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『土手と夫婦と幽霊』インタビュー

先日、『土手と夫婦と幽霊』の監督と脚本を担当された渡邉高章監督と、俳優の星能豊さん、カイマミさん、作中の音楽を担当された押谷沙樹さんに映画チア部大阪支部でインタビューを行いました。

今回の『土手と夫婦と幽霊』のお話から好きな小説のお話、これまでの人生のお話や不思議な体験のお話まで様々なことをお話しいただきました。刺激的で、考え方のヒントを得られる時間でした。改めて、『土手と夫婦と幽霊』の渡邉監督、星能豊さん、カイマミさん、押谷沙樹さん、ありがとうございました。是非『土手と夫婦と幽霊』をシネヌーヴォでご覧になった方やこれから観ようと考えている方、様々な方に読んでもらいたいです。

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チア部:『土手と夫婦と幽霊』を企画したきっかけを教えてください。
 
渡邉:僕は普段、短編映画を作ることが多いので、この作品も当初は短編映画の予定でした。その時は『土手と夫婦』というタイトルで、20分くらいの作品を目指していたんですが、その途中で他の作品を撮ってしまったり、仕事が忙しくなってしまったりして『土手と夫婦』の撮影に入れなくなってしまいました。その時に、主人公の男が小説家であるし、映画ですが文学的なエッセンスを含ませたかったので、原作小説を書いてみようと思い立ちました。そして出来上がった小説が『土手と夫婦と幽霊』です。タイトルに「と幽霊」が付いた分、中編の映画になり、国内外の映画祭で様々な評価をいただいて、逆輸入という形で劇場公開にこぎつけたという流れですね。
 
チア部:文学的な余韻をこの映画から感じて、見終わった後も映画が続いているような感覚になったのですが、小説っぽくしたいというようなことを考えましたか。それとも、小説と映画を切り離して考えられましたか。
 
渡邉:僕は、本を読むとき純文学とか難しい本ばかり本棚からとって、分かってるのか分かってないのか、そんな読後感を楽しむふしがあって。この映画も分かってほしくないわけでは決してないのですが、文学小説を読んだ後のような読後感を映像で示せないかなと思って試行錯誤しました。だから、文学的な余韻が続いてくれたという感想はとても嬉しいです。
 
チア部:キャスティングについてご質問させてください。星能さんをはじめ、カイマミさんや、佐藤さん、舟見さん等、監督の他の作品にも出演されている方々が多く出演されていますがどのように決められたのですか。
 
渡邉:当時の僕は、演出や制作、撮影、録音など自分1人でマルチなことをやるというスタイルでした。色々な役者さんともやってみたいんですけど、コミュニケーションが増えてしまうとその分現場での時間が必要になるので、『土手と夫婦と幽霊』に限って言えば、今まで一緒にやってきて気心知れた俳優さんたちと一緒にやろうと最初に決めました。実は、カイマミさんは、原作小説を書いてる時点で演じてほしいなという気持ちがありました。主人公を演じた星能さんより先にカイマミさんのキャスティングをイメージしました。
 
チア部:モノクロの映像がとてもかっこよかったです。モノクロにした理由を教えてください。
 
渡邉:元々はカラーで完成する予定だったんです。カラコレの際に色々と試したのですがどれも納得いかず、一度モノクロを試してみたら、モノクロ以外考えられなくなりました。モノクロが良かったと言ってもらえると有り難いんですけど、自分としては元々計算していたものではないのでちょっと恥ずかしい気持ちがあります。
 
チア部:カイマミさんにご質問です。俳優業をされていますが、どういった経緯で始めようと思われましたか。
 
カイマミ:小学生の頃、父親に連れられて新屋英子さんという女優さんの一人芝居を見て、感銘を受けました。たった1人でおばあちゃんが2時間のお芝居をするということに衝撃を受けたんです。13歳になったときに新屋英子さんが二人芝居をするというオーディションを見つけ、新屋さんに会いたいがためにオーディションを受けました。そのオーディションに合格したことがきっかけで本格的にお芝居を始めました。なので、演劇がスタートで、映画は遅く28歳の頃から足を踏み入れた形になります。


