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【声劇台本】幻想祭道(げんそうさいどう)(男5:女3)

登場人物(男:5、女:3)

・リム/男
田舎出身のモデル。中性的な顔立ちでプライドは高いが仕事には熱心。根は優しいトラブルメーカー。

・コムラ/女
花屋の看板娘。口調はお淑やかだがリムに対して辛辣。本当は信頼の裏返し。恋人がいるが兄に反対されている。

・ラボ/男
実家で自動車整備の仕事をしてる機械オタク。快活な性格だが苦労系のツッコミ。いじられ系だがみんなに信頼されている。

・ニア/男
寺の息子。3人より1つ下で大人しく人見知りが激しい。言葉足らずな所があるが、心優しい性格。

・葉桜(はざくら)/女
妖怪の世界、幻想桜里と言う場所を守る守護神であり、現世では土地神の扱い。天邪鬼で本音を出すのが苦手。好奇心旺盛で子供の様な表情をたまに見せるが、神として厳格な雰囲気も醸し出せる。

・木暮(こぐれ)/男
幻想桜里を統制する一族の次期当主で桜の木の精霊。口数が少なくクールな印象だが、葉桜同様に本音を出すのが苦手。

・あずき/女
木暮の従者をしている猫又。現世で生を受け、死んだ事をきっかけに妖怪になった。人間に虐げられた過去を鮮明に覚えており、人間を憎んでいる。妖怪になって世話をしてくれた木暮に恩義を抱いており、木暮の幸せだけを望んでいる。

・ホワイト、焔(ほむら)/男。
同一人物なので兼ね役。コムラの兄で学者として都会で働いている。研究の裏では、妖怪や霊に対する除霊の様な事もしてる不思議な男。クールなイケメンだが根が優しいのでみんなに懐かれている。超シスコン。

サブキャラクター(兼ね役推奨)
・妖怪1/男…4セリフくらい
・妖怪2/女…3セリフくらい

【時間】2時間
【あらすじ】
リムは都会で活躍してるモデルだ。忙しい中、突然長めの休みが手に入った。それをきっかけに実家に帰る事に。帰った時期は地域の代表的なお祭りが開催されるタイミングだった。地元も幼馴染達、コムラ、ラボ、ニアと共にお祭りに行くが、ニアが森の中でポツンと佇む鳥居を見つける。


【本編】


モノローグ

葉桜「我が心は移ろう事なく、ただ一人を恋い慕う。それが望まれぬ事であろうと、我が心に嘘をつきたくない」

木暮「散りゆく桜の花びら共が私の心を塞いでいく。それはまるで、私へ真意を隠すかの如く…。見えぬ心は私を疑心へ導いて行く。それでも、私は信じていたい…信じて……いたいんだ…」


電車内

リム「んっ……んー。寝てたなぁ…。地元の電車とか乗るの久し振りだし…ここ最近仕事も忙しくて疲れたからなぁ。お、もう着くな…」

駅に降り立つリム。

リム「ん〜、良いねぇ地元の空気…。都会にはない静けさだぜ。さ〜てタクシーは何処かな〜?」

ラボ「おい、リム!」

リム「お、ラボ〜久しぶり〜♪」

ラボ「おぉ、久しぶり…じゃなくて!俺の車をタクシー呼ばわりしてんじゃねぇぞ!大荷物のお前無視してもいいんだぞ!?」

リム「ごめんじゃん♡冗談だよ冗談♪わざわざ駅まで迎えに来てくれた優しい幼馴染のラボ君には感謝してるぜぇ?」

ラボ「お前の猫撫で声に信用はしてない。昔からお前はろくでもない奴だった」

リム「騙して山小屋の中に放置した時の事まだ怒ってんのか?」

ラボ「それ以外にも幾つかあるぞ!!」

リム「うるさー。もういいじゃん昔話は、それより荷物入れるの手伝って〜」

ラボ「ったく、相変わらず大荷物だな…。今回はどれくらいこっちにいるんだ?」

リム「うーん…一週間くらい?」

ラボ「長っ!お前モデルとして売れてからずっと忙しかったじゃん。最近はデザイナーもしてるんだろ?」

リム「あぁ、ファッションブランドを立ち上げてね。忙しかったんだけど、何故かそこだけ空いちゃってさ、向こうにいても良かったんだけど暇だし帰って来ちゃった♪あ、俺助手席座る〜、窓開けていい?」

ラボ「いいぞ。…つか、そんなことある?」

リム「ね、すごいよねー」

ラボ「シートベルトつけたな?行くぞ」

リム「しゅっぱーつ♪」

ラボ「……ってことは明日の祭り来るのか?」

リム「祭り?……あー、桜祭りか」

ラボ「うん、神社の周辺で行われる地元の恒例行事」

リム「季節外れにやってるとは思ってたけどもうそんな時期か〜。タイミング良かったかもー」

ラボ「一緒に回るか?今年も少ないけど出店とかあるし」

リム「いいね!……俺とお前の二人?」

ラボ「いーや、ニアとコムラちゃんもいるぜ」

リム「なんだよ、幼馴染集団じゃねーか。むさくるしいなぁ…」

ラボ「コムラちゃんは女の子だぞ」

リム「いや、誰も恋人とかいねーの?楽しいだろうけど、むなしくない?」

ラボ「うるせーな!お前にいわれたくねーよ!」

リム「俺は人気モデルだからスキャンダルNGなんです〜♪」

ラボ「都会人、気取り!完全に染まりやがって!」

リム「運転荒すぎ〜。人いないからって調子に乗るなよなぁ、安全運転希望〜」

ラボ「語尾を伸ばすな!腹立つんだよ!!」


リムの実家前

リム「着いた着いた〜、ラボ荷物下ろしてー」

ラボ「俺はお前の召使か!?」

リム「つーか、母さん達祭りの手伝い行ってていないらしいんだよね〜。夕方まで帰って来ないって、さっき連絡来たわ。ラボ、荷物運ぶついでにうち上がる?」

ラボ「お前どこまで俺を使う気だ!?……まぁ、今日は休みだからいいけど」

リム「お前の家、自動車整備工場だっけ。最近どうなの?」

ラボ「まぁまぁかな〜。つかマジで重いな!お前の荷物だろ?お前が持てよ!」

リム「やだ〜、俺箸より重い物持てな〜い」

ラボ「嘘つけ、こっち戻るまで持ってたろ!?」

コムラ「そーよ、何を言ってるのリム。貴方ほど口から出まかせを言う人間は中々居ないわ」

リム「はぁ!?」

ラボ「あれ、コムラちゃん?」

コムラ「ご機嫌様、ラボ君。なんちゃって女王様気質のバカの相手はお疲れじゃない?」

リム「誰がなんちゃって女王様だ!お前久々に会ってその口の悪さか!?良い度胸してんじゃん?」

コムラ「やだ、この辺空気悪くない?あ、リム〜貴方の香水かしら?貴方の底意地の悪さのせいで折角の匂いも台無しになってない?」

リム「くぅぅ…!あー言えばこー言う!本当にムカつく奴だな、お前はぁ!」

ニア「はぁ…はぁ、待って…コムラちゃん…」

ラボ「あれ、ニアまで」

ニア「うぅ…、ラボさんからリムがもうすぐ家の方に着くって連絡貰って、走って行っちゃうんだから…僕疲れたよ…」

コムラ「あっ、ニアくん!?」

ラボ「ありゃ〜」

リム「ふ〜〜〜〜ん?」

コムラ「な、何よ!ニヤニヤしてんじゃないわよ!モデルのくせにそのニヤけ面はだいぶ不細工よ!」

リム「はーー!?この辺じゃ可愛いからって調子乗ってんじゃねぇぞ!?商店街の花屋の看板娘って売り文句まだやってんのか!?」

コムラ「実際そうなんだからいいでしょ!?というか、それはママが言い出したのよ!!私は関係ないわ!」

リム「堂々と肯定してんじゃねぇよ!」

コムラ「なによ!?」

リム「なんだよ!?」

ラボ「………こいつら変わらねーなぁ」

ニア「えへへ…なんか落ち着く。昔と変わらなくて…」

ラボ「ふっ、四人で毎日の様に遊んだなぁ」

ニア「…僕、皆んなより一個下だけど色んなところ連れて行ってくれて楽しかった」

ラボ「…連れて?…お前の家が近いからって毎度リムがお前の事を連行してた気もするが…」

ニア「楽しかった」

ラボ「…ならいっか」

リム「おいラボ、ニア!このしゃま引っ叩いていいよな!?」

ラボ「やめとけ、焔くんに怒られるぞ」

ニア「焔兄ちゃん、妹のコムラちゃんの事となると怖いからやめといた方がいい」

リム「えー、俺だよ?焔くん怒るかな〜?」

コムラ「というか、今お兄ちゃんこっちにいないわよ」

ラボ「あ、そういやそーじゃん。学会の研究かなんとかで東京の方行ってるんだっけ?」

ニア「焔兄ちゃんも忙しそうだよね」

コムラ「それだけじゃないんだけどねぇ…」(ボソッ)

