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セイヨウカラシナスプラウトの有用成分 ーアブラナ科野菜に共通の健康成分ー

2024年1月12日更新
 ”セイヨウカラシナ”スプラウト入門編では、おいしいセイヨウカラシナのスプラウトについて紹介しました。このスプラウトは季節を問わず、何時でも水耕栽培により育てることができます。

 セイヨウカラシナはアブラナ科に属し、そのスプラウトは、テレビのコマーシャルでよく見かけるブロッコリースプラウトと同じように、健康に良い機能性食品成分を含んでいます。ちなみに、キャベッ,コマツナ,ブロッコリー,ダイコン,ハクサイ,カブ,ワサビ,チンゲンサイ,クレソンなどもアブラナ科に属します。

アブラナ科野菜の機能性成分の正体

 この機能性食品成分は、アブラナ科の野菜に含まれているいわゆる辛味成分です。この辛味成分の正体は、イソチオシアネート化合物と呼ばれる化学物質です。イソチオシアネート化合物は、アブラナ科植物の細胞内では糖と結合したシニグリンとして存在しており、この状態では辛味はありません。このアブラナ科野菜が昆虫などに食われると、同じアブラナ科野菜のミロシン細胞と呼ばれる別の細胞に含まれているミロシナーゼという酵素と出会い、糖が外れて辛味のあるイソチオシアネート化合物となります。アブラナ科野菜は、このようにして辛味を発現して昆虫に食われるのを防ごうとするのです。

野菜ごとに異なるイソチオシアネート化合物

 一口にイソチオシアネート化合物と言っても、野菜ごとにイソチオシアネート化合物の化学的構造が異なっています。キャベッやクレソンなどに含まれるイソチオシアネート化合物は「ベンジルイソチオシアネート」や「フェネチルイソチオシアネート」、ブロッコリーに含まれるのはコマーシャルで有名となった「スルフォラファン」と呼ばれるイソチオシアネート化合物、ワサビに含まれるのは「アリルイソチオシアネート」や「6—メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネート(6-HITC)」です。
 これらのイソチオシアネート化合物は、「イソチオシアネート基(ーN=C=S)」という共通の化学的構造の部分を持っています。この共通部分が種々の機能を発揮しており、スルフォラファンに限らずアブラナ科野菜であれば、同じような効果が得られると考えられます。

抗菌作用

 寿司に欠かせないワサビは、アリルイソチオシアネートというイソチオシアネート化合物を含んでいます。このアリルイソチオシアネートは、単に辛味のためだけではなく、その抗菌作用により、万が一の食中毒などを防いでいます。アリルイソチオシアネートは、カビや酵母だけでなく、腸炎ビブリオ菌や腸管出血性大腸菌0-175、ピロリ菌などに対しても抗菌効果を示すことが期待されています。

がん予防・治療効果

 イソチオシアネート化合物は、最もがん予防効果の期待される食品成分のひとつとされています。
 発がん物質が体内に入ったり発生した場合、イソシアネート化合物が解毒酵素を発現し誘導することによって発がん物質を無毒化し、排出を促進して、がん予防効果を発揮しているものと考えられています。
 また、がん細胞が体内に生じた場合には、イソチオシアネート化合物が、がん細胞をアポトーシスへ誘導すると考えられています。アポトーシスとは、生物がより良い状態を保つために自らが積極的に引き起こす細胞死のことで、例えば、冬になって枯れ葉が枝から落ちるのも、オタマジャクシから尻尾が切れてカエルになるのも、アポトーシスによるものだそうです。つまり、イソシアネート化合物は、がん細胞を自ら死滅するように誘導すると考えられます。
 更に、ブロッコリーに含まれるスルフォラファンは、がん治療に使用される放射線に対し、増感作用があることが見出されています。つまり、スルフォラファンが放射線の効果を強め、がん細胞を効率的に死滅させることが示されたのです。そして、この効果は、他のイソチオシアネート化合物にもある可能性があります。
 このように、イソチオシアネート化合物は、がんの発生を予防するのみならず、がん細胞が体内に生まれてしまった場合も、その増殖を抑制したり、治療効果を高めるのに役立つものと考えられます。
 また、8万人以上の日本人を対象にした国立がん研究センターのJPHC研究では、アブラナ科野菜の摂取量が多いほど、男性のがんによる死亡リスクが減少すると報告されています。