 
チア部:カイマミさんと星能さんにご質問です。食事のシーンがとても印象的でした。不味そうに食べる演技と美味しそうに食べる演技ではどちらが難しいですか。
 
星能:美味しそうな演技をするほうが難しいと思います。何をするにしても演じることは難しいですね。
 
カイマミ:今回に至ってはご飯が美味しかったので、それを不味いって言葉にしたり表情に出したりするということは相反することをしないといけなかったので難しかったですね。星能さんと一緒に「不味い不味い」と言いながら食べました。このシーンはよくお客さんからも、面白いとお声をいただくので、届いたということを考えると不味いという演技の方が簡単とは言いませんが、やりがいがあったのではないかなと思います。
 
チア部:ご飯についてお聞きしたいです。女が一番最初に食卓を囲むシーンで食べているぷりぷりっていう音がするご飯は何ですか。
 
カイマミ:たくあんじゃないですかね(笑)。
 
渡邉:コリコリ音がするたくあんは、分かりやすいと思って使いました。


チア部:音楽についてもお聞きしたいです。押谷さんは、音楽を制作する上でどんなことを意識されましたか。
 
押谷:まず最初に監督からこんな風にってラフマニノフの曲を提示いただいて、それがこの映画のテーマ曲になるものだったので、音楽制作の軸になりました。意識したことは、その場面に流れている空気のように溶け込ませることです。今回の映画にはずっと流れている独特な世界観があって、そこに音楽が入ると、感情とか色々なものを作用させてしまうじゃないですか。それで、色々なアプローチをして、空気のように溶け込ませることが最も心地よく映画にはまるなと、作っていて感じました。
 
チア部:他の映画の音楽を作ったことはありますか。
 
押谷:映画に関しては渡邉監督とはずっと一緒にさせていただいています。これまでの信頼関係があるので、いつも任せていただいて、のびのびやらせてもらってます。映画は渡邉監督との作品がほとんどです。


 
チア部:皆さまご自身についてもご質問させていただきたいです。学生時代に影響を受けた映画や音楽があれば教えてください。
 
渡邉:僕はザンパノシアターという屋号で映画を作っているのですが、そのザンパノは、フェデリコ・フェリーニ監督の映画『道』に出てくる主人公の名前です。フェリーニの映画にはとても感銘を受けました。映画ってこういうことなんだと感動して以来、フェリーニの映画は何かにつけ見ています。
学生時代は、当時いっぱいあった二番館で、深夜のレイトショーや監督特集を好んでよく観ていました。その頃はまったのは、日活ロマンポルノとかATGです。特に神代辰巳監督特集によく行きました。足繫く通った映画館はほとんどなくなってしまっていて残念ですね。
 
星能:僕は高校を卒業してすぐアパレルに就職しましたが、その時に印象に残っている映画は正直ないです。友達の美容師さんなどもそうですが、接客をする上で一つのネタとして映画を観ておかないといけない環境だったので話題のハリウッド映画ばかり観てました。
その後、上京して一年間劇団の研修生として勉強をしました。その劇団に来る講師の先生が映画監督ばかりだったんで、その方の作品を見たり、講師の先生におすすめされた映画を見たりしましたが、映画というよりかは舞台に影響を受けることが多かったので、俳優を志すきっかけになった映画は実はないです。
 
カイマミ:子どものころから芸術全般に興味があって、写真や絵にも興味があります。映画だけではなく芸術に関わる全てのものに影響されてきたのではないかなと思っています。
 
押谷:私は小学生くらいの頃に、映画音楽で知られているエンニオ・モリコーネというイタリアの作曲家のメロディーを聞いて、メロディーというものの存在に初めて感動しました。なので、映画を見終わった後もそのメロディーを聞いたらそのシーンが思い浮かんだりする、そういうものへの憧れが自分の中に無意識にあります。そこから映画音楽を作りたいなって思っていたので、今回スクリーンで上映されることはとても嬉しいです。
 
