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【声劇台本】情Kのその先

メイン登場人物(男:4)

・K/男
先生によって作られたバイオロイド。年齢は10代後半。賢く大人しい性格だが、先生の前では子供らしい表情を見せる。

・先生/男
優秀な学者で、荒廃する前の地球にいた事がある唯一の人間。Kを作り出した張本人。

・後輩/男
人類が母艦へ避難した後に生まれた青年。先生を先輩と呼んで懐いている。

・教授/男
教授と言うのは愛称で、母艦内で研究者達を束ねるチームの重役。

サブキャラクター(兼ね役可能)
・妻/女
先生の奥さん
・恵/不問
先生の息子
・看護士/不問

【時間】約30分
【あらすじ】
ここは、宇宙。人類はノアと呼ばれる母艦で暮らしていた。地球は荒廃しており、人間が住める場所ではない。その地球にポツンと一人、バイオロイドのKは人間より丈夫な造りで、地球の調査を行っていた。


【本編】

Kモノ「出来てしまった…。それが俺が初めて聞いた言葉。あの人は口角を上げていたから良い意味だと思ったんだ」


先生「地球は人間が住める星ではない。とある国で大規模な大気汚染が起こり、徐々に地球全土に渡っていった。人間はわずかな人数で地球を脱し、巨大な母艦で宇宙空間で生活している。この母艦はノアと呼ばれている。大昔の伝説ノアの箱舟から取ったのだろう。遠目からでも姿を変えた故郷。あの、まだ美しく見えた情景を知っているのは私だけなのか…」

先生の下へ駆け寄ってくるK

K「先生ー!先生、勝手に居なくならないでください。先生はすぐに何処かへ隠れる様にいなくなるんですから…」

先生「ごめんごめん、散歩のつもりだったんだけど、Kは寂しがりだな」

K「そ、そういう訳では…」

先生「ふふ、いいよ母艦は広いしね。何年ここにいても迷っちゃうし……でも、年月の感覚はよく分からなくなるね…ここにいると」

K「先生の知る地球は、文献に載ってある通りとの事ですが、ここで生まれた俺や既に大気汚染された世界で生まれた人間が多いこの場では今や御伽噺です」

先生「そうだねぇ…写真なんて殆どなくなってしまったし、寂しいものだよ………目覚めなければ良かったな」

K「せっ…」

先生「なーんて、今更言ってもね。お前も困るだろ?」

K「はい…」


Kモノ「先生は大気汚染が蔓延る前から生きていた唯一の人間。詳しくは知らないが、先生は病を患っていてコールドスリープを使って療養をしていたとか、俺は先生によって造られたから先生の見たって言う星の景色は想像が付かない。
先生は優秀な学者で療養と実験でコールドスリープされ、目を覚ました。目を覚ました場所がこの母艦だったそうだ。数十年で目を覚ます予定だったらしいのだが、汚染問題が上昇し実験の継続。先生の知識、学歴、諸々が見込まれ母艦に連れて来られたと聞いた。
実際、先生は優秀って所じゃないと思う。コールドスリープから覚めてわずかの年数で状況、技術レベルを理解し、今や母艦でトップレベルの位置にいる。そして俺はそんな先生に造られた人間にもっとも近い造り物。人造人間、バイオロイドの部類。
基本は人間に似た造りの人工臓器、細胞など奇跡レベルで適合性が高かった。人間より丈夫で臓器の交換も可能。器があれば差し替えが効く、俺は命じられれば危険な場所へ赴くロボットの様なもの…だから、」

荒廃した地球を歩くK

K「地球型惑星、大気レベルは前回より悪化しています。砂漠地帯の拡張を確認。老朽、状態の悪化により建造物の崩壊、および砂に埋もれているのを記録致しました。」

Kモノ「これも人体実験と言うのだろうか?人間が住めないのに何度もあの惑星を一人で歩かされ、軽装で臓器への影響を調べさせられ、帰ったら先生に臓器を交換してもらう。壊れたら部品を取り替える。本当にロボットみたいだ。帰還命令が出るまで俺は一人だ」

