無個性の追求
どのアートでもそうだと思いますが、個性を消す事は本当に難しい。
自分が尊敬している大好きな超級刀鍛冶、川﨑晶平さんという刀匠がいます。
その方が去年出版された「テノウチ、ムネノウチ」(双葉社)という書籍の中に
「型を身につけるくらいで消える個性は、本当の個性ではない」
という言葉を見つけました。
消そうとしても消そうとしても滲み出てきてしまうものが本当の個性であると。
大賛成でございます。
私は、クライアント様に提供するモーションデータは無個性であり、ただただ作品の演出やキャラクターに寄り添ったものでありたいと思っています。
そこに自分らしさ、自分だからこそ、爪痕といったものをいっさい残す気はございません。
特撮の業界では、ファンの方々がスーツアクターの誰が入っているかを当てるという楽しみ方もありますね。
動きの特徴や、よく使用するお気に入りの振り付けなどを発見して「この中身は誰々さんだ!」と、一瞬で見抜く目の肥えた方々もいらっしゃいます。
アクターにとっても、そうやって自分のブランディングをしていくというのもとても大事な事だと思います。
自分も若い頃これで悩んでいて。
役者さんように特徴のある魅力的なお芝居や面白いことができず。
なんて才能がなんだろう、もう業界辞めるか、、、とヘコんでいた時期もありました。
そんなときに、よくお世話になっていたモーションオペレーターの方が気づかせてくれました。
「え? 自分で気づいてないんですか?? 杉口さんの動きって全然クセががないんですよ。 それってユーザーが繰り返し見ることになるゲームの動きに関してはめっちゃくちゃ強力な武器なんです。 狙ってやってるんだと思ってました。」
ん? そうなの?? オレはただディレクターに怒られないように素直にやってただけだったんだけどww
でもそうやって我を通さずに、無理難題でもひたすらに出来る最大限を誠実に行い続けるということが、いつの間にか私のカドを削ってくれてたようです。
それ以来、「無個性こそ自分の個性」をモットーにさらその能力を意識的に磨いていきました。
奇をてらわず王道で、とにかく質の高い動きを。と。
その甲斐あって、今ではドラクエ、FF、メタルギア、NieR等を始めとるするさまざまのヒット作品で主人公やらせてもらえるポジションをいただけました。なのでまあ、取り組みは自分にとっては良かったのかなと思っております。
杉口のアクターとしての最大のセールスポイントって、実は身体能力でもアクションでもアクロバットでもなく無個性で売ってます。
その上で、キャラクターや演出に沿ったお芝居を足していくということを、ずっとやっております。
以前、自分のデータを処理をしてくださった3Dアニメーターさんから、
「杉口さんの動きってクセが無さすぎて、データだけみても誰がやってるか分からないんですよね。後でアクターさんの名前を見てようやくそうだったのか〜ってなるくらいで」
と言ってもらったことがあります。
これめっちゃくちゃ嬉しいですww
もちろん今もなお満足は出来ておらず、滅私開眼に日々取り込んでおります。
いつか滲み出てくるモノと出会う為に。
冒頭にご紹介した晶平刀匠も、同じようなご苦労をされてきて、今も更なる高みを目指しておられるでしょうから。世界違えど、そういう方がいらっしゃるということが励みになります。
素晴らしい書籍をありがとうございます。
ちなみにこの本、この他にも刺さるエピソードが満載でおすすめです。
(この写真は書籍とは関係ありません、お邪魔させてもらったときに撮らせていただいたものです)
https://www.amazon.co.jp/テノウチ、ムネノウチ-刀鍛冶として生きること-川﨑-晶平/dp/4575315753
忍者に憧れ、スタントマンからこの業界に入った身としては、まるで役者さんが自分でやってるかのように「魅せる」ことが肝要でした。見てるお客さんに、作品に没頭して欲しいですからね。杉口という存在などこの世に居ないのが正解です。
仮面ライダーウィザードのときも、途中で高岩誠二さんが私の存在を明かしてくださったおかげで認知していただけるようになりましたが、それまではXMAパートも高岩さんがやられてると思い込んでくださった視聴者の方もたくさんらっしゃいました。
「高岩誠二はまだ進化するのかっ!!」などのSNSを見ては一人満足感に浸っておりましたww
(ま、高岩さんが若い時代にXMAがあったら余裕で自分なんて追い越されてたでしょうけどねww タイミングだけです。)
でも何事も一丁一短はあり。
自分を消すことに慣れすぎてしまったせいでアピールが苦手になってしまったという弊害もあるんですけどね。
なのでこちらのnoteでこっそりほそぼそと文章を続けてます。
いつも読んで下さってありがとうございます。
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