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山本寛インタビュー(後編)

アニメ制作において多額の費用が必要になってくる。そのお金を集める方法はどのようなものがあるのだろうか?

―ではそろそろ、アニメの絵作りのほうから、制作。すなわちお金の方の話に移ります。製作委員会の在り方というか、製作委員会はどういうものなのかという話をお願いします。―



山本 あれねぇ。みんな知りたがるのだけど、もう語るのつまんない(笑)。製作委員会はずーっと遡ったら「風の谷のナウシカ〔1〕」 くらいまで戻れるのですね。要は1社が提供する・・・あ、テレビアニメに特化して話しますね。テレビアニメでは「無責任艦長タイラー〔2〕」 辺りから始まって「新世紀エヴァンゲリオン〔3〕」 。で、これで業界がこれだ!と目を付けた方式なんですね。どういう仕組みかと言うと、それまでは他のテレビ番組同様、アニメを作るお金は純粋にスポンサーが代理店を通して出していた。スポンサーは普通の一般企業ですね。そのCM 料を、テレビ局がそのまま現場に落とすと。局発注の作品だったわけですね。



―「サザエさん」だとかはまだそうですよね。―



そうですね。他にも東映(アニメーション)作品もそうですね。いまだにありますけど、これだと本数に限りがあると。もっとニッチな作品、もっとマニアックな表現をやりたいと。だから富野さんも苦労したのですね。おもちゃメーカーに媚びへつらって、ロボットの合体シーンを必ずワンシーン出さなきゃいけない。でもワンシーンだけ出したら何やっても知るか!ってやって、「皆殺しの富野」とかも言われて頑張ったんですね。そうやってスポンサーと戦ってきたわけだけど、なんか不自由だし、もっと色々な表現をしたい。もっと色々な作品を見たいしもっと・・・ってなったときに、クリエイターだけではもちろんお金出せないから、じゃあということで有志が集まって・・・要はアニメで別のビジネスの仕方、オモチャを売るだけじゃなくて、言ってしまえば、アニメという映像そのものが売れるのではないかと。アニメそのものを売って商売する。それ以外のグッズ、商品展開もあるのだけど、まずアニメを、パッケージにして売りましょうと。それを僕らが責任もって売りますからじゃあ、僕らが制作費を出しましょう。でも僕ら1社だけだと足りないから、あなたはCD売ってよと、あなたはグッズを売ってよと、僕らはビデオグラムを売るよと。最近で言えばゲームは君に任せると。それで僕たちは集まってなんとか商売するんだと。その代わり制作費を出し合おうぜというのが、そもそもの「製作委員会」の在り方。だから、スポンサーがいて、アニメと関係ないスポンサーがいて、代理店を通して局が発注するというやり方だとどうしても本数も限られるし、まあ、うるさいわけですよね。もっとファンに寄り添った。もっと言うと自由にアニメを作りたいクリエイターに寄り添った作品を作るためにはやっぱりこのようなやり方じゃなくて、クリエイターを中心にしてクリエイターと作品を守りたいと思っている人で一緒に作品を作って、お金を集めてテレビ局はかけてくれるだけでいいです、逆にテレビ放送の波代を払いますからかけてくださいってお願いしてアニメを作るようになったっていうのが製作委員会のそもそもの始まり。で、かなりうまくいった。かなりうまくいったし、「こういうアニメ見たかったよね!!」って思うファン、オタクが猛烈に支持したと。ビデオグラムを買った。グッズも買った。おい!ビジネスになるじゃないか!と、ここまでは良かったのだけど、「アニメはビッグビジネスになるのでは!?」と勘違いした人間がどーっと入ってきて、ここからが勘違いの始まり。だから、僕は製作委員会は実は素晴らしい方式だと思っているのだけど、唯一の難点というか、弊害というのかな?ハナから「アニメは儲かるらしい!」と思い込んだ連中が製作委員会を適当に組んで、本来の発足意義、本来の役目を知らないまま、こうやっとけばアニメ作れるのでしょ?アニメ儲かるのでしょ?っていう短絡的な発想に陥ってしまって、これが一番良くないことだと思っていますね。僕もたまに委員会出ましたけど、議論とかないのですよ。何にもないんです。こうこうすればいいだとか、宣伝どうなっているんだ?