チア部:好きな小説はありますか。
 

渡邉:学生時代でいうと中上健次の小説は読破しました。僕は好きになるとその人のことを知りたくなるので、出身の和歌山の新宮市に足を運んでお墓参りもしました。中上健次をきっかけに坂口安吾も好きになって、出身の新潟に行って所縁の場所を歩いたりしました。好きになるとそういう風にずっと追ってしまいます。星能くんは何か好きな小説はありますか。『土手と夫婦と幽霊』はどうですか。
 
星能:それはもちろんそうですけど(笑)。
中学生の時とかはかっこつけるわけじゃないですけど、西村京太郎とか赤川次郎とかそういうのを読んでましたね。僕が卒業した小学校が、泉鏡花と徳田秋声の母校でもあって、読まないといけない環境でもあったので『高野聖』とか『あらくれ』は読みましたね。『蜜のあわれ』の室生犀星も石川県出身で、読みました。
最近は薦められて読むことが多いですね。映画のイメージ的なものとして、アンナ・カヴァンの『氷』を読んでみてくださいと言われて読みましたが、全然意味わからなかったですね。それを読んでから作品に参加して、「どうでした?」って言われたんですけど分からなかったんで「分かりませんでした」って言いました。
 
カイマミ:素敵や(笑)。
 
星能:嘘をつけないんですよね。でも、撮影でご一緒した監督やキャストさんからすすめられた本や映画などはなるべく買ったり観たりしていますね。
『土手と夫婦と幽霊』も渡邉さんに読んでみてって言われて読んだんですけど、はじめは全然分からなくて、撮影をして、映画を見てこういうことになるのかって体験して理解できました。
 
カイマミ:私は皆さんほど小説は読んでいないと思いますが、学生時代は江國香織さんや山田詠美さんや村上春樹さんをさらさら読む程度でしたね。家にある本は小説より、写真集のほうが圧倒的に多いですね。だから、好きな小説って言われると難しいんですけど、写真集だったら、藤代冥砂さんの『もう、家に帰ろう』っていう写真集が好きです。
 
押谷:私は本を読まないので、好きな小説は言えないです!
 
チア部:渡邉監督は多摩川、星能さんは金沢、カイマミさんと押谷さんは大阪を拠点にして活動されています。私たち映画チア部大阪支部も、シネ・ヌーヴォを拠点にして活動しているのですが、皆様はご自身の活動拠点になにかこだわりや目的はありますか。
 
渡邉:僕の映画の作り方は、自分の生活がある場所から始まるので、多摩川にこだわりがあるというより、自分がいる場所が多摩川だったという感じです。知っているところで始めるのが、自分の映画を作る近道なのでそうやって作っています。もし、大阪に引っ越したら、淀川で撮影するかも知れないですね(笑)。
 
星能:親父が亡くなってからしばらく東京で活動していたんですけど、3.11があって母親が実家の金沢で1人なので不安なこともあって戻りました。監督も言ってましたが、僕も、「生活」が大きな理由です。東京ってたくさんチャンスもあるんですけど、人が多すぎるので時間の流れがすごく早いんですよね。気が付いたら1日が終わっていて。もちろん俳優やりたい人がたくさん集まっているので、その中で俳優同士のライバル心みたいなものを、東京にいるともろに受けるんですよね。でも、金沢にいると周りにそんな人がいないので、そういうストレスがないですね。おかげさまで、渡邉監督や他の監督にも声をかけてもらって自分がしたいときにするというスタンスで活動できています。元々僕は金沢を好きではなかったんですが、一度東京に出て戻ってみると金沢もいいもんだなと思いました。
金沢は、芸術や工芸などに力を入れているところが結構あるので、比較的活動しやすいところにいるのかなと感じます。
 
カイマミ:26歳の時に病気になって、28歳の時に映画を芸術としてではなく、自分が生きた記録として残ればいいなと思って、初めてオーディションを受けました。その時の映画が元旦那が監督の映画で、それをきっかけに他の映画にも出演して、離婚したと同時に大阪に戻ってきました。そんな中、渡邉監督にお声をかけていただいて『土手と夫婦と幽霊』に出演しました。『土手と夫婦と幽霊』出演後は、お芝居をしていないんですけど、これから年を重ねて、色んな人生経験をして、もっと傷ついて、もっとぼろぼろになって、もっと幸せな美しい世界を見たときに、必ず大阪で一人芝居をしたいと思っています。
 
