見出し画像

エースの条件~Elements

読売ジャイアンツの菅野智之投手の連勝記録が一向に止まらない。まさにエースナンバーである背番号「18」にふさわしい活躍ぶりだ。

優勝に向かう勝利の空気を作り出すのもエースの仕事ならば、連敗を止めるのもエース。即ちエースとは絶対的中心選手を指す呼称であり、チーム全体の象徴と言える存在でもある。

オレが部活動顧問をしていたレスリングは、高校の団体戦では七人制で引き分けなし。四人が勝てば勝利が決まるというルールだったのだが団体戦には独特な、異質とも言える雰囲気がある。

小、中学生や大学生のリーグ戦のような他の団体戦でも同じようなことが言えるのだが、どれだけ強い選手を手駒として持っていても柔道の勝ち抜き戦とは違い、一人1試合しかできない。即ち1勝しか挙げることはできず、ここに独特の雰囲気を作り出すひとつの要因がある。

もうちょっと分かり易く言えば、一人が挙げる1勝をただの勝ち星「1」とするか、その1勝で次の1勝を呼び込むことができるか。実はその役割を果たすのが、レスリングにおける「エース」と呼ばれる選手の存在なのだ。

団体戦には特有の「流れ」というものがあり、これが個人戦との一番の違いだ。その流れを考えた時、前半三人の役割は重要なのは間違いないが、特に重要なのは三人目の選手だ。下の二人が負けた時、その流れを変えられるか流されてしまうかは、この三人目で決まる。

当然、3敗で次に渡すか1勝2敗で渡せるかという数字的な違いもあるのだが、ここで再び注目したいのが「エースの役割」だ。
今回、教え子たちが全国大会団体戦準優勝を成し遂げてきたが、オレたちが団体優勝した時と比較してみよう。

今回の三人目は個人戦のチャンピオンであり、当然エースの役割を求められるポジション。これに対して優勝時の三人目は全国チャンピオンではない。
今回、二連敗で三人目に回ったケースは決勝だけという、まさに優勝を狙える戦力が揃っていた訳だが、オレたちの時は決勝以外にも準々決勝で二敗での三人目という場面があった。
監督としてはここで流れを引き戻さなければならない。今回はここで勝ったのだが、どちらに転ぶかわからないような展開の薄氷を踏む勝ちで、優勝時は二度とも二分足らずでのテクニカルフォール勝ちだった。もうかなり言わんとしていることは見えてきたと思うが、この重要な三人目にエースの仕事ができる選手がいるかいないかが、かなり重要だということである。

普通の選手であれば勝つだけで精一杯で、流れ云々を考える余裕はない。1勝を挙げてさえくれれば御の字だ。しかし、エースならば全体の雰囲気を、舵取りを担わなければいけない。

今回の選手が良いとかダメだとかを論じている訳ではない。実際、優勝時の選手は三年生だが今回は二年生だ。それでもチャンピオンならばチャンピオンとして、更にはエースとしての役割が果たせなければチームを優勝に導くまでには届かない、ということなのである。

今回も優勝時も四人目は個人戦のチャンピオンではない。更に言えば優勝時は出場すらしていない。しかし、三人目が1ラウンドにフォールまたはテクニカルでド派手に勝った時の勝率は100%。これが四人目すら5戦5勝に導いた、優勝の要因だった。まさに菅野投手が連敗を止め、相手のエースを完封で退けてチーム全体の士気を鼓舞するのと同様[エースと呼ばれる選手の条件]なのだ。そしてそのエースがいるかいないかが、優勝のためには大きく影響するのだということを、今回の選手たちには学んでほしい。

そして菅野が押さえても坂本や岡本が打たなければ勝てないように、エースが登場して流れを一変させても、また戻されては意味がないから次に重要なのは四人目ということになる。そうやって選手を考えて配置しながら、次は大将(七人目)、次は先鋒とピースをはめていく訳だ。何となく、その時の体重でなどと言っているチームにはとても優勝を望める筈がない。

一般論として、今回のチームはよく頑張ったと言える。しかし、戦力的には優勝時を上回るものを持っていただけに、残念な部分がどうしても大きい。しかも関東と同じカードという、これも優勝時と同条件であったにも関わらず大きく差をつけられてしまった。これが準優勝を全く喜べない原因だ。そして失敗は繰り返してはいけない。いろいろと「早い段階で」直さなければならない所は多いが、この経験を生かしてもらいたい。次の試合も重要であり、もうすぐにやって来る。

このままでは次の新人戦は県大会で負ける。3対4で。その指摘に腹を立てるのではなく、意味をよく考えてもらいたい。オレがいなくなったことで、そのライバルと一緒に練習するなんて案もあるらしい(笑)。考えられない愚策だ。じゃんけんする前に、お互い何を出すかを教え合うのと同じ、本当にやるとしたら今回の負けの教訓を全く生かしていない。手の内がわかってしまえば、勝つのは層が厚い方に決まっている。オレたちは特待生もろくに取れずに戦うのだから、プランを相手が立てられるような愚かなことは絶対にしてはいけない。本当に勝つ気があるのならば。

ただ勝つだけではなく、ただ1勝を挙げるだけの選手ではなく、本当のエースを作ろう。本当のエースになろう。一人ひとりがエースの条件を胸に、強い気持ちで試合に臨もう。あんな惨めな負け方をするチームではなかった筈だ。言われて悔しければ、見返す程練習したらいい。先輩たちを越えるような、見返す試合をしたらいいのだ。

今回はかなり一部の人しか分からない内容になってしまったが、残してきた生徒たちへの愛情の裏返しと許容いただけるとありがたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?