生きるベースを作るアニメ~佐藤順一インタビュー~
田舎に帰れアニメ屋め!
――佐藤さんはアニメーターではなくアニメ屋という肩書きで活動されていますが、これにはどのような意味があるのですか?
佐藤「基本的にアニメしかやりません」ってことですよね。若い頃とかに若干注目され始めると「実写とかしてみませんか?」のようなオファーが来ることがあるんですよ。
――実写やりませんか?というお誘いがくるんですね。
佐藤 そうですね。うちへ来ると実写もできますよとか、そういう誘いをされるのが面倒臭いんですよ。アニメしかやりませんっていう意思表示としてね。ちょうど当時の絵コンテでガンダム(機動戦士Ζガンダム)を手伝っていたときに、僕の話数じゃないんだけど富野(由悠季)さんが絵コンテをチェックしていたのですが、その中に罵詈雑言が書かれていて、そこに「田舎に帰れアニメ屋め!」って書いてありました。それからずっとそれがカッコイイと思って使ってますね。
――そのように実写をやりませんか?と誘われても断ってアニメをやり続けるのは何か理由があるのですか?
佐藤 そもそも私が実写に興味ないんですよね。庵野(秀明)さんと話したときに「実写に興味ないのですか?」って言われて、そうだ僕は興味ないんだって思いました。
――庵野さんは実写映画も手がけられていますね。
佐藤 庵野さんのような監督さんは映画にも興味があることが多いのですが、私の場合は全然なくて、アニメ以外でやりたいものといったら、人形劇とかパペットとかそういうのはやりたいのかもしれないけど、実写は全くやりたい気がしません。多分ですが、無生物というかキャラクターをもたないものにキャラクターがついていくのが好きなのかな?と思っています。
――無生物に命を与えるという意味では非常にアニメは有用なコンテンツなのかもしれませんね。
佐藤 実写だと役者さんという既に備わってる素材というか、キャラクターがあるところが出発点だけど、アニメは最初はゼロなのでそちらの方が面白いんでしょうね。
――そのようにゼロから作れるアニメに魅力を感じられていますが、オリジナル作品も多く手掛けられている中で発想の源というものは何であると考えていますか?
佐藤 大抵はオーダーが先にあります。こういうターゲットに向けて作るんだけどとか、こういう商品を売りたいんだけどというようなオファーを受けてから考えることが多いので、自発的にやりたくてっていうのはあんまりないんですよね。漫画家さんと話していて私は漫画家になれないなと思うのは、漫画家さんは自分でやりたいことがぶわっと出てきてる人じゃないですか。そういうモチベーションがないので、オーダーを受けてから考えるというのが自分に合っていると思います。
例えば今回は小学校の女子をターゲットにこういうコスメ的なものを売りたいんだけどどうだろうというオファーをもらって考えていくということが多いですね。
生きるベースを作るアニメ
――佐藤さんにとってアニメとは何でしょうか?
佐藤 そもそも子ども向けがやりたくて入っているので子どもに向けて何ができるか?って話になるのですよ。子どもに見せるもというのは、大人になって思いだしてくれたらわかるんですけど、ストーリーとかどういう設定だったかとかは忘れているんですよね。あれがかっこいいだとか、あれが好きだとかは覚えているんですけど、なぜ好きだったかはあんまり覚えていないと。でも好きだった理由っていうのは絶対あって、キャラクターが優しかったとか、あれがカッコよかったということで覚えている。そういうことで、優しいとか、かっこいいとかの自分の判断基準というのは意外とアニメからたくさんもらっているんじゃないかって思っているんですよ。そういうのが作れるのがアニメ以外あまり思いいたらなくて、そのことが面白いなと思ったのがスタートなんですよね。感情のベースというか、コミュニケーションのベースというかを、みんなアニメにもらっていると思っていますね。
――佐藤さんはよく女児向けというものを広く手掛けられていますが、ファイブブレインといった少年ものも手掛けられることもありますね。女の子向けと男の向けというので何か違いというものは感じていますか?