押谷:東京に住んで活動していた時期もありました。今は大阪で活動していて、やはり自分が生まれた場所は自然体でいられるなと感じています。ものを作る上で、自分がリラックスできる場所にいるのはすごく大事だと思っています。でも、今はどんな場所にいたとしても人と繋がれる時代なので、常に遠い場所とも繋がっているという意識をもって音楽を作りたいですね。
 
チア部:モノを作る上で一番大切にされていることは何ですか。
 
渡邉:学生時代の僕は苦学生で、当時は映画を作りたくても余裕がなくて色々なことを考えられなかったし、映画を観るだけで精一杯でした。私の場合、生活というか映画を作る上で基盤がないと何もできない。そういう意味では、家や家族があったり、稼ぎがちゃんとあったり、そういう部分が一番大事かなと思います。
 
星能:目の前で起こっていることに対して、きちんと感じとった上でお芝居ができたらいいなと思います。あとは、縁や出会いを大切にして活動しています。知り合った人とは何度も会いたいと思うし、そういう人たちと作品を作りたいと思って活動しています。新しいところにどんどん踏み込んでいけとか言われたりするんですが、僕はそうは思っていません。渡邉さんとは何度もご一緒させていただいているんですけど、飽きることがなくて。関係性があるからこそ新しいものが作れることもあるし。そういう人との繋がりを大切にしています。
 
カイマミ:大阪芸大を受けるときに受験科目がお芝居をすることと、チア部さんからいただいた質問をディベートすることだったんですよね。18歳の私がもの作りをする上で何が大事だと思いますかという質問に対して、テーマ、技術、感情、これらの3つがそろって初めて素晴らしい作品ができると思いますと答えたことを思い出しました。3つのうちどれか一つでも欠けてしまったらお客さんに届かないからです。このようなことを答えて大学は無事合格しました(笑)。でも今は、生きてその場に立つということほど素晴らしいものはないなと思います。命をもってカメラの前に生きて立つということが何よりも尊く、大事なことだなと思っています。
 
押谷:作品ごとで、変わってきたりもするんですが、共通して言えるのは、作品に嘘がないようにするということや、真摯に音と向き合うということです。
質問から少し話がそれますが、渡邉監督はいつも何か作っているので、そのことに私はずっと力をもらっています。作らざるを得ない方なんだなと思います。渡邉監督と一緒に作品を作ることで自分でも思っていないような音が生まれることもあるので、ドキドキしながらいつも楽しませてもらっています。
 
チア部:皆さんは何からインスピレーションを受けますか。
 
渡邉:「子ども」ですね。作品に良い影響をもらっています。僕は映画のために部屋にこもって脚本書いたり編集したりするんですけど、子どもからすると自分たちに興味を持って欲しいわけですから映画とかどうでもよくて。僕はちょっと待ってとか、これ終わったら行くからとか言うんですけど、子供にとっては今が一番大事な訳で。毎年1本2本作ってるんですけど、どこまで続けられるかなというのはありますね。それは、別に子供のせいにするわけじゃないですけど、自分の興味の大きいところが「家族」なので、そういう意味で、どこまで映画を続けられるのかなっていう部分は常にあります。質問からちょっと離れてしまったんですけど、僕はそんな感じです。
 
