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【声劇台本】狼男と少女(男1:女1)

登場人物(男:1、女:1)

・ジェーン/女
孤児の少女。少年の様な口調と見た目で、好奇心が旺盛。素直でハツラツとした性格。ヴォルフに懐き、共に生活する事になる。鈍い金髪にスカイブルーの瞳を持つ。

・ヴォルフ/男
殺し屋の青年。鋭い瞳を持つクールな性格。心根は素直で優しく、嘘を吐くのが上手くない。固有の名前を持たず、ジェーンにヴォルフと名付けられる。殺し屋組織に属していたが、濡れ衣を着せられ追われる身となる。黒と銀が混ざった黒髪に琥珀色の瞳をしている。

【時間】約20分
【ジャンル】シリアス


【本編】

ジェーン「ヴォルフ!」

ヴォルフ「え……」

ジェーン「あんたの名前!名前が無いなら付ければいいだろ?オレがあんたに名前を付けてあげる。黒と銀色の髪、でっかい体、キラキラしたウルフアイ……狼って意味!」

ヴォルフ「ヴォルフ…俺の、名前……」

ジェーン「オレはジェーン!」


ヴォルフ「これは俺が…俺たちが生きる為の話……」


壁に寄りかかり座り込むヴォルフ

ヴォルフ「はぁ…はぁ…っ、くっ…………死ぬ、のか…ここで、俺は…。裏切り者の汚名を着せられて……、いや…俺はどーせ…使い捨ての殺し屋……。死ぬ日が今日って…だけだ……なら、いっそ自分の手で終わらせてやる…。もう、何も見えねぇ」

ジェーン「死ぬの?」

ヴォルフ「……」

ジェーン「生きてるじゃん?何が見えないの?」

ヴォルフ「…何だ、ガキ。どっか行け、俺は一人になりたいんだよ」

ジェーン「お兄さんボロボロだね」

ヴォルフ「死体を見たくなけりゃ失せろ」

ジェーン「死体はよく見る。昨日もあっちの路地裏で腹を空かせた猫が死んでた。皮と骨の体にウジが湧いてた」

ヴォルフ「…これから見る事になるのは人間の死体だ。お前が近くに居れば、お前が怪しまれる」

ジェーン「わぁお、凄いスリルだ。お兄さん誰を殺すの?」

ヴォルフ「…俺自身だ。俺は俺を殺す」

ジェーン「殺すだって、お兄さんもしかして殺し屋?」

ヴォルフ「だったら何だ?」

ジェーン「殺し屋って自分の事も殺すんだ」

ヴォルフ「全ての奴がそうじゃねぇ。俺はただ…俺を裏切った上に俺の首を狙う奴らがいる事に腹が立ち、自ら幕引きにしようと考えただけだ」

ジェーン「…死ぬって怖くないの?」

ヴォルフ「怖い…か、考えたこともない。俺が殺して来た奴等は怯え、抵抗した。そんなものなんだろう。しかし、俺は死ぬことより怖いと感じた物がある。だから死ぬのは怖くない」

ジェーン「…なにで死ぬの?」

ヴォルフ「この…銃だ。これをこめかみに当てて引き金を引く。そしたら銃声一発で終わる」

ジェーン「へー…。ねぇ、それをやる前にオレにも銃声をくれよ」

ヴォルフ「銃声を…くれ?」

ジェーン「死ぬ事より怖い思いしたなら、死ぬなんて怖くねぇんだろ?試してみたいんだ。オレ」

ヴォルフ「何を言っている…」

ジェーン「聞かせてくれよ!耳元で銃声を!」

ヴォルフ「バカを言うな…お前みたいなガキを理由なく撃つなんて事はしない」

ジェーン「殺し屋だろ?依頼って奴。引き受けてくれよ。オレも…オレを殺したい」

ヴォルフ「…死にたがりって奴は嫌いなんだ。お断りだ」

ジェーン「アンタも死にたがりじゃん。何がいけないんだよ」

ヴォルフ「………」

ジェーン「アンタが死ぬ前にオレを殺して。オレはいらない子だから…」

ヴォルフ「……………お前の言う通りだ」

ジェーン「え?」

ヴォルフ「俺は死にたがりは嫌いだ…。だから、今の俺も嫌いだ。何もしないまま自分を殺しても組織からも己自身からも逃げた負け犬だって思われたくねぇ…死ぬのはまた今度だ」

