僕の瞳には君以外…
「ん~冷たい!」
夕陽の沈みかけている砂浜に僕と君。
真面目でしっかり者な君がこんなにはしゃぐなんて。
「転ばないようにね」
「一緒に走らない?」
手招きしながら微笑む。魅力的な誘いだが僕は断る。
「僕は、いいよ」
顔が悲しげに曇った。その表情を見ないように視線を下げる。
僕だって君の隣を一緒に走りたい。でも、僕にその資格は無い。
それに夕陽に照らされる君をこうやって見ていたい気持ちもあるんだ。
「それに濡れちゃうと…」
言い訳を重ねようとしていると右手にぬくもりが。視線を戻すと目の前に君が立っていた。
「いいから行こう」
曇っていた表情は、悪戯をする前のこどものようにキラキラと輝いていた。
そのまま手を引かれ、波打ち際を君と走る。
「うわぁ」なんて情けない声を出しながら、君に置いて行かれないように必死についていく。
靴を脱ぐ暇なんてあるはずもなく、びしょ濡れになった靴の中は最悪だ。
そんな僕の気持ちが君に伝わったようで、満足そうな表情でこちらを見つめる。
「ね?楽しいでしょ」
「…あぁ」
高鳴る鼓動
心の奥に隠していた感情が溢れ出てきた。
君と繋いでいる手を離し立ち止まる。
前を走っていた君は突然の出来事に困惑しているよう。でも、やっぱり分かってしまったこの感情に嘘はつけない。
その日、僕は君に告白をした。
︎ ✧
「懐かしい。あの日を思い出すね」
今日はあの日と違い、君は月明かりに照らされている。大人びた表情の君。隣にいる僕もそんな君に似合うようになったかな。
「帰りは大変だったでしょ?靴、びしょびしょだったし」
少し恥ずかしそうに視線を送ってくる。
「子供っぽくて幻滅されたって思ったんだけど…」
「確かに靴の中は最悪だったね」
そう呟くと「うぅ…」と両手で顔を覆う君。
「でも、いつも見れない君を知ることが出来たから良かったよ」
「それなら良かった。けどやっぱり恥ずかしい」
はにかみながらも、頬は赤く染まっていく。
そんな君を見るたび、心が君で溢れていく。
あの時、靴が徐々に海水で満たされるように。
「でも、今日はなんでここに連れて来たの?」
「え、えっと…」
「少し、期待してるんだけど」
形勢逆転。今度は僕が君から攻められる形に。
「プレッシャーだな…」
でも今日は気合を入れてきた。
「海が綺麗ですね」
「うん、月が反射してキラキラしてて」
うん、上手く伝わっていないみたい。
やっぱりこんな時は、ちゃんと伝えないといけないな。なんて思っていると
「待って!今の「月が綺麗ですね」と同じような言葉じゃない?」
立ち上がりあたふたとしだす君。
「どんな意味なんだろう…」
「ね、ねぇ」
「待って、後少しだけ考えさせて」
やっぱり真面目な君。
そんなところも含めてやっぱり僕は
「落ち着いて」
そう言って君の手を握る。あの時とは反対だね。握っている手も。でもぬくもりは変わらない。
僕はポケットの中に潜ませていた物を取り出し、君の前に跪く。
君もそんな僕の様子に気がついたのか、それとも手に持った物に気がついたのか。
右手で口を覆う。
そして瞳は僕に注がれる。
今、君の瞳に映っているのは僕だけなんだろう
でも僕はずっと前から、君しか見えてない
だって、覚めないか心配なんだ
君と過ごす日々も、今こうして僕の目の前に君が立っていることも夢みたいで
あの日から君は、
僕の最愛の人で、人生で、始まりなんだ
さっきの質問の答えは気にしないで
だから今からする言葉には、答えてほしい
“はい”って言ってくれると、嬉しいな
今度は、何があっても
君の手を離さないと誓うから。
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