星能:「人」と「生活」ですかね。出会った人にたくさん影響を受けているし、生活があって、その生活の中で何かを想って、それをテーマに映画を撮ってる人って多いと思うんですよね。だから自分はその人と生活にインスピレーションというか影響を受けて今も過ごしてるんじゃないかなと思います。
あと、撮影のために移動する時間も結構好きだったりしますね。例えば、大阪からだったらサンダーバードっていう特急で金沢に行くんですけど。サンダーバードって何って思いながら行くっていうか。雷鳥じゃないですか、サンダーバードって。なんでわざわざサンダーバードって名前にしたんだろうって思っている時間とか、僕にとっては大事だったりするんですよね。金沢の何もないところから大阪に行く途中のどんどん変わっていく流れる景色を見ているのが好きです。その時に、ここでこういう映画を作ったらどうなるんだろうとか、僕はこういう場所にどういう役で呼ばれると面白い映画になるんだろうとか、そういうことを考えるので、インスピレーションを受けることに関しては、やはり人と生活ですかね。
撮影で行く場所で、元々そこに住んでたっていう人の役があったりすると、その場所に自分が馴染んでる雰囲気を出すのがすごく難しいなって思っていて。だからその雰囲気をどう出したら良いのかっていうのは、毎回テーマとして悩むところなんですよね。


 
カイマミ:今現在は168cmで体重は50kgくらいで、でも本当に病気が最大限に悪い時、 168cmで38kgまで落ちてしまって。全く何も食べられなくて栄養は全部点滴。光があるところは無理なので、全て朝から夜まで真っ暗な中でいて、お手洗いに行こうと思ってもベッドからお手洗いの間で倒れてしまったり。そんな病気をしたことによって、当たり前のことがすごく尊いことなんだと気付いたんですね。今だったら元気に外にも出るし、みんなとご飯も食べれるし、でも当時は私の人生終わったって思ったことがあって。食べたくても食べられない。母親が涙を流しながらご飯を持ってこれだけ食べて、食べてって言 われることに対して、食べれない、食べれないのお母さんって葛藤があったり、そういう落ちるところまで落ちて命もとても危険なところまでいったので、その場で生きていくことの尊さっていうのを凄く感じました。だからインスピレーションを受けるとするならば、当たり前のことをどれだけ尊いものだということを忘れずいるかっていうことで、人間はなんでも慣れることによって進化が生まれていくんですけど、普段の景色にもちゃんとしっかりと感ずる心、当たり前のことから感じられる人でいたいなって思うし、そこからインスピレーションをもっていけたらなって私は思ってます。だから、人は生きているだけでインスピレーションを受けているのではないかなって思います。
 
星能:僕らは脚本をもらってセリフを覚えたりするわけですけど、監督だと脚本を書いたりとか、沙樹さん(押谷)だと音楽なんで音を作らないといけないじゃないですか。どういう時に音が降りてくるかとか、脚本ってどういう時に思いつくかとか、それってインスピレーションだと思うんですよね。それを、お聞きしたいです。
 
渡邉:僕は本当に脚本は書かないと書けないですね。降りてくるということは僕は全くなくて。今もショートフィルムの作品を書かなきゃいけないんだけど、時間はまだあるからと思って、ずっと何もしてないと全く何も書けなくて。やっぱり机に向かったり喫茶店でコーヒー飲みながらノートに向かったりとか、書こうとしないと書けないですね。でも、映画を作る衝動は書きたいものというよりはイメージが先です。『土手と夫婦と幽霊』の場合は、ラストシーンの夫婦の姿とか、登場人物たちが土手を歩いていく姿とかああいうイメージが先にあって。どちらかというと前後の物語を机に向かって考えて膨らませていきました。一つ不思議なのは、物語を転がすアイディアが生まれるのは、大体乗り物に乗っている時が多いです。電車移動している時や自転車に乗っている時にストーリーの展開を思いつく。それはどこか目的に向かって流れているっていうことが自分の身体に何らかの影響を与えているのかなと思います。だから机に向かわなきゃいけないのと、乗り物に乗らなきゃいけないっていうのは、脚本を書くときの条件としてあります。沙樹さん (押谷)はどんな感じですか?
 