リム「え?何か言った、コムラ?」

コムラ「なんでもないわよ」

リム「てことは、あのブラコン焔くんがいないならお前に何かしても怒られる心配はないってことか?」

コムラ「その前に私が怒るわよ」

ニア「じゃあ動画か写真撮って焔兄ちゃんに送ってあげる」

ラボ「それはそれでリム死んだな」

リム「冗談に決まってんだろー!焔くん怒ったら怖いし。…つーかさー!でかい荷物持って帰ってきたんだからまずは皆んな俺を労ってよー」

ラボ「途中から俺も頑張ったんだが?」

コムラ「……全く、変わらないわねリムは」

ニア「ふふ…」

コムラ「おかえりなさい、リム」

リム「…ただいま♪」


翌日、祭り会場付近

ニア「あ、リムやっと来たー。お祭り始まってるよ」

リム「悪い悪い、出る前に母さんに捕まっちゃってさ〜。昨日の手伝いで疲れたから、焼きそば買って来いって言われちゃったぁ」

コムラ「これで皆んな揃ったわね、早速行きましょうか」

リム「つーかお前ら祭りだってのに誰も浴衣とか着て来ねーのな」

コムラ「地元の小さい祭りで浴衣引っ張り出して来ないわよ」

ラボ「ってか懐かしいな、こうやって四人でこの祭りに来るの…何年前だ?」

リム「でも大人になってもこのメンツでつるむって…お前ら恋人の一人や二人いねーのかよ」

ニア「コムラちゃんは彼氏いるよ」

リム「何!?」

ラボ「あ、そーじゃん。コムラちゃん去年とか彼氏と来てたよね?今年は誘ってないの?」

リム「去年からいんの!?」

コムラ「残念、今年で4年目よ。…今回はお仕事忙しいから無理だって…。だから貴方達のお誘いに乗ったのよ」

リム「え?それ倦怠期とかそーいう…」

コムラ「リム、余計な事言ったらお兄ちゃんにある事ない事告げ口するから」

リム「おい!ふざけんなよ!?絶対すんなよ!?」

ニア「リムって焔兄ちゃん好きだよね」

コムラ「私のお兄ちゃんなのに…」

ラボ「俺は弟いるけど、上は欲しかったなぁ。リムとニアも一人っ子だし、正直コムラちゃんの事羨ましかったんだよな」

リム「焔くん優しくてイケメンで好き〜、あんなお兄ちゃん欲しかったわー」

コムラ「もう、お兄ちゃんの話はいいでしょ?早く行きましょうよ!」

ニア「そだね、りんご飴食べたい」

ラボ「まずは焼きそばとかたこ焼きとか食わね?」

リム「ゆっくり見て回ろうぜ〜」

コムラ「そうね、順番に回っていきましょう」



ラボ「そういやさぁ…あれ何年前だっけ?昔俺達でこの祭り回ってた時一人多かったよな?」

ニア「え?ラボさん怖い話するの?」

ラボ「あれ、覚えてない?」

コムラ「一人多かった…?うちのお兄ちゃんじゃなくて?」

ラボ「違う違う!俺らと同い年くらいの…多分女の子」

リム「は?何言ってんのお前、怖いんだけど?もうボケ始めた?」

ラボ「な訳ねぇだろ!……んー、気のせいだったかな?…でも顔思い出せないんだけど、いたのは覚えてるんだよ…」

コムラ「女の子ねぇ…もしかして薄ピンクの浴衣着てた…?」

ニア「あれ?緑がかってなかった?」

リム「え、…お前ら何言ってんの?」

コムラ「あら?私何で今……」

ニア「知らないのに……」

ラボ「やっぱそうだよなぁ?…ハッキリ覚えてないのにいたのは覚えてんだよ…」

リム「いや、俺知らねーし!」

コムラ「あら、もうすぐ神社だわ。話してたら出店全く見てなかったわね」

ラボ「引き返すか、たこ焼き何処だっけ」

ニア「………ん?」

コムラ「ニア君?」

ニア「今、何か聞こえた」

リム「はぁ?ニアーお前ホラー苦手だろ?行くよ」

ニア「……」

ラボ「あ、ニア!?何処に行くんだよ」

ニア「はぁ…はぁ…」

走るニアに追いかける三人。
少し走って立ち止まるニア。

ニア「……あ」

リム「おい、ニア…お前体力無いくせに急に走り出すなよ」

コムラ「ここ…境内の裏側?」

ラボ「うわ、この辺灯りないから暗ぁ…」

ニア「…何で僕ここに」

リム「はぁ?何言ってんのお前?お前が走り出してここに来たんだよ」

コムラ「ん?…ねぇあれなにかしら?」

ラボ「え?何々?」

リム「……鳥居?あんなんあったか?」

ニア「あ、行けそうだよ」

ラボ「おい、森の中だぞ」

ニア「意外と近そうだよ」

コムラ「危ないわよ、待ってニア君」

リム「お前も行くんじゃねぇコムラ!」

ラボ「あー、あーー…あーもー!!待てよお前ら!」


怪しい鳥居の前

ニア「…ここの神社の鳥居より小さめだね」

コムラ「この先何があるのかしら?」

リム「…でもおかしくねぇか、この鳥居…」

ラボ「鳥居の向こうも森だよな?…なのに視界がぼやけてるみたいですっげー不気味…」

リム「つか、ニア…怖くねーの?俺、結構気分良く無いんだけど…」

コムラ「鳥肌が立ってきたわ…」

ニア「この先、行けるのかな?」

ラボ「行く気か!?」

ニア「……どうしよう」

全員「………」

リム「やっ、やっぱり引き返して…」


葉桜「約束」


コムラ「え?何か聞こえて…」


葉桜「今、約束を果たして」


ニア「っ……桜の柄の浴衣…あの子だ」

ラボ「ニア!?鳥居に近付くな!やべー気がする!」

リム「待て二人とも!」

コムラ「ニア君!リム、ラボ君!」

ドンっと突き飛ばされる感覚

全員「…え」

全員「うわぁぁぁあ(きゃあぁぁぁ)!!?」


参道の様な石畳が広がる場所

リム「うっ……いったた…尻餅ついたぁ」

ニア「んっ……ここ、何処?あれリム…」

リム「ニア!大丈夫か?」

ニア「うん………あれ、ラボさんとコムラちゃんは?」

リム「え!?いねぇ!ラボー、コムラー!?」

ニア「あ、スマホ…、電波入ってない」

リム「本当だ…」

ニア「…何か変だよねここ、さっきまで境内の裏側…ちょっと森に入った所に居たのに」

リム「鳥居の中に入って…入ったと言うより突き飛ばされたよな?…それから高い所から落ちる感覚だったような…」

ニア「じゃあここって鳥居の中の世界?」

リム「…んなファンタジーな、じゃあ何か?ここは異世界ってか?」

ニア「かもね」

リム「えー…」

ニア「ってか、石畳み…さっきまでいた祭りと似てる場所かな」

リム「つか、暗くね?…あれ、あそこにぶら下がってるのって提灯?明かりついてねーな」

ニア「ん?向こう明るくなってる」

リム「本当だ、なんか音楽聞こえる…?」

ニア「これ、祭囃子…」

全ての提灯に灯りが灯る。

リム「おわっ!急に提灯に灯りが点いたぞ!?」

ニア「えぇ、誰も触ってないのに…なんで?」

ざわざわと賑やかな声がする。

リム「こっちの方も明るくなって来たな…ん?」

ニア「リム、人がいっぱいいるけど…あれって人間…?」

リム「…俺の目がおかしいのか?人間に見えるやつもいれば全く人間の姿じゃない…バケモノみてーなのが浴衣着て歩いてんだけど…」

ニア「妖怪…ってやつ?」

リム「んなファンタジーな!?」

妖怪1「ん?何か臭くねぇか?」

妖怪2「さっき買った黒トカゲの丸焼きの匂いじゃないのかい?あれ焼き過ぎよねぇ」

妖怪1「違う違う。表の世界の…人間の匂いがする」

妖怪2「本気で言ってるのかい?…うん、言われてみれば…」

ニア「何かざわついてる?…大丈夫かな、妖怪にとって人間ってご馳走って言うけど…」

リム「そ、それはフィクションの話だろ?」

ニア「今だってフィクションみたいなもんだよ!」

妖怪1「ほら、そっちの方だ!」

二人「!!?」

ホワイト「こっちに来い」

妖怪1「ん?誰もいねぇな」

妖怪2「気のせいだったのさ、それより他も回っちゃいましょ。裏桜祭りは始まったばかりなんだから」


祭り会場から少し離れた所

ホワイト「行ったか…、大丈夫か?人間ども」

ニア「は、はい…」

リム「つーか、あんた誰?人間?」

ホワイト「…俺は」

リム「ってあれ、焔くん!?」

ニア「あ、焔兄ちゃんじゃん!」

ホワイト「は?」

リム「あれ、違うわ。すっげーそっくりじゃん」

ホワイト「……はぁ?」

ニア「え?焔兄ちゃんじゃん」

リム「何かちげーんだよ。それに焔くんまでこんな所来ねーだろ」

ニア「…そりゃそっか」

ホワイト「おい…」

リム「あ、ごめん焔くんのそっくりさん!…あんた焔くんとは違う人だよね?あ、俺はリム!」

ニア「僕はニア」

ホワイト「……俺は、ホワイトだ」

リム「ホワイトくん!」

ニア「外人さんみたーい」

ホワイト「…お前達は表の世界から来た、普通の人間だろ?元の世界に返してやるから着いてこい」

リム「え、待ってホワイトくん。俺たち以外にラボとコムラっていう男と女もいるはずなんだ!見てない?」

ホワイト「…見てない」

ニア「ラボさん…コムラちゃん…」

リム「焔くんにそっくりなあんたの言う事は聞いときたいけど…流石にあの二人を置いて行きたくない」

ホワイト「そう言われても…ここは人間の世界じゃない。危険な世界だ」

リム「…ねぇ、ここってどこなの?さっきのバケモノとか、人間の世界じゃないとか…」

ホワイト「ここは、お前たち人間の世界とは裏側の世界。妖怪や魔物の住まう隠り世『幻想桜里』」

ニア「げんそう…」

リム「さくらざと…!?」

ホワイト「言うなれば…異世界だ」


林の中

ラボ「コムラちゃん、コムラちゃん大丈夫か!?」

コムラ「っ…あれ、ラボくん?……リムとニアくんは?」

ラボ「それが、何処にもいなくて…。ここも何処だか分からないんだよ。電波も通ってないみたいだから連絡も取れない…」

コムラ「そんな…、と言うか私たちどうしたのかしら」

ラボ「神社の境内の裏に回ったら、めっちゃ怪しい鳥居があって……背中を押されて中に入った位までは記憶があるんだけど…。ここ林の中っぽいし、鳥居も、…二人もいないんだよな」

コムラ「心配だわ…あの二人大丈夫かしら?探しに行かなくちゃ…」

ラボ「何処か分かんないのに動いてもいいのかな」

コムラ「動かないとリムとニアくんを見つけられないでしょ!気を付けながら行くわよ」

ラボ「…わ、分かった」

コムラ「でも、何処にいるのかしら…」

ラボ「コムラちゃんって偶に口悪いけど、心配性で優しいよね…そう言う所焔くんと似てるよね」

コムラ「そりゃ兄妹だし似るわよ。というか、口が悪いって酷くないかしら?私はリムにだけ口が悪いのよ」

ラボ「それ謎なんだけど…何でリムにだけ当たり強いの?焔くんと仲良かったから?」

コムラ「……なんでもいいでしょ!早く探しに行くわよラボくん」

ラボ「あ、はーい…。というかどうやって探す…?」



木暮「ここで何をしている」

二人「!?」

あずき「何者ですか貴方達?人間の匂いがしますが…」

木暮「あずき、何故人間がここにいると言う?」

あずき「え?…木暮様、そう言われましても現にここにいるの者たちからは人間の匂いが…」

木暮「人間なんて幻想桜里に居るはずがない。行くぞあずき。ここ最近機嫌が悪いんだ、僕は…」

あずき「それは、葉桜様と言い争ってしまったからでは…」

木暮「あずき!」

あずき「ひっ…、すいません…木暮様」

ラボ「ちょ、ちょちょ…何すかさっきからあんたら…何者?勝手に色々話して…」

コムラ「貴方達はここの場所のこと知ってるんですか?私たち以外に二人の男性を見てませんか?」

木暮「気安く僕に話しかけるな」

あずき「無礼者ですよ!この方は幻想桜里を統べる一族の次期当主となる、木暮様にあられます!」

コムラ「知らないわよ!」

ラボ「知らねーよ!こっちは気が付いたらこんな所に居て、友達二人とはぐれてんだよ!」

木暮「……迷(まよ)い子か」

あずき「じゃあ、本当に表の世界から来た…人間!?」

ラボ「よく見たら…あんた…なにそれネコミミ?コスプレかなんか?」

あずき「わ、私!?」

コムラ「というか、見た事のない人達ね…私達と年が近そうなのに見覚えがないわ」

ラボ「田舎だから結構顔見知りいるのに、見た事ないって逆に珍しいな」

木暮「…僕の名は木暮。この子は僕の従者のあずきだ」

ラボ「お、俺はアキラ…。あ、ラボって呼ばれてます…」

コムラ「私はコムラ……、当主とか従者とか…貴方達何者…?」

木暮「あずきが言ったが、ここは『幻想桜里』。君らがいた表の世界とは裏側の世界。表の世界が人間達の住む世界なら、こっちの世界は妖怪や魔物の隠れ里だ」

ラボ「な、何…表とか裏とか…」

コムラ「よ、妖怪?魔物?…そんなファンタジーな…」

あずき「嘘じゃないです!私はれっきとした猫又!この耳は本物ですし、ほら!二又に別れた猫の尻尾。これも本物ですよ」

木暮「そして僕は桜の木の精霊。そしてこの里の次期長(おさ)だ」

コムラ「…ラボくん、私はまだ夢の中なのかしら?」

ラボ「わー、一緒の夢見てるんだねー」

木暮「そもそもここは人間が立ち入る事は出来ない世界だ…何故お前達はここにいる?」

コムラ「そう言われても…神社の境内の裏の方に鳥居があって…」

ラボ「その中に入ったら、ここにいたって経緯なんすけど…」

木暮「鳥居だと…?」

ラボ「ちょっと小さめの鳥居。小さい頃から神社の周りでも遊んでたけどあんなん見たことなかったぞ」

木暮「…………あずき、二人を連れて祭り会場の入口へ行ってくれ」

あずき「え!?なんでですか?」

木暮「これはあいつのせいかもしれん。祭り会場の入口は表の世界と繋がりやすいと聞く」

あずき「この方達を人間界に返すんですか?しかもあそこは人喰いの妖怪も行き来してます。私一匹では不安です!」

木暮「君だから任せるんだ。何かあったら助けに行くから…お願い出来るかい?あずき」

あずき「こ、木暮様……」

コムラ「ちょっと待って!助けてくれるのは嬉しいけど、リムとニア君もここにいるかもしれないの」

木暮「それはこちらで探そう。見つけ次第、表の世界に送ってやる。…生きていればの話だが」

コムラ「なんですって!?」

ラボ「コムラちゃん、落ち着いて」

木暮「ここは人間がいてはいけない世界…。幻想桜里を護るお姫様の心の容態によって虚ろう、危険だが美しい妖怪達のまほろば…」

ラボ「お姫様の心の容態…?」

木暮「生きて帰りたいなら、僕の言う事を聞くべきだよ。人間たち…」

①①
祭り会場

ホワイト「いいか、リムとニア。絶対にそのお面を取るんじゃないぞ」

リム「これ可愛い〜狐のお面♪」

ニア「僕の猫ー」

ホワイト「はしゃぐな、子供かお前達は」

リム「俺たち結構こんな感じよ?」

ニア「うん」

ホワイト「…そうか」

リム「つか、賑やかだね。こっちもお祭りなの?」

ホワイト「あぁ、表でも祭りがあるだろう?こっちでは裏桜祭と言って同じ日に行われる。人間界の祭と特に変わらん」

ニア「妖怪もお祭りが好きなの?いっぱいいるね」

ホワイト「賑やかなのが好きなのは人も妖怪も変わらん」

リム「でも売ってる物エグくない?トカゲの串焼きとかビジュアルヤバすぎ」

ホワイト「いいか、お前たち。この世界の食べ物は口にするなよ」

リム「言われなくても食べたくねぇよあれは…」

ホワイト「違う。別の世界の食べ物を口にすると、元の世界に戻れなくなる事があるからな」

リム「え…」

ニア「あれみたい。黄泉の国の食べ物を食べたら戻れない…イザナミノミコト?だっけ」

ホワイト「そうだな、そういう話もある」

リム「お前そういうの詳しいよな」

ニア「昔話とか神話とかそういうの好きだよ」

ホワイト「流石に人間が迷い込んでたら騒ぎになってる筈だが、何もないと言う事は妖怪達がいる所には居ないようだな」

リム「…大丈夫かな、二人とも」

ニア「心配…」

ホワイト「……早く見つけるから、もう少し辛抱してくれ」

①②
林の中

あずき「いいですか、人間たち!私はお魚が主食なので人間は食べません。ですが、他の妖怪は人間を食べようとする野蛮な奴もいます。私から離れたら元の世界に戻れませんからね」