佐藤 まあ、女児向けが多いのは、最初のスタートがメイプルタウン物語でそこからそのラインでずっと作ってきたからかな。セーラームーンをしていた頃でも東映では聖闘士星矢とかも制作していたんですけど、やらせてもらえなかった。男の子向けもやりたいとけど、やらせてもらう機会があまりなくて女児アニメ専門みたいになってますけど、色々なことはやってみたいですね。ケロロ軍曹とかは最初は少年ものとして聞いてたんだけど、なんかちょっとそうじゃないんだなと。年齢が高い少年向けだったみたいで、もっと低年齢向けの少年もやってみたいと思っている。そうやっていく中で気づいたことだけど、男の子と女の子でちょっと違うことですよね。快感原則が違うというか。
――男の子と女の子でちょっと違うと。
佐藤 女児向けってアニメで、男児向けといったら実写みたいなものはあるよね。昔はもっと女児向けはアニメ。男児向けは実写って分かれてたんですけど、今もその傾向が残っているというのは、女児と男児の思考の違いでそうなってるんじゃないかな?と。
――仮面ライダーといった実写は圧倒的な人気ですよね。
佐藤 そうですね。だけどそうかといって男児が現実的か?といったらそうでもなくて、男児のほうがファンタジー要素というか、ヒーローという欲求が強く、女児のほうがの物語的なことをいうと現実的だったりもしてね。こうやって要素がちょいちょい違ってくると。こういうのを実際に男児ものとして、視聴者の男児の反応をもらってってやりたいんですけどそこまでの経験数がないと。それに対して女児向けは今まで色々とやってきてどういうものが喜こんでくれるとか、届いてくれる、怖いだとか必要なモノとか、不要なモノの整理がついてきているんだけど、男児向けに関しては自分の中を整理をしようとはしているんだけど、なかなか試して実感する機会がないからもっと数やりたいですね。
――佐藤さんが監督されている作品では、よく音響監督も兼任されていますが、何か意味などあるのですか?
佐藤 元々東映には音響監督というシステムが基本的になくて、各話の演出さんが音響アフレコダビングを仕切るやり方なので、そのことには違和感がなかったんですよ。むしろ東映をでたときに、音響監督システムをどうしたらいいのかわからなかったんですよ。というのも、1回伝言ゲームが入っちゃうので伝わらないことが出てきちゃうんです。でもずーっとやっていくと音響監督さんによってちゃんと拾われていることとかもあることに気付いたんですよ。音量監督さんであると、ここにはこだわれないなということや、逆にここはこだわっていけるという事があることが見えてきた。
例えば、新人さんの役者さんであったりすると非常に細かく指導していかなきゃならないのだけど、音響監督さんとの伝言ゲームだとがなかなか難しい。音響監督さんがよく知っている新人さんならいいんですけど、全然知らないような新人さんのときは自分でやった方が細かいところまで伝えられていいものができる。それに対してい音響監督さんが知った中でやるとしたらとしたら音響監督のほうが全然速いし質の良いものができあがってくるということがあるからですね。
制作会社さんによっては音響監督がデフォルトで組んでたりするところもあるんだけど、そういう時はやってもらいますし、ケースバイケースですね。
一生懸命が面白い!
――監督をされている作品を観させていただいた時に、よく自分の顔が自然にほほが上がっていることが多いんですよね。それが非常に好きなポイントでもあるのですが、何か作品作りをする上で関係していると思いますか?
佐藤 どうなんでしょうかね?(笑)
ギャグものが嫌いではないですし、長いシーズンだと各話でギャグパートもやったことがことあるのですよ。ですけどただ絵コンテをやってその後の演出処理も自分でやるようにしないとなかなか求める完成度まで届かないんですよね。絵コンテだけやって演出さんに渡すと、笑いが昇華していかないというか、9割くらいで終わってしまう。なので後処理ができないときは「コント」止まりで終えることが多いんですよね。絵でいっきに笑わせるんじゃなくて、コントだからくすっと笑うとかそういうところには失敗がないんですよ。そういうやり方をする事が多いんですよね。
笑いはどんな作品でも大切で、手塚治虫作品においてシリアスなシーンになるとヒョウタンツギを入れたくなるというのがよくわかるんです。なんかやっぱりくすりと笑えるものは入れたくなっちゃう。
こうしてしまうのは癖なのは性分なんかはわからないけど、子ども向けというのはそういうことをしないと飽きてしまうし、ずっと観てくれないので大事なエッセンスだと思います。
――子ども向けとして作られた作品がよくデフォルメして大きく形が変わるものが多いのに対して「ユンカース・カム・ヒア」ではそのようなギャグ顔というものは一切なかったですがその差というものは何があると思いますか?