心疾患、脳血管疾患による死亡リスクの減少(女性)

 前述の国立がん研究センターのJPHC研究では、女性の場合、アブラナ科野菜の摂取量が多いほど、心疾患、脳血管疾患による死亡リスクが減少することが報告されています。

神経変性疾患の予防

 ワサビに含まれるイソチオシアネート化合物(6—メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネート(6-HITC))は、神経突起伸長作用を有しており、認知症、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋委縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患の予防に役立つことが期待されています。

その他の健康効果

 その他、炎症抑制作用、スーパーオキシドの産生阻害、うつ病の予防や再発防止効果、育毛効果などが報告されているようです。

アブラナ科野菜を食べるときの注意点

 アブラナ科野菜の健康効果を得るためには、糖と結合したイソチオシアネート化合物(シニグリン)をミロシナーゼとよく混ぜてイソチオシアネート化合物に変化させる必要があるため、食べるときによく噛んで細胞を壊す必要があります。また、ミロシナーゼは加熱されると酵素として機能しなくなるため、アブラナ科野菜はなるべく加熱せずに食べることが好ましいでしょう。加えて、アブラナ科植物を高温で湯がくと、イソチオシアネート化合物は水と容易に反応して壊れるため、せっかくの健康効果が損なわれてしまいます。なるべく生で食べるのがお奨めです。

スプラウトの副作用、毒性

 一般的な話として、発芽直前やスプラウト状態の野菜には、自己防衛機能として自然毒とされているアルカロイドが微量ながら含まれていることがあります。アルカロイドの量は発芽後減少するそうで、発芽からある程度の日数が経過すれば問題ないようです。
 アブラナ科野菜ではありませんが、スプラウトとして販売されているアルファルファには、毒性のあるステロイドアルカロイド(サポニン、ジャガイモなどのソラニンの仲間)が約8%、L-カナヴァニン硫酸塩というアルカロイドが約1.7%含まれているそうです。サポニンの含量は発芽後6~8日目が最大となるそうです。他のスプラウトでも3~6日位でアルカロイド含量は最大に達するようで、これは芽生えの直後に動物や昆虫に食まれることのないためといわれています。なお、Lーカナヴァニンは種子中に一番多いと報告されています。
 イソチオシアネート化合物を食した場合の副作用やその毒性については、特筆すべきものは見つかりません。
 しかし、アブラナ科野菜を非常に多く摂取すると、動物は甲状腺機能低下症(甲状腺ホルモン不足)を起こした例があるようです。88歳の女性が、数ヶ月にわたって推定で1.0~1.5kg/日の生のパクチョイ(チンゲン菜)を食べた結果、重篤な甲状腺機能低下症を発症し昏睡状態になったという報告があるそうです。しかし、こんなに食べる人はいないと思います。

どのぐらい食べればいいのか

日本微量栄養素情報センターのサイトによれば、「いくつかの疫学的研究の結果から、成人はアブラナ科野菜を週に少なくとも5回摂るように図るべきであることが示されている」とのことです。

あくまで機能性食品

 アブラナ科野菜の健康効果について、色々調べた結果を記載しましたが、ここに記載した健康効果は、あくまで副次的なものである点を強調しておく必要があります。アブラナ科野菜を食べたからと言って、医薬品のように高い効果が現れるものではない点に注意してください。アブラナ科野菜は医師による治療に代わるものではありません。

参考サイト

Shibata T., Uchida K. (2018) Agriculture and horticulture Vol.93(5) 389-395
量子科学技術研究開発機構 スルフォラファンに放射線の増感作用
国立がん研究センターのJPHC研究
ネットでカガク(イソチオシアネートの化学と効果)
ネットでカガク(スルフォラファン)
農畜産業振興機構(機能性食品としての野菜)
山陽新聞digital 2023年12月13日 10時30分 更新
日本植物生理学会(スプラウトのアルカロイドについて)
日本微量栄養素情報センター アブラナ科の野菜


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