コムラ「妖怪って…」

あずき「取り敢えず、この林から行ける道がありますのではぐれないで下さい」

ラボ「…ここが俺たちのいた所とは違うのは、何となく分かったけど…、未だに信じられねぇな」

コムラ「それより二人のことが心配だわ…」

ラボ「今は自分達の心配もした方がいいよ。コムラちゃんは優しすぎる」

コムラ「あの二人よ!?心配するでしょ?リムは問題しか起こさないし、ニア君は弟みたいな存在なんだから」

ラボ「そうだけど…」

あずき「…あんた達仲が良さそうね。もしかして恋人とかそーいうのですか?」

コムラ「違うわ。私は彼氏がいるし」

ラボ「彼女は欲しいけどな〜…」

コムラ「でも、それとは別にとても大好きな友達なの。ラボ君もリムもニア君も」

ラボ「…うん」

あずき「…大好き、ねぇ」

コムラ「何か言った?あずきちゃん」

あずき「気安く呼ばないでください!……私は人間が大嫌いなんです。木暮様から頼まれなければ、貴方達なんて他の妖怪達の餌にしてたところです」

ラボ「おっかねぇ事言うな…」

コムラ「私だって好きでこんな所来てないわよ。それに早く元の世界に帰りたい…でも、あの二人が無事かどうか分からないのに帰れないの」

ラボ「…まぁ、そうだね。昔からのダチだし、せめて安否を知りたいな…」

あずき「………」

コムラ「ちょっと急に立ち止まってどうしたの?」

あずき「…むかつく」

ラボ「はぁ?」

あずき「さっきからムカつくのよあんた達!人間のくせに自分より他人の心配?向こうがどうなってるか分かんないのに呑気なものね!?」

ラボ「な、何で急に怒り出すんだよ!?」

あずき「心配した所で…向こうがどう思ってるか分かるの?向こうはあんた達の事なんて考えてないかもしれないじゃない!」

コムラ「…それは確かに分からないことだけど、関係ないじゃない。リム達だから私達は心配するの、彼らの事をよく知ってるから」

あずき「………」

コムラ「だから早く木暮さんから情報が聞きたい…会えた時にすぐに帰れる様に出口も見つけたい。今はそれだけなの」

あずき「……人間なんて、」

ラボ「おい、どうした…」

あずき「人間なんて、全部口だけよ!あんたら見てると吐き気がするわ!木暮様には悪いけど、あんた達を丸焼きにして妖怪達に喰わせてやる!」

コムラ「な、何!?…っ、空気が熱い!?」

ラボ「!?あずきさんの体が炎を纏ってる!?」

あずき「最初からそのビビってる顔を見せてくれたら気分が良かったのに…。どいつもこいつも口だけ…葉桜様も人間も…。やっぱり信用出来るのは木暮様だけ!!」

ラボ「コムラちゃん、逃げよう!不味い気がする」

コムラ「地雷でも踏んじゃったかしら?きゃあ!?」

二人に向かって火の粉が飛んでくる。

ラボ「コムラちゃん!」

あずき「美味しそうに燃やしてあげるんだから、じっとしてなさい!」

コムラ「炎が飛んできた…。やっぱり人間じゃないのね…」

ラボ「早く立って!とにかく逃げるよ!」

コムラ「う、うん!」

あずき「逃がさない!!」

①③

葉桜「何をしている」

二人「!?」

あずき「えっ………葉桜、様……」

葉桜「あずき……。ん?その者達は…」

あずき「あ、あ……その」

葉桜「答えろあずき。こやつらは人間であろう?その者達に向かって妖術を使おうとしたか?」

あずき「……」

葉桜「答えよ、あずき」

あずき「ひ、ひぃ……!」

あずき、逃げる。

葉桜「逃げよった…。全く我に対する態度としては無礼だな…あやつ、従者の躾くらいちゃんとしろと何度言えば…」

コムラ「あの…、助けて下さりありがとうございます」

葉桜「…助けたつもりはない。人間はここには立ち入れん。なのに来てしまったのは我のせいだ」

ラボ「え?どう言う事!?」

葉桜「……我が名は葉桜。ここ、幻想桜里の守り神だ」

ラボ「神…様?」

葉桜「表の世界にも依代(よりしろ)がある。社(やしろ)の中に祀(まつ)られておろう?」

コムラ「あ、あの神社に祀られてる神様?」

葉桜「あぁ」

ラボ「おーおー、ちょっとこんがらがってきたわ…。え?俺達の世界にある神社の神様は、こっちの世界ではめっちゃ偉い人?」

葉桜「人間には土地神として祀られ、妖怪どもにはこの隠り世を護る為の守護神…。結局は双方の世界の土地神か…どう言えば伝わるんだ…?」

ラボ「あ、いや…もうこっちも訳わからないんで…」

コムラ「私たち何故かこっちの世界に来ちゃったんだけど、他に友達が二人居るはずなの…。帰りたいんだけど二人の安否を確認してからじゃないと帰りたくない…」

葉桜「ふむ…」

コムラ「木暮さんって人がリムとニア君を探してくれるから、あずきちゃんに出口がありそうな所まで案内して貰ってたんだけど…」

ラボ「何故か急に怒り出して…めっちゃ怖かった…」

葉桜「木暮……」

コムラ「そういえば葉桜さん、私たちがここに来たのは自分のせいって言ったけど…どう言う事?」

葉桜「……それは」

足音が近づいてくる。

①④

ホワイト「ここか!?」

葉桜「!?」

リム「あ、コムラ!ラボー!」

ニア「二人いたー」

コムラ「リム!ニア君も」

ラボ「おー!二人とも一緒だったのか!つーか無事か!?」

ニア「へーき」

コムラ「っ…心配かけないのおバカ!」

リム「え?心配してくれてたの〜?優しいね〜」

コムラ「茶化さないの!…もう、良かった…」

ラボ「ん?そっちの人は…え!?」

コムラ「お兄ちゃん!?」

ホワイト「は?」

コムラ「あ…、ん?何か違うわね…お兄ちゃんのそっくりさん?」

ラボ「え?焔君でしょ、どー見ても!?」

ニア「だよね〜」

リム「なんかね、ホワイト君って言って焔くんとは違う人っぽい」

ラボ「他人の空似にしてはそっくり過ぎるだろ」

コムラ「でも、お兄ちゃんは仕事でこっちの方にはいないわ!それに……」(口籠る)

リム「コムラ…?」

葉桜「…ホワイト」

ホワイト「さっき妖力が跳ね上がった気配がしたんだが…お前か?葉桜」

葉桜「我ではない。阿呆な猫又の仕業だ」

ホワイト「猫又…あぁ、あいつか」

葉桜「何用だ?お主は我と接触する事は許されてはいないぞ」

ホワイト「緊急事態だ。人間達を元の世界へ返してやってくれ。そしたら俺も調査を終えて消える」

葉桜「貴様の仕事には興味がない。それに人間達をどうしようと我の勝手であろう」

ホワイト「なんだと…」

リム「ねぇ、あのキツめのかわい子ちゃん誰?」

コムラ「葉桜さん、この世界を護ってる神様だって。というか、何そのお面」

リム「可愛いだろ〜」

ニア「ホワイトさんに付けろって言われたから付けてる」

ラボ「うん、それどころじゃないと思うんだけど」

リム「つーか、あの子…どこかで…」

ニア「……うん」

ラボ「え?」

コムラ「葉桜さんの事見覚えあるの?」

リム「いや、わかんねぇけど…なんだろこの違和感…」

①⑤

ホワイト「お前が人間を利用する意味が分からない。この子らは隠り世の入り口である、裏鳥居から来たと言っている。しかも妖力がないからばらばらに落ちてしまった。迷い子(まよいご)ならすぐに返さないと危険だ」

葉桜「お主に口を出される筋合いはない」

ホワイト「これは正当な理由だ。人喰いの妖怪もいる中で人間達を置いてはおけない。もしここで命を落とせば、神隠しだなんだで騒がれる。人間の世界とのいざこざは嫌だろ」

葉桜「……どうでもよい」

ホワイト「葉桜!」

リム「…さっきから何を言い争ってんだ?」

コムラ「さぁ…、でもヒートアップしてない?」

ラボ「おいおい、大丈夫かよ…」

ニア「ちょっと怖い…」

葉桜「…うるさい!お主には関係ない!!」

ホワイト「っ…、お前は何故そうも事を隠す!?何で木暮と喧嘩になった?こいつらが来てしまったのは、お前の心が不安定となったせいで、表の世界とこっちの世界が繋がってしまったからだろ!」

葉桜「そ、それは…」

ホワイト「この世界はお前自身だ。特に向こうの世界もお前の祭りが行われている。繋がりやすいに決まってるだろ!人間をこっちの世界に捕らえてしまったと他の連中が知れば、お前自身に何をされるか分からないだろ!」

葉桜「っ………、お主に説教をされる筋合いはないわぁ!!」

ホワイト「っ!?」

ラボ「なっ、急に強い風が…」

葉桜「お主なぞ吹き飛んでしまえー!!」

ホワイト「っ、うわぁ!?」

突風に巻き込まれるラボとニア。

ニア「ぎゃぁ!?」

ラボ「うおぉぉ!?」

コムラ「風が…きゃあ!?」

リム「コムラ!」

咄嗟にコムラの腕を掴み突風をやり過ごすリム。

コムラ「り、リム…!?」

リム「ぐっ…、捕まってろよ…!」

ラボ「うわぁぁぁ!?」

ニア「いやぁぁぁあ!!」

リム「ラボ、ニアぁ!?」

吹き飛ばされる3人。

葉桜「はぁ…はぁ…はぁ」

コムラ「ラボ君とニア君…ホワイトさん、飛ばされちゃった…?」

リム「くそ、隣にいたコムラしか掴めなかった…」

①⑥

葉桜「…お主ら」

リム「ちょっと!いきなり何だよ!?つーか三人を何処に吹き飛ばした!?無事じゃなかったら承知しねーぞ!?」

コムラ「ちょっとリム…!」

葉桜「……」

リム「な、何だよ…。まさかさっきの攻撃を逃れたから、俺たちを改めて吹き飛ばす気か…!?」

葉桜「……せぬ」

リム「は?」

葉桜「そのような事はせぬ…。あやつが我の話を聞かなかったから…腹が立っただけだ。あの二人まで巻き込んでしまって…申し訳ないと思ってる」

リム「……」

コムラ「葉桜さん…」

葉桜「…すまぬ」

リム「……んー、まさかそんなあっさり謝られるとは思わなかったな…。でも、流石にやり過ぎだろ」

葉桜「うむ…」

コムラ「ねぇ、三人は大丈夫なの?すごい速さで飛ばされたから…」

葉桜「ホワイトがいるから大丈夫であろう…。あやつは死なん。つまり二人も死なん」

リム「つまりって言われても困るけど…、まぁホワイト君なら大丈夫な気がするわ」

コムラ「あんたも呑気なものね…、確かに…安心感みたいなのはあるけど、でも葉桜さんが怒ったのもあの人せいじゃない?」

リム「説教してる時に地雷踏む感じも焔くんに似てるかも…それが原因で学生時代に付き合ってた子と別れてたもんね〜」

コムラ「………」

リム「でも、どーすんの?また離れ離れになっちゃったし…」

コムラ「飛ばされた方に行ってみる?でも、林の奥まで行ってしまったのかしら…」

葉桜「…ホワイトがいるから大丈夫だろう。それよりリム、コムラ」

リム「何?……ん?」

コムラ「え、今何で私たちの名前…」

葉桜「我に付き合ってはくれぬか?」

二人「え?」

①⑦
林の奥

ラボ「いったたた……。なんだよさっきの…」

ホワイト「くそ、葉桜の力か…もろに食らっちまった」

ニア「うぅ…」

ラボ「大丈夫かニア!?」

ニア「うん…」

ホワイト「すまん、巻き込んでしまった…」

ラボ「あ、いえ…。それより、リムとコムラちゃんは…」

ニア「いない…」

ホワイト「…飛ばされたのは俺たちを三人だけだな…。運良く避けれたようだ」

ラボ「だとしてもまた離れちまったよ」

ニア「せっかく会えたのに…」

ホワイト「…不味いな、早くあいつを説得しないと祭りも終わってしまう…」

ニア「怒らせたのホワイトさんじゃ…」

ラボ「言い争ってるの少し聞こえたけど、元の世界に戻るには葉桜さんの力が必要なんすか?」

ホワイト「力…というか、向こうとこっちが繋がる原因はあいつ自身にある。葉桜は表の世界にとっては土地神であり、裏の世界では守護神だ。強大な力を持ってるが、表裏一体であるからこそ、小さなきっかけでも繋がってしまう。本来は繋がってはいけないのに…」