K「先生、ちゃんと休めてるかな…」

母艦

アナウンス「Kが帰還しました。消毒室を開きます」

Kモノ「僅かな期間でも体が黒ずむ程、臓器や細胞のダメージがある。あの星は人が住むのに絶対適さない。俺でこの状態なら、普通の人間は死に至るだろう。なのに何度も行かされるから俺の体の成長細胞は機能しなくなった」

K「あぁ、息苦しぃ…早く、早く先生に会いたい…」

先生の研究室

先生「おかえり、K」

K「ただいま……また、隈が……あまり触れないで下さい。いくら消毒しても臓器が…」

先生「あぁ、そうだね。早く交換しようか、そこに寝そべって…」

Kモノ「俺も先生もこの時間は好きじゃない。別に痛みとか違和感はないが、何処か締め付けられる痛みがわずかにある。先生が辛そうな表情をしているから。麻酔が効く前にそれを見るから俺も…辛い」

眠りにつくK

Kモノ「次に目覚める頃は臓器は交換され、体の黒ずみは消えている」

先生「おはよう」

K「おはようございます」

先生「体は大丈夫かい?」

Kモノ「先生は表情が戻る」

K「はい」

先生「お腹空いたろ?何か作ろうか」

K「ありがとうございます」

Kモノ「そうしてまた当分の間、いつも通り穏やかな時間が流れていく、一緒に食事して、散歩して、髪をといでもらって、お仕事を手伝ったり、偶に一緒に寝たり、ゲームをしたり、辛いことがあっても先生と一緒なら先生の為なら俺はそれでいい」


母艦内

後輩「親子みたいですよね、先輩とKくん」

先生「親子ねぇ…まぁ、間違ってはないかもね。この子の容姿は私に似せてるから」

K「親子…」

後輩「あーやっぱり?目元とかそっくりですものね!」

先生「他人をモデルにするより、自分をモデルにする方が造りやすかったんだ。ま、クローンとはちょっと違うんだけどね」

後輩「へー!でもクローンならまだしも、こんなに完璧なバイオロイド、K君だけですよ。アンドロイド型は研究を続けやすいけど、心を持ったバイオロイドなんて本当、フィクションの世界だけですよ、未だに…」

先生「そうだね…でもK位性能が高いのはもう造れないからKは貴重だね。生産型じゃないし、クローンも造れない。本当奇跡みたいなものだよ、この子は…」

後輩「そうですね〜。めっちゃ顔整ってるし、本当造り良いですよね日本人ってのは…何て言うんでしたっけヤマトナデシコ?」

先生「ははっ、言い過ぎだろ。この子は男なんだからカッコいいとか言ってやってくれよ。俺似だぞ?」

後輩「いや〜子供良いっすね〜。俺も欲しいですわ」

先生「良い人いないのか?」

後輩「そういう先輩こそK君いるけど独りでしょ?」

先生「…まぁね、でも特に考えてないから」

後輩「えー、結構モテるのに?K君もお母さんとか欲しくないのー?」

K「…俺は別に…、先生がいますし。…でも、先生が好き人と結婚するのを望むなら、それでもいい」

後輩「うわぁ、良い子!先輩大事にしましょーよこんな良い子供!」

先生「……そうだね」

後輩「気になる人いないんですかー?」

先生「いないねー」

K「…………」

Kモノ「先生って…浮ついた話、一切ないな…。俺がいるからって単純な話じゃないと思うけど…もしそうなら先生の邪魔にはなりたくないし…」

後輩と別れ、母艦内を歩く二人

K「先生って結婚とかなさらないんですか?」

先生「!?……ど、どうしたの急に!?」

K「いえ…先生ってそういった話が一切ないと…。先生は魅力的な方ですし、遺伝子は残した方が良いと思うんです!もし俺がいると言う理由なら気にしないで下さい」

先生「あー…お前にまでそう思われてたなんて、大丈夫だよ…好みの相手が居ないってだけだし、そう言うことを考える時になれば、相手にもお前にも相談するし…だからお前が心配しなくていいの。結婚とかしてもお前を手離すなんて考えてないよ。ま、お前が親離れしたいなら止めはしないけど、私の為とか気を使わなくていいんだよ」

