できるのか、というところをすごく意識して観てほしいですね。


チア部:映画を観ていて音や映像の使い方がすごく斬新というか、他の映画にはないなと思いました。音楽がEDMっぽい感じのものが多かったのですが、監督ご自身はこういう音楽には詳しいのでしょうか。

大久保監督:僕は基本的に音楽はあまり聴かないんです。好きな映画のサントラとかを日常的に聴くんですよね。『Cosmetic DNA』を制作するときに参考にしたのはアメリカの中規模ぐらいの予算感のコメディ映画なんですよ。そういったR15指定ぐらいの大人なジョークが入っていたり、残酷な描写が入っていたりするようなコメディ映画を意識したんですけど、そういう映画って大体EDMがガンガン流れていたりするんですよ。映画のリズム感っていうか…。それはもう無意識レベルで腹の底に溜まっているものがいざ自分が『Cosmetic DNA』を作るっていうときに、流す音楽はEDM的なものしかないという考えがあって!でも、EDMは普段は全くと言っていいほど聴かないですね…。

チア部:よく聴く映画のサントラは、例えばどのような作品でしょうか。

大久保監督:結構最近はベタですね。普通に『グレイテスト・ショーマン』とか『(500)日のサマー』とか…。めっちゃ大学生みたいでベタですね…(笑)あとは『バットマン リターンズ』とか『スピード・レーサー』とかその辺りとかも。好きな作曲家だったらアラン・シルヴェストリが好きですね。ロバート・ゼメキス監督の映画が多くて『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のテーマ曲とかを作った人ですね。あと、『レゴ®︎ムービー』とか『くもりときどきミートボール』、『21ジャンプストリート』とかの映画の作曲をしていたマーク・マザーズボウの音楽とかも聴きますね。


チア部:映画の中で、監督役の方がタランティーノが…とか言っているシーンがありましたよね。

大久保監督:そうですね。2年ぐらい前に事件がありましたよね。あれをちょっとだけ取り上げてみました。あれに関してはもっと突っ込んで描きたかったんですけど…。
映画におけるハラスメントっていうものは大きく分けると2つあると思っているんですよね。1つ目は、映画を利用しての性暴力などの加害が目的のタイプ、2つ目は、映画が好きすぎるあまり映画を制作する過程で倫理観がおかしくなってハラスメントをしてしまうタイプ。前者は論外だけど、後者はまあ許してもいいんじゃないかという風潮があって、僕はすごくそれが嫌いなんですよ。やっていることは同じなんで。
だから、そういう意味でハーヴェイ・ワインスタインは許されないけど、タランティーノは許されるみたいなのがあるじゃないですか。やっていることの内容も種類も違うんですけど…。いわゆるタランティーノ的な有害性をはらんだB級映画至上主義みたいなところの気持ち悪さを感じていて、それをなんとかちょっとでもやっていることは悪いですよっていう。
もしかしたら僕も無意識にやってしまっている可能性っていうのを考えたときに他人事ではないなと。自分も加害者になり得る恐怖感と戦いながらそういうテーマをこれからも扱っていきたいなって思いつつ、それでちょっとずつ社会が変わっていけたらなっていうのをずっと考えています。


チア部:映画の中に2人の男性監督(柴島と吉田)が登場しますが、この2人はどういう風に作り上げていったのか気になりました。

大久保監督:最初に、物語の構成として発生したというよりは、そもそも日本における性暴力のさらっと許されてしまう気持ち悪い風潮みたいなものは絶対に最低だっていうのを言いたくて。
最初から性暴力について突き詰めて制作しようというのがスタートだったんです。そこから加害者側を描いていくときに、過去の大学生のヤリサーの人たちの話とかをずっとネットで調べていたんですよ。もう調べていたら気が狂いそうになりますよ。本当にこの世の終わりだなと思うような事件が、特に2000年代に差し掛かる前とかにいっぱい日本にはあるんですけど…。いわゆる、やりたいだけの男をキャラクターとして描こうと考え始めたんですけど、僕の周りにはそういった人が居ないんですよね。そういった人が周りにいないのに描こうとすると、どうも漫画っぽくなるんですよ。漫画っぽいキャラクターっているのは漫画的な面白さはあるけれど、映画の中のキャラクターにはなり得ないっていう僕の美学があって…。そこで生身の人間っぽさっていうのを足していきたいなとなって、自分の中のひきだしを出していくしかないんですよね。だから、映画を撮りたいけれどなかなか撮る機会に恵まれなくて、恋愛をしたいけどなかなかできなくて拗らせていた頃の自分の中にあるドロッとしたものをちょっとずつ出していくのと、映画の中の2人のキャラクターの有害性に絡むようにって。だから結構自分のダークな部分を無理やり引きずり出すという結構しんどい作業をしながら柴島と吉田というキャラクターを作っていきました。