ニア「僕らみたいにこっちの世界に来ちゃうから?」

ホワイト「あぁ…、戻れなくなるからな」

ラボ「そんな、俺たち戻れますよね!?」

ホワイト「俺が責任を持って返してやる。勿論リムとコムラもな」

ニア「…ホワイトさんって何者なの?ずっと僕らを助けてくれる…優しい妖怪さん?」

ホワイト「……黙秘する」

ニア「怪しい…」

ラボ「つーか、何処まで飛ばされたんだ?俺たち」

ホワイト「林の奥まで来てしまったようだ…。ん?ここは…」

ニア「え、ホワイトさん何処行くの?」

ラボ「そっちもっと奥の方じゃないすか!?」

ホワイト「着いてこいラボ、ニア。葉桜も説得しないといけないが、あいつにも話を聞く」

ラボ「あいつ?」

ホワイト「木暮だ。葉桜の機嫌が悪い理由…あいつなら分かるだろう」

ニア「え、何でですか?」

ホワイト「正直これは痴話喧嘩なんだ…」

ラボ「はぁ!?」

ニア「痴話喧嘩って…」

ホワイト「あの二人は婚約者だ」

①⑧

コムラ「えー!木暮さんと婚約者なのー!?」

リム「誰?」

コムラ「この世界を統制する一族の妖怪なんだって」

リム「偉いのは葉桜じゃねーの?」

葉桜「我は神であってこの土地を統べてはいない。我と婚姻を結ぶ事により土地の長として認められ、この世界を繋いでいくのだ」

リム「神様と結婚ね〜」

葉桜「…それが今問題なのだ」

リム「え?なんで?」

葉桜「おぉ、ここから祭り会場だな!出店を回ろうではないかリム、コムラ!」

コムラ「え?」

リム「はぁ!?」

葉桜「先程我に付き合うと言ってくれたではないか、祭りを回るんだ」

リム「いや、いやいやいや…何で!?」

葉桜「この祭りは我の為の物だと聞く。しかし我は最近祭りを回れていないんだ…だからお前たち、付き合ってくれ」

コムラ「そんな悠長にしてる時間はないと思うんだけど…」

葉桜「少しでいい、頼む…!」

コムラ「うーん、ラボ君達はホワイトさんと一緒だろうからまだ大丈夫かしら…。分かったわ、少しだけよ」

葉桜「あぁ!」

リム「…ちょっと待て、ホワイト君が言ってたんだけど、こっちは妖怪達の祭りだから俺たち人間がいたら危険なんだって、だから顔を隠すお面を貰ったんだよ」

コムラ「あぁ、さっきの?…でも顔を隠しただけで大丈夫なの?」

リム「それは知らねーけど、大丈夫だったよ?」

葉桜「ホワイトも不思議な力を持つ。あやつがいない状態で面だけ付けても気休めにもならん」

リム「え!じゃあどうすんだよ!」

葉桜「我がお主らを隠そう。だから安心してついてこい」

リム「うーん…ホワイト君より安心感ねぇんだけど」

葉桜「やかましいわ!」

①⑨
祭り会場

コムラ「凄いわね…人間界のお祭りみたいだけど、人間じゃない人たちがいっぱい…」

リム「さっきと同じで妖怪が騒がねーな…ホワイト君に助けられる前、ちょっとやばかったのに…」

葉桜「我がお主らの匂いを隠しておる。今のお主らからは桜の香りがしておろう」

リム「まじ?俺良い匂い?」

コムラ「だとしたら私も同じ匂いよ、分からないわ」

葉桜「お、妖怪たこ焼きか。食べてみようではないか!」

リム「あ、葉桜!」

屋台へ駆け出す葉桜。

コムラ「なんだかさっきと雰囲気違うわね…まるで子供みたい」

リム「だねー…変わんない…」

コムラ「え?」

リム「は?……俺、今何言った?」

コムラ「…何か変よね、葉桜ちゃんとは初めて会うのに…何でそう思うのかしら」

リム「お前もそう思ってたのかよ」

コムラ「うん…何処かで会ったことあるのかもね」

リム「神様と?…んな訳………」

コムラ「リム?」

リム「……」

②⓪

葉桜「リム、コムラ!たこ焼きを買ってきたぞ、一緒に食べよう」

コムラ「え、うわっ…たこ焼きよね?だいぶグロテスクな色をしたタコの足がはみ出てるわよ?しかもうにょうにょ動いてる…これ本当にたこ焼き?」

葉桜「うむ、こっちの世界ではこうらしい」

コムラ「食欲が湧かないわ…」

葉桜「味は良いかもしれんぞ」

コムラ「そう…?」

リム「駄目だコムラ!」

コムラ「え?」

リム「ホワイト君が言ってたんだけど、別の世界の食べ物を食べたらダメなんだって」

コムラ「そ、そうなの?」

葉桜「そうなのか…、我は昔食べたが無事だったぞ?」

リム「それは知らねーけど…、もし戻れなくなっても怖いし、俺らは遠慮するよ」

葉桜「…あやつの言う事ばかり聞きおって」

リム「…好きで聞いてる訳じゃねーよ。でも、聞いといた方が安全かなって思っただけだ…俺たちは元の世界にちゃんと居場所がある…だから絶対に戻らないといけない」

葉桜「……」

リム「俺はモデルをやってんだ。まぁまぁ名前も売れてるから神隠しなんて起こったら洒落にならねぇ。コムラだって焔くんや彼氏くんもいるんだろ?帰してやらねーとダメだしな」

コムラ「リム…」

葉桜「………うぅ」(フルフル震えてる)

リム「え、何?さっきと同じ雰囲気出てる?」

コムラ「ちょ、今さっきの突風を吹かせたら流石に不味いでしょ!?」

葉桜「うぅ〜……」

リム「……顔真っ赤。え?何で泣きそうな顔してるの?お前」

葉桜「な、何でみんなそんなに大人になってるの?…我はずっとずっとお前達を待っておったと言うのにぃ…」

リム「は…?」

コムラ「ちょ、泣いてる!?ご、ごめんね!リムがおバカでごめんね!」

リム「おい、何でだよ!?」

葉桜「また会おうって言ったくせにぃ……」

リム「ガチ泣きじゃん!?ちょ、人のいなさそうな所いかない?」

コムラ「人と言うか妖怪だけど…、また林の方に戻りましょ?ほら、行こう葉桜ちゃん?」

葉桜「うん…」

②①
桜の丘

ホワイト「着いたぞ」

ニア「ここは…」

ラボ「何か開けた場所だな…ん、あそこすっげーでかい木が立ってる!」

ニア「本当だ、桜の木?おっきくて綺麗〜」

ホワイト「おい、木暮」

木暮「っ!?」

ラボ「あ、木暮さん!」

ニア「この人がさっき言ってた人?」

ホワイト「お前、こんな所で何をしてる?葉桜とまた喧嘩したんだろう?今度はなんだ!?」

木暮「貴様には関係ない…」

ホワイト「関係ない?よく言えたな。これ以上お前達が争えば表の世界にも影響が出る。それは望んでいない事だろう?」

木暮「しかし、葉桜とは今会えない…」

ホワイト「じゃあその理由を言え!」

木暮「勝手に首を突っ込んでくる貴様には言えん!」

ニア「ラボさん、僕これさっき見た」

ラボ「おいおい相手が変わっても同じ展開かよ…」

ホワイト「どいつもこいつも口篭りやがって…埒が明かねぇ、葉桜を呼んでくる」

木暮「何!?」

ホワイト「直接話し合いをさせる方が手っ取り早い。祭りが終わるまでに片付けねーとこいつらを元の世界へ返せなくなる可能性がある」

木暮「…何故そこまでするんだ、勝手に入ってきた迷い子だ…何処ぞでくたばってくれても僕らには関係ないだろう?」

ラボ「なっ…!?」

ホワイト「俺は帰すと決めた。お前に関係なくても俺はそうする。それに幻想桜里を調査している俺にとってもこの世界の存続は必要だと、何度も説明したぞ」

木暮「貴様の目的は何なんだ…?葉桜とはどういう関係なんだ?僕は、葉桜から貴様を紹介されたが…どういう経緯で、何者で、葉桜との関係なのか聞いた事はない」

ホワイト「だったら葉桜から聞けばいいだろ。ラボ、ニアここで大人しくしとけよ?木暮、こいつらに傷一つでも付けてみろ?葉桜も喜ばねぇからな」

木暮「っ……」

去る、ホワイト。

ラボ「あ、ホワイトさん!?」

ニア「行っちゃった…」

ラボ「マジで何者なんだよあの人…」

②②
祭り会場から少し離れた林の辺り

リム「で、泣き止んだ?葉桜」

葉桜「うん…」

コムラ「もうびっくりしたわ…」

葉桜「ごめん…」

リム「…なんか調子狂うなぁ、さっきまでと態度が全然違うじゃねぇかよ」

コムラ「なんだか子供みたいね…」

葉桜「我は子供ではない!…我だってお前達と同じ大人だ!」

リム「そうやって喚いてるのが子供っぽいんだよ。つーか気になってるんだけど、葉桜って俺らと知り合いなの?」

葉桜「……」

コムラ「なんだか懐かしい気持ちになるのよね…もしかして、子供の頃とか遊んだ事あった?葉桜ちゃんもさっき似たような事言ってたし…」

葉桜「…覚えてないか」

リム「やっぱ子供の頃だよな?はっきりと覚えてねぇけどさ…」

葉桜「約束をしたんだ…お前と」

リム「俺?…なんて?」

葉桜「私が困ってる時、助けてくれるって…。私がお前の頼みを聞いてやったから…。またねって言った…」

コムラ「そんな事を…」

リム「頼み…?」

葉桜「でも、お前たちは我を完全に忘れてしまった…。それはホワイトの仕業だろうと思うが…」

コムラ「え?何でそこでホワイトさんが出てくるの?」

葉桜「あやつはこっちの世界とあっちの世界を行き来する。この世界を調査しながら迷い込む者を阻む事もしているらしい…。そして我を陰から守っておる」

リム「ホワイト君って妖怪なの?」

葉桜「知らん。しかし、妖術か何かでお前達の記憶を弄ったのやもしれん…。あやつはなんでも出来る末恐ろしい男だ…人間の味方をする…不思議な奴だ」

コムラ「もしかして葉桜ちゃんと同じ感じなのかしら?葉桜ちゃんは子供の頃とは言え、私達と遊んだのよね?」

葉桜「うん…」

コムラ「じゃあホワイトさんも神様みたいなものなのかもね」

②③

リム「しっかし、この後どうすんの?」

コムラ「ラボ君とニア君を迎えに行かないといけないし…」

葉桜「……」

リム「まただんまりしてどーしたの葉桜?」

葉桜「今のままじゃお前達は帰れるか分からん」

リム「はぁ!?」

葉桜「こっちとあっちの世界への行き来はホワイトしか自由に出来ん…。でも我はホワイトがどうやって行き来してるのか分からんし、その方法でお前達が帰れるかも分からん。それに今の我ではあっちの世界へ繋げる事が出来るか怪しいんだ…」