Kモノ「先生はそう言うのに…、何で辛そうな顔をなさるのだろう。結婚とかする気がないってだけならいいのに…何で辛そうなの?先生……」


後日、先生の研究室

K「先生ー、あれ?いない…研究所の方かな?…あっ、この本…!やっぱり…この間気になってた本だ…!先生の本棚の上の方にあって取ってもらおうと思ってたけど惑星調査があって忘れてた!先生も読んでたのかな?…帰ってくるまでちょっと読ませて貰お……ん?何か挟まってる。栞かな?…いや、栞にしたら先生が使ってるのと違う…栞の代わりに別の物を挟んだのかな?先生、片付けはマメな方だし…もしかして、急いで此処を出たとか?」

紙を手に取るK

K「…………!?これ、…紙媒体の写真だ。今時珍しい…って言うかタイプも古い。写ってるの…先生?…と、女の人と……子供。…この子供…俺だ……!?」

アナウンス「バイオロイドK様。至急、第三教授室へ向かってください。繰り返します…」

K「…また、あの星の調査か…いや、でもあの教授なら…何か知ってるかも。先生の事…俺の知らない先生の…事」

教授室

K「失礼致します、Kです」

教授「あぁ、K君よく来たね」

K「いえ…」

教授「察してると思うんだけど、…すまないが」

K「…分かってます。惑星調査ですよね。承知しております」

教授「すまないね、まだ彼には言ってないが」

K「俺が伝えて置きます。いつもの事ですし」

教授「…頼むよ」

K「そ、その…代わ…りに」

教授「ん?どうかしたのか?」

K「その……先生の事で」


先生の研究室

先生「あぁ、おかえりK」

K「…先生」

先生「教授の所に行ってたんだろ?何か話し込んでたの?遅かったけど」

K「あ、はい…少し…、雑談を…」

回想、教授室

教授「え、彼の事?」

K「はい、俺が知る先生よりずっと前…先生がコールドスリープなさる前、どのような方だったのか…知りませんか?」

教授「んー…確かに私はコールドスリープ後の彼に色々聞いたが…あまり話たがらなかったよ。でも、一応聞かないといけなかったんだけど……結婚はしていてらしいよ。後、息子が一人いたらしい」

現在、先生の研究室

先生「次の調査は私も同行するよ」

K「え…?」

先生「少し長期になるって聞いてね。私も同行させて貰う様にお願いしたんだ」

K「何で…急に」

先生「流石に私の承諾無しに話が進む事が多くなってきただろう?それが許せなくてね」

K「で、ですが生身の人間である先生には危険な地です」

先生「分かってる。だが、いつまでもこんな閉鎖的な空間で生活は辛い。それに私は地球の姿が見たいんだ。私の生まれ育った故郷に…」

K「え…、何でそんな事言い出すんですか!?」

先生「言った通りだ。外を見たい」

K「そ、外には、何もありません」

先生「それは私が決める事だ」

K「…駄目です。俺ならともかく」

先生「だからなんだ?」

K「え」

先生「知ってる。いつもお前の体を確認してるのほ誰だ?短い滞在でもお前の黒ずむ人工臓器を見る度に心苦しく感じてるんだぞ」

K「…では、あの星は毒素で満ちてると分かってるでしょ」

先生「地球だ。あそこは私達の生まれ育った故郷、地球なんだ!」

K「しかし、あそこは…もう…」

先生「分かってる…分かってるが、もう一度この目で確かめないと気が済まないんだ」

K「……嫌です。嫌ですよ!先生のお体を蝕むかもしれないんですよ。そんなの俺が耐えられません!」

先生「K、お前がそう思ってくれるのと同じ様に私もお前を大切に思ってるんだ…私はいつもお前の体を見る度に思ってる」

K「でも…俺は臓器を替えればいい。でも先生は人工臓器ではいけません…!」

先生「あぁ…、だがこのまま実験道具としてお前を使いたくない……ただのエゴだ」

K「先生…俺はそれでいいです。帰ると先生が迎えてくれる…それが俺の喜びで…。先生が元気に笑ってくれるだけで、俺の幸せなんです。先生は俺から幸せを取るのですか…!?」

先生「……では、お前が地球へ一人で行かされる度に私の心を締め付けるのは、幸せを取られてる事だと思わないか?」

K「…それは、…でも俺がいなくなった位で」

先生「お前は俺の息子だぞ!何故親が好きで子を死地へ向かわせるものか!?」

K「……」

先生「また俺から大切な物を奪おうとしないでくれ…K」

K「俺は…先生の息子ではありません」

先生「何?」

K「…俺は。俺は、Kです!先生の息子さんのケイさんではありません!!」

先生「………K。お前、知ってたのか?」

K「すいません…。色々…調べました」

先生「…そうか。言いたくはなかったが、…調べたか…仕方ない。どこまで調べられた?」

K「学歴、経歴、結婚歴、子供の有無…データに残せる物は…コールドスリープ後の先生から聞いた事のデータです」

先生「なるほど…予想通りだ。それが何なんだ?」

K「……」

荒廃した地球に立つ二人

先生「こんなに変わったのか…。何もないじゃないか。本当にここが俺達の故郷か?」

K「……」

先生「これが…地球か?これが…何だこの景色…俺の知る地球じゃ…何で、こんな姿に…」

K「やはり、先生を連れて来させたのは間違い……
……!?何を!?」

防護服を脱ぎ捨てる先生

先生「ここは地球だ!地球は多くの動植物が生きれる生命の惑星だぞ!!月とかに降りた訳じゃないんだぞ!!重力だって変わってない!ちゃんとあの頃と同じ引力だ!ここは地球だ!!酸素があるじゃないか、息が出来るじゃないか!何故、防護服が必要なんだ!?俺がいた頃はなぁ、もっと洒落た服着て妻とデートしたんだぞ!色んなデートスポットに行ったなぁ!高級レストランとか行ったもんだ!そこでプロポーズしてさぁ」

K「先生…先生っ」

先生にしがみつくK

先生「子供が出来てからは遊園地とか連れて行ったりして」

K「先生っ」

先生「楽しかったなぁあの日々は…あははっ、あの景色が見えて来る様だよ!!」

K「先生ぇ!!」

先生「ほら、見えるだろK……景色が綺麗だ。ちょっと汚い所もあるけどさ、素晴らしい景色が広がってるんだ。大きな海も山も。ほら、蝶が飛んでる…綺麗だなぁ……あれ何て名前だったっけ?知ってるだけどさ。結構虫とか詳しいんだ。ケイも虫とか好きでさ、妻は少し苦手だけど、俺は…」

K「……先生、見えないです先生…。先生の見た世界は…俺には分からないです」

先生「っ……」

倒れる先生

K「先生っ!?先生しっかりして下さい!ちょっと待ってて下さいね!」

先生「酸素ボンベを付けるK

先生「……」

K「先生…なんて事を…とにかく、船に戻りましょう」

船内、先生の部屋

先生「うっ…ふぅ、ふぅ……」

K「大気中の物質が幻覚作用を引き起こしたのか…俺は経験なかったけど、やはり生身の人間にはこの惑星は危険だ。酸素濃度もかなり薄い…やはりこの調査…先生を同行させるべきじゃなかった!でも今回は長期任務…帰還命令が出るまで、この惑星にいなければいけない。なら、俺に出来る事は先生を外に出さず安静にさせる事だ。絶対に…先生を死なせない!!………先生」

数日後、船内
壁にもたれ、崩れるK

K「っ……ふー、ふー、ふぅ…。不味い…臓器へのダメージが来やがった…先生がいるし…人工臓器も予備があるが……そういえば先生、体調が少し回復してからは、自室に篭ってしまわれた…時折様子を見に行くが、研究をしているか寝ているか。外への調査には来ないでくれるのはありがたいが…体調の方は大丈夫なんだろうか…調査は順調だから長期任務と言えどそろそろ帰還命令は出るはず……先生の体調によっては早めて貰いたいけど…臓器の取り替えもして貰いたいし…様子を見るか。傍に居るのに全然喋れなくて寂しかったし…」

先生の部屋に入るK

K「先生ー、相談があります。入りますよ……せっ、先生!?先生、先生大丈夫ですか!?先生ぇ!」

床に伏せている先生、駆け寄り体を抱えるK

先生「K…どうかしたの…かい?」

K「体温の上昇、大量の汗……めまいも起こしてる…。先生!一刻も早く帰還しましょう!ここは簡易的な医療器具しかありません!先生の状態はこの惑星の大気に存在する悪性のウイルスだと思われます。やはり、あの時マスクを外したのと、軽装で外へ出る俺と一緒に過ごしていたから…。このままでは先生の臓器は活動を止めてしまう恐れがあります!母艦に戻れば進行を遅らせる薬があります!今なら後遺症が残る確率を抑えられます!」

先生「…そうか…私は故郷の毒に犯されたか…そうかい…」

K「すぐに酸素器具の準備と帰還申請してきまっ…」

先生「K……。大丈夫だよ…このまま放っといてくれ。臓器は…替えてあげるから」

K「そんな…何を言ってるんですか?このままでは死んでしまいます!」

先生「そうだよ…そうだ。それでいいよ。もうそれでいい。この地で死なせてくれ」

K「!!?」

先生「せっかくここに来たんだ。ここで死にたい。私のお願いだ、K」

K「嫌です!先生を捨て置くなんて、見殺すなんて俺には出来ない!」

先生「K…私が生きた時代とはもう違っているんだ。あそこは生き辛い…あの船の中で死にたくなはい、あの船で死なせないでくれ。K…お前の臓器については大丈夫だ…部下や友人に頼んでいる…簡単な治療も出来る」

K「先生…!?」

先生「K…お前には悪いと思ってる。お前は俺の息子じゃないと言ったな、どう思われてもいいさ。ちゃんと仲直りをしてから死にたい」

K「やだ…言わないで…そんな事。先生が死ぬだなんて俺、嫌です…!考えを改めて下さい!息子だと言う事を否定してごめんなさい!!」

先生「K…」

K「どうしたらいいんですか?どうしたら先生は死ぬなんて言わなくなりますか?」

先生「K…しかし俺は、俺の体はもう…自分の体の事は分かってる…だから俺はもう」

K「嫌です!!子を見殺しに出来ないくせに、親を見殺しにさせるんですか!?」

先生「K…俺は」

K「先生、俺を置いていかないで下さい!良い子にします!良い子になります!だから…置いて、いかないで下さい…先生!!」

先生「K…お前は良い子だよ…俺の後悔を払拭してくれる位…お前は俺の自慢の息子なんだ。だからK…俺の事…俺の口から話させてくれ。
お前を造ったのは私利私欲の為なんだ。目が覚めたら愛しい世界も愛しい妻と子もいない場所。自分の境遇や経歴、色々運が良かったんだ。こうしてお前を造りあげる事が出来た…息子の代わりにだ。
最初は本当に息子の代わりにしていた。名も…アルファベット表記だが『ケイ』と。俺の心を埋める為の存在だと…でも、もう違うんだ。K、お前はケイじゃない。お前はお前と言う俺の息子なんだ。
それにケイは俺がコールドスリープされる前にもう死んでるんだ」


Kモノ「えっ……!?ケイさんは…先生のコールドスリープ前に、死んでる?」


先生「病気だ…俺と同じな。俺と違って早期発見が出来ず、症状の悪化も早かった…妻はケイが亡くなった事により心を病み、その後離婚。そのすぐ後に俺はコールドスリープ実験に参加した。療養と言うより長い眠りにつき、現実から逃れたかったんだと思う…だが、幸せだった頃が忘れられず一枚だけ写真を持ち込んだり、女々しいなぁ…。それが悪かったのかな…お前を造ってしまった」

K「……え!?」

先生「目が覚めると見違えた世界…昔聞かせてやった浦島太郎って話そのものだった。技術レベルが上がっていたこの世界に俺の力でお前を造る事が出来た……出来てしまった」

K「………!?」


過去の先生「出来てしまった…」


K「後悔の言葉…!?」

先生「だけど、出来て良かった。お前を造って良かった。こんなに大きくなるんだな子供って…ちょっと甘えん坊だが楽しかったよ…。後悔はすぐに消えた。辛い思いもしたが何よりも楽しかった。お前は息子の穴埋めじゃない。俺の子供として、愛しているよ」

K「っ…せんせっ……」


アナウンス「K、Dr.返事をー…」

荒廃した地球をふらふらと歩く二人

K「大丈夫ですか?」

先生「あぁ…後、数分…位だね。しかし、本当にいいのかい?」

K「はい…!もう俺に心残りはありません。俺もこの地で命を尽くしたいんです」

先生「K…全く」

K「え、わっ!」

地面へ倒れる二人

先生「俺たちはバカだね!でも、俺は良い。付き合わせて悪かったなK」

K「いいえ。俺ももう幸せですから。先生の愛した地で先生を看取れて…親孝行出来てますか?」

先生「あぁ…最高だよ。ありがとう」

目を閉じる先生

K「先せ…、先生…。…っ?…先生、アレってもしかして…蝶っ……………夢じゃなかったのですかね…先生。…おやすなさい、お父さん」

3年後、母艦

教授「あれから3年か…」

後輩「…もしかして、K君と先輩っすか?」

教授「…あぁ、先日K君の生存チップの反応が消えただろう?少々…、思う所があってな…」

後輩「…そっすね…。それにしてもいくらK君でもよくあの地で3年も臓器が生きてましたね…意識は多分、早くに無かったでしょうけど」

教授「…それに関してだが、少し気になる所があってだな…」

後輩「…え!?その資料…」



K「先生……、おやすみなさ…い。大好き、です…」



病院

看護士「病院内では走らないでください!」

病室

先生「っ、産まれた!?」

恵「あ、お父さん遅ーい!また遅刻ー?」

先生「す、すまない…」

妻「うふふ、これで2回連続ね。まぁ、恵(めぐむ)の時より早く着いたわね」

先生「本当に申し訳ないと思ってるよそれは…」

恵「でも、お父さんが早く来てくれて良かったね!僕の時はお父さん出張で2歳まで会えなかったのに」

先生「ごめんって恵〜」

恵「えへへ、いいよ!僕はもうお兄ちゃんだもん!ケイ、良かったね!」

先生「………ケイ…?」

恵「うん!景色って言う字の『景』!」

先生「景…か、良い名前だな…そうか。景色の景か…色んな物を見してやりたいな…」

恵「お父さん泣いてる〜?」

妻「貴方、恵の時はテレビ電話の画面越しに泣いてたわよね」

先生「ちょっとそれ言わないでよ!」

恵「あ、景起きたー」

妻「貴方、抱いてあげて」

先生「…産まれて来てくれてありがとう…景!」

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