バーチャルプロダクションとは?その3 InterBEE2021に見たLED ICVFXの現状
前回、殆どのVirtualProductionのシステムのプラットフォームはUnrealEngineが担っているという事を書きました。それで次回はLED ICVFXの要となるLEDディスプレイについて書きます。と、明言したのですが。。。
しかし、InterBEE2021の初日に行って、バーチャルプロダクション関連で数社出展していたので、そこを今、旬なうちにレポートしておかないと!と思い、バーチャルプロダクションの側面から見たInterBEE2021という趣向にしたいと思います。
ただ、LED ICVFXに関しては国内では2強といわれるヒビノビジュアルとソニーPCLが参加していません。(一通り見た後だと、両社ともそれが英断だったと思えてきます、その理由は後述)
今回、InterBEEに行った理由は自分の個人的な興味もあるのですが、ビジュアルグラフィックス株式会社(VGI)が9月にH ZETT MのMVの撮影で協力してもらった経緯もあり、「Virtual Production は制作現場をどう変えるか?」というセッションにゲストとして参加するという事もありました。VGIの展示のメインはBaselightというカラーグレーディングのマシンで、InCameraVFXに関してはひっそりと液晶TVをモニターに見立てたミニマムな展示だったので、とりあえずシステムの概要を伝えるという感じのものでしたが、プレゼン自体は撮影風景の動画を見ながら語るというシンプルなものですが実際に作品として公開されている説得力は強く、戒能さんの流暢なMCと相まって観客に楽しんでもらえるプレゼンになったのではないかと思います。
まず、そのVGIの展示から伝えるとBTO-PCをベースにUnrealEngine4.27だけでシステムを構成し、ZEDというIMU機能付きステレオカメラを利用したカメラトラッカーに用いているのが特徴ですね。これなら赤外線マーカーやベースステーションも必要ないのでシンプルな構成でいけて、全体のコストもかなり下げることができるのを売りにしています。
今回のようなミニマムな展示だと精度については、まだ判断しにくいところですが、H ZETT Mの撮影時にはUE4.26で、トラッカーもIntelのRealSenceという状況で苦労したので、それが改善されていることを願っています。
そしてVP関連の展示では一番スペースを取っていたのはInterBEE CreativeのLED ICVFXでしょうね。ディスプレイも幅6m高さ4mと一番大きな展示になっていました。
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ただ、「?」と思うところがいくつかあり、バランスの悪い展示になってしまっていた印象を受けました。
LEDディスプレイが2.6㎜ピッチだったので本来ならラージセンサーを使いたいところでしょうがIkegamiのスモールセンサーのカメラだったのは何故? カメラ移動が無いと効果が出にくいのがInCameraVFXなのですが、キャスタードリーだけの対応も勿体なく感じました。トラッカーも当初VIVEを想定していたという事ですが、当日になり一斉に全部のブースが稼働するといろいろな電波が飛び交いトラッキングできなくなりMo-SysのStarTrackerに急遽変更になったと壇上で述べていました。もともとの設定がVIVEのためレンズの焦点距離とフォーカスデータは反映されていないと思います。
まあ、こういったことを踏まえるとキーライトがタングステンなのも夕日という狙いなのか?経費の都合なのか?どうしても台所事情まで想像がいってしまいます。せっかくジャングル風の美術も組んで見栄えがするだけにある程度しっかりした形でLED ICVFXとはこれだ!という形で見てもらいたいですね。
この会場に来る人は、LED ICVFXの現場を目にするのは初めていう人が殆どでしょう。そんな人たちにバーチャルプロダクションって、こんなものか。と落胆されてしまうのが非常に残念でなりません。ムードの演出という事であれば問題ないでしょうが、実際に使おうか検討している人にとっては肝心な部分がないがしろになっているような気がしました。
そんな中、自分も初耳だったのですが、アークベンチャーズという会社が安定した運用をしていました。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/66019660/picture_pc_412e1ddd18d543370e0be1db81efc02e.jpg)