佐藤 ユンカースのほうになぜ入れなかったのか?と訊かれたら別に戦略的な何かがあったわけではなかったはずですね。テイスト的に合うか合わないかの問題だと思うんですよね。
各作品においてどういうテイストをもっているのか?っていうときに、今回の作品はシリアスと笑いの割合が7対3だとか、はたまた逆であるとか考えていくんです。その中でギャグキャラが等身まで変えるのか?というものをね。子ども向けの場合は、ある程度崩し顔というのは大事で、子ども達がそのキャラを好きになるところってシリアスなところよりも笑っているところ。主人公人気が高いのはその主人公が面白いからだと思うのよね。
それはどの作品でもシナリオの時から気をつけていることがあるんだけど、主人公がギャグ顔になってどったんばったんしっちゃかめっちゃかやって崩れるとかって、主人公自身は笑わそうと思ってそうなっている訳じゃなくて、誰かのためにすごい一生懸命やっているときに、それが上手くいかなかったら崩れる。こういうことすると好感度があがるんですよ。なんとなくでギャグ顔にしても好感度に繋がらないんですけど、一生懸命なゆえに顔が崩れるって好きになってもらえる要素でもある。
――そのように作られているからこそおジャ魔女どれみといった作品では今年20周年ですが未だにグッズが新規に販売されるほど人気があるのかもしれないですね。
結論は15年後
――そのように長く愛されるアニメを作られている中でHUGプリのインタビューにおいて「子ども向けって、こういうふうに作る」みたいなノウハウが引き継がれていると答えられていますが、それはどのようなものなのですか?
佐藤 個々の演出さんによってスタンスが違ったりするので、一概にはいえないんですけど、HUGプリは久々の東映だということで現在どういう作りをしているのかわからずに入ったんです。実際に作業していくと、以前から伝えてきた子ども向けだからこうしたほうがいいっていうのが引き継がれたんですよ。まあ、消えていくのも沢山あるんですけど、例えばですけど音楽の入れ方とかですね。
子ども向けの作品は音楽を多く入れるべきだというのは、僕が当時から言ってきたことなんですよ。まあ音楽をたくさん入れすぎるとなんか幼く見えたりとか説明的に思われたりするんですけど、子ども向けだとちょっと説明的なほうが良いんですよ。
例えばメイプルタウン物語は新人の時にした作品ですけど当時も音響のラインをひいたり指示をだしたりということは自分でやったんですよ。ある回で、汽車がやって来てそこから悪者っぽいやつが出てくるシーンがあるのですよ。汽車→汽車→駅→汽車→悪者が出てくるという繋がりの中で汽車が来るところからちょっと不安気な音楽を流すようにした。その時ミキサーさんから「この汽車にはまだ悪党が乗っているのがわからないのに音楽を入れるのはおかしいぞ」と言われた。それって実写的な考え方なんですよ。でも汽車がシュッシュ―と来た時から不安な音楽を入れることで子ども達が興味をもつはず。不安気な感じで何が来たのだろうな?と思ったら出てくる。そんな流れで子ども達の心を掴むべきであるっていう考え方なんです。
そういう風な考え方が引き継がれていて、プリキュアの音楽の入れ方って普通の考え方からすると早いんです。こうやってノウハウが自然に受け継がれているっていうことですね。
――子どもたちからしたセリフを理解にするというレベルに達していない場合もありますよね。
佐藤 子ども達がどれぐらいのセリフの意味とか会話の意味をわからせるのか?ということはどんな作品でもシナリオの時点から議論になるんですよ。今まで「どれみ」とか「セーラームーン」とかやってきて観ていた人の話を聞くとセリフのわからなさというのはあまりストレスにはなっていなくて、何か怖かったとかは覚えているんですよ。3歳~5歳の子達って世の中わからないことだらけなので、セリフのことが少々わからなくても全然ストレスになってないみたい。いわんとすることで多分良いことかな?悪いことかな?というのが分かれば十分で、「卑怯者め!」ってセリフがあったとしても、卑怯が何からかわかんないけど多分悪いことだろうなとこんな感じに吸収をしているのです。だからこそセリフがわかるだとかわからないというのはあんまり気にしなくてもいいのかな?というのが今の結論ですかね。まあ、これをやりすぎたらどうなるか?というのはHUGプリをやって15年後にわかることですね。(笑)
――確かに結論は15年後ですね(笑)
前に歩けるんだよ
――非常に佐藤さんの手がけた作品においては社会問題といわれるものが取り扱われたりすることが多いですが、子ども向け作品においてそのようなものを扱うのはなぜでしょうか?
佐藤 HUGプリに関しては社会問題を扱っているという感覚はなくて、子どもたちが行く道にありそうな出来事をちゃんと入れているだけと思うんですよね。失恋だとかもうそうだし。そういう時にどうやって前に歩けるんだろう?歩けるんだよっていうのを示している。
それこそ物語とかそのドラマとかそのキャラクターがどんなのだったかは忘れてても、それでも前には進でんだことが好きだなって思ったら、それは残ってるんですよ。全てでもなくても、そのひとかけらでも残っていたらやった意味があるかなと思っている。そういうことに遭遇したときに特定の作品を思いださなくてもても良いんですけど、考え方の根っこだとかに役立っている可能性があるんじゃないかな?
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