中公文庫VIBRIO~本の虫だった浪人生が装丁という言葉を知った日

2001年夏。浪人生だった私は予備校の授業もろくろく受けずに、大阪梅田の紀伊国屋書店に入り浸っていました。当時は漸くYahooがブロードバンドモデムを配り出した頃で、インターネットは普及し始めたばかり。今に繋がる出版不況の波は、まだまだ押し寄せてはいなかったと思います。

また書店の数も、商店街の小さな店舗を中心に町に4.5件はあり、「普通の本」を手に取って買う分には何ら不自由の無い時代でした。一方で、専門書や流通量の僅少な書籍を網羅する大規模な店舗はハレの日の場で、関西だと梅田や三宮といった大規模なターミナル駅にしか存在しないのは今も変わりませんが。

グーグルのような検索サイトやアマゾンのようなECサイトもまだ黎明期。「普通では無い本」を手に取る機会が無い、いや、そもそも知る機会が無いという意味では、大規模な店舗を訪れるという事は、今以上に宝探し感に溢れた体験でした。兵庫県のとある地方都市に生まれ育った本の虫、しかも多感な10代後半、が、それを渇望していた事は言うまでもありません。

そして、浪人生という大義名分を得た私の日常は予備校通いも束の間、たちまち大阪・三宮の書店廻りを中心に構成されるようになりました。たまに気が向いたら最寄りの予備校の自習室で勉強し、各校に1人はいる友人とメシを食べつつダベり、そのうち帰宅するという夢のような生活。元々好きだった歴史学や民俗学の網野善彦、柳田國男、宮本常一etc...、日本文学はもちろん海外文学やビジネス書まで、日々が新たな本そして知識との出会いでした。

そんな中、冒頭の紀伊国屋書店で手に取ったのが、創刊されたばかりの中公文庫VIBRIOシリーズです。

当時、ハードカバーや専門書は図書館で借りるもので、限られた小遣いやバイト代で本を買うには文庫本がマスト。表紙や帯のデザインなんて中身に関係無いしと気にした事すら無かったのですが、この本を目にした第一印象、「何これめっちゃカッコいいやん」

作中の1節を抜粋して表紙に大きく配置し、それぞれのジャンルや内容によって異なる配色。当時はまだ珍しかった帯も含めてのデザイン。それはお洒落な文庫本との初めての出会いでした。内容もダライ・ラマやアルベルト・シュペーア・重光葵など20世紀を彩った人物の自伝物や、探検物、天体、怪談、グルメに至るまで、他に無い攻めたジャンル編成。本作品をきっかけに何十冊と買い集めたシリーズです。

早すぎたデザイン性。
2008年に廃刊になってしまった事が非常に悔やまれます。今ならきっともっと売れるんじゃないかな。再販を切に願う次第です。

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