コムラ「どう言うこと?」

葉桜「幻想桜里と人間の世界を繋げるのは我なのだ。自力で繋げる事は出来るが、殆どは我の精神状態による…」

リム「精神状態?」

葉桜「昔はよくお前達と会いたいと言う気持ちで繋げていた…。でも今は繋げる事が難しい…。寧ろ今は、お前達と離れたくない…」

コムラ「…葉桜ちゃん」

リム「でも、俺たち好きでここに来た訳じゃないし…、境内の裏に変な鳥居があって、後ろから突き飛ばされた感じでこっちに来たんだから」

葉桜「……………それ、我がやった」

リム「は?」

コムラ「え?」

葉桜「ご、ごめんなさい…もう会えないと思ってたし、助けて欲しくて…」

リム「なんだって!?お前のせいなの!?」

コムラ「リム、詰め寄らないの!」

リム「何でそんな事した!?俺たちの意志は無視か?」

葉桜「ずっとお前達の事を呼んでいたんだ。でも、ずっと会えなくて…寂しくて…。もう、離れたくない…。木暮も我を避けているんだ…。辛いんだ…、お前達は…もうそんな事しないよな?」

コムラ「お、落ち着いて葉桜ちゃん」

リム「…葉桜、お前」

葉桜「我が悪いんだ…我が悪いけど…、ずっと寂しくて…木暮は何も言ってくれないし…木暮は、我のことなんて好きじゃないんだ…」

コムラ「葉桜ちゃん……」

葉桜「政略結婚の様なものだ…。でも、我は木暮を…好いておる…けど、向こうは我の事を嫌ってる筈…」

リム「何で?」

葉桜「え」

リム「何で知ってんの?聞いたの?その人から」

葉桜「いや…聞いてはないが、きっと我の事は好きじゃない…」

リム「それが何でって聞いてんの。俺はその人の事やお前との関係はよく知らないけど、お前も知らないのに言い切る意味が分かんない」

葉桜「木暮はこの幻想桜里の為に我と結婚をする。好きでもない奴と結婚なんて嫌だろ?」

リム「でも、お前はその人のこと好きなんでしょ?言ってる事おかしいよ」

葉桜「おかしくない!我は、…我は初めてあいつと会ってからあいつに惚れた…。優しく、いつも我の話を聴いてくれた。お前達と会えなくなってからもあいつが傍にいてくれた…でも、いざ結婚の日取りが決まり出したら…よそよそしくなってきて…」

コムラ「…葉桜ちゃん」

リム「はー?何その男〜!?女の子を不安にさせるとか最低か!?葉桜!そいつ何処?俺が口を割らせてやるよ!」

葉桜「え」

リム「え、じゃねー!そいつ何処にいんだ!?やましい事が無ければ話し合い位出来るだろ?やましい事があったらそれはそれでぶん殴る!」

葉桜「な、なんでそんな…」

リム「お前の事は正直はっきり思い出せないけど、そんな辛そうな顔してる女の子を放っておけるわけないだろ」

コムラ「リム…」

リム「その事がはっきりすれば、今度はお前が素直にそいつに向かって好きって言うこと!」

葉桜「えぇ!?」

リム「お前も素直じゃなさそうだしな。約束!いいな!?そしたらお前のやらかした事許してやる、解決したら俺たちも帰れるんだろ?」

葉桜「……うん。でも、やっぱり我なんか…」

リム「俺たちがいるから、な?」

葉桜「…………うん」

リム「うん♪…後はもうちょい可愛く笑う事!」

葉桜「え…」

リム「お前は可愛いんだから〜。口角を上げる、うん…可愛いぜ♪」

葉桜「…ありがと」

コムラ「あんた凄いわね…」

リム「俺は人と接する時は笑顔を絶やさないの…いつファンに会うか分かんねーだろ?その時に暗い顔してたらファンが悲しむからな」

コムラ「そういえば、あんたモデルね」

リム「ま、俺はそういう性格なの。笑ってる方が俺ってかっこよくて可愛いだろ?それともセクシーな表情がご希望?」

コムラ「…今は素のあんたがご希望よ。昔から変に前向きなんだから…そう言うところ素直に尊敬するわ」

リム「サンキュ♪…じゃ、ラボ達を探しに行きますか!」

葉桜「ちょっと待ってくれ…我が居場所を探そう。この世界は我自身。何処にいるか探知が出来る」

リム「そんな事できんの!?すげー!」

葉桜「あぁ、少し待っててくれ」

葉桜、少し離れる。

②④

コムラ「…やっぱりあんたには敵わないわ」

リム「何?急に」

コムラ「……今ちょっと悩み事があってね」

リム「うん?彼氏のこと?」

コムラ「違う。…いや少し合ってるかも」

リム「ほぉ」

コムラ「…その人にプロポーズされたんだけどね」

リム「お、おぉ!?」

コムラ「ママとパパは良いって言ってるんだけど……その」

リム「焔くんか」

コムラ「うん」

リム「あいつシスコンだしな」

コムラ「…その人はよくうちの店に来てくれる常連さんなんだけど、年上で優しくて…少し抜けてる所があって…笑ってる顔がすごく好きなの」

リム「…うん」

コムラ「告白してくれて凄く嬉しかった…、気付いたら好きになってたから…。でも、大好きなお兄ちゃんに大好きな人を否定されて、悲しいのよね…」

リム「否定…お、おぉ」

コムラ「それで言い争っちゃったのよ」

リム「お前と焔くんが!?」

コムラ「うん。つい私も声を荒げちゃって…それから気まずいの…。いつもこの時期は帰って来てたのに…」

リム「あー…ふーん」

コムラ「くだらない兄弟喧嘩よ…」

リム「結婚云々出てるんだからくだらなくないだろ」

コムラ「どう思うリム?」

リム「それは焔くんが悪いわ」

コムラ「あら」

リム「焔くんはお前が好き過ぎるから、拗ねてそんな事言ったんだよ。お前は悪くない」

コムラ「…ありがと」

リム「お前が好きな相手だろ?どんな奴かは知らねーけど、お前を泣かす様な奴だったら俺が社会から抹殺してやるよ」

コムラ「怖いこと言うわね」

リム「ラボとニアだって怒るだろうし、何より焔くんが黙ってないだろ。そいつと結婚して後悔するなら俺たちがどうにかしてやる。お前だって俺たちが傷付いたらムカつくだろ?」

コムラ「……えぇ、絶対許さない」

リム「うん、お前らしくて好き♪」

コムラ「……ねぇ、リム。私の初恋が貴方だって話したかしら?」

リム「……………は?」

コムラ「好きだったのよ、子供の頃。正直、お兄ちゃんに嫉妬してたわ…リムを取ってばかりで」

リム「えー、俺逆にコムラに焔くん取られてムカついてたんだけど」

コムラ「あんたの無鉄砲で無邪気な所…口が悪いけど優しい所…見た目だけじゃないあんたの事、好きだったの……今はあの人だけよ♪」

リム「そーかよ。俺鈍感なのかな〜、全く気付かなかったぜ」

コムラ「あんたお兄ちゃんしか興味なかったじゃない。…もしかしてあんたそっち?」

リム「つか恋愛自体に興味がない。そういうのって自然な事だろ?好きになったらその時だよ。それが無ければ俺の生涯は俺が一番ってこと♪」

コムラ「やっぱあんたには敵わないわ」

②⑤

葉桜「リム、コムラ」

コムラ「葉桜ちゃん、どうだった?」

葉桜「二人の場所は分かったのだが…」

リム「何?なんかまた暗い顔してね?」

葉桜「それが……」

ホワイト「桜の丘だろ」

リム「ホワイトくん!?」

コムラ「え!?何でホワイトさんが?」

葉桜「ホワイト…」

ホワイト「戻ってくるまで苦労したぞ。無事か?コムラ、リム」

リム「うん」

コムラ「大丈夫です…」

ホワイト「行くぞ、葉桜。木暮が待ってる」

葉桜「木暮が?」

ホワイト「あぁ、こいつらを帰す為にもお前は木暮とケリをつけろ」

葉桜「わかった」

ホワイト「嫌と言ってもこれ以上の我儘は……あ?」

葉桜「行く」

ホワイト「……お、おぉ」

葉桜「リム、コムラ…」

リム「うん、一緒に行ってあげるから」

コムラ「えぇ、行きましょう」

葉桜「うん…!」

ホワイト「いつの間に仲良くなってやがる…」

②⑥
桜の丘

木暮「ここは桜の丘。この桜の木が僕の本体だ…」

ニア「綺麗な桜…」

ラボ「マジで人間じゃないんだなあんたも…」

木暮「あぁ、…それよりお前らは葉桜の事を覚えてないのか?」

ラボ「は?」

木暮「さっきまではろくに話さなかったから、思い出せなかったんだが…葉桜が小さい頃に遊んだ人間達…それがお前達だったんだ」

ニア「え!?」

ラボ「あの俺らを吹っ飛ばしたやべー女が!?」

木暮「小さい頃だし、人間とは時間の流れ方が違う…お前達が覚えてなくて当然だ」

ラボ「そう、だったのか…?」

ニア「覚えてない…でも、違和感の正体ってこれだったのかな…」

ラボ「そういや、そんな事言ってたな」

ニア「はっきりとした記憶が曖昧な感じ…でも、きっと楽しかった筈なの…。きっとそう…」

ラボ「何でそう言えるんだ?」

ニア「僕はみんなが大好きだから…、嫌な思い出だったらきっと嫌な気持ちになると思う…でもそういう感じじゃないから」

ラボ「…言ってる事はよく分からねぇけど…理屈じゃないってことだな!」

木暮「…人間風情が葉桜と遊ぶなんて、本来はあり得ない事だからな」

ラボ「何だよ、ちょっと機嫌悪そうじゃん」

木暮「お前達が彼女と遊ばなくなったせいで、彼女があまり笑わなくなってしまったんだ。僕と会ってもいつもお前達の話ばかり…」

ラボ「…え、嫉妬してんの?」

木暮「して悪いか?彼女は僕の婚約者だ」

ニア「開き直った…」

木暮「好きだが、彼女の心が読めん…。いつも不機嫌そうで何を考えてるのか分からんし、この結婚も政略的な物…彼女は望んでいるのか…」

ラボ「……」

木暮「それに、これも壊れてしまったなんて言えば…また嫌われる…」

ニア「これ?」

木暮「このおもちゃの時計だ」

小さいおもちゃの時計を取り出す木暮。

ラボ「随分古いキャラのイラストだな。あ、針が止まってる」

木暮「昔、葉桜が人間界の祭りでくじ引きをしたらしい、そこで手に入れた物だと聞いた」

ニア「それを貰ったの?」

木暮「何度か電池を入れ替えたんだが、それでも動かなくなってしまって…」

ニア「そんなに古い物ならもう寿命じゃない…?」

木暮「やはりか…」

ラボ「ちょっと見してくれ」

木暮「え、あぁ…」

木暮からおもちゃの時計を受け取るラボ。

ニア「ラボさん?」

ラボ「まぁ、物に寿命は付き物だ…、でもこれはもしかすると…」

木暮「な、何をするつもりだ?」

ラボ「黙ってろ」

木暮「っ…」

ニア「ラボさんってこういうの得意だから任せてよ」

木暮「……」

ラボ「この電池は比較的新しいのか?」

木暮「あ、あぁ… ホワイトに頼んで、調達してもらった物だ…」

ラボ「じゃあやっぱり……」

木暮「おい、何をするつもりだ?」

ラボ「あー、持ってて良かった〜」

木暮「おい!何だそれは!?」

ラボ「錆取り」

木暮「錆……」

ニア「何で今持ってんのこの人…」

ラボ「電池との接触部分が錆びてるせいで、動かないんだと思う」

木暮「ほぅ……、ありがとう…」

ラボ「まぁ、もともと古いおもちゃだからちゃんと動く保証はねぇけどな、でもちゃんと手入れしてんだな、見た目は結構綺麗だし」

木暮「…葉桜から貰った物だしな」

ニア「わぁお、惚気だ」

ラボ「長持ちさせる事は出来るけど、出来るってだけだからな。物なんだから壊れる事は忘れるな。葉桜ちゃんだって言えば分かってくれるよ」

木暮「そう…だな。というか葉桜を気安く呼ばないでくれないか…?」

ニア「なんなのこの人怖いんだけど」

ラボ「あれ?俺何で今さりげなく葉桜ちゃんって…」

木暮「…昔遊んだからだろ」

ニア「じゃあ木暮さんに文句言われる筋合いはないよね。覚えてないとは言え、僕らと葉桜ちゃんは友達だったんだから。それをぐちぐち言ってくるって相当ダサいよ」

ラボ「お前もストレートに言うなぁ」

ニア「素直に言わないと伝わらないことあるんだから、変に八つ当たりしないでくれる?」

木暮「く……」

ニア「……僕だって喋るの苦手…、伝える事が出来なくて同い年の子達に嫌われたもん…」

ラボ「……」

ニア「でも、家が近いリムがラボさんやコムラちゃんと遊ぶ時に連れて行ってくれて、みんな優しくて…ゆっくり話を聞いてくれたの…。だから僕はみんなの事が大好きなの。大好きで優しいからとても大切だって伝えたい…」

