黒い島

その島には立ち入ってはいけない。子供のころから言われ続けたそこ言葉は、自分にとっては呪文のように頭にこびりついていた。そもそもどうして立ち入ってはいけないのか、とかを考える前からその島の見た目からしてあまり近寄りたいと思わせるような風貌ではなかった。
その島は私たちが暮らす島の北側に位置しており、肉眼では地平線にのすぐ近くに浮かぶ小さな島に見えていた。海が荒れた日にはその姿は見えなかったし、毎日毎日観察がしたくなるような距離にあるわけではない。

でもその島が持っている独特な雰囲気からか、海が見える道を歩いているときにふと視界に入ると、その島のことを考えてしまう不思議な力を持っていた。その島がどうしていわくつきなのかを説明するのは簡単だった。潮流の影響でその島の周囲には予想できない荒れた海流が生まれやすく、島の様子を見ようと近づくと、その潮にのまれて船が沈没をしてしまうことが昔は多かったから、と村長さんは言っていた。それに、望遠鏡でみるその島の雰囲気も、砂浜がない切り立った崖が島全体を一周していて、その上には濃い色の樹木が生い茂っていた。

島の上には時折鳥が飛んでいる様子だったけど、それ以外の情報はこの村にも、村一番の図書館にも何も記録されていなかった。


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