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少し遅れたしーちゃんのバレンタインデー

2月14日はバレンタインでした。しーちゃんにも儚く、雪が解けるように消えてしまったバレンタインの思い出があるのです、実は。

大変だ、しーちゃんが恋をした⁉

しーちゃんはデーサービスのスタッフIくんに好意を寄せていました。
しかし私はその思いになかなか気づくことができなかったのです。
だって失礼ですが、後期高齢者の仲間入りのしーちゃんが「恋」!?
こんな青天の霹靂みたいな出来事、想像さえしないですよ、普通。
しかも自分の母親ですから、ありえない。

しかしそれに気が付く出来事が起きたのです。
それはデーサービスに突然「行きたくない」と言い出したときです。
あんなに楽しく行っていたのに、なぜ???
と聞いても「いいです。私は卒業します」の一点張り。
しかしあっちから、こっちから色々な方向から話を聞くと、ポツリポツリと話してくれました。

嫉妬に狂う、しーちゃん⁉

簡単に言うと、ジェラシー!
しーちゃんはいつもデーサービスの帰りは、Iくんの助手席が指定席だったのに、たまたま乗り合わせた別のスタッフの女性が、当たり前のように助手席を奪い、しーちゃんは後部座席に追いやられたのでした。
しかもその女性スタッフはIくんと楽しげに話して、しーちゃんは無視。
それはしーちゃんだって楽しいわけがありません。
そしてプライドの高いしーちゃんは、こんな悲しくて、みじめな思いをするぐらいなら、Iくんとは会わない方がいいと言うことで、デーサービス退所を決意するのでした。

無事思いは伝わり蜜月を楽しむ、しーちゃん

それを聞いた私は、母の恋。
複雑? なんてことはなく、「こんなにも一途に思うしーちゃんの気持ちを伝えなきゃ」とIくんに会いに行きました。
まあ、それだけでなく、しーちゃんが思いを寄せるスタッフさんとはどんな男性なんだろうと興味もあったんですけれどね。
すると出てきたのは、ジャニーズ系の優しそうな人。
事情を説明すると、ニッコリ笑って「かわいいですね」と一言。
「やばい」この人、かなり遊んでいるよ。
「そうですか。僕に好意を寄せてくれて、困ったな……」なんて謙遜することなく、「かわいいですね」という言葉がポンと出てくるって、かなりもてるよね。
免疫のないしーちゃんは、翻弄されるわーと納得。
そしてしーちゃんの思いを受けて、Iくんはそこから「お前はホストか?(笑)」と突っ込みたくなるぐらい、しーちゃんを特別扱いしてくれたのです。
しーちゃんもすっかり女王様気分。
二人の蜜月です。

バレンタインデーに玉砕する、しーちゃん

そこまでしーちゃんに優しくしてくれるなら何かお礼をしなければと思った娘。
ちょうどバレンタインがあったので、しーちゃんに「チョコを買っておいたから、これIくんに渡しなよ?」というと、テレテレのしーちゃん。

当日はチョコを渡して、きっと二人でフフフと楽しい会話が弾むのだろうと娘も幸せな気分だったのに、しーちゃんから電話がきて
「やはり渡せない」とのことの。
しかもだいぶ、落胆している。
どうやら渡し方がわからない。
渡すタイミングがわからない。
あげく、しーちゃんは気づかれしてしまった模様。

思わず「少女か⁉」と心の中でつぶやいちゃいましたが、そうですよね。
よく考えれば、乙女なんですよしーちゃん。
若くして結婚して、そこから子育てに奮闘して、今ですよ。
恋なんてほとんどしていないしーちゃんが、Iくんにチョコを渡すなんて、ハードル高いですよね。
よし、わかった! 
ここは娘がしーちゃんの恋にひと肌脱ごう!と、さっそく、Iくんに電話し「母がチョコを持っているので、次に会ったときに積極的にもらってあげてください」というと、Iくんは軽く「イイッスよ」と。
やや拍子抜けですが、へたに遠慮されるよりありがたい。

しーちゃんの持っていたチョコは、バックの底の方にグチャグチャになっていて、しーちゃんの葛藤の後が伺われる。
早速新しいのを買い、しーちゃんのモヤモヤがつまったチョコは家族がキレイさっぱりお腹の中へ。

遅くなったけれどチョコを渡せた、しーちゃん

すこし遅くなったバレンタインだけれど、
Iくんがしーちゃんに「チョコあるんでしょう、ちょうだいよ」という言葉をきっかけに、見事渡せて大成功を勝ち取った。
そのあときた電話では、しーちゃんの声はいつになく弾んでいて「あげたんだよ」と嬉しそう。
後期高齢者でも恋はする。
そしてそんな恋する乙女はいくつになってもかわいいのです。
娘も右往左往してあっちにこっちに手を回して「よかったよ」と思うと同時に、とても幸せな気分になりました。

しかしハッピーエンドのあとには悲しい別れが。
それから数か月後、Iくんは転勤になってしまいました。
しーちゃんの恋は、雪のように解けてしまいましたが、ツーショットの写真は今もスマホの中に。時々眺めては、フフフと笑っているようです。

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