木暮「……」

ラボ「ニア…」

ニア「言葉って難しい…、でも少しでも伝えないと勿体ないよ。葉桜ちゃんの事好きなんでしょ?伝えないと分からないよ…。その時計を大事にしてるって伝えよう?好きだから結婚が嬉しいって言いなよ」

木暮「……」

ニア「葉桜ちゃんは僕らと遊んでくれた優しい子なんだから…きっと聞いてくれるよ」

木暮「………」

ラボ「…ニアは真っ直ぐな性格なんだよ。素直な事しか言わない…だから俺たちはニアの言動に困る事もあれば凄く救われる事もある」

ニア「人間ってそんなものじゃない?」

ラボ「…お前は真っ直ぐ過ぎるの!リムの次にトラブルメーカーなの自覚してくれ…」

ニア「そんなにトラブル起こしてるかな…?」

木暮「…お前達は本当に不思議な人間だな、だからこそ葉桜もお前達を気に入ったのか…」

ニア「…葉桜ちゃんってどう言う子なの?」

木暮「……子供っぽい女性だ。強く、神としてのプライドを持ち、この世界を守ってくれている…しかし、繊細で好奇心が旺盛…見てて飽きないんだ」

ニア「…リムっぽいね」

ラボ「まぁ、好きなんだな…。そこまで言えるならさっさと言えよって思うわ」

木暮「う、うるさいな…!」

ニア「わぁ、顔真っ赤」

②⑦

あずき「……木暮様」

木暮「ん?…あずき、何処に行ってたんだい?」

ラボ「あ、葉桜ちゃんが来たから逃げ出したあずきさんじゃん」

あずき「っ…」

木暮「逃げた?」

あずき「は、葉桜様が私を脅したんです!」

ラボ「いや、君が俺とコムラちゃんに襲いかかって来たんじゃん」

ニア「え、怖い人…?」

木暮「あずき、どういう事だい?葉桜も君もそういう事をしないと思うのだが」

あずき「……」

ラボ「なんか急に機嫌悪くなって、俺とコムラちゃんに襲い掛かってきたんだよ!そこに葉桜ちゃんが来て助けてくれたんだ」

木暮「…あずき、君の口からも聞きたい。彼らを怖がらせたのかい?」

あずき「そう言うわけじゃ…私は…」

木暮「君が人間を良く思ってないのは知ってる。だが、この世界では人間は迷い子だ。人間は須く元の世界へ帰さねばならない。葉桜との総意だ」

あずき「………」

木暮「あずき?」

あずき「うわぁぁぁぁああ!!」

木暮「あずき!?」

ラボ「な、また炎があの子の体を覆ったぞ!?」

ニア「こ、こわい…」

あずき「何で、何であの女なんですかぁ!!」

木暮「どうしたあずき、何を怒っている!?」

あずき「あんな女より貴方の近くにいたのは私ですよ!なのに何であの女が良いんですか!?」

木暮「……あずき」

あずき「私は、私はずっと木暮様に尽くして来ました!私を選んでくださいよ!!」

ラボ「うわっ、熱い!」

ニア「あの人何…?木暮さんが好きなの?」

ラボ「嫉妬…てこと?」

木暮「あずき、落ち着きなさい!」

あずき「木暮様が私を選んでくれないならぁ……木暮様の桜の木…燃やしてしまいます!!」

木暮「っ、僕を殺す気か!?」

あずき「私の命も木暮様に捧げます!」

ラボ「心中する気かよ!」

ニア「炎が更に大きくなったよ!?」

木暮「あずき、君には感謝している!しかし好いてるのは葉桜なんだ…。幻想桜里の為、そして僕自身の為にも彼女と共にいたいんだ。分かってくれ」

あずき「……う、うぅぅうあぁぁぁあ!!」

ラボ「うおぉ!?火の粉が飛んできたぞ!?」

ニア「桜の木に火が燃え移っちゃうよ!」

木暮「っ…、二人とも逃げろ!!」

あずき「燃えちゃえぇ!!」

②⑧

ホワイト「やめろぉぉ!!」

木暮「なっ…!?」

ホワイト「ぐあぁ!?」

炎を浴び倒れるホワイト。

ラボ「え、ホワイト…さん?」

ニア「え、え……」

リム「ホワイトくん!?」

ホワイト「っ……」

葉桜「ホワイト、お主…」

コムラ「嘘…嘘よね!?大丈夫よね!」

ラボ「…リム、コムラちゃん、葉桜ちゃんも…」

リム「ホワイトくん!!」

ニア「ぼ、僕らを庇って…」

木暮「っ…あずき!」

あずき「うぅ、うあ…うあぁぁ!!?」

葉桜「妖力が暴走しておる」

木暮「は、葉桜…」

葉桜「狼狽(うろた)えている場合ではない!早くあずきを止めねばお前の桜の木もあずきの命も危うい!」

木暮「……あぁ」

リム「ホワイト君がやられた?死んだの?冗談やめてよ…どーすんだよ」

コムラ「怖い…これが妖怪…?」

葉桜「案ずるでない人間ども!」

ラボ「葉桜ちゃん…」

葉桜「ここは我の地ぞ。誰も死なせはせん!あずき、我の声を聞くがいい!」

②⑨

あずき「っ……は、葉桜ぁ…」

葉桜「あぁ、葉桜だ」

あずき「……あんたの、あんたのせいで木暮様は不自由を強いられてるのよ!全部全部あんたのせいなのよぉ!!」

葉桜「そうだ、我のせいだ」

あずき「……は?」

葉桜「我の卑しい心が本心を鈍らせた。隠した。我自身をも偽った。なによりも愛おしい者達を疑ってしまった…それは我の至らぬ所…」

コムラ「葉桜ちゃん…」

葉桜「しかし、それは仕方のない事…我らは人間と相容れぬ存在…なのに我はそれが当然に出来ると思っていた…何故なら、こやつらは我を同等に扱ったから…」

ニア「……あ」

葉桜「ニアは我と共に泣いた。虫に驚いたり、共に転けて情けないくらい大泣きした」

回想

子ニア「リムのばか〜!!虫さん持って来ないでって言ったのにー!」

子葉桜「そーだそーだ!リムが私とニアをいじめるのー!」


ラボ「そういや、よくリムにからかわれて俺やコムラちゃんが怒ってたな」

葉桜「ラボにはよく叱られた…ちょっとした悪戯にも全力で怒って、でも揶揄(からか)いがいのあるものだから何回もやってしまってな…」

回想

子ラボ「お前らマジでいい加減にしろよ!?俺を後ろから驚かすの禁止って言ったよな!?」

子葉桜「だってラボの驚き方ってとっても大袈裟で面白いんだもん!」


コムラ「あったわねぇ…懐かしい」

葉桜「コムラはいつも我に優しくしてくれた。同じ女子(おなご)故、いっぱい話した。花について教えてくれた我の親友だ」

回想

子コムラ「桜にも花言葉ってあってね!種類ごとに幾つかあるんだけど、綺麗とか美人みたいな言葉が多いの!葉桜ちゃんにぴったりね!」

子葉桜「そ、そう…?えへへ、なんか嬉しい…。凄いね!コムラはお花博士だ!」


リム「……葉桜、そうだ……俺、葉桜と約束…」

葉桜「リムはいつも我らを引っ張ってくれた。我の憧れだ…だから、リムが我を頼ってくれた時が嬉しかった…」

リム「葉桜、俺…!」

葉桜「誰も傷つけさせん…我が全てを受け止めてやろう」

あずき「………さっきから、黙って聞いてれば何よ!私には木暮様しかいないの!あんたはそんなにいっぱい友達がいるんでしょ?なら木暮様は私に頂戴よ!!私には木暮様だけなのぉ!」