とか、もっと売れるアイディアはないのか!とか、何にもないのですよ。粛々と「うちからは今月報告ありません」「ありません」ありません・・・もっと何かないのか?本当にくだらない。これはサラリーマン気質がひどく染みついたというのもありますね。それぞれキングレコードだとか、バンダイだとかに大将がいて、俺がこの作品を回すぞー!売るぞー!って。よおっし!ってやっていたのが、それらの下っ端のサラリーマンが出てきて、「えー、今月の報告はないです。」って言うクソ寒い製作委員会になっている。それは何故かというと、「俺たちの見たいアニメを作るのだ!」「俺たちはアニメでもっと色々な表現をしたいのだ!」っていう人はどっか行っちゃって、残ったのは「これ、金儲けになるのね?」っていう人だけだと。それじゃあ売れるわけないのですよ。「売る努力をしないから」。こうやって本末転倒しちゃってそうなるとどうなってくるのか?って言うと、お金がはたけないわけですよ。無為無策の失敗作が、このクールも次のクールもどんどん量産されていく。それまでは1社1億くらいはたいていたのが、だんだん博打みたいになってきて、あてのない状況になっていて。それでどうしたかと言うと、1億円出していた出資会社が、1000万・・・500万・・・って・・・・。会社にはちゃんと1億あるのですよ?1億あるのだけど損したくないから500万円で薄く張っとくか・・・その代わり・・・20本作ろ!今やたら作品数が多いのはそういうことです。出たとこ勝負というか、数撃ちゃ当たるという方式、リスクヘッジの最たるものですね。だから1本1本に対する思い入れとか、全然ないのですよ。俺がこれを作って!売って!っていうのが僕が若かったころはありました。俺はこれを絶対売りたいのだ!いい作品だから!バンダイのU さんがそうでした。僕がお会いしたときには「ジャングルはいつもハレのちグゥ〔4〕 」のプロデューサーをやっていたのですね。「ハレグゥ」のOVAのプロデューサーをやっていて、奇しくも同時期にやっていた「プラネテス 〔5〕」と「ハレグゥ」が売れなかったのですね。で、名言残しているのです。「良いものと売れるものは違う」。とんでもない名言を残してUさんは、まぁ今も頑張っておられるようだけど。やっぱりそれまでは「いい作品」をこんなに頑張って作ってくれたのだから、俺たちは全力で売るよ!という人たちばっかりだったのだけど、その人たちが心折れたり干されたりいなくなっちゃって、後から来たのは、もう金のためにやっている。まだアニメファンの市場はあるけれど、自分たちは何をしたらいいのかわからないっていうね。もっと言うと、今の製作委員会には、売る気もないのにどうして売れないんだ!って現場に詰め寄る馬鹿が本当にいるのですよ(笑)。いやいやいやいやいや、売っているのはお前らだろ!!俺たち作っているだけだよ!って・・・「作品が売れなかったのに、どうして制作会社は謝らないんだい?」っていう。堕ちるところまで堕ちましたね。売るのはお前らの仕事なのにね。昔は逆に謝られたのですよ。「僕らの努力が足りずにこんな数字で申し訳ない。」って言ったらそりゃ監督ももう謝るしかないのです。「僕らの作り方が良くなかった、もっといい作品を作れば良かった。」っていうこういうお互いに謝る関係だったのが、今となってはお互い責任のなすりつけ合いをしている。もうこうなったら末期。それが製作委員会の現状。こんな製作委員会なんていらない。・・・ってね、もうみんな思い始めているんだと。だって売れないもん(笑)。今では一部の会社が、例えばキングレコードが1社で「ポプテピピック〔6〕 」を作って、思い切った1社製作というのに舵を切ったっていうのはもうそういうことですね。製作委員会は逆によく20年も持ったなぁという。そこにあったのは「良いものを作ろう」っていう、そして力技で売ろうっていう心意気。これはもう宇野(常寛)〔7〕 さんが何度も言っているのだけど、怪物プロデューサーが陣頭指揮を執っていたからなんとかなったのです。でも、そもそもやっぱり不自然だったってことですかね。それに尽きますね。だから、これからどうやってアニメを作ってどうやって売ろうっていう発想が製作委員会に携わっている人にない限りは、どうしようもないだろうと。