LEDはROEの2.3㎜をメインディスプレイとし、床面にも踏んでも大丈夫な4㎜ピッチLEDを配置して、環境光用のLEDも配置されていました。システムはDisguiseだったのですが、驚いたことに背景のシチュエーションが次々と変わっていたことです。映像を出すだけなら簡単な事ですがICVFXとなると環境全体のCGアセットを読み込みなおすことになります。その場で気付いていれば質問したのですが、後で思い返して「あれ?そういえば瞬時に変わり続けていたよなぁ?」と思ったわけです。その中でも地下鉄のシチュエーションだけが群を抜いて良かったです。
この会社はレンタルでLEDやシステムを運用するわけではなく、常設のスタジオなどを設営する際のコーディネートなどを担当しているらしいです。KOWA主導で作ったデモリールはLED自体は小スペースながら床面も含めたキューブの3面使ってLEDの範囲外はxRで捕捉することで、実際よりもかなり広がりを見せられるつくりになっていました。
あと、今回はMo-Sysをトラッキングに使っていましたが、今後はBLACK TRAXというカメラトラッカーの導入を考えていると聞きました。これはVICONのようにカメラに着いたセンサーを周りに置いた特殊カメラで認識して追尾する方式で、RedSpyやMo-Sysとは違う仕組みのかなり気になる存在です。
[https://blacktrax.cast-soft.com/](https://blacktrax.cast-soft.com/)
トラッカーと言えば、グリーンバックベースではありますがTrackMenというトラッカーをフォトロンが展示していました。これはRealSenceやZEDに似たカメラの画像からトラッキングデータを収集するタイプのトラッカーですが2眼ステレオタイプではなく1眼なんです。そういったこともあって撮影に使っているカメラの画像からでもトラッキングすることが可能なのです(ただし、この場合は単焦点に限るらしい)。
https://www.photron-digix.jp/product/trackmen.html
このTrackMen、ラインナップを見ると以前はマーカーベースのモデルもあるんですね。最近になってマーカーレスへ移行してきたのが見て取れます。
現在は確実なトラッキングを目指すならマーカーベースのものか、逆に複数台のカメラでカメラの付いたマーカーを掴む方法が確実ですが、今後、同精度でマーカーいらずになってくるというのが業界の流れなのかもしれません。
TBSブースも壁と床をLEDで構成し、システムをdisguioseで運用していましたが、カメラが動くという事もないのでLED ICVFXというような表現ではありませんでした。
そして、今までよく話に出てきていたdisguise本家の出店はプロジェクターやLEDを出しているBARCOの一角で行われていました。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/66019718/picture_pc_92cb7c0749a2e88b3228c77c85b08002.jpg)
BARCOの1.9mmピッチのLED3m×3mを2枚90度角で組んで展示。トラッカーはRedSpyを使用。ワイドショー的なバーチャルセットのアセットで見せていました。
ブース自体は大きなホールの中だとかなり小さく見えますが、カメラの映像をdisguiseに戻し、LEDの外側の部分をレンダリングして合成することで、広いセットに見せていました。
カメラはURSA miniPro4.6KにFujinon19-90を付けたセッティングがミニジブに乗っている状態であって、それとは別にもう一台SONYの1インチセンサーのPTZカメラ(リモートでPパン、Tチルト、Zズームが出来る事からその名称になっている)が用意されていました。やはり、映画や広告の映像作品を作るといったアプローチよりも、無人リモート中継のようなスタイルが今年のInterBEEの傾向のようです。今回、一番の目玉はIPパビリオンと題したリモートプロダクションがメインの展示ブースだったことからもうかがえます。
やはり、InterBEEに限らず見本市全体に言えることですが、お祭りのような雰囲気で広く浅く顧客を捕まえるのには向いていますが、単価が高いバーチャルプロダクションのような商材は、面白がって見てくれる人が顧客になる可能性が極めて低いにもかかわらず、準備や会期中の日数を考えると相当な出資になってしまいます。そして、そこをケチってしまうと中途半端なものになりかねません。
このジャンルにとっては労多くして実り少ないのが見本市という催しなんでしょう。
しかし、新たな発見や出会いもあったのも確かです。
LED ICVFXは興味を持っているが、何から手を出していいやら分かりづらいという事で一歩踏み出せないでいるプロダクションも多いことを実感しました。
それなら自分が分かりやすく解説するページを作るのも意味があることなのかな?と再認識した次第です。
という事で、次回からはホントに技術編に入りますので、よろしくお願いします。
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