葉桜「我もいる」

あずき「うるさぁぁい!!」

ニア「また炎が大きくなったよ!?」

ラボ「逃げろ葉桜ちゃん、危ないぞ!!」

あずき「消えろぉぉお、葉桜ぁぁ!!」

葉桜に向かって炎が飛ぶ。

木暮「やめろあずき!」

コムラ「いやぁぁあ!!」

葉桜「…誰も死なん。そうであろう?」

リム「え、ホワイトくんの体が光ってる…?」

ラボ「今度はなんだ!?眩しっ…」

ニア「わっ、視界が白い…!?」

葉桜「お主は死なん、此奴(こやつ)らがいる限り…」

③⓪
光が弱まり、葉桜の側に焔が立っている。

焔「勝手なことを言うな」

あずき「うぁぁぁぁあ!!」

焔「おらぁ!!」

あずき「なっ…!?私の炎が消えた!?」

焔「護身用に持って来てた浄化用の宝具が黒こげに…これだから妖怪とまともに対峙するの嫌だったんだよ…」

葉桜「しかし、お主の真名(マナ)を知れた…良き名ではないか。焔」

焔「ちっ…」

リム「ほ、焔くん…?」

コムラ「お兄ちゃん!?」

ラボ「えぇ、焔くん!?」

ニア「焔兄ちゃん?え、本物?今度こそ本物!?」

焔「うるせぇな…。本物だよガキ共」

リム「え、じゃあさっきのホワイト君は…?」

焔「後で説明してやる。今はこっちが先だ」

あずき「うっ…うぅ…」

木暮「あずき…」

葉桜「妖力の限界も近そうだ…助けてくれるか焔」

焔「…俺に出来るのは手助けだけだ。今のお前ならあいつをどうにか出来るだろ。あいつらもお前を思い出した様だし…」

葉桜「……うむ、我は一人ではない。あやつも大事な存在だ」

リム「あずき……猫」

コムラ「リム?どうしたの?」

リム「あずき色…だからあずき…そうだよ、あの猫だ」

ニア「猫…?………あ、猫!?」

ラボ「え?……あ、そうだ」

コムラ「あ!…リムが神社の裏で飼ってた子猫!」

焔「木暮、手を貸せ!」

木暮「え…」

焔「お前の妖力は葉桜と相性が良い。好きな女と大事な世話役を失いたくねぇだろ」

木暮「……勿論だ!」

③①

あずき「木暮様ぁ…うぅ、体が熱い…妖力が、う…うぁぁあ!?」

葉桜「苦しんでおる…可哀想に、何度もお主にも辛い思いをさせてしまったのか…、我の至らぬ所だ」

木暮「葉桜…、彼女を頼んでいいかい?君とは別で大切な子なんだ…」

葉桜「当たり前だ…あずきは我にとっても特別な存在…この世界に連れてきた我の責任でもある」

木暮「もう話してもいいんじゃないのか?」

葉桜「…そうだな」

焔「ぼさっとしてんな、さっさと蹴り付けてこい!おい、ガキ共俺の後ろにいろ」

ニア「わわっ…、どうなるの…?」

コムラ「お兄ちゃん…」

焔「……」

リム「あずき…俺も行く!」

ラボ「は!?おい待てリム!」

走り出すリム。

焔「リム!?」

木暮「炎は僕の妖力で出来る限り抑える、行って葉桜!」

葉桜「うむ」

コムラ「わっ、桜の木から沢山の花びらが落ちてきたわ!」

ラボ「今度は視界が薄桃色かよ!」

ニア「リム、リムぅ!!」

焔「ニア、お前まで動くな!」

ニア「でもリムが!」

焔「くそ、バカヤロウが…」

あずき「う、視界が塞がれる…っ!炎が弱まってる…!?」

木暮「お前の妖力を吸収してるんだ…これで近付けるだろう」

葉桜「全く…手間をかけさせるな、お前は…今も昔も…」

リム「葉桜ぁ!俺も連れて行け!」

葉桜「リム!?」

木暮「な、何で人の子が…」

リム「俺もあずきと話す義務があんだろ!」

葉桜「………来い!」

③②
3人が桜の花びらに覆われる。

あずき「ち、近付かないでよ…!」

葉桜「我の言葉を聞け。お主には話さねばならない事がある」

あずき「…なによ」

葉桜「お主は人間界にいた。それは覚えておるな」

あずき「え…う、うん…」

葉桜「そして木暮に拾って貰いこっちの世界に来た…。それが違うのだ」

あずき「え……」

葉桜「人間の世界と妖怪の世界を行き来する事は簡単には出来ん。まして人間をそこまでよく思ってない木暮がそんな事をすると思うか?」

あずき「……でも、じゃあ私は何でこっちにいるのよ」

葉桜「お主をこっちの世界に連れてきたのは我だ。そしてお前を看取ったのは」

リム「俺だよ…あずき」

葉桜「は?」

リム「あずき色だったからあずき。焔くんに教えてもらったの。それで俺を中心に皆んなで神社の裏で飼ってた」

あずき「…そんな事、覚えてないわよ」

葉桜「可愛がっておったが、病には勝てなんだ…リムがそれを看取り、我が桜里へ連れてきた。そして妖怪として生まれ変わったのだ」

あずき「……」

葉桜「妖怪になった事により記憶が混濁しているのだろう…」

リム「言われたもん。助けるけど、あずきとは二度と会え無いかもしれないって…それでも、助かるなら助けたかった…冷たかったお前の体…今思い出してもゾッとする…」

葉桜「…死んだことを下手に思い出さん様にお主を木暮の一族へ預けた。木暮の一族は我の一族と縁が深い…それは婚姻の話を含めてだが…」

あずき「そんな、こと…信じるとでも?」

葉桜「好きに思えば良い。我は真実しか話さん」

リム「思い出せなかったこと悪いと思う。でも、俺はお前とまた会えて良かったと思ってる…」

あずき「ち、近づかないで…」

リム「あずき、…あずき」

あずきを抱き締めるリム。

あずき「っ……抱きしめないで!離して!!」

リム「生きてくれて良かった…また会えたなあずき…」

あずき「あっ……、この撫で方…」

リム「あったかいな…」

③③
回想

あずき「みゃー」

子焔「こういう色を小豆色って言うんだ。小豆って見たことあるよな?」

子リム「ある!昨日ぜんざい食べた」

子コムラ「赤っぽくて茶色い色?」

子焔「そーそー」

子リム「じゃあこいつの名前あずきね!」

子ラボ「そのまんまじゃん!やっぱタマシーンにしようよ!」

子コムラ「猫によく付けるタマとマシーンの組み合わせ…?」

子ニア「ださ…」

子焔「ま、好きにしろ。俺は動物そんなに好きじゃないからあんまり来ないけど、先に帰ってるからなコムラ」

子コムラ「うん、ばいばーい」

子リム「ばいばーい!」

あずき「みゃー」

その場を去る焔。

子リム「お、どしたあずきー?」

子ラボ「タマシーン…」

子ニア「もういいよそれ」

子葉桜「何をしてるの?」

子コムラ「葉桜ちゃん!」

子葉桜「ん?猫ちゃん…!」

子リム「小豆色のあずき!神社の近くにいたからここで飼うの!」

子ラボ「みんな猫飼うのダメって言われてさ。うちも犬いるしな〜」

子葉桜「ふぅん、可愛いね。触っていい?」

あずき「シャー!」

葉桜を引っ掻くあずき。

子葉桜「痛っ!?」

子コムラ「わっ!大丈夫!?」

子葉桜「うん…引っ掻かれたけど血は出てない」

子リム「おい、何してんだよあずき」

あずき「にゃー…」

子葉桜「…急に触ってびっくりしたね…ごめんね」

子ラボ「葉桜ちゃん、大丈夫?」

子葉桜「嫌われちゃったみたい…私帰るね…」

子リム「葉桜!……いっちゃった」

子ニア「あずきちゃんダメだよ…」

あずき「にゃー…」

子リム「もう…今度は葉桜にもこうやってなでなでさせてあげろよ、あずき♪」

あずき「にゃー!」

③④

あずき「……え、何今の記憶…」

葉桜「お前はリム達に拾われた子猫だ。可愛がられておったが…我は当時から嫌われていたな…」

あずき「嘘…、でも私人間に酷い事された!だから人間が嫌いなのよ!離してよ!」

軽く突き飛ばされるリム。

リム「あっ…。…確かにお前を見つけた時はボロボロだったし、すぐに病気で亡くなった…。俺達と会う前に何があったのか知らないけど…元気になったと思ってた…」

あずき「……」

リム「助けれなくてごめん…妖怪にしちまってごめん……」

葉桜「リム…我も望んだ事だ…」

リム「記憶が混乱してるとはいえ、助けるってずっと一緒にいるって言ったのに…ごめんな」

あずき「……っ」

葉桜「あずき、我を許さなくて良い。しかし、こやつらにはこれ以上危害を加えないで欲しい。我の大切な友であり、お前を愛した者達だ」

あずき「……」

リム「あずき…、会えないと思ってた。こうやって頭を撫でてやる事も出来ないと思ってた…」

あずき「………私」

リム「会いたかった」

あずき「……!!」

涙が溢れるあずき。

葉桜「…泣けば良い、心が落ち着けば妖力も落ち着いてこよう…」

あずき「うっ…ぐす…」

③⑥
回想

子葉桜「遊びに来たよーリム!……あれ、どうしたの?…え、この間の猫ちゃん…?」

子リム「今日会いに行ったら動かなくなってた…みんなに聞いたら病気とかで死んじゃったんじゃないかって…」

子葉桜「…そうなんだ」

子リム「土に埋めてあげようって言われたんだけど…どうしよう……」

子葉桜「…泣いたのリム?お目目赤いよ…」

子リム「ほんの少しの間しかあずきと居られなかったから…悲しいよ」

子葉桜「……」

子リム「……」

子葉桜「…この子私が連れて行ってもいい?」

子リム「え?」

子葉桜「死んで間もないんでしょ?…猫としてはもう生きれないけど、別の方法で生きる事は出来るかもしれない…」

子リム「あずき、生き返るの?」

子葉桜「うん…上手くいくかは分からないけど…」

子リム「お願いしていい!?」

子葉桜「いいけど……、もうこの子とは会えないよ」

子リム「え…?」

子葉桜「妖怪になったらもうこっちの世界には来れないの」

子リム「……よく、分かんないけど」

子葉桜「やっぱり自然に返すのがこっちの世界にとって良いのかな…」

子リム「…お願い、助けて。まだこんなに小さいのに…会えなくても助かるなら良いよ!お願い葉桜!」

子葉桜「…分かった。じゃあ連れて行くね」

子リム「ありがとう葉桜…お礼になんでも言う事聞いてあげるよ」

子葉桜「え?」

子リム「俺が出来る事ならなんでもしてあげるから」

子葉桜「……ありがとう。じゃあ約束ね…もし私が困ってたら助けてね」

子リム「うん!絶対助ける。約束!」

子葉桜「じゃあまたね…リム」

子リム「またね葉桜。ばいばい…あずき」

③⑥

子リム「…ばいばい……うぅ、あずき……」

子焔「おいリム、今の子は誰だ?」

子リム「焔くん…葉桜だよ。あずきの事を任せたの」

子焔「任せた?」

子リム「あずきを助けてくれるんだって…だから約束したの…葉桜が困ってたら今度は俺が助けるって」

子焔「…あの女の子とか?」

子リム「うん」

子焔「……そうか。助けるってどういう意味だ?」

子リム「分かんない。でも、あずきを生き返らせてくれるかもしれないの…だけど、もうあずきとは会えないんだって…」

子焔「お前、それ……いや、なんでもない…」

子リム「え?」

子焔「お前は気にするな…。その子とはお前以外の奴は会ってないのか?」

子リム「コムラとラボとニアとも友達、最近はいつも5人で遊んでるよ」

子焔「…そうか、そう言うことか…」

子リム「焔くん?」

子焔「あれとは関わるな」

子リム「え、…何で」

子焔「何でもだ!…くそ、今度コムラとラボを連れてニアの家に行け。話は通しておく」

子リム「話って…なんの?それにニアの家ってお寺だよ…?」

子焔「住職は俺の師匠だ…お前達は危険な存在と遊んでいる…」

子リム「危険な存在って…葉桜の事言ってる!?」

子焔「帰るぞリム…これ以上踏み込むのは危険だ」

子リム「………」

③⑦

コムラ「ねぇ、3人はどうなってるの…?大丈夫なの?」

ニア「桜の花びらに覆われて様子が分からないよ…」

焔「木暮、中の様子はどうなってやがる?」

木暮「…葉桜、あずき…………あっ!」

ラボ「なんだ、花びらが少なくなってきたぞ」

木暮「葉桜!」

花びらの中から葉桜とあずきを抱えたリムが現れる。

葉桜「…なんだ?木暮」

木暮「無事か!?…あずきは」

リム「大丈夫」

葉桜「妖力は落ち着いておる…疲れて眠ってしまった。じきに目覚めるだろう」

木暮「…良かった。お前もあずきも無事で…」

葉桜「何て情けない顔をしてる…」

木暮「するさ、大切な存在を二人も亡くしたくない…」

葉桜「え…」

木暮「ごめん、葉桜…。ずっと不安にさせて…君の心が分からなかったんだ。葉桜…僕は君を愛している」

葉桜「っ!!?」

木暮「君を避けていたのは…これが壊れてしまった事を悟られない様にしてたんだ…」

葉桜「え、……あ。昔お前にあげたおもちゃの時計?…まだ持っておったのか」

木暮「君から貰った物だ…大切にするさ」

葉桜「……そう」

木暮「すまない葉桜…僕は君を前にするととても弱くなる…。好きだから…君が好きな人間達に嫉妬してまう…。僕も素直じゃない…彼らと会えなくなって心を閉ざした君に寄り添えたと思ったのに…」

葉桜「……」

木暮「大人になる度に僕は君の本心を疑ってしまった…政略結婚だから本当に僕なんかで良いのかって思ってしまったんだ」

葉桜「…お前が良い」

木暮「え…」

葉桜「お前だから良い…。私もお前を疑っていた…私なんかと結婚してくれるのかなって…私の事、好きじゃないのに結婚させられて…申し訳なく思ってた」

木暮「…君も同じ気持ちだったのか」

涙が溢れる葉桜。

葉桜「好き…大好き…お前と結婚できて嬉しい…!」

木暮「…泣かせるつもりは無かったんだけど…僕も泣きそうな位嬉しいよ…」

抱きしめ合う二人。

③⑧

ニア「なんかあっちはあっちで仲直りしたっぽい?」

ラボ「甘い空気が流れてる…やっぱ彼女欲しいな〜」

コムラ「ってかリム!大丈夫!?」

リム「うん、俺は平気。あずきも寝てるだけだって…ちょっと寝かせるな」

焔「あぁ、…妖力も落ち着いてる様だ」

リム「というか、焔くん何でここにいるの?」

ニア「ホワイトさんって何だったの?焔兄ちゃんと関係あるよね?」

ラボ「つーか焔くんって妖怪なの!?」

焔「お前ら黙れ、説明しつやるから」

コムラ「お兄ちゃん、帰ってきてたのね。連絡くらいしてよ」

焔「コムラ…その…」

リム「兄妹喧嘩は後でも出来るだろ?焔くんが何者か教えてくれよ」

焔「……俺は人間だ。しかし、お前達を心配して勝手に葉桜と引き離した。そしてお前達の葉桜に関する記憶を隠した…」

ラボ「そんな事してたの!?」

ニア「ってか、そんな事できるの?」

焔「俺は昔から妖怪が見えて、寺の住職であるニアの親父さんに色々教えてもらってたんだよ」

ニア「え?父さんに?」

ラボ「おじさんも何者?」

リム「もうなんかチートじゃん」

焔「細かいことは良い…俺はお前達と葉桜を引き離した…。お前らが葉桜と関わってると思ってたなかったからな」

ニア「細かくないと思う…」

コムラ「葉桜ちゃんと関わってたらいけないの?」

焔「人ならざる物と関わっていたら何が起こるか分からない。そう思ってお前らを離したんだ」

ニア「でも、焔兄ちゃんは葉桜ちゃんと知り合いだったよね?」

焔「あぁ、お前らの代わりにという訳じゃないが、葉桜を監視していた。そして幻想桜里を独自に調べていた。ここは俺たちの故郷の裏側の世界…もし何か起きて表の世界に影響が出ない様にな」