本来は良い作品を売る、そしてバリエーションのある作品を生み出したいっていう意志のもとに生まれたモノなので、「ナウシカ 〔8〕」もそうですよね。宮﨑さんの作品をどうにかして世の中に知らしめたい。「アニメージュ」編集部が出版の方面で頑張っていたけれど、アニメナニそれ食えるの?って状態から説得して徳間の社長以外にも博報堂をなんとか口説いて、「宮﨑さんの作品にお金出して!」って言って「じゃあ出すかぁ」ってなってそうやって作られたシステム。「エヴァ」もそうですよね。庵野(秀明)〔9〕 さんと大月(俊倫)〔10〕 さんの関係で。「庵野さん何でもいいから考えて。俺絶対持っていくから!」って考えだされたのが「エヴァ」です。その思いが抜けた状態では製作委員会方式の復活はありえないですね。



―山本さんは新たなアニメの作り方としてICO〔11) を利用して製作しようとされていますが、そのことによって、製作委員会が持っていた志は復活すると思いますか?―



「面白いアニメが見たい!」っていう気持ちを集めて作るというものなので、クラウドファンディング〔12〕 のほうが見えやすいのだけど、投資目的が強いとはいえやっぱりアニメを見たい、作りたいっていう人が集まるからいい作品は作ることはできる。売れるかは分からないけれど、意志が集まっているので面白い作品、あるいは期待に添える作品が作りやすくなるはずです。これまでは、円盤買って支援、物販買って支援だとか言っていたけれど、そういうのをもうやめようと。そこには色々な利権とか権益が絡んでいるから、そこを外して、もう最初にお金くださいという。



―ということは、ICOによってファンの気持ちが直接つながれる可能性を感じているのですね。―



そうですね。逆にしてみようっていう。作って売ろうとするから問題があるのであって、作る前に売ろうっていうね。もちろんそれが売れたらヤマカンのために金を出した、そしたら売れた!そこでね、ファンが今度は儲かるわけですよ。それが画期的かなって思っていて、コインを持つことによってどうにかなるのですよ。ただ、国内市場はもう虫の息です。最近聞いた話だけどついに制作本数が下がり始めたとか。アニメにお金を出したがっている人が、プレイヤーがどんどん減っているのでしょうね。ただ全世界で言うとまだお金を出したいっていう人はいるので、日本じゃなくて海外展開しようとしていて海外の投資家に向けて「ニホンノアニメイケテルラシイヨ」って教えて、じゃあ出すわと。あるいは特に僕のファンが多いのが中国なんですね。中国、アジアに多いのです。 このシステムを使えば良いものができたなと、海外のファンもニヤニヤできるのですよ、たとえ売れなくても。そして、売れたら更にユーザーが儲かる!こりゃスゲェ!ていうのが1つのキーかな?って思っています。そのほうがわかりやすいしモチベーションの問題もクリアできると思うのですよ。非常に画期的だと思います。しかし仮想通貨周りの問題が多くてそれが本当に悩ましいですね。やっぱりそこら辺りが最大の難関ですね。



―それでは、現在制作中の作品は最終的にはICOを大きな軸にはしないつもりですか? ―



ICOも大きな軸にしますけど、今後一切製作委員会方式でやらないわけではないので、採ったほうが良い場合は採りますよ。ただ、もうそんな時代じゃないでしょう。よっぽど都合のいい場合じゃないと「薄暮」では製作委員会方式は採らないつもりでいます。


〔1〕トップクラフト制作の日本のアニメーション映画トップクラフト制作の日本のアニメーション映画
〔2〕テレビ東京系6局で放送されたアニメ
〔3〕ガイナックス・タツノコプロ共同制作による日本のオリジナルテレビアニメ作品
〔4〕金田一蓮十郎による日本の漫画作品を原作にしたアニメ作品
〔5〕幸村誠による日本の漫画を原作にした谷口悟朗監督のアニメ
〔6〕大川ぶくぶによる日本の4コマ漫画を原作としたテレビアニメ。ハチャメチャ具合で話題になる。
〔7〕日本の評論家。批評誌『PLANETS』編集長。
〔8〕風の谷のナウシカ。宮﨑駿監督作日本のアニメ映画。
〔9〕日本のアニメ監督。代表作「新世紀エヴァンゲリオン」等
〔10〕元キングレコード専務取締役、企画会社ガンジス社長でもある。元円谷プロダクションの取締役。
〔11〕コイン(デジタルトークン・暗号通貨)の発行による資金調達・クラウドファンディングである。
〔12〕不特定多数の人が通常インターネット経由で他の人々や組織に財源の提供や協力などを行うこと

アニメの本数が減りはじめている。それはどのようなアニメの未来を迎えることになるのだろうか?

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