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『オレンジの片割れ』

とある教会。
白い衣装を身に纏った二人組が出番を待っていた。

『ねぇ』

『どうしたの?』

『いや…何でもない』

『もしかして緊張しているとか?』

『……するに決まってる』

『僕もだよ…心臓が飛び出そうだよ』

『何よ…本当に飛び出るかもね』

『怖いこと言わないでよ!』

『ふふ…』

真っ白なウエディングドレスを着た君は
今日はじめて柔らかい笑顔を見せた。

白のタキシードの僕は君の笑顔を見て同じように
柔らかい表情に。

『でもまさか君も緊張するなんて…』

『私も人間なんですけど。馬鹿にしないでよね』

『そうだね、ごめんごめん』

拗ねたようにそっぽを向く君。
僕はなれたように君の機嫌を取る。

そんな二人の前に一名のスタッフが。

「もう少しで出番になります」
「準備はよろしいですか?」

「はい。大丈夫です」

「かしこまりました。お二人共、お綺麗です!」

「ありがとうございます」

僕は「しっかりエスコートしないと」と意気込む。

しかし、隣の君は先程までの笑顔は消え神妙な面持ちに変わっていた。
若干、体が震えているようだ。

僕は優しく女性の肩に手を置く。
君はゆっくりと視線を向ける。

『飛鳥、大丈夫?』

飛鳥は一度、視線を落としもう一度僕に視線を向ける。

『ねぇ〇〇。本当に……私なんかで…いいの?』

いつもより弱々しく話す飛鳥。
〇〇は付き合い始めた時を思い出した。

―――そんなところはあの頃から変わらないな…

『なんで?』

〇〇は自分の答えは決まっていながら
質問を返す。

『だって…。やっぱり私と一緒になったら今以上にあなたも変な目で見られる』

『そんなこと?』

『そんなことって!?これから一生続くんだよ。………私といたら』

〇〇はつい笑ってしまう。

『何で笑うの!私は…私は』

震えが目に見えるように強くなる。
表情も暗く、暗くなっている。

―――あぁ、やっぱり君は優しすぎるよ

―――僕は知っているよ。君がその顔をする時は、僕のことを一番に考えてくれている時なんだって

〇〇はうつむいている飛鳥に声をかける。

「ねぇ、飛鳥」

「!?」

飛鳥の視線がこちらを向く。

「僕はね、この空間が好きなんだ」

〇〇は本当に幸せそうな顔で話を続ける。

「この空間はさ、僕と飛鳥でしか作れないんだ」
「他の誰も邪魔することなんか出来ないし、作れやしないよ」

飛鳥はただまっすぐ僕を見つめる。

「だって、君とだから。一番大切な…君だから」

〇〇の言葉に飛鳥は眉が晴れる。

『それに君は僕がいないと困るだろう?君を守ってくれる僕が』

〇〇は胸を張り、したり顔をする。

『……もう!自分を過大評価しすぎ!』
『でも……ありがとう』

飛鳥はやっと笑顔になった。

『あぁ』
『〇〇がいない人生なんて考えられなくなった』

おどけた顔でいう飛鳥。

『同じ気持ちだね』

二人は微笑みあう。

扉の向こうの騒がしさも
徐々に静けさに変わっていく。

「さぁ、本番だ」

〇〇は扉に視線を向ける。

そんな〇〇の肩を飛鳥が叩く。
〇〇はもう一度、飛鳥に視線を。

『Tu eres mi media naranja』

飛鳥の言葉は日本語ではないもの。
〇〇は読み取ることが出来なかった。

「ごめん、読み取れなくて…」

『あなたは、オレンジの片割れ』

「それってどういう意味?」

『さぁね!ほら、もう始まるよ!』

目の前の扉が開く。

二人の前に長い道が開ける。


︎ ✧


目の前の扉が開く。

さっきまでの緊張はどこかへ行ってしまった。
隣にいるあなたと触れ合っているからかもしれない。

中にはたくさんの人が私達を待っている。

いつもは奇異の目で見られるし
嫌な視線が飛んでくる。

でも今日は違う。

とてもあたたかい。

そう感じるのは
私の気持ちが変わったからなのだろう。

こんな私をみつけてくれた。
どんな時も私を支えてくれる、〇〇。

でも、いつも不安になる。

“どうして私を選んだの?”

“どうしてそんなに私に笑顔をくれるの?”

疑問なんてたくさんある。
でも、どんな疑問もあなたは笑うんだろうな。

そして私が出来ない言葉を
声に出して伝えてくれるんだろう。

そんなあなたは今、どんな顔をしているのだろうか?

ふと見ると、先程までの笑顔は流石に無くなり緊張で強張っている。

でも私の視線に気づくと
たちまち笑顔をさかせる。

それに私も笑顔で答える。

多分、この景色、あなたの笑顔を…

そしてこの幸せを忘れることは無い。

いつもどんな時も真っ先に思い出すだろう。

もちろん、この世を去る時だって。

あなたもこの日を思い出してくれるだろうか?

そうだと嬉しいな…。

永遠の誓いをする前に
あなたにもう一つ誓います。

あなたのことを決して忘れません。

だって

“あなたは私のオレンジの片割れ”

……なのだから。


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