チア部:映画の中に大阪にあるアメ村の場所が結構出てきました。アメ村にある雑貨屋さんやカフェなどのスポットは事前に調べてから撮影された感じでしょうか。

大久保監督:アメ村のスポットとかに関しては柴島役を演じている西面さんと僕の二人三脚で制作等をしたのですが、ずっと何日もアメ村を歩き回って、その場でロケ地交渉をするという感じですね。だから、結構ネットで決めてから行くというよりかは、本当にふらっと歩きながら、コスメの絵的に合いそうなものを見つけて、交渉して駄目だったら次。最低このシーンには雑貨屋が何箇所いるかを僕が言って、頑張ってクリアしていくというのをずっと感覚だけでやっていましたね。

チア部:その探す期間というのはどのくらいかかったのでしょうか。

大久保監督:映画全体だったら、準備は3ヶ月ぐらいですかね。でも、ほとんど毎日何かしらやっていた記憶があります。アメ村だけでも1週間ぐらいはかかったんじゃないですかね。

チア部:映画を観ていて、自分も行ったことのある場所が出てきたのでわくわくしました。

大久保監督:大阪に住んでいない人からしたら大阪に見えないような撮り方を心掛けたんです。とにかく綺麗な街に見えているといいなと考えていました。

チア部:監督はご自身が中学生の頃から映像作品を作り始めたということですが、そのきっかけを教えてください。

大久保監督:きっかけは大きく分けて2つあります。

1つは中2(14歳)の終わり、つまり2009年の末に『アバター』が劇場で公開されてそれを観たことです。それを3Dで観た時に、もう頭割られる衝撃を受けて、全身に汗をかいて体が熱くなって、こんなにすごい映画があるんだ!っていうとてつもない体験をしました。それまでは漫画家とか小説家とか画家になりたいっていろんなこと思ってたんですけど、その瞬間、「あ、俺は映画監督になるためにこの世に生まれてきたんだな」って思ってしまいました。それからもう13年くらい、ずっと2009年末のあの衝撃が忘れられなくて。『アバター』って今のところ世界で一番売れてる映画じゃないですか。だからなんとか、あの記憶と記録を塗り替えたいなっていう気持ちで今までずっとやってきてるって感じですね。

もう1つは、中学生の時に文化祭の出し物を自由に作れるっていう企画があって、その頃映画が好きになって映画を作ったことです。そのとき好きな女の子がいたので、その子に捧げる映画を作ろうと。その女の子は出てないんですけどね(笑) 出てないんですけど、その女の子が観た時に何か自分の思いが伝わったら良いなという思いで10分くらいの短編を作りましたね。多目的ホールでみんなが観てる時にその子が入ってきてちらっと観て、さーっとそのまま出ていくっていう(笑) 全然観てくれなかったっていう…。でもあの子のおかげで最初の一歩が踏み出せましたね。

チア部:その短編映画はどんな内容だったんですか?

大久保監督:中学校に火の玉が現れて、その火の玉を捕獲しようとして頑張っていくけど、その過程でみんなと仲間割れしていくという内容だったと思います。その火の玉っていうのが自分の好きな女の子の象徴みたいなことだったんですけど。今説明すると結構気持ち悪いですねこの話(笑) その理想の女の子を、自分と自分の友達が追いかけてずっと走ってるのを、デジカメの動画機能でずっと撮ってましたね。まだ残ってるんじゃないかな?

チア部:監督は大阪出身で大阪在住ということですが、大阪や関西のミニシアターや映画館の思い出があったら聞かせてください。

大久保監督:やっぱり2009年の『アバター』の体験がすごかったですね。
また、大阪吹田に、日本で一番大きいスクリーンでIMAX映画上映できる、109シネマズ大阪エキスポシティという映画館があるんですが、2016年そこのオープン前試写にたまたま行く機会があって、そのとき初めてロバート・ゼメキス監督の『ザ・ウォーク』を3Dで観たんですよ。ワールドトレードセンターに綱渡りで40分間渡ったフランスの大道芸人の伝記映画で、その綱渡りシーンを3Dで観るっていう。それがもうとてつもなくすごくてですね…めちゃくちゃ泣いて、その後映画館で8回くらい観ました。「こんなに美しい映画がこの世にあってはいけない」ってTOHOなんばの別館で観て思って、千日前通りを泣きながら歩いてたりして。あれはもうすごかった…忘れられない体験ですね。

だから、面白い映画は映画館で観ても家のDVDで観ても面白いっていう説があるけど、僕あれ全く信じていないです。映画は映画館で観るために僕は作ってるし、みんな作ってると思うんです。別に映画館で観る映画より家で観る映画が劣ってるとは思わないですけど、その2つは全く別の体験だと、これからもいろんな形で訴えていきたいって思ってます。

チア部:昔から結構映画館で映画を観ておられたんですか?

大久保監督:そうですね。かなり映画館で観るタイプの人間でしたね。だからあんまり古い名作とかは観てなくて、リアルタイムで観た映画ばっかり好きになってます。

『アバター』後の2010年は、夏はピクサーが『トイ・ストーリー3』で、ドリームワークスが『ヒックとドラゴン』っていうすごい年でした。中島哲也監督の『告白』も観てすごい感動しました。その年は深作欣二監督の『バトル・ロワイヤル』の3Dリバイバルもありましたね。

そんな感じでずっと映画館、高校時代も毎週土日は映画館行ってました。

チア部:影響を受けた監督や作品というと、先ほどの話につながってきますか?

大久保監督:そうですね。影響を受けたのはやっぱりジェームズ・キャメロン監督の『アバター』と中島哲也監督の『告白』、この2本が大きいですね。あとは『ブラック・スワン』のダーレン・アロノフスキー監督も好きですし、『LEGOムービー』とか『くもりときどきミートボール』のフィル・ロードとクリス・ミラーのコンビ監督が好きで、狂うほど何回も観てます。

チア部:好きになった映画は何回も観られますか?

大久保監督:新作観るのがだるくても、好きな映画だったら何回も繰り返し観れちゃうタイプですね。好きな映画の好きなシーンを100回、200回レベルで観てます。それこそ中島哲也監督の映画とか、コマ送りで観てはどうやって編集してるんだろうって研究してます。

チア部:学生時代に観ておいた方が良いと思う作品や学生におすすめの作品がありましたら教えてください。

大久保監督:ええ~何ですかね。めちゃくちゃ迷いますね…。モラトリアムの時期に観てた方が良いみたいなニュアンスですよね。『(500)日のサマー』とかだと鉄板なんですかね。

ああ~でも…『ルビー・スパークス』をおすすめしたいですね。スランプ状態の小説家が理想の女の子を主人公に小説を書いてたら、ある日突然その女の子が自分の目の前に現れて同棲してる状態になってるっていう、筋書き自体はラノベっぽいんですけど。そこから男の根本にあるドロドロしたところとか恋愛する上で誰もがぶつかる価値観の壁とか男の気持ち悪いところがぐわーって描かれてるんですよね。学生時代にとにかく恋愛映画を観たら良いんじゃないかな、と。僕自身もっと観てたら良かったなって思うので。結構メンタルが丈夫なときに観ないとやられる映画になってるので、良かったら皆さん!という感じです。

チア部:今作『Cosmetic DNA』は劇場デビュー作ということですが、今後はどんな作品を作っていきたいとか考えておられることがありましたら教えてください!

大久保監督:『Cosmetic DNA』の次の長編映画(『令和対俺』)が1本できあがっていて、それが去年のゆうばりファンタ2021でシネガーアワードっていう賞をいただきました。それは売れない漫才師が売れないまま恋人とどう折り合いをつけていくのかっていう内容で、長回し多めで画面もほぼ白黒っていう『Cosmetic DNA』とは真逆のことをやってるんですよ。だからその次、3本目の長編映画はそのどちらとも違うものを作りたいと思ってます。今はすごくカーチェイスが撮りたいっていう漠然とした思いがあります。『ワイルド・スピード』とかを観るとすごくテンションが上がるじゃないですか。でも「どこの国やねん」「どの地域のどの景色やねん」みたいな、そういう意味ではテンションが上がらない。日本人として、日本の見知った景色の中で、車がめちゃくちゃ走ってぶつかり合って街がぶっ壊れるみたいなのを観たらめちゃくちゃテンションが上がると思うんですよね。70年代、80年代は結構あったんですけど、今は道路の許可取りとかがなかなか難しくてっていうので、大人たちは作る前から諦めてしまってるんですよ。僕はまだ20代なので若気の至りでそういうことをやりたいなと思ってます。最初からできないって諦めるには自分はまだ若いと思ってるので、いろんな人にカーチェイスやりたいですってずっと言ってます。ストーリーはできてないのに、漠然とカーチェイスがやりたいっていうのが今の僕の思いです。

チア部:カーチェイス、めちゃくちゃ観たいです!

大久保監督:ありがとうございます!

チア部:それでは最後に、シネ・ヌーヴォで3月26日から公開の『Cosmetic DNA』を、大阪で観るお客さんにメッセージをお願いします。

大久保監督:この映画は元カノに振られた後のバッド中のバッドな精神状態で、しかも大阪で作った映画なんです。死ぬ気で作って、その当時の自分のすべてが詰まっています。「大阪映画で御座い!」っていうつもりはないんですけど、精神的に大阪とつながった映画であることは事実なので、大阪人として大阪の気迫みたいなものを、「大阪人が大阪で撮ってもここまでできるんだ」っていうのを、画面越しに感じていただきたいです。

『Cosmetic DNA』
2020年/日本/109分
監督・脚本:大久保健也
出演:藤井愛稀、西面辰孝、仲野瑠花、川崎瑠奈、吉岡諒、石田健太
公式HP→https://cosmeticdna.net
3月26日(土) 大阪九条シネ・ヌーヴォにて公開!

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