リム「焔くんも色々考えてたんだね…」

焔「思ったより葉桜は危険な存在じゃなかったがな…まぁ、これ以上関わるのはよした方が良いだろ」

ラボ「何で?」

焔「俺たちは人間で、奴らは神や妖怪…相容れない存在だ。それに…約束はもう果たしただろう?リム」

リム「……だけど」

焔「帰るぞお前ら。祭りが終わってしまう。祭りが終わると言うことは裏世界の祭りも終わり、葉桜が世界を繋げにくくなる」

ニア「…もうお別れなの?せっかく思い出したのに…」

③⑨

葉桜「みんな…」

コムラ「葉桜ちゃん…」


葉桜「聞いておった…お別れか」

ラボ「その…俺たち」

葉桜「ありがとう…記憶が無いのに無理に私のことを思い出させてしまって…。そこまではホワイト…焔から聞いて無かったからな」

焔「それは悪かったよ…何されるか分からなかったんだ」

葉桜「でも、思い出してくれて…助けてくれてありがとう…嬉しかった。今日の事は絶対に忘れない…コムラ、ラボ、ニア…そしてリム!」

リム「……」

葉桜「さよなら…みんな」

木暮「葉桜…」

葉桜「表の世界へ繋げよう…少し待て」

リム「葉桜!」

葉桜「…?」

リム「約束だ!また会うぞ!!」

葉桜「え…!?」

焔「はぁ!?」

リム「俺、なるべくこの時期に帰って来る!帰って来れない時もあるかもしれねぇけど、お前が人間界に来れるんならまた会いたい!」

葉桜「…リム」

ニア「ねぇ、僕も会いたい!葉桜ちゃん?またあっちに来れる?またお祭り行こうよ!」

ラボ「そ、そうだぜ!リムが来れなくても俺たちがいる!忙しくても誰かが君と会える様にする!」

葉桜「ニア…ラボまで」

焔「お前達何を言ってるんだ」

コムラ「葉桜ちゃん…どう?会える?私もまた貴女に会いたい…また会えるなら約束しましょう?」

葉桜「コムラぁ…」

コムラ「また桜祭りの日に…会いましょうよ!」

葉桜「……うん!約束する!会いたい、会いに行くから!!」

焔「こら!お前達何を言ってやがる!?」

ニア「約束だよ、葉桜ちゃん」

葉桜「うん、約束!」

焔「おい……」

リム「あはは、どう?焔くん…この約束は有効?」

焔「……馬鹿どもが」

ラボ「なんか、焔くんから一本取ってやった感があるの、気持ち良いな〜♪」

焔「ラボ…お前後でぶん殴られる覚悟しとけ」

ラボ「あ、ごめんなさい…」

木暮「賑やかだな…。ふっ、改めて人間たち…色々と世話になった、感謝する」

コムラ「そんな、お礼なんて…」

木暮「あずきの事、葉桜との事…数々の非礼を詫びさせてほしい…」

リム「謝るくらいなら葉桜もあずきも大事にしてやってくれ。葉桜を泣かしたらまたこっちに来てお前の事ぶっ飛ばしてやるから」

木暮「あぁ、気を付けるよ」

焔「…はぁ、もういいだろう?今度こそ帰るぞお前達」

ニア「うん!」

ラボ「あー、何か疲れたぜ〜」

リム「木暮、あずきによろしく伝えといてくれ」

木暮「あぁ、ありがとうリム」

コムラ「葉桜ちゃん…またね」

葉桜「うん、また会おう…」

焔「表の世界へ繋げてくれ葉桜」

葉桜「あぁ………道よ開け、人の祭道へ…」

小さめの鳥居が現れる。

ニア「わぁ、あの時と同じ鳥居が現れたよ!」

ラボ「そういや俺たち鳥居の中に突き飛ばされたよな?あれって何だったんだ?」

葉桜「それ…我です。ごめんなさい」

ラボ「あ、え?…そ、そう…」

木暮「達者で…」

リム「ありがとうな葉桜、木暮!」

コムラ「またね!」

ラボ「じゃぁな!」

ニア「ばいばーい!」

葉桜「またな!」

焔「ふっ、行くぞ」

鳥居の中へ消えていく5人。

④⓪

あずき「ん………んぅ?あれ…私…」

葉桜「起きたか、あずき」

木暮「体は大丈夫かい?」

あずき「木暮様!…葉桜、様も…」

葉桜「外傷はないし、妖力も安定しておるな…全く心配かけよって」

木暮「そうだよ…君は僕の大事な従者であり、葉桜やリム達の大切な友人なんだから」

あずき「…ごめんなさい」

葉桜「そもそも何故あずきは暴走したのだ?返答によってはお主からとっちめるぞ木暮」

木暮「えー…?……どうやらあずきは僕を慕ってくれた様でね…」

あずき「あー!ちがっ、そう言うんじゃなくて!」

木暮「え?違うのかい?」

あずき「ちが…くはないけど…その…、木暮様は葉桜が好きだし…私の入る余地はないって分かったし……私、寂しかっただけと言うか……」

葉桜「ほぉ、木暮が二股をかけておった訳ではないのだな」

木暮「そんな事する訳ないだろう…」

あずき「…妖怪として生まれ変わって…ずっと木暮様のそばにいたから…木暮様しか知らなかった…。偶に葉桜と会って楽しそうにしてる木暮様が私は好きだったの…私も幸せだったし。でも、最近は二人とも思い詰めた様な表情で……木暮様を悲しませる葉桜が許せなかったんです…」

木暮「……余計な心配をかけてしまったんだね」

葉桜「すまない、あずき。お前の命も人生も…我らが振り回してしまって…」

あずき「…すまないって思うなら木暮様を大事にして下さい。じゃないと承知しませんから!」

葉桜「勿論だ」

あずき「それで私はもっともっと強い妖怪になって、木暮様も葉桜も守れる従者になりますから!」

木暮「え…」

あずき「私の生き方は私が決めます!強くなってカッコよくなって木暮様みたいな素敵な殿方と縁を結ぶんです!」

葉桜「おぉ…大きく出たなぁ」

あずき「木暮様みたいにイケメンでリムみたいに優しくてニアみたいに素直でラボみたいに面白い方に娶(めと)られますから!」

葉桜「…ははっ、ラボが面白いか?ふふっ、あははっ!」

木暮「随分欲張ったね、僕なんか目じゃないな」

あずき「葉桜が羨む位の方を探してやりますよ!」

葉桜「ふふっ、それは楽しみだ」

あずき「あ、そういえば…リム達は?」

木暮「もう帰ったよ…。祭りもそろそろ潮時だ」

あずき「え、帰った…?私お別れ言ってない!もう会えないの!?」

葉桜「……」

木暮「葉桜はまた祭りの時期に会えると約束をしたが…僕ら妖怪は関わらない方が良い」

あずき「そんな…、ずるいよ葉桜…私、リム達に会いたいのに…。今度はちゃんとお話したかったのに」

葉桜「……」

木暮「無理なものは無理なんだ…今回は諦めなさい」

あずき「やだぁ……」

葉桜「強くなれ、あずき。我も強くなろう」

あずき「え?」

葉桜「互いの世界に影響が出ないくらい強い心身を持てば、また会える。誓おう」

あずき「…本当!?」

葉桜「あぁ、きっとリム達もお主に会いたがるだろう」

木暮「いいのかい、そんな事…焔に文句言われても知らないぞ」

葉桜「構わん。ここは我らの世界…表に影響が出ないのであれば、文句なぞ聞き流してやれば良い。我らは我らの生き方でしたい様にする。それだけだ」

木暮「…君には敵わないな、君の心は隠れやすいがとても真っ直ぐだ。そういう所に惹かれたんだ、僕は」

葉桜「え…!?」

木暮「葉桜…改めて君を娶ってもいいかい?」

葉桜「…うん」

木暮「愛してる…葉桜」

葉桜「こ、木暮…!」

あずき「ちょっとー!私がいる所でイチャイチャは控えて頂きますか!?」

葉桜「んな!?イチャイチャなんてしてないぞ!」

木暮「そ、そうだよ!別にそういう訳じゃないから!」

あずき「そういう雰囲気が出てました!全くもう困った方達だわ…!」

葉桜「今回に関してはその言葉そっくり返してやるからな…」

木暮「本当だよ…。さて、帰ろうか?」

あずき「はい!」

葉桜「あぁ」

④①
現世、境内の裏側

リム「…帰って来れた?」

コムラ「ここ、境内の裏側?向こうに行く前と同じ場所?」

ニア「あ、あっちの森の中に鳥居があったよね?もう無くなってるけど」

ラボ「じゃあ帰って来れたのか…良かったー」

リム「でも、随分静かだな」

焔「祭りは終わったんだろう。俺達も早く帰らんと母さん達に文句言われるぞ」

ニア「わぁ、もうすぐ0時になるじゃん!」

リム「げぇ!?母さんに焼きそば頼まれてたの忘れてた!はーもう死んだわ…」

コムラ「ってかお兄ちゃん、帰る事ママ達に言ってるの?」

焔「…帰って来てる事は言ってる。向こうの世界の事もあるからこっちにいないといけないし…」

ラボ「でも、仕事あるとか言ってたじゃん。良かったのかよ?」

コムラ「……お兄ちゃん、仕事って嘘じゃないわよね?」

焔「嘘じゃない!…それは本当…とっくに片付いてホテルとか知り合いの家を点々としてたのはあるけど…」

リム「焔くん…俺コムラに話聞いてんだけどさぁ…こいつもガキじゃないんだよ?」

ニア「なんの話?」

コムラ「…はぁ、お兄ちゃんだけなのよ。私の結婚を反対してるの」

ラボ「えぇ!コムラちゃんゴールインすんの!?」

ニア「え、あの彼氏さん?おめでとー!」

リム「ほら、焔くん…。俺は相手が誰か分らねぇけど、こいつらが素直に喜ぶって事は悪い奴じゃねぇと思うんだよ。つーかそもそも妹が結婚するから寂しいだけだろ?」

焔「…コムラは俺の妹だし」(拗ねた様にボソッと)

リム「結婚した所でそれが変わる訳じゃねぇだろうが…妹離れしな?コムラは焔くんのこと好きだけど、兄離れはしてんだから…」

焔「なっ!?」

ニア「え、ショック受けてる?」

コムラ「…お兄ちゃん、私を選んだ人なの…。私が選んだ人でもあるの。辛いことがあるかもしれないし、後悔するかもしれない…でも、必ずしもそうなるなんて分からないじゃない。私が選んだ道…みんなも良いって言ってくれてるんだから信じてよ」

焔「……」

コムラ「別に彼を信じろって言ってない。お兄ちゃんは私の事が信じれないの?」

焔「……そんな事はない」

コムラ「じゃあ…見守ってくれる?」

焔「…あぁ」

コムラ「お兄ちゃんありがとう!大好きよ!」

焔「……」(苦虫を噛み潰した表情)

リム「まったく素直じゃねぇんだから…」

ニア「でも、これで一件落着だね」

ラボ「な〜んか、恋愛事情に巻き込まれまくった感じだな…疲れた」

ニア「いいな〜、僕もいつか好きな人と結婚したい」

ラボ「まずは相手だろ」

リム「お前らが結婚とか想像つかねぇわ」

ラボ「その言葉そっくりそのまま返すからな」

リム「俺はモテるから、よりどりみどりって奴?」

ニア「理想高くて絶対相手見つからないパターンだよ」

リム「うるせぇ、あざとい系童顔!」

焔「おい、お前達帰るぞ」

ラボ「あぁ!」

ニア「なんかお腹空いちゃった…」

リム「コンビニ寄って帰るか〜、あーこの辺だとちょっと遠回りになるなぁ」

コムラ「あ、ごめんみんな!先に帰ってて」

焔「あ?なんでだ」

コムラ「彼氏が仕事終わったから、祭り終わった後にでも時間があったら会わない?って連絡来てた…♪」

焔「は?」

コムラ「返信出来なくて心配かけちゃったみたい…今、連絡返したら顔が見たいから迎えに来るって…良ければ泊っていかないか?って……ってことでみんなご機嫌様〜♡」

足速に去るコムラ。

焔「あ!?待てコムラ!兄の目の前でお泊まり発言は許さねぇぞ!!」

追いかける焔。

リム「………」

ニア「………」

ラボ「………」

リム「彼女は欲しいけど、あんな身内は欲しくないな」

ラボ「そーだな…」

ニア「激しく同意」

④②

葉桜「我が心は移ろう事なく、ただ一人を恋い慕う…。それは嘘偽りのない我の本心。隠れやすく傷付きやすいのは、大切な者たちと離れ離れになった事があったから…。本当の事を言うのを臆していたから…。しかし、言わねばならぬ事もある…。ぶつかり合うかもしれぬ、分かり合えぬかもしれぬ…。それでも、また約束が出来た…強くなろうと思えた…。また桜の散る頃に…あの祭りが開かれる日に……、大切な友らと会える日を……」

木暮「土産話を聞ける日が待ち遠しいね…葉桜」

葉桜「あぁ、毎年土産を持って帰ってくるぞ、木暮!」

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