ジェーン「……かっけぇ!」

ヴォルフ「は?」

ジェーン「何か分んねぇけど超かっけぇ!ねね、お兄さん何て名前?」

ヴォルフ「……俺に固有の名前はない。その都度呼びやすい呼ばれ方をしていた」

ジェーン「名前がないのか……じゃあ、ヴォルフ!」

ヴォルフ「え……」

ジェーン「あんたの名前!名前が無いなら付ければいいだろ?オレがあんたに名前を付けてあげる。黒と銀色の髪、でっかい体、キラキラしたウルフアイ……狼って意味!」

ヴォルフ「ヴォルフ…俺の、名前……」

ジェーン「オレはジェーン!この辺を島にしてるんだ」

ヴォルフ「…身寄りのないガキか」

ジェーン「そうだけど…、あんたも似た様なもんじゃないのか?」

ヴォルフ「…そうだな。っ…そろそろこの場から離れるべきだ…追手がくるかもしれん」

ジェーン「そんなボロボロで大丈夫なの?つか、追手って?オレもヴォルフについていって良い?」

ヴォルフ「質問の多い奴だ…お前みたいなガキ、興味本位で勝手に着いてくるだろう?死ぬのが怖いならさっさと失せろ」

ジェーン「怖くないなら着いて行っていいんだな?サンキューヴォルフ!」

数日後

ジェーン「ヴォルフー、追手の調子はどうだ?」

ヴォルフ「ジェーン…大きな声でそんな事を聞くんじゃない。何処で誰に聞かれてるか分からないだろ」

ジェーン「だって、超ワクワクするじゃん!この数日、銃声が聞こえるだけで心臓がバクバクすんだもん!」

ヴォルフ「それはただ、銃声に驚いてるだけじゃないのか?後、お前は女だろ。口の利き方は少し考えろ。言葉ってのは将来使い所があるんだぞ」

ジェーン「どうでもいいじゃん。つか、ヴォルフがそんな事言うのって意外過ぎるんだけど」

ヴォルフ「殺し屋も時として様々なテクニックがいる。殺しのテクじゃない。ターゲットに近付き、殺すまでのテクニックだ」

ジェーン「おぉ、何かカッコいい…!オレもヴォルフみたいになれるかな?」

ヴォルフ「なるんじゃない。殺し屋家業なんてろくでもない。追われてる俺を見て思わないのか?」

ジェーン「思わねぇな。だってオレ、ヴォルフのカッコいい所しか見てないもん!オレ、ヴォルフが好きだぜ」

ヴォルフ「…俺は誰かに好かれる人間じゃない。俺は人を殺して金を得ていた。そして組織から追われる身…。俺はそういう人間だ」

ジェーン「……それでも好きだ。オレは、アンタの過去を知らないから、今生きてるアンタが好きだ」

ヴォルフ「ジェーン…」

ジェーン「勝手について来て良いと言ったのはヴォルフだ。だから勝手に着いて行って勝手に離れる。それでいいだろ?」

ヴォルフ「…そうだな。好きにしろ」

ジェーン「うん、好きにする!」

数日後

ヴォルフ「…すまん、ジェーン。遅くなった。組織からの追手を撒いていたんだ…そろそろこの隠れ家からも……ジェーン?ジェーン、トイレか?……ジェ…気配がない?」

隠れ家から飛び出すヴォルフ

ヴォルフ「ジェーン!?何処にいる!?」

回想

ヴォルフ「お前は、俺の過去を聞こうとしないのか?」

ジェーン「話してくれるなら聞く。でも、オレが好きなのは今のヴォルフだから、過去のヴォルフにはあんまり興味なくなっちゃった。それに、アンタもオレの過去を聞かないじゃん」

ヴォルフ「興味もないからな」

ジェーン「オレもだよ」

ヴォルフ「……ただ、組織の事は話しておく。俺は殺し屋組織に属していた。しかしとある任務中、組織の一人がヘタを打ち、そいつは俺に濡れ衣を着せた。組織での掟は、バカは死刑だ」