押谷:渡邉監督との作品作りでは、それこそインスピレーションを受けまくりです。基本的には悩んで悩んでというよりは、こんなのいいかも、あんなのいいかも、とアイディアを掻き立てられることが多くてとても楽しいです。今回のテーマ曲は参考曲はもらったんですけど、あんまり聴きすぎると影響を受けちゃうので雰囲気だけパッと掴んで。作るときは、スウっと出てきたものを大事にしました。もっといいものがあるかもと生み出すんですけど、やっぱり最初に出てきたものに戻るみたいなことが多いですね。意図せずに自然に出てきたものというか。そういうのがあると、うまくいくことが多いなって思います。
 
カイマミ:沙樹さん(押谷)に質問なんですけど。手前味噌なんですけど、楽譜をちょっと 見せてもらって弾いたんですね。右手と左手がリズム違いますよね。リズムっていうか、私の感覚なんですけど、右手は3拍子やのに左手4拍子で進んでいくことにすごく違和感があって、そういうズレというか繊細な違和感って映画の中ですごい感じたんですけど、あれはあえてではなく、降りてきたものっていうことですよね。
 
押谷:はい。そうですね。これでこういう意味を持たせてとかは特になかったです。
 
カイマミ:天才。
 
押谷:誰かと作ると、自分一人では生まれないものが生まれたりするんですよね。それは、面白いなあって思います。
 
カイマミ:これ、ずっと聞きたかったんですよ。降りてきたものなのか、意図してるものな のか。このタイミングで聞かせてもらえて良かった。
 
押谷:スウッて、出てくる感じでしたね。渡邉監督の中にあるものと交信しているような感じがあるといいなって思いながら作ってました。言葉でこうしたいとかじゃなくて、無意識のところにあるものとか、そういうものが作品に出てくると思うので。そういうところを共有できるときが自分も幸せになれるので。
 
渡邉:自分の作品はいつも役者さんと同じくらい音楽も重要だと考えています。音楽が映像に寄り添ってこれぞっていうものができて、今回も良い仕事してくれたなぁと大変感謝しています。
 
押谷:ホッとします。ありがとうございます。
 
渡邉:今回はBGM、テーマ曲以外にも効果音とかも色々熱心に作ってくれて。押谷沙樹の色というか、音が全編に入っているからすごく嬉しいんですよね。
 
押谷:BGMや効果音を作るのは難しかったかもしれないです。メロディがついてしまうと語ってしまうことになるので。あと、食事のシーンが、私も作りながらすごいウケて。これ笑うシーンかな? いや、これどうなんだろうと遊びながらあのシーンを作ってました。星能さんがお風呂でぶくぶくするシーンもちょっとウケて、面白くしちゃって良いのかなみたいな、そんな感じで笑いながら作ってました。監督はどう思うかなってずっとドキドキしながら作ってましたね。
 
チア部:不思議体験などはありますか? 
私は結構苦手なんですけど...。

 
渡邉:どうしてそれを?
 
チア部:最初に「土手と夫婦」で書かれていたと聞いて、どうして「幽霊」をつけたんだろうって疑問があって。監督自身がそういうものが好きだったりするのかなと思って。
 
渡邉:全く幽霊は信じてないんです。特に幽霊が好きだとかそういうこだわりはなくて、多摩川っていうのはある種、僕の一つのモチーフなんです。多摩川をこの世とあの世の境界線に見立てて、ここに幽霊がいたら面白いなとか、そういう想像は昔からしてたので、そういう意味では想像の中にあったものが、今回融合したっていう感じです。
 


チア部:最後に監督から『土手と夫婦と幽霊』を観る学生に向けてメッセージをお願いしたいです。
 
渡邉:僕の場合、学生の時にミニシアターに出会って、色々な映画を知りました。僕の中でミニシアターは、いつも見慣れているハリウッドの大作とか商業映画ではなく、作家性のある映画や様々な映画表現を見せてくれた場所です。それらの映画は自分がそれまで見ている世界にはなかったのですごく刺激的でした。もしミニシアターという場所に行って、勿論シネコンでもいいんですが、そこで1500円払って感動できたら、それは一生分の感動になると思うんですよね。またミニシアターに行ってこの感動をもう一度味わいたいって思うだろうし、逆に1500円払って損したなって思えば行かなくていいわけで、サブスクリプションで映画を楽しめばいいわけですから。周りを見ると映画に感動して、そのまま映画にずっとのめり込んでる人がいっぱいいるんで、映画は本当に感動するものだと思いますので、そこに嘘はないと思います。ぜひ、ミニシアターと言わずとも、映画館に足を運んで、映画を観て欲しいですね。

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