ジェーン「バカがヴォルフをバカ扱いしたのか、可哀想だな」

ヴォルフ「組織だってバカじゃない。俺に濡れ衣を着せた事くらい分かってる。それでも俺を殺すのは、俺がすぐに逃げ出したからだろうな」

ジェーン「どう言う事?」

ヴォルフ「組織は逃げた奴を生かさない。情報が漏れる可能性があるからな。それに俺は、組織に対して反発的な所があったから…丁度よかったんだろう」

ジェーン「……ヴォルフ」

ヴォルフ「なぁ、ジェーン…人は簡単に死ぬ。体だけじゃなく、心がだ。俺の心は既に死んでいた……だが、俺は……っ、ジェーン?どうした、抱きついて来て…」

ジェーン「ヴォルフ、大好き」

ヴォルフ「……あぁ」


人気のない所を探すヴォルフ

ヴォルフ「くそっ、ジェーン…何処にいやがる…」

ジェーン「ヴォルフ!」

ヴォルフ「ジェーン!?…良かった、無事か?」

ジェーン「き、急に知らない奴らがヴォルフを出せって家に押し入って来やがったんだ。シラを切ったら外に連れ出させれて…オレを人質にするとか言ってたけど、隙をついて逃げてきたんだ!すげーだろ」

ヴォルフ「す、…すげー…な。いや、それどころじゃねぇだろ!怪我は?」

ジェーン「平気。でも、あいつらか?ヴォルフを狙ってる組織の連中って…」

ヴォルフ「やはり、ジェーンがいる事もバレてたか…」

ジェーン「どうするんだ?」

ヴォルフ「……」

ジェーン「ヴォルフ…」

ヴォルフ「お前は隠れてろ。黙らせてくる」

ジェーン「何を言って…」

ヴォルフ「ジェーン、ここまでだ。勝手に離れるのは俺の方…それだけだ」

ジェーン「待って、何処に行くんだよ?」

ヴォルフ「組織の狙いは俺だ。俺が出て行けばお前に危害はない」

ジェーン「嫌だよ!オレはヴォルフといたい。離れたくない、オレはまだ勝手についていく…だから、行くなよ…」

ヴォルフ「俺とお前は他人だ。たかだか数日一緒にいただけで、懐いたのはお前の方だろ?お前がいたからお前も狙われるハメになったんだぞ」

ジェーン「っ……」

ヴォルフ「…なんてな、俺が突き放さなかったのも悪い。お前がいなかったら、俺はあの時名前を持たずに死んでいた。過去に囚われたまま無様に自分を殺していた所だ。お前が教えてくれたんだ…ジェーン」

ジェーン「ヴォルフ…やだぁ」

ヴォルフ「俺はもう死なねぇ。絶対にまたお前と一緒にいるんだ。約束だ」

ジェーン「やだっ、駄目!あいつらいっぱいいるって言ってた。死んじゃうよ、ヴォルフぅ!」

ヴォルフ「死なねぇ。俺の未来は俺が決める。もう視えた、これからの未来…俺とお前がずっと一緒にいるんだ」

ジェーン「ヴォルフ…」

ヴォルフ「あの時、言いそびれた事がある」

ジェーン「……」

ヴォルフ「人は簡単に死ぬ。体だけじゃなく、心がだ。俺の心は既に死んでいた……だが、俺は生き返ったんだ、お前のおかげでな。…俺も好きだよジェーン」

ジェーン「…っ」

ヴォルフ「…お前は俺を狼と言った。でもな、お前の鈍色の金髪、スカイブルーの瞳…俺にとっての気高い狼はお前だ。美しい…」

ジェーン「ヴォルフ…、ヴォルフぅ」

ヴォルフ「とびっきりの銃声を聞かせてやる。耳元じゃねぇけどな!」

ジェーン「行かないで!」

ヴォルフ「行ってくる!」


ヴォルフ「この物語は、俺達が…俺の生きた物語だ」


数日後

ジェーン「……身元不明の死体。川に落ちる前に銃で撃たれたとされ、損傷が激しい。事件当日とされる日には銃声がしたと証言がされている。……聞こえたよ銃声…。いつ、迎えに来てくれんだよ。バカ…。狼ってのは群れで行動するんだよ?何で一人で逝っちまうんだ…くそ狼…嘘つき野郎が………くそ、何で前が見えねぇんだよ……ヴォルフ……」


ジェーン「これは…オレの、アタシの心が